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非常に耳障りだが気分は良い。
ついに我が最愛を迎えることができるのだから。
ガッ!!?
いぎぃいいい!?!?
ぎざばァ”!!な”にをッ!
ぐぁああッ!!
ぼぐはァ”ッ!!
王子だぞッ!!
ギャァアアアッ!!!
喧しいな。
まぁ我が国に古くから伝わる魔法の一つなのだが…。
元は貴人に用いる刑罰用の断種魔法だからな。
詳細は控えるが管を魔法で焼き切り強制的に子を作れない体にする。
絶叫するほど耐えがたい激痛が全身を貫くが、激痛のあまり気絶すらできないらしいからな。
暫くはこのまま、防音の魔法を掛けておくか。
さて、恐怖のあまり声も出ないか?
無理もない。人族至上主義を掲げるようなこの国において魔法など無いに等しいからな。
邪魔な人間が居なくなったところで先ほどの話の続きをしよう。
婚約も結婚の意思もないなら、婚約の解消、だったか?
最初に言った通り婚約は継続だ。
そして元々の予定通り卒業後に結婚式を行い、我が国に嫁いでもらう。
クッ…いや失礼。
結婚の意思があるのに態度が酷すぎる、騙したの、ね…。
そもそもの前提が違うだろう?
私が心から愛しているからこうなったのだ。
お前が私に返すのだ。
我が最愛、アンネリーゼを。
白々しい。心当たりがないなどとは言わせんぞ。
お前は恐らく異世界からの渡り人だろう。
フン、明らかにこの世界のどの国ともそぐわない思想と発想。
本当にわからないと思ったのか?
明らかに存在しないものに対しても実在を知っているかのような口ぶり。
そこの人間も知っていてお前を手に入れようとしたのだろう。
渡り人は現れれば国に囲われるのが常だからな。
この後のことを教えてやろう。
そこの人間は我が最愛であるアンネリーゼに懸想し、無理矢理に娶ろうとした。
フフッ…まぁ、あながち間違いでもないな?
そして私に返り討ちにされ、南の砂漠に住む女王のハレムに婿入りという体で内密に処理される。
国家を揺るがす不安要素は消えた方が良い。この国の判断だ。
あの国の戦士は正に一騎当千、率いる女王も非常に苛烈で残虐を好むが英雄の器だと聞く。
婿同士や奴隷の男色も嗜まれるらしいから、存分に可愛がってもらえるだろう。
…例え中身が異なろうとアンネリーゼ娶ろうなど許すわけないだろうが。
さて、そろそろ無駄話も終わりにするか。
これから行うのはちょっとばかし代償が必要な禁術なんだが、ちょうどいいのもいるし構わんだろう。
命には命を、魂には魂を。等価交換だな。
なに、私はお前を必要としない。それだけだ。
さぁ。我が最愛を返してもらおう。
イヤッいゃぁああッ!!
死にたくないッ!
どうしてッ?みんな私の方が好きでしょうッ!?
アンネリーゼは私よッ!!
私がアンネリーゼッ!!
我が儘で性悪の悪役令嬢なんて要らないじゃないッ!!!
ヒィッ!!何よこの影!!
た、助けてッ!!
キャァアアアッ!!!!
…ッあぁ…会いたかったッ。
おはよう。俺のアンネリーゼ。
あの日も入り江で会う約束だったのに、お前は来なかった。
病気か事故か、何かあったんじゃないかと不安で仕方なかった。
待っても待ってもお前は来ない。
港湾都市全体の雰囲気や噂からお前が死んだわけではないのはわかっていたが。
それでもお前が俺との約束を違えるなんて信じられなくて、何か事情があるんだと思った。
ん?最初は記憶喪失かと思ったんだ。
怪我や病気なら上手く隠して無事を知らせただろうし。
正直切り捨てた方の悪魔憑きの方が限りなく近いなんて思いもしなかったぞ。
元々噂は集めていたが、婚約者として久しぶりに会った時に中身が別人だと分かった。
再会を喜んでくれないし、監禁されてるなんて噂はなかったからな。
そこからは異世界からの渡り人から、どうやってお前を取り戻すか、そればかり考えていた。
変わってないな。
今も昔も珍しいものや面白い物が大好きで、思い切りが良くて大胆で物事を俯瞰的に見れる。
王の器だよ。なのに海賊船を奪って冒険に行ってみたいなんて言うし。
…なぁ、お前を助けるのに随分と時間が掛かった。
遅くなって本当にすまない。
うん…俺も許すよ。
もう二度と俺から離れるな。
お前は俺にとって紛れもない最愛の番なんだ。
寂し過ぎて泡になるかと思ったぞ。嘘じゃない。
人魚の執着をなめるな、ばかやろう。
行くぞ、共に世界の果てを見に行く約束だろう?
はは、お前がいれば俺は一生幸せだよ。
愛してる。俺のアンネリーゼ。
以上で完結となります。
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