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ゼロワールド  作者: kaito
四章 悪逆の兄妹編
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平穏を望む若者達

「アルク…痛くない?大丈夫?」

「まだ少し痛む…けど、これぐらい耐えれば─」

「駄目だよ!アルクまでゼロみたいに無茶して死にかけるのは許さないよ!?」


 アルクはイゼに膝枕してもらう形で横になり、イゼはアルクの身体を治癒魔術で回復させている。傷口は修復したが、無茶すれば身体に大きく負担が掛かることはほぼ確実と言えるだろう。


「……わかった。今は安静にする。」

「うん!それでよ〜し!」

「あと…この事はゼロにはバレないようにしたい。」

「ゼロにはバレないように…あ〜!確かにゼロがこの事知ったら…「俺は二人が七大悪と戦ってる間、呑気に宿で睡眠していたなんて…!」ってなりそうだしね〜!」

「そういうことよ…ゼロには少し前の暴悪との戦いとの傷がまだ完全に癒えてなかったって理由つけておくわ。」

「そうすれば、ゼロが思い詰めることもないと…さっすが〜!」


 そんな会話をしていると、近くから何者かが走って近づいてきているような足音が聞こえる。

 イゼとアルクは警戒し始める。鎖悪と共にいた七大悪牙悪が私達を探している可能性も大いにあるだろう。負傷したアルクを庇いながら逃げ切れるだろうか?いいや、そんな危惧していたらダメだ。もし牙悪と対面した時は…必ず逃げ切る事だけを考えろ。


「……見つけた。」

「っ……」

「……あれっ?ゼロ!?」


 こちらに向かってきてたのはゼロだったようだ。息を切らしており、どうやら全力で走ってきたのだろう。


「なんでここにいるの!?」

「悪種族の膨大な魔力が宿の方まで感じたんだ。それより…何があったんだ?アルクのその負傷、悪種族と殺し合ったのか?」

「……これは…その」

「……私達、宿で星を見ていたら突然七大悪の鎖悪に攻め込まれたの。そしてここまで連れてこられて…二人で逆にコテンパンにしてやったわ!」

「……そういうことだから、私のこの傷は気にしないで。」


 ゼロは二人の心配と自身の不甲斐なさを感じてか、泥水を啜ったような苦い表情を浮かべていた。


「そんな顔しないでよ〜!それに、二人とも死なずに生きて七大悪も殺せたんだから結果オーライ!」

「それに…普段のゼロだって、無茶して私達に心配掛け続けている。たまには私達の気持ちになってみろって事でね。」

「……いつも二人は、こんな気持ちで心配していたんだな…すまない。」


 三人の間に、少しの沈黙が続く。そうした次の瞬間、イゼがいつものような明るい声でゼロに話しかける。


「謝るぐらいだったら、行動で示しなさ〜い!ほらほら!せっかく心配して来てくれたんだから、私と一緒にアルクを宿まで運んでよ〜!」

「……そうだな。イゼの言う通り、行動で示すよ。」

「えっ?ちょっと、二人で宿まで運ぶって何…?私一人で歩いて─ってちょ!?本当に二人で運ぶの!?待って待って待って!せめて普通に運んでぇっ!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、七大悪鎖悪との戦いで負傷したアルクは宿で身体の回復のため休息。ゼロとイゼは機械国国王ロボの元に行き、悪種族の一人を討伐したことを報告しに行く。


「いやー!よくやーってくれました!君達の監視用の鳥ちゃんの記録から無事に倒したことは既に知っているよ!まさか七大悪だったとはね〜!もー不安で睡眠なんてとれない日々でしたからね!ま、睡眠取らなくてもいい身体なんですけど!」

「……まだ悪種族はもう一人残っている。」

「二人は兄妹だったから、まだお兄ちゃんの方があの廃墟街の何処かにいると思うわ!」


 ロボは報告を聞き終えると、態度を一変させゼロ達に目もくれず一方的に去るように言う。


「報告は終わり?そんじゃ、さっさとあと一人殺してきてよ。そんじゃ」

「おい…そんな態度は無いだろ。」


 ゼロがそう言うと、ロボは開発途中の機械を弄りながら淡々とした口調で言う。


「君達自体には興味ないから。機械国の発展の邪魔になる悪種族を殺せる君達の強さしか最初から見てない僕にとっては、態度なんて必要時以外取り繕うなんて無駄ではないかな?それに、鳥の記録から知ったが、七大悪を殺すのが君達の目的だろう?機械国にいる悪種族がその七大悪だと判明した今、僕がどんな態度とったって断ることなんてないだろ?じゃあ僕みたいに振る舞えばいいじゃないか。相手にどう接するかとかさ、相手のことをどう思おうが個人の勝手だ。お互いに己の目的のため、黙々と行動するだけだよ。」


 ロボは恐らく、もう心を失っているのだろう。いいや、人間だった頃からそんなモノがあったのかも怪しい。それほどにコイツの考えや話し方からは…機械のような冷たさしか感じなかった。


「……わかった。俺は俺で、仲間達と黙々と目的のため行動させてもらう。」

「ゼロ…」

「いいんだ。そろそろ宿に戻ろうイゼ。」


 そう言うとゼロとイゼはロボに背を向け去っていく。そんな二人に目を向けることなく、ロボは機械を開発し続けていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 少女は深く眠り、過去の記憶を観る。自身の幸せを願ってくれた弟との記憶、何度思い出したかわからない。それほどに、少女にとって幸せな記憶だった。


 アルクは微動だにせず深く眠っている。理由は明白だ。悪討伐騎士団の要請で、悪種族殲滅作戦に参加し、帰還したばかりだからだ。

 そんなアルクの様子を観察するように、弟のメオは部屋の椅子に座り、アルクを眺めていた。


「……ん」


 目を覚ますと、暖かい視線を向け見守るような表情で椅子に座っているメオ。そして私は、下着姿でだらしなく涎を口から垂らした状態で目を覚まして…


「っ!?メオっ!いつから部屋にいたの!?」

「おはよう姉さん。ここにいたのは30分前ぐらいからかな。朝食ができたから起こしに来たけど、ぐっすり気持ちよさそうに寝てるもんだから、起こすわけにもいかないなって思ってさ…!」


 頬を赤くし、情けない姿を見られたことに恥ずかしそうにするアルクと、意外な一面を見れてニヤニヤしているメオ。

 アルクはメオに対し、強めの口調で伝え始める。


「着替えるから部屋を今すぐ出て…!早く…!」


 弟にこれ以上、姉である私の下着姿を見られるのはあまりにも尊厳が保てない!


 着替えを終えて自室を出る。昨日の疲れが少し残っているのか、重い足取りで階段を降りてリビングに向かう。

 テーブルにはハムエッグトーストとコーヒーが置いてあって、私は静かに椅子に座る。


「姉さん、まだ疲れ残ってそうな顔してるね。」

「うん…まだ残ってる。朝食、作ってくれてありがとう。メオ」


 もう何度も味わったことのある普通の朝食。私はこの朝食の味が好きだ。平穏な朝であることを実感させられる味だからだ。

 昨日まではまだ、悪種族がいつ何処からか来るかも分からない戦場に居た。だから私には、こんな普通の朝がとても暖かく、幸福な時間に想える。


「あっ、コーヒー飲むときミルク入れてたよね。今持ってくるよ。」

「そこまでしなくても…少し疲れが残ってるだけだから、それぐらいは自分で持ってこれるわ。」

「姉さんは戦場帰りだろう?俺は鍛冶場で武器を造るだけの日々しか過ごしていなかった。それに、俺は未だに姉さんが安心して使えるような武器すら造れない…俺は何の役に立ててないからさ。少しでも役に立つ行動しないといけないだろ?」


 メオが作り笑顔でそう答えるのに対し、私は硬く真剣な表情で答える。


「メオ、自分の価値は安易に下げるものじゃない。たとえ自分がそう思っているとしても、周りはそうじゃないこともあるんだ。現に私は、メオが力になろうと武器を造る行動を、役に立っていると想っている。まだ、一つも自分が納得する武器を造ることができてないとしても、メオのその想いは私にとって心の支えとして力になっているんだ。」


 メオは姉の言葉を聞き、作り笑顔から本心の笑顔へと変わり、姉に宣言する。


「……決めた。今はまだ心の支えでしかないけどさ、いつか姉さんの身を守る武器としても支えになる。それが俺の今の目標、母さんと父さんを越える武器職人になる第一歩!」


 メオの宣言に対して、私は微笑みが溢れる。そして、嬉しさが籠もった声で答える。


「それじゃあ私は…メオが私を守る武器を造る日まで、死なずに生き延び続ける。」


 平穏な朝に、兄妹は約束を交わす。そして、アルクは願う。この平穏で普通の朝が…いつまでも続くことを。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 赤く夕暮れの空の下で、鉄の建物に囲まれた人気の無い道を歩く。ロボとの会話の出来事を気にしているのか、ゼロの足取りは重く、複雑な表情を浮かべていた。

 ふと、イゼは思う。少しでも前向きな話題でさっきのことを忘れてもらおう!と。上手くいくかは分からないが、やってみなきゃわからない。果たしてイゼはゼロの落ち込んでいる感情を少しでも立ち直らせることはできるのだろうか?


「そういえばさ、よくよく考えると七大悪も最後の一人だよね!ゼロはこの世界と悪世界のゲートを閉じるための儀式をついにできるようになるんだよ!」

「…そうだな。もう、最後の一人なんだよな。」


 うーん。とても会話が続きそうな空気ではない!イゼはゼロをそっとしておくべきか、何か別の話題で気持ちを晴らすべきか考える。思考を駆け巡らせろイゼ!愛する男の落ち込んでいる姿を見たくないのなら!

 イゼが必死に思考を駆け巡らせていると、ゼロは突然、先ほどのことを口にする。


「ロボの言ってたこと、深く気にするべきじゃないと思ってたんだけどさ……その…」


 口から何かを吐き出すのを我慢するかのように、ゼロは口を強く閉じ、話すのを止める。

 イゼはそんなゼロの気持ちを代弁するかのように、自分がロボに対して思ったことを口にする。


「私達をあ〜んな都合の良い道具みたいな扱いしちゃってさ!誰だってあんな態度取られたら嫌な気分にしかならないわよ!そうでしょう?ゼロ!」


 プスーッと怒ったような表情をしながらロボのことについて不満を吐き出すと、ゼロに明るい微笑みを浮かべながら話題を振る。


「……イゼ、俺も同じことを考えていた。」


 イゼが不満を吐き出してくれたからか、ゼロは少し微笑みを浮かべながら気持ちがスッキリしたような声色で返答する。


 重い空気は無くなり、ゼロとイゼはスッキリした気持ちで宿に向かう。




 そんな一瞬が終わるのはすぐだった。ゼロとイゼは視界に見覚えのある人影が映ると、心臓の鼓動を激しくさせる。人気の無い道から大通りに出る境目、あの男がいた。黒き鎧で胸と腕を隠し、紅い右眼に黄色の左眼…七大悪一位牙悪の姿が。


「お前は…!」

「もしかして、妹を殺された復讐?言っておくけど先に殺そうとしてきたのはそっちの妹の方だから!」


 龍の腕と龍の脚を解放し、体勢を構えるゼロ。手の平を向け、紅い炎を放つ構えをするイゼ。

 そんな二人の行動よりも速く、牙悪はゼロとイゼの首を鷲掴みしていた。


「ッ!?」

「えっ…!?」


 そして牙悪はただ一言、口にする。


 【ワープ】


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 人気の無い地面が鉄でできた道にいたゼロとイゼは、更に人気の無い地面が倒壊した建物の瓦礫でできた広場に転移されていた。


「ここは……」

「この瓦礫…あの無人街の建物の?」


 混乱する二人の前に、悪の魔力を異常なほど放った牙悪が目の前に現れる。

 牙悪は感情を感じられない無の表情だった、だが、その悪の魔力はまるで、自身の怒りや私怨…後悔を表したような。今までの悪種族からは感じられなかった独特の歪みをゼロとイゼは感じていた。

 牙悪は声を僅かに震わせ、ゼロとイゼに宣言する。


「俺が今から行うことは…自己満足の無意味な殺しだ。いつまでも湧き続ける後悔を、殺すためのな。」

ゼロワル豆知識


ゼロの故郷の村の人口  約200人

太陽国の人口      約3万人

ルピナスのいた村の人口 約130人

闘国の人口       約3万人

機械国の人口      約12万人

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