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ゼロワールド  作者: kaito
四章 悪逆の兄妹編
42/43

そして少女は、刃を放った

 七大悪との死闘を終え、ゼロは零世界の王となる。後は儀式を行い、悪世界と零世界を繫ぐゲートを閉じることで、この旅はターニングポイントを迎える。


「ようやく…零世界は平和へと進む。」


 中身の無い七大悪二位、一位の魂がゼロの身体へと吸い込まれていく。そして、ゼロの身体に宿る全ての七大悪の魂は…混ざり合い、一つになる。


「ッ…!?ガッ……ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"!」

「ゼ、ゼロ…!?」


 身体中の臓器が全て破裂しそうだ…!心臓が鼓動するたびに痛みが増す…呼吸するたびに肺が吐き気がする…胃が中に溶岩が流し込まれてるかのように熱い…身体が少しの衝撃で硝子のように砕けそうなほど脆く感じる…


「俺は…このまま…」


 ─耐えろ。お前はまだ、征くべき運命がある。


 聴こえてくるのは、あの時の声だ。


 お前は、王としての運命を進まなければならない。


 紅い魔力で身を包んだ人型のナニカは、俺に龍の眼を向ける。俺は─


「こんなとこで………死ぬわけねぇだろ。」


 臓器の痛み、苦しみ、不快感。全て感じなくなった。俺は何事も無かったかのように立ち上がり、深く息をつく。


「ゼロ!もう大丈夫なの!?」


 イゼは俺を心配している。「もう大丈夫だ。」と言っても、俺のあの様子を見てしまった後だと、おそらく簡単には安心してくれないだろうな。


「……まだ少し、目眩がする程度だ。」

「ほ・ん・と・に…ソレだけ?」

「……少し疲れた。」


 牙悪との死闘を終えた後ということもあり、ゼロは疲労状態にあった。

 ゼロは早速、イゼに今後の目的について伝え始める。


「七大悪の魂を全て取り込み、俺は零世界の王の力を扱えるようになったはずだ。正直、実感は無いが…今後の予定としては、ゲートを閉じるための儀式を行うために、この世界の中心に向かう必要がある。そして、無事にゲートを閉じた後は、この世界に取り残された悪種族達の処理だ。時間は掛かるが、これ以上増えない分平和への一歩にはなるだろう。」

「ようやく平和への一歩…何度も困難を突破してきた私達なら、この先の困難もぜーんぶ突破して、絶対平和を取り戻せるよ!」


 イゼの前向きな答えにゼロは自然と微笑みを浮かべる。


「あぁ…俺達なら、平和を取り戻せ─」








 イゼが突然、吹っ飛ばされていく。イゼは今の一撃で気を失い、瓦礫の地面に声も発さず倒れ込んでいた。


「イゼ!?テメェ!一体誰だ…よ─」


 目の前には高身長の男の姿。黒い短髪、着崩された黒い着物、黒い晒、黒き鬼の口面、そして…虚ろな紅き鬼の眼。


「─は?………お前……なんでここにいるんだ……」


 忘れるはずもない。故郷を滅ぼし、友人を殺し、両親を殺したあの悪種族を─


「……初代七大悪、一位…銃悪。王を殺しに来た者だ。」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……ッ」


 私は武器を持ち、立ち上がる。身体が完全に回復して無かったとしても、関係ない。あの日、滅んだ私の故郷で感じ取った悪の魔力が…ここまで漂っているのだから。


「方角は…私とイゼが鎖悪と戦ったあの区域。」


 恐れは無く、敗北の意志も無い。私はこの復讐をやり遂げる。たとえこの魂が灯火を、消してしまうとしても。


「私の手で…必ず殺してみせる。」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 初代七大悪…銃悪は自身をそう名乗っていた。笑えない冗談と思いたかったさ。だが、銃悪の放つ悪の魔力は牙悪と比べて段違いに恐ろしく、禍々しさを感じた。ただ恐ろしく禍々しいのでは無い。直接、悪の魔力が魂に干渉し、死の恐怖を実感させてくるのだ。そして、悪の魔力から感じ取れる一つの感情…明確なる殺意。俺や牙悪の放つ怒りや後悔の混じった殺意とは全くの別物。ただ目の前の相手を殺すことしか無い。そんな殺意を銃悪は放っていた。


「はぁっ……はぁっ………」


 呼吸を整えようとしたところで、この恐怖は無くなることは無い。じゃあこのまま死んで楽になるか?いいや、その逃げ道だけは選んじゃいけない。無理矢理にでも動かせ。恐怖を我慢するほどの意志を持つんだ。俺がこのまま死ねばイゼがどうなるかを…想像しろ。


「ッ…!動けッ…動けッ…!動け"ェ"ッ"!」


 龍の拳で自身の身体を強く打撃し、自身の魂に喝を入れる。恐怖はあるが、もう身体が動かないことは無い。

 無理矢理表情を変え、睨んでくるゼロの顔を銃悪は見つめる。そして、過去に滅ぼした村にいた子供と顔が瓜二つであることを認識する。銃悪は何かを確信したかのように眉を少し動かすと、虚ろな声色で問いかける。


「そうか…お前はあの日の子供か。どうやらあの日が相当なトラウマらしいが…恐怖は克服したか?」


 ゼロは龍の拳を向け、ただ一言口にする。


「俺の恐怖は…今この時、俺自身の力で殺す。」


 全身の身体に魔力を流し、身体能力を数十倍にまで引き上げる。相手を動きを窺う必要は無い。今出せる全力を最初から叩き込む。


「必ず俺が…お前を殺してやる。」


 龍の拳を銃悪の身体の中心部に叩き込み、激を放つ。ゼロはこの時、普段よりも激による魔力衝撃波の威力が増していた。両親を失い、この運命を進むことになった原因が今目の前にいるのだ。この戦い、この瞬間だけは、復讐の意志を抱かずにはいられなかった。


「……ガァッ"!?」


 だが、その復讐の意志が銃悪に届くことは無い。真の殺意の前で、感情を含んだ殺意なんて、打ち消されるだけなのだ。

 銃悪にゼロの激は無傷に等しい。そして、銃悪は激の本来の力を、ゼロの身体に直接叩き込む。


「【悪激】…どうした?本来の激を直接叩き込まれたのは初めてか?」

「あ"ぁ"っ"………」

「お前の放った激は、ただ魔力を衝撃波として放っただけのモノ。俺が今お前に放ったのは、魔力に含まれる属性も上乗せし、魔力衝撃波として放った激。属性を上乗せすることにより、魔力衝撃波は相手の身体や魂に更なる負荷を与える。お前の激が石の破片だとして、俺の激は隕石だ。俺とお前の力の差はそれ程にある。」


 立たなきゃ。早く立たなきゃ。じゃないと殺される。俺はこの化物に殺される。今死ぬなんて駄目だ。俺は─


「お前、いつまで地に伏せてるつもりだ。」


 ゼロの髪を鷲掴みし、道具のように持ち上げる。銃悪はゼロの顔を見ると、あまりに情けない表情に呆れを抱いてきた。


「……お前自身の力で恐怖を殺す、と言ってたな。何故、情けない顔でいる?俺を殺すんだろ。なのに何故情けなく醜い顔でいる。」

「離せ…離せッ"……!」


 銃悪は髪から手を離すと、ゼロを再度、地に伏せさせるかのようにかかと落としを行う。

 ゼロに回避の余地も反撃の余地も無かった。一方的な殺意を一身に受けるしか、ゼロには選択が無かった。


「おかしいな。王はこれで死ぬような存在か?情けなく、顔を地に伏せ、恐怖を抱くような…そんな王を殺しに来たつもりは、無いのだかな。」


 立ち上がれない。なんでだ?どうして?腕も、脚も、顔も、全身が動かない。俺はまだ生きているよな?なんでこんな死んだ人間のように動かない?俺はこのまま死ぬわけにはいかないんだよ。頼むから動けよ。なぁ、なんで動かないんだよ…おい…どうして…


「なんで…俺…必死に生きようとしないんだ…」


 ゼロの心の奥底、復讐という感情の他にあるのは…両親との再会という望み。

 銃悪の悪激は、悪属性を上乗せした魔力衝撃波である。そして、悪属性の上乗せによりゼロの魂に与えられた更なる負荷…それは、絶望。

 ゼロの魂は、絶望という感情を強制的に与えられたことにより、精神の弱体化に加え、全身が生に対し執着を望まなくなる状態と化していた。そして、元々ゼロの中にあった銃悪に対する恐怖が悪激による負荷を更に強力にし、身体が動かないほどに生を望まぬ状態にまで至っていた。


「なんとも情けない王だ。生に対する執着をここまで素直に望まなくなるとは。」


 今にも潰しそうなほど、力強くゼロの頭を踏みつける。生に対する執着がないのだ。今すぐ殺されても、むしろそれは救済になるだろう。


「絶望を抱き、生に別れを告げるといい。」


 ゼロの頭上には、憎き仇の足の裏。次の瞬間には、果実のように潰されて少年の人生は終わりを迎えるのだろう。いつまでも絶望を、魂に抱きながら。




「私がそんなこと…させるわけ無いだろうが!!!」


 ゼロの目の前に立つ銃悪に目掛けて、魔力弾が放たれる。銃悪はゼロから距離を取るように魔力弾を回避し、魔力弾を放ってきた方角に視線を向ける。そこには新たな復讐者の姿があった。


「ようやく会えたな…私は、今までこの復讐の意志を抱き生きてきた。そして今、私がこの復讐を果たす時だ。お前を殺し、この復讐の意志を終わらせる!」

「……俺はどうやら、仇という存在になるよう運命に仕向けられているらしい。」


 アルクは間髪入れずに次の攻撃を銃悪に行う。スナイパーライフルを構え、魔力弾を一発、二発、三発…外そうが当たろうが関係無い。銃悪を殺すその時まで、この砲撃は終わることは無い。


「お前も銃を扱うのか。それにしても、瞬時に俺の回避先に照準を合わせ…弾を一瞬でリロードし…的確に放つその判断速度と反射神経…自身の強みを活用しきれていないのが残念だな。」


 魔力弾を回避しながら、銃悪はアルクに急接近を行う。銃を武器として扱う者を殺すのなら、近距離戦に持ち込むのが手っ取り早い。銃とは遠距離特化の武器だが、その分隙も存在する。攻撃となる弾の装填、相手への照準合わせ、引き金を引く一瞬。上げ続ければ切りが無い。相手が近距離にも特化しているという例外の場合は対抗される可能性もあるが、銃悪は遠距離と近距離の両方に戦闘スタイルを特化させている。その為、近距離戦を少なからず行える程度のアルクにとって、銃悪との一対一での近距離戦は大きく不利と言えるだろう。


「……まだ、戦えるッ!」


 しかし、ゼロも同時に相手にするとなれば少しは抵抗の余地を与えることになるだろう。

 龍の拳が突然、アルクに急接近する銃悪の真横から放たれる。銃悪はアルクから後退りするように回避すると、深く溜め息をつく。


「ゼロ!これは私の復讐だ!手を出す必要は─」

「俺も、あの悪種族に故郷を滅ぼされた。友人も家族も…殺されたんだよ。」

「ッ……なら、私達二人で殺すべき敵だな。」


 恐怖は未だ抱いている。だけど、そんなもんは内側に押し殺しておけ。絶望に堕ちようが、立ち上がれ。俺はまだ、果たすべき運命があるんだ。


「行くぞ銃悪、俺はもう絶望に屈しない。」


 腹を括ったような顔をしたゼロを見て、銃悪は一言口にする。


「不可能を口にする者ほど、醜く不快な存在だ。」


 ゼロは龍刀を創り出しながら銃悪に急接近し、刃を振るう。避けられても止まること無く、何度も何度も斬り掛かり、龍刀を通じた激を放つ瞬間を狙う。

 アルクは遠距離から銃悪に魔力弾を放ち、銃悪に反撃の隙を与えず回避に専念させる。


「……そろそろ飽きてきたな。回避に専念するのにも。」

「なら、一撃喰らってみろ…!」


 ゼロがそう口にすると、銃悪は回避を止め、龍刀【激】を一身に受ける。


「回避を本当に止め─」

「ゼロ!そこから離れろ!」


 アルクがそう口にすると共に、ゼロは突然回避を止めた銃悪に違和感を感じながら銃悪から距離を取る。そして、魔力弾を一切の間も無く放つ。一発、二発、三発…五発…十発…二十発。銃悪は身体が蜂の巣となり、自身の血で染められていく。


「ゼロ、龍の魔力をあの時のように─」


 突然、鳴り響くは一つの銃声。そしてその銃声はアルクのスナイパーライフルから鳴ったモノではない。銃悪のいる方角から鳴ったモノだった。


「……やはり、死から遠い攻撃だったな。」


 ゼロは恐る恐るアルクに視線を向ける。そして、視界に入るのは…


「………」

「アル…ク─」


 中心部に風穴が開いている。その風穴を通じて黒いシミが広がっていく。そして、瞳からは光を失っていた。


 考えるまでも無い。アルクは今この瞬間、殺された。


「あ…あぁっ…そんな…」


 膝から崩れ落ちる。押し殺していた恐怖は溢れ出し、絶望が自身の魂を蝕んでいく。


 俺はまた、救えなかった。

 目の前で何もできずに、殺された。

 俺はまた…平和な世界で生きてほしい人を失った。


「……殺してやる…テメェをぶっ殺してやるッ"!」


 龍の拳を叩き込もうと突っ込んでくるゼロに対し、銃悪は膝蹴りを顎に叩き込み体勢を崩させ、ゼロを地面に着かせるように片足で胴体を強く踏みつける。そして、拳銃を向ける。


「死の弾、撃ち抜いた相手に死を与える。死は身体に少しずつ侵食していき、何者であろうと最期を迎える。そして、撃ち抜かれた場所が自身のコアに近いほど…死は侵食を早めていく。」


 ゼロは絶望に堕ちていく中、虫のように醜く抗い身体を動かしていた。だが、所詮は虫の抗い。銃悪には、意味が無い。


 少年は、殺意と絶望を抱きながら…死を与えられる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 目を開くと、夕陽の照らす白い花に囲まれた一本道があった。

 私は何をしていたのだろうか?記憶を思い出す事が出来ない。


「……あ」


 一本道の向こうには、父と母、そして…弟がいた。

 私は自然と笑みを零し、家族の元へと向かう。

 父と母に、今回も任務をやり遂げたって早く伝えたい。

 弟に、私のために造った武器が支えになったと早く伝えたい。


「お父さん…!お母さん…!メオ…!」


 私の声が聴こえたのか、父と母とメオが私の方に振り向いた。メオは優しい笑みを浮かべ、私に近づいてくる。


「メオ、今回の任務もメオの造った武器のお陰で─」


 私が感謝を口にしようとすると、聞き覚えのある声と、見覚えのある背景が、一瞬脳裏に過ぎる。


 しかし、その一瞬が白髪の少年と赤髪の少女との記憶を思い出させる─


『ゼロと私は、平和を取り戻すための旅をしてるんだよ!』

『俺達は平和を取り戻すための旅をしているんだ。』


 私は…平和を取り戻すための旅を真の目的として、二人の仲間になった。それが、あの世にいる家族が残してくれた想いに対する答えになると思った。


『これからよろしくな』

『私たちと平和を取り戻そう!アルクちゃん!』


 私は…大切な仲間の旅を、絶望で終わらせたくはない。


「……メオ、ごめんね。私まだ、最後にやり残したことがあったよ。」


 申し訳なさそうに微笑むアルクに対し、メオは何かを取り出す。それは、アルクに初めて造った武器。メオは見送るように優しい眼差しをアルクに向けながら、ナイフを差し出す。ナイフの小さな刃は、夕陽に照らされ輝きを放ち、アルクがナイフを手に取ると、輝きが周囲を包み込む。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「………」


 身体を静かに起こす。もう、痛みすら感じないほどに身体は死んでいる。だけど、まだこうして動いていられるのなら…私は仲間に生きていてほしい。

 胸元に手を当てると、砕けた刃がある。長い間、私と共に歩んできた大切なナイフ…最後にもう一度、私の力になってくれる?


 砕けたナイフに、自身に残された魔力の全てを注ぐ。砕けたナイフはやがて、光の粒子となり、新たなカタチへと変わっていく。光の粒子は銀色の銃弾と成り、アルクはスナイパーライフルに装填する。

 自身の行える最後の一撃、仲間への想い、メオの想い、そして…私が希望に導くという意志を込めて。時期に消える魂の灯火を燃やし、放たれる。


「私が………この絶望を………撃ち抜いて…みせるッ!!!」


 スナイパーライフルから放たれる銀色の銃弾やいば。銃悪の予想外だったのか、回避する余地も無く心臓を貫く。


「……ほう。」


 銃悪は一瞬バランスを崩し、体勢を立て直す。そして、アルクに視線を暫く向けた後、興冷めしたような眼で視線をゼロに向ける。


「魂が具現化していれば、死に近づけるほどの一撃だった。あの女の一撃に免じて、俺はお前を生かすことにする。情けなく醜いお前を大切に想う仲間と出会えたこの運命に、自身が幸福であることを実感するといい。」


 自身を悪の魔力で創り出した黒い霧に包ませると、一瞬にして姿を無くし消え去っていく。ゼロは身体を起こし、アルクに視線を向ける。そして、我慢していた負の感情を吐き出すように駆け寄っていく。


「……アルク………アルク…!」


 アルクは身体を横にし、仰向けの状態で地に倒れていた。ゼロは息のあるアルクをどうにかして生かす事はできないかと必死に思考を巡らせていた。


「クソッ…クソッ…!アルク、絶対に助け─」

「必要ない…」

「……え」


 アルクの身体は9割以上が死の侵食を受けていた。これ以上の生は望めないことを、アルク自身は理解していた。


「なんで……一緒に平和を取り戻すって……約束したじゃないかよ…!」

「……もう私は、死を受け入れるしか無くなった。今こうして話せているのも………奇跡なんだ………」


 アルクは少しずつ、呼吸も弱くなっていく。何かを話すにも間が大きく空き、話すだけでも精一杯な状態だ。

 ゼロは受け入れたくなかった。共に旅をした仲間の死を。平和になった世界で共に生きるはずだった仲間の死を─


「俺は…アルクに平和になった世界で生きてほしかった。なのに…俺はまた守れなかった。こんな弱い自分が許せない。俺はアルクみたいに絶望に抗えなかった…!」


 涙を流し、情けなく弱い自分に嘆くゼロに対し、アルクは自身の手で優しくゼロの頬に触れる。


「……ゼロ……私は……強さは力だけじゃ……無いと思う………」


 アルクは優しく微笑みながら、光の失った瞳でゼロを見つめる。


「ゼロは……誰かのために……必死になって……誰かのために……何度も辛くなれるぐらい……優しくて……誰かのために……前に進み続ける……私は………ゼロのそんなとこが………強さだと思ってるの………それに………」


 アルクはゼロの手を、感覚を失い死ぬ寸前の手で強く握る。


「私は………ゼロとイゼに………希望を………繋げたから………だから………最期は………笑顔で見送ってほしい………」


 アルクの最後の願いに、ゼロは涙を流すことを堪えて、辛く悲しむ表情から笑顔に変えるため優しく微笑む。


「あぁ…わかった。笑顔で見送るよ。」


 アルクは優しく微笑むゼロの顔を見つめていると、メオの明るい表情を思い出す。それと同時に、メオが私に伝えた想いが走馬灯のように蘇る。


『姉さんには…幸せに生きてほしいんだ…』


 思い出したメオの言葉に、アルクはゼロに対し最後まで隠すつもりだった本音を漏らす。


「ああ………でも………私も一緒に………平和を………取り戻した………世界で………幸せに生きたかったな………」

「……アルク」


 優しい微笑みをしていたアルクは、口角を下げ、身体を冷たくしていく。そんなアルクの遺体をゼロは、優しく抱きしめていた。

四章エピローグ


少女は復讐を遂げず、仲間に希望を与える。

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