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ZERO WORLD  作者: kaito
最終章 少年少女の物語編
44/44

完成された生命体

 午前7時頃 機械国正門前

 ゼロは永眠したアルクの身体を背負い、イゼと共に機械国から立ち去ろうとしていた。正門を通り機械国の外へ出た時、遠くから二人を呼ぶ声が聞こえてくる。


「お〜い!お前達、ここを離れるのか〜!?」

「この声…なんか聞き覚えない?」

「……」


 声の聞こえた方を向くと、以前辻馬車に乗せ、闘国まで送ってくれた御者の男がいた。


「お前達、せっかくだからうちの辻馬車使ってけよ!俺の命の恩人だし、無償で行きたいとこまで送ってやるぜ!」

「気持ちは嬉しいけど…どうする?ゼロ」

「…俺達を闘国に送る前、俺達がいたあの小さな村まで送ってもらうことは可能か?」

「あの辺までか〜!かなり遠いが、お前達の頼みなら全然大丈夫だぜ!ところでよ、そのお嬢ちゃんは寝てるのか?全く身動きしねぇからちょっと疑問に思ってな。」


 イゼはなんて説明するべきかと焦り始め、あたふたあたふたと分かりやすい挙動を見せる。一方ゼロはイゼの真逆だった。焦る挙動も無く、少し間を置いて御者に伝える。


「色々あって疲れてるんです…だから、彼女を起こさないよう静かに向かってもらうことはできますか?」


 御者はゼロの表情を見て何かを察したのか、それ以上の追求は無かった。


「まぁ…なんだ!二人もお疲れなんだろ?今は…そうだな…何も考えず、俺の辻馬車でゆっくり寝てりゃいいさ!起きた頃には、あの村に着いているからよ!」


 ゼロとイゼは御者に深く感謝する。仲間と静かな空間で、最後の一時を過ごす機会を与えてくれたことに。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 辻馬車に乗り数日後、ゼロとイゼは村に到着し、アルクとの最後の一時に終わりを告げる。

 ゼロとイゼはルピナスの眠る白い花畑まで辿り着くと、アルクを埋葬し始めていた。埋葬を終えると、ゼロは埋葬場所にアルクの愛用していたスナイパーライフルを突き刺す。


「……今はまだ、しっかりとした墓を用意できない。だけど、平和を取り戻した後に必ず…もっと静かに眠れる墓を用意してやる。」


 ゼロとイゼはアルクとルピナスの眠る地に背を向け、静かにその場を去った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 村を去った二人は、次の目的地について話し合っていた。ゼロは心無き零との決着を付けるため、イゼと初めて出会った洞窟に向かうことを提案していた。


「イゼ、次の目的地のことなんだが、お前と初めて出会った洞窟まで向かう。」

「あの洞窟?あそこには何も無いと思うけど…」

「あの場所には、平和を取り戻すためにもう一度向かう必要がある。」

「平和を取り戻すため…だったら、向かうしかないわね。それにしても、あの洞窟がそんなに重要な場所だったなんてちょっと驚きかも!」


 日も暮れて、夜が近づいてくる。あと数時間も歩けば太陽国が見えてくるだろう。ゼロは今晩、太陽国の宿で休むことを提案する。


「イゼ、太陽国まで歩け─」


 イゼに視線を向けるが、そこにイゼの姿は無い。

 急激な不安が込み上がり、ゼロは敵の奇襲によるものと警戒するより先に、イゼまで失う恐怖が思考を駆け巡る。

 また救えない。また失う。また少年は─


 一人に…しないでほしい。


 次の瞬間、頭部に強い衝撃が与えられる。ゼロは次第に意識を失い、目を閉ざし地に倒れた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 目を開き、辺りを見渡す。しかし視界に映る世界は、ノイズが走ってる。意識も朦朧としており、自分が今何処にいてどのような状態にあるのかが分からない。


「おや?ようやくお目覚めになりましたか!」


 男性の声が聞こえると同時に、ようやく視界に映る世界からノイズが消えていく。そして意識も少しずつ正常に戻っていき…

 そこでようやく、自分が何処にいてどのような状態にあるのかを理解する。


「っ…!?なんだ…これっ…」


 薄暗く外の音すら聞こえてこない洞窟の奥深くにいた。それだけなら大した問題では無いが、ゼロの身体は身動きが不可能になるような状態にある。右手、左手、右脚、左脚。4箇所には杭が突き刺されており、杭の先端は深く地面に突き刺さっている。痛みが蓄積するように増していき、ゼロは思わず痛みによる唸り声が漏れそうになる。


 …それが?イゼはどうなった?一体何処に消えた?自分に対する苦しみなんてどうでもいい。イゼを早く見つけ出さなければいけない。


 正常な者であれば、今すぐにでも発狂してしまうような状態。ゼロはそれすらどうでもいいほど、ただイゼの事について考えていた。


「何やら、自分の苦しみなんてどうでもよさそうですね。もっと他のことを気にするあまり、痛覚すら気にならなくなるとは!とんだ異常者ですね!」


 緑と黒の2色で髪を染め、真っ黒な狩衣を着た黒の結膜に緑色の瞳をした男が視界を妨げるようにゼロの目の前にいた。


「誰だ……?」

「あぁ、申し遅れました。私は呪いの具現化であり、魂から悪逆を愛す者…名を呪悪と申します!堅苦しい名なので、ノロウとお呼びください。」


 呪悪、その名から断定できる事はただ一つ。目の前にいるこの男は悪種族だということだ。

 そしてまだ憶測の域ではあるが、強い衝撃を与えられたタイミングを考えるに、呪悪はイゼの件に関わってる可能性が高い。


「……俺の意識を失わせ、この状態にさせたのはお前か?」

「えぇ、そうですよ。」

「俺と一緒にいた赤髪の少女…イゼが突然姿を消したのも、お前がやったのか?」

「……先ほどからご自身のことばっかりで、これじゃあ返答する気が起きませんねぇ〜?私も話したいことがたくさんございますのにねぇ!」


 イゼのことで焦りを見せるゼロを眺め、悦に浸るような悪意ある表情になる。

 ゼロの求める答えを呪悪は持っていた。しかし、呪悪は悪種族の中でも特に強く己の悪意に従い生きる存在故、悪意をより満たせる行動を行うのだ。

 結果、ゼロは焦りと怒りが入り混じった反応を示し、呪悪の悪意が満たされていく。


「テメェのそのドブみてぇな面でよく分かったよ…さっさとイゼについて教えやがれ…全部知った後にぶっ殺してやる…」

「面だけで断定するなんて、とんだせっかちですねぇ?」


 ゼロの身動きが封じされていることをいいことに、呪悪は苦悩し殺意を剥き出しているゼロの顔を更に間近で眺める。そして、不気味な瞳から悪意が溢れ出そうなほどに、魂の底から悪意が満たされていく。


「それにしても、アナタが知りたいのは他にもあるでしょう?」

「は…?」


 呪悪の言っている他にも知りたい事、ゼロには心当たりなんか無かった。

 それもそのはずであり、その答えについては自身の中で「そういう存在だ。」と決めつけていた問題なのだから。


「何故、私達悪種族がこのような残虐な行為を行うのか。無差別に無慈悲に快楽的に、この世界の者達に絶望与えるのにどんな理由があるのか。悪種族ご本人の口から聞いてみたいでしょう?」

「……今更、同情でも買おうってのか?」

「同情?いえいえいえ!アナタ達のような物以下としか思われてない存在に同情されるなんて、冗談でも不愉快ですので結構ですよ!」


 陽気に弾んだ声とは裏腹に、呪悪の表情は異質だった。あまりにも的外れで、あまりにも気味が悪くて、あまりにも理解し難い問いに、嘘偽り無い絶望に満ちたような無表情をしていた。

 ゼロはそんな呪悪に、不気味さと同時に身体の熱が一瞬冷めるような感覚を覚えた。

 長い沈黙の後、悪意に満ちた笑みを取り戻した呪悪は、悪種族が絶望を与える理由をただ一方的に語り出す。


「さて!早速話しましょう!私達が何故、絶望を与えるのかその理由についてを!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 結論から言いましょう。【許されてる】からです。


 私達は悪を成さなければいけない。そのように創られた生命体、それが常識として染みついた種族、人が何かを食らわなければ生きられないように、私達は悪を成さなければ生きていけないのです。

 過去に悪を成さずに生きようとした愚かな悪種族がいました。結果、どうなったと思います?その命を人の寿命と同等の年数で落としたのですよ。あまりにも馬鹿らしい末路、本来ならば悪を成すだけで永遠の命として生きられる生命体だというのに、あの悪種族は己の悪逆衝動を最期まで抱え込んだんです。

 生命体は永遠の命を求める。私達は悪を成すことで、永遠の命になることが【許されてる】のです。それだけじゃない。罪悪感も、自責の念も、慈悲も感じることが無く、むしろ高揚感や至福、快楽しか得られない本能を持ち合わせているのです。悪種族は生きるために悪を成すことを【許されてる】完成された生命体なのですよ。


 だから悪種族は、絶望を与えるのです。私達が永遠の命になるための糧となってもらうために。人が生きるために他の生命体を殺し食らうことと…なんら変わりもない。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「…は?」


 何一つ理解できなかった。いいや違う、理解を拒んだんだ。

 己の命を永遠にするだけのために、多くの命を奪い、絶望を与える?それをしなければ、人並にしか生きられないから?しかもその行為に罪の意識一つもない?

 完成された生命体だって?そうじゃない。悪種族、お前達は…


「生まれるべきじゃない生命体だ。」


 もはや笑えてくる。ここまで救いようがなく、生命体として欠陥しているということに。永遠の命になるためにどれだけの命が苦しめられたと思っている?改めて自分の考えは正しかったと再認識できたよ。お前達を殺すことに、躊躇いなんて必要無いってことに。


 呪悪は満たされていた。ゼロは予想通り、悪種族に対し更に強い拒絶を示したからだ。その結果を得ることで、更なる絶望を与えられることを…呪悪は知っている。


「疑問の一つ目が、これで解消されましたね!では、アナタの前から姿を消したイゼについて話しましょうか!」


 ゼロの視界を妨げていた呪悪は、ようやく目の前から姿を消すかのように移動したかと思えば…

 悪意で形成されたような表情を向けていた。


「………」


 ようやく目にした視界の先には、右手、左手、右脚、左脚、胴体の5箇所に杭を突き刺され、見世物のように壁に固定された血塗れたイゼの悲惨な姿があった。

ゼロワル豆知識


悪を成さず、人の寿命と同等の年数で命を落とした悪種族には【心】があった。結果、他の悪種族から異物として認知されていた。

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