4.飲みニケーションって大事だよね
不本意ながら、弟子をとることになったセレンシアト様は、
観念したらしく、もう完全な開き直り。
弟が敬語で話すのを遮って、「弟子じゃなくて旅の道連れ。
敬語じゃなくていいよ。」と言うと弟は・・・「分かった。」
すんなりタメ語になった。
「おねえさんに改めて自己紹介しないとね。僕は、セレンシアト。シアって呼んでくれていーよ。」
「あらっ。ご丁寧にどうも。オルギの双子の姉でヴィークです。オルギと全国各地を周って賞金を稼いでいます。どうぞ、よろしくお願いしますね。」
「じゃあ、ヴィークも剣を使うの?」
「・・・・ええ。お試しになります?」
「いや、遠慮しとこうかな。負けたらカッコ悪いし。」
ヴィークとセレンシアト様は二人してあははと笑っている。
私はセレンシアト様の服をひっぱった。
「セレンシアト様。ちょっと・・・どーするんですか?」
姉弟を無視して、私とセレンシアト様は後ろを向いてヒソヒソ声。
「まあ、バレなきゃいいかなって。」
「バレたらどーするんですか?狙われちゃいますよ。」
「そんときはしょーがないよね。賞金稼ぎが2人くらい消えてもさ。」
天気の話でもするみたいにニッコリ言うセレンシアト様に、
本気なのか冗談なのか分からない私。
そーですね。
一応、魔力だって封印してるし、バレないですよね。
再び姉弟の方に向き直ってセレンシアト様がオルギに言う。
「・・・・あ~。とりあえず、お酒飲もう。」
夕方になって、私達は一番近場にある酒場に集合することにした。
私とセレンシアト様は、それまでの間に、両替所がまだ開いていたので換金をした。
姉弟達には、この町には明後日までしかいない旨を伝えた。
これからこの地を去るための準備をしてもらう事にして、現地集合にする事にした。
私達が酒場に来た時にはもう既に二人共揃っていた。
「おまたせ~。」
セレンシアト様はかなりご機嫌だった。席について乾杯をして、しばらく後――――。
「だ、大丈夫か?」
オルギがセレンシアト様に声をかける。
「オルギやさし~。らいじょ~ぶ~」
呂律がまわってないセレンシアト様は、涙目になった大きな瞳でオルギを見つめるとその胸に抱きついた。
「えっ・・・な、何を!?」
動揺するオルギを下から見上げる。
その姿は、フェロモン垂れ流し状態。
他のテーブルの客にも手を振ったり、投げキッスしてみたり。
店の中は9割程が男だというのに、さっきから痛いほどに周囲の視線を感じる。
「ししょうっ!ちょっと飲みすぎですって!」
オルギはしがみついてくるセレンシアト様を引き剥がしにかかっている。
けど、がっちり後ろで手を組んでるセレンシアト様は意地でも離れまいとしている。
「だっこ~!」
セレンシアト様、今日はなぜだか甘えキャラなんですね。
「すごいわね~。いつもこーなの?」
姉のヴィークが私に声をかけてくる。
目がキラキラしている。
「え・・・まあ。そーです。」
毎回酔うとキャラ違うのだけど、ヴィークは甘えキャラなセレンシアト様に興味津々みたいです。
かわいいを連呼してます。
オルギは、セレンシアト様のフェロモンに必死の理性で耐えている。
そばにいる私達でも、母性本能擽られまくってるから、オルギの意志の強さに感心する。
端からみたら、オルギ一人がハーレム状態に見えるんだけどね。
セレンシアト様のフェロモン攻撃に抵抗しながら、ウエイトレスを呼んで酒を全て下げるようにオルギが叫ぶ。
「我が弟ながらあっちの世界に行っちゃうのかしらぁ~?」
ヴィークってば楽しみすぎ。
こうして、オルギだけが貞操の危機に襲われながら私達は楽しく過ごした。
「オルギぃ~そんなに怒らないでよ?ゴメンね。」
酒場から家への帰り道を四人で歩きながら、セレンシアト様が口を開く。
あれほど飲んだ酒は既に消化されてしまったらしい。
現在は通常モードに戻っている。
「もう絶対にししょうとは一緒に酒飲みませんからっ!」
オルギは、心底疲れた顔でいい放つ。
セレンシアト様は、そんなオルギに向かって言う。
「そんな事、断言していいの?・・・いい事教えてあげる。」
「ん?」
「僕が酔ってる時に剣で斬りかかってみてよ。」
「なんでだ?」
「僕はね・・・酔ってる時が一番強いんだよ。あ。でも斬りかかる時は、手加減下手だからアバラの一本くらいは覚悟してね。」
オルギが隣を歩くセレンシアト様に信じられない目を向ける。
賞金稼ぎという剣を生業にしている者ならばセレンシアト様の実力を知りたいと思うのは当然の事。
そんなオルギの顔を見て、セレンシアト様はニッコリ。
「また飲みに行こうね。」
「・・・・・・・ああ。」
民家もまばらになって左手側には森が広がっている。
もうすぐ姉弟の家へ辿り着くという距離になった時、
セレンシアト様が私の肩をそっと引き寄せた。
えっ!
な、なんですか?!
動揺する私に、小さな声で言う。
「静かに。」
は、はいっ?
私は指示通りに動揺を隠して下を向く。
「オルギとヴィークの実力がみたいなぁ。どう?2人でいける?」
険しい表情のオルギは森から視線を外さない。
オルギは、剣の柄に手をかけつつ、頷いて先を走りだす。
「ちょっと。オルギってば先にずる~い!」
ヴィークがその後を追っていく。
私とセレンシアト様は、その場に立ち止まる。
「敵みたいだよ。オルギ達のお手並み拝見だね。」