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5.なんかつかえた

夜の森と言うこともあって、オルギとヴィークの背中はすぐに

見えなくなってしまった。

私は二人の走り去った方向に進みながら、セレンシアト様を見上げた。

「お手並み拝見、って言っても、こんなに暗くては何も見えませんよ。」

「灯かりの魔法を使えばいいじゃん?」

「ウォルデスタートを出るときに魔力を封印したのをお忘れですか?」

「あっ、そうだっけ。」

と、剣撃の音が聞こえ始めた。


音を頼りにそちらへ向かうと、二人の姉弟剣士と数十人の男たちが、

三つの死体を挟んで対峙していた。

どうやらセレンシアト様が『敵』と言ったのは山賊のような

荒くれ者の集団らしい。

剣士の姉弟は数十人のうちの三人を切り捨てたわけだ。

その上、更に死体の数を増やそうと荒くれ者たちを挑発している。

「うわ~、怖いねぇ。」

セレンシアト様が暗闇の中で目をキラキラさせている。

闘技場でも眺めているような気分なんでしょうか。

暗くて何も見えないと思ったけれど、山賊たちが松明を掲げているので、

それなりに見ることができた。

「あら・・・・・。」

「どしたの?」

「いえ、剣が。」

「剣?」

オルギは酒場でも常に帯剣していたけど、ヴィークは剣を持っていなかった。

けれども何故か、そのヴィークも剣を持って戦っている。

半月刀と呼ばれるような、刃が弧を描く曲刀だった。

「オルギの剣は直刀ですのに、双子でもだいぶ違うものですね。」

「う~ん、確かに違うけど・・・。」

セレンシアト様が首を傾げて呟いたとき、わっと大声をあがり、

山賊の集団が武器を振りかざして二人に向かっていった。

セレンシアト様の口から新たな歓声が漏れる。

私も思わず見入ってしまった。

次々と荒くれ者たち切り倒していくオルギ。

一度見たことがあるものの、オルギの剣技は本当に洗練されている。

早くて隙がなく、力も強い。

「違うのは剣じゃなくて、性格のほうかもね。」

「えっ、そうですか?」

「ヴィークのほうが強いんだなぁ~。僕も負けちゃうかも。」

「ええっ」

「いやぁ、まぁ、それは冗談だけど。」

あまり冗談ともつかないような口調なのは、戦いに見入っているからだろう。

セレンシアト様の視線はしばらくヴィークから揺らぐことはなかった。

嫉妬混じりに私もヴィークの戦いぶりを見つめる。

そこで気付いたのは、半月刀は男たちの共通の武器のようだと言うこと。

ヴィークは剣を持っていなくて、奴らから奪って使っていたのね。

その割に手馴れた印象を受けるから、ヴィークの実力は計り知れない。


「やってみたいな」

セレンシアト様の呟きに、私は思わずぎょっとした。

えーっと、わかってますよ。もちろんね。

“戦”ってみたいんですよね。

「もっとよく見たいなぁ」

それは私も同感だった。

オルギの剣は文字通り剛剣ではあるものの、ヴィークに比べると教科書通りと

言うか、あまり融通は利かないように見える。

動きも直線的で、フェイントはほとんどない。でもものすごく速いし、

力も強いから、並みの人間相手には負け知らずだろう。

ただ、ヴィークはひたすらに柔らかい。

流れるように軽い剣捌きなのに、生クリームを切るかのように

自由自在に斬っている。

ほとんど遊んでるように見えるし、実際遊んでるんだろう。

斬り合いのさなかにもヴィークの口は笑っていた。

奥歯をがっちり噛んで戦っているオルギとは正反対だ。

もっとも、死体を増やす才能は弟のほうが上なんだろうけど・・・

セレンシアト様と戦うことになったら?

純粋な速さや力で人間が魔王に勝てるわけはない。オルギに勝ち目はなかった。

ヴィークのほうは、もしかしたら、と思える余地がある。

それでもセレンシアト様が負けるなんて絶対に思わないけど!


「ねぇキル、見て見て。」

「見てますよ。ヴィーク、確かにすごいですね。」

「そうじゃなくて、こっちこっち~。」

なんだか、セレンシアト様のほうが明るいような・・・・・・。

振り向くと、ぴかーっと明るい光の玉がセレンシアト様の頭上に輝いていた。

「なんですかそれ!?」

「なにって、ライトニングの魔法だよ。」

「魔力の封印を解いてしまわれたんですか!?」

「ううん、解いてないけど、なんか使えた」

「そ、そうですか・・・」

封印、弱まってるのかしら。

「封じきれてなくて魔力が漏れてる感じがするな~。

まっ、ちょうどよかったよね」

「な、なにがですか?」

「待ってて、今ヴィークの上にこの光を・・・・・」

「魔力が封じ切れてなくて、それはようございましたが・・・・・

今ここで光らせますと、見物しているのが敵様にばれてしまいますよ」

と言ったところで、既にばれていて、剣撃の音が一瞬止んでいた。

もう残りわずかとなっている山賊の生き残りのうちの一人が、

狂ったようにこちらへ走ってきた。

あぁ、オルギと対峙していたほうが、まだ生き残れる可能性が

あったでしょうに。

オルギとヴィークに比べたらこっちは丸腰だし、セレンシアト様も今は

人畜無害な好青年な見た目だから、逃げ道として私たちのほうへ

向かってくるのは頷けるんだけど。

「キル、これ持ってて」

セレンシアト様が光の玉を差し出してくる。

受け取りながら、私が行きます、なんて言おうとして止めた。

言っても無駄だと思ったから。

「・・・・・・あまり無体な真似をなさいませんように」

「まっかせて~」

あぁ、すごくいい笑顔。

セレンシアト様が力を制御なさる気なんてまるでないのが見受けられる。


遠くから姉弟が叫んだ。

「セレンシアト!キルギヴァ!」

「シア!?キル!!」

なに呼び捨てにしてんのよ、むかつく!

・・・・・・じゃなくて、こっちに注目しないでほしかった。

気付けば残りの山賊さんがすべてこちらに向かっている。

もう!

私はセレンシアト様のつくりだした光球を、山賊さんたちの隙間を縫って、

オルギとヴィークに向かって投げつけた。

それから二人の間で炸裂させる。要は目隠しだ。

「うわっ、見えな・・・・・・!」

オルギの悲鳴が聞こえる。ごめんなさいね!

光の壁のこちら側で、セレンシアト様が勇猛果敢に戦っているから。

戦っていると言うか、もう一方的な虐殺。

一人は腕を千切られ、一人は体の上と下が半分こ。

他にも・・・・・・説明するのすらはばかられる惨状が目の前に広がっている。

「ははははは!」

恐ろしいのはこれらを全て素手でやってるってことだけど、

久しぶりに聞いたセレンシアト様の高笑いが何より私の背筋を寒くした。

昔を思い出すわ・・・・・・。

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