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ゼロワールド  作者: kaito
四章 悪逆の兄妹編
39/43

後悔の兄妹

 私はただの弱者だった。お兄ちゃんに頼るばかりのなんの力もない弱者。

 このまま殺されて、苦しんで、何もできずに終わる。それが、図に乗った私のような弱者の末路。なんで早く気づかなかったのと後悔した。私はお兄ちゃんと共にいたから今まで生きてこれたんだって、死に際に気づきたくなかった。

 死ぬことは怖くない。お兄ちゃんに謝れず終わるのが怖い。最期はお兄ちゃんに愛されたまま死にたい。哀れに思われ、妹として見られなくなったまま終わるのが一番怖いの。最期くらいたった一人の家族が傍にいてほしいの…


「私はまだ…死なないわ……」

「ッ!?」


 チェーンはアルクにナイフを突き刺されると同時に、自身の髪型の一部を黒鎖に変異させ、アルクの胴体を貫き、肉食獣に抵抗する草食獣の如く力強く突き放す。

 チェーンは残された僅かな力を振り絞り、兄のいる教会の方角に走り続ける。

 アルクは身体の肩と腹部に深い傷を与えられ、出血が酷い状況だ。いち早く止血しなければ、出血死に至る可能性がある。


「ッ…!追いかけないと…!」

「待ってアルク!身体に深い傷二つもあるのに、これ以上動けば傷が開くから今は無茶をしないで!それに…鎖悪もおそらく、そう長くはないわ。多分、追わなくても彼女は……」

「ッ……」


 自分には仲間と共に平和を取り戻すという目的がある。ここで無茶をし、死ぬことは避けなければならないのだ。ここはイゼの忠告を大人しく受け入れるのが賢明だ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 呼吸するたびに、肺に刃物が刺さったような痛みが来る。身体を動かすたびに、ヒビ割れて崩れてしまいそうなほど苦しい痛みが来る。時が一瞬一瞬進むたびに痛みは増していき、私はもうすぐ死んでしまうと感じてしまう。


「お兄ちゃん………会いたい………最期に愛されたい………」


 魂が少しずつ消えかけていく。まるで、最初は燃え盛っていた炎が少しずつ小さくなっていくように。チェーンは炎が消えるまでの僅かの時の中、無我夢中に走り続ける。最期の時間、愛する兄と過ごすために。


「あ………見えた………教会………」


 兄のいる教会が目に見えた。絶望の暗闇を彷徨っていた少女は、筋状の光を見出す。


「お兄ちゃん………良かった………最期にまた………」


 光の無い瞳からは涙が溢れ出し、少女は教会に向かって走り出す。


「お兄ちゃ─」


 肉塊が崩れるような【グチャ】っとした音が聞こえる。先程まで走っていた自身の身体は、仰向けの状態で地面に倒れている。何が起きたのか理解できない。少女はなんで立ち上がれないのだろうか。


「あ………なんで………今崩れるの………」


 視線を自身の脚に向ける。だが、チェーンの視線の先には両脚が無かった。隠れて見えないなんて都合のいいことは無い。限界を迎え崩れ落ちたのだ。


「嫌だ………お兄ちゃん………もうすぐ会えるのに………」


 少女を月明かりが照らす。身体が塵となっていく最中、少女は涙で満ちた瞳で月を観て、【蘇らないはずの記憶】を思い出す。


 悪に満ちる前の少女の記憶


『お兄ちゃん!お月様がいつもより綺麗にみえるよ!』

『星も今夜はよく見えるな。普段はこんなに出てないのに。』


 草原に一つ佇む家の屋根、幼い兄妹は毎晩のように星を眺める。


『ママにも一緒にみてほしいな…こんなに綺麗なお月様…そしたら心から笑顔になってくれるよね…』


 笑顔でありながらも、何処か寂しげな瞳をしていた妹に、兄は答える。


『それじゃあ、今度は今夜よりも綺麗なお月様を家族でみよう。俺も母さんには心から笑ってほしいから。』


 妹は愛する兄の気持ちが自分と一緒だったのが嬉しかったのか、寂しげの無い喜びに満ちた瞳で満面の笑みを浮かべる。


『うん!今度はもっと綺麗なお月様をママとお兄ちゃんでみる!今夜よりもきっと、幸せな気持ちでみれると思うから!』


 少女は涙が止まらなかった。幸せを願っただけなのにどうしてこうなったのか。家族と心の底から笑顔でいれれば良かっただけの少女は、何処で道を間違えたのか。身体はほとんど塵となり消えていく。最期に思うのは、過去の幸福と、選んだ運命みちへの後悔と、兄への愛情だった。


「お兄ちゃん………皆で………お月様みたかったね………」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は生まれた時から、家族に愛情というモノを向けられたことは無かった。父が家にいること自体がほとんど無く、月に一回しかその姿を目にすることができなかった。対する母は、俺を大切に育ててくれていたが、俺を見る時の瞳は、忌み物を見つめているかのようだった。

 後々俺は、こんなに大切に育ててくれるのは心から我が子へ愛情があるからでは無く、自分が生きるためにただ機械的に行っているモノなのだと理解した。どうしてそんな考えに至ったかは、父が帰ってきた日の夜に見た光景が、当時の自分の中にあった母に対する違和感を強く晴らすモノだったからだ。


「おい。ガキの様子は?」


 母は父の問いに対して沈黙を貫いていた。そして、普段の作られた表情とは比べられないほどに、自身の心からの本音が浮き出た恐怖に満ちた表情をしていた。


「俺が言ってることわかんねぇかッ!?」

「っ…!あの子はまだ……何にも……」


 父は母の答えを聞くと、不機嫌な様子から一気に豹変した。怒り任せに髪を掴み、母に拳を振るう。怒鳴り声を上げながら、母の身体に痛みを与え続けていた。


「なんでまだ何にも起きねぇんだよ!テメェの育て方が悪いからだな!?絶対そうだなッ!俺が何のためにお前みたいな人間を生かしているかわかるよなぁ!?なんのためにお前みたいな劣等種に子を産ませたかわかるよなぁ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!あの子に必ず能力を発現させます!だから私をまだ生かしてぇっ…!"」


 父はその後、母の髪を強く掴んだまま個室まで連れ込んでいた。その日の夜は泥池に沈むような感覚に襲われ、マトモに寝れはしなかった。夜通し個室からは、悲鳴や嗚咽と共に、肉と肉がぶつかり合う音が聞こえ、泥池に沈んだ自分に家畜の糞をかけられるような不快感を覚えた。


 あれから一年経った頃だろうか、7歳だった俺に妹ができた。母は何も言わず、ただ黙々と作った表情と唯一俺たちに向ける本音である"あの瞳"を向け、新たに生まれた我が子を抱きかかえていた。


 そしてまた一年…三年…五年。妹は5歳となり、俺は12歳になっていた。


「お兄ちゃん〜!」

「うわっ!?今洗濯干している最中だ。遊ぶなら後─」

「私ね!今夜は綺麗なお月様出る気がするの!だから、ママに今夜一緒にお月様観ようって言ってみる!」


 そういえば、三日ほど前に妹と屋根の上で月を観たな。確かに俺は家族で綺麗な月を観ようと言った。俺は正直、それで母の忌み物を見るような瞳が少しでも良くなってくれるのではないかと希望を抱いていたのだろう。俺は変わらず忌み物のように見つめていてもいい。ただ、妹には…愛情が込められた瞳で観てほしかった。






「ふざけるなッ!アンタがいるから私は…こんな!こんな!こんな!生まれてこなきゃよかったんだよアンタなんかッ!」


 妹は頬を片方赤くし、泣き続けていた。母が何をしたかはすぐに理解した。頬を叩き、妹に対する本音を告げたのだ。


「……あぁ…ごめんなさい…私…生まれてきた我が子には罪なんて無いはずなのに……」


 母は自分がした行動が如何に酷く、間違った我が子への向き合い方なのか理解する。自分の娘がどんな子なのかは母として理解はしていたはずだ。一緒に笑顔になって欲しかった。ただそれだけなのに、その想いに対して父への憎悪を八つ当たりするカタチで返してしまった。


 その日の夜は、妹が俺のベットまで来て「一緒に寝てもいい?」とお願いしてきた。俺は何も言わずに妹が寝れるスペースができるようベットの端に寄った。


「………」

「……ッ」


 妹が何かを伝えようとしてるのだろうか。中々言い出せないのか、小動物の鳴き声のような小さな声を出し続けている。


「ッ…お兄ちゃん。私が生まれてきて、嬉しかった?」


 ようやく話しだしたかと思えば、なんなんだその質問は。もしかして母から言われたあの言葉を気にしているのだろうか?


「俺はお前が生まれてきて…心から嬉しいと思ったよ。」

「本当…?嘘…じゃないよね…?」


 今にも泣きそうな妹の声を聴くと、身体に重苦しい感覚を覚える。もし俺の答えで妹の気持ちが少しでも良くなるのなら…眠るまで何度でも伝えよう。


「俺はお前のたった一人の兄だ。こうして生まれてきたことに対し、嬉しい以外の感情なんて無い。そして、いつまでもお前は俺の愛する家族だ。たとえ母が嫌ったとしても、俺はいつまでもお前のことを愛している。」


 妹は何を思ったのか、泣きながら俺を抱きしめる。ただ、普段の泣き声とは違い満たされるような感覚を得る。暫くすると、目元を赤くし、妹は微笑みを浮かべ俺に顔を向ける。普段から妹の微笑みは観ていたが、今回の微笑みは初めて観るタイプの微笑みだった。いつも以上に愛おしさを感じる。


「私もっ…お兄ちゃんのこと大好き…ずっとずっと愛してるよ…!」


 初めてだ。初めて愛情を向けられる感覚を知った。まるで花に包まれながら、天使に抱きしめられるような暖かさだ。母や父は向けてくれなかった感覚を妹が教えてくれた。俺はようやく、理解した。

 家族の愛情は真の家族だけが向けるものなのだと。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 妹が生まれて8年が経った。家事を一通り手伝い、妹と外で遊び、日が暮れたら家に戻る。それを毎日繰り返す日は、俺にとっては充実な日々だったと時が過ぎるほどに感じる。


「あーあー…ついに死んだよ。最期まで能力発現できなかったなぁ!?」

「ママ……?」

「………」


 目の前には、顔が膨れ上がり原型を止めてない自分の血で顔を溺れさせた母の姿。そして、不快感と恐怖だけが感じられるような悪意に満ちた血塗れの父の姿。

 思えば、あの日が運命のターニングポイントだったのだろうと今の俺は考える。


「零世界の英雄の血を引く人間と悪種族が交配することで、更に強力な悪種族を生み出せるという実験…これが上手くいけば俺は悪世界で讃えられる者の一人として名を生涯残すこともできたはずなのによぉ!生まれたのは能力発現すらしない無能!なんのために俺がわざわざこの女を攫い、英雄の血しか価値のないこの人間と交配したと思ってんだぁおい!」


 俺と妹に眼を向けてくる。その眼は母の死体を殴り蹴った時のソレだった。これが意味することは一つしか無い…次は俺と妹を殺す気だ。

 俺は直ぐ様妹の手を取る。そして、ここから一刻も逃げ出そうとした。


「逃げるぞ!アイツは俺達を─」

「お兄ちゃん!そこにいるのは私じゃない!」

「おいおい俺の手を握ってどうした?恋しくなったかぁ!?」


 あの時の俺は、間違いなく妹の手を取っていた。だが、一瞬の隙に妹のいた場所にはアイツがいたんだ。アイツの悪種族としての能力、それは…転移だった。


「俺はモノや相手、または自分と位置を入れ替えることができる。泣き虫のクソガキは俺のいた場所に転移し、俺は泣き虫のクソガキのいた場所に転移する。お前があの無能を連れ出し逃げようとしても、俺の能力の前では意味ねぇんだよ!」


 片手で首を鷲掴みされる。少しずつ力が込められていき、なるべくじっくりと苦しんで死ぬ程度に息を吸えなくしてくる。俺はただ、アイツの腕に爪を立てて強く握ったり、足を暴れさせることしかできなかった。


「やめてパパ…!私が悪いことしたから怒ってるならちゃんと謝るから…!だから…お願い…お兄ちゃんを殺さないで…!」


 アイツは妹に視線を向ける。あの時の俺はただ思う。『やめろ!妹には危害を加えるな!俺だけ殺して満足しろ!』

 だが、アイツはそんな思いを打ち砕くように、俺と妹の位置を入れ替える。俺は妹がいた母の遺体の近くに転移しており、妹は俺のいた場所に転移し、俺でもありえないほど苦しく感じたあの首絞めを代わって受けていた。


「あ"っ…が……」

「お前はよぉ…能力も発現しないくせに泣くだけ泣いてイライラさせるのが上手かったよなぁ?パパこんなにお前のこと殺したいと思ってたんだよなぁ"っ"!」


 娘を見つめる顔は、父親には程遠かった。幸福な人間を苦しめ殺す愉快犯のような顔で娘を見つめていた。

 止めなければ。方法は何でもいい。どうにかして止めなければ。ようやく真の家族に出会えたんだぞ?ようやく自分の生まれた意味に出会えたんだぞ?ようやく心から愛するたった一人の大切な人に出会えたんだぞ?なら…父親アイツを殺してでも救わなければ。


 キッチンから床に落ちていた包丁を手に取り、俺はただ一言答える。


 【ワープ】


 妹と俺の位置は入れ替わる。そして、入れ替わると同時に俺はアイツの心臓部分に包丁を突き刺していた。


「……能力がようやく発現したと思ったら俺を殺そうとするなんてよ。育てた恩知らずのクソガキがよぉ…!」

「ゲホッゲホッ…!お兄ちゃん…?なんで…?」


 アイツは俺の包丁を無理矢理引き抜こうと抵抗する。悪種族は人間とは違い、魂を殺すことで本当の"死"を迎える。だが、あの時の俺はそんなこと考えてもいなかった。ただ殺す。完全にその身が動かなくなるまで。俺は包丁を突き刺した状態で、ただ一言…


「牙…噛め。」


 その時、俺だけには視えた。巨大な獅子がアイツを噛み締める光景を。突き刺した場所を追撃するかのように、獅子はアイツの心臓がある場所を力強く噛み締める。アイツは状況を理解できずに、ただただ噛み締められ続けていた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?なんなんだ!?この痛みはなんなんだぁぁぁ!?」


 アイツは次第に魂が具現化するほどその身を弱くさせる。俺は獅子に最後の命令を出す。


「牙…噛み殺せ。」

「あああああああああああああ"!?」


 アイツの身体は魂を噛み殺されると同時に、目の前ですり潰されたようになり、肉片混じりの血飛沫となる。


「お兄ちゃん…何を…やったの…?」


 妹は目の前で起きた光景に対して恐怖しているのか、身体が震えており、呼吸も安定していなかった。だから俺は、妹が安心するように優しく抱きしめることにした。


「大丈夫だ。もうアイツは死んだし、牙は俺の命令で相手を噛み殺す。お前に危害を加えることは無いさ。」

「お兄ちゃん……一つ聞いていい?」


 妹は冷や汗を流しながら、俺にそう答えた。


「パパは悪い人だったよ…ママを殺したし、私達も殺そうとした…だけど…なんでお兄ちゃんはあんな冷静に…パパを躊躇いもなく殺すことができたの…?」


 質問の意図が分からなかった。躊躇いなんていらない。殺すと決断したのなら殺すだけだ。それに、妹を殺そうとするヤツに対して躊躇いなんてあるわけが無い。だから、俺はありのまま答えることにした。


「お前を殺そうとした。そんなヤツに躊躇う慈悲もいらない。俺にとってお前は生きる意味だからな。」


 妹は俺のその答えを聞くと、ただ寂しげな表情で俺に抱きしめ返してくる。なんでそんな表情をしたのか分からなかったが、深く考えても仕方ないことだと割り切った。


 あの日から三年後、俺と妹はこの小さな家で二人静かに暮らしていた。二人だけで生きていくのは簡単なもんではなく、とても苦労する日々が続いたが、それでも満足して過ごせていたとあの時の俺は思う。ある日、妹が普段とは懸け離れた重い表情でこれからについて話したいと伝えてくる。夕食を食べた後、俺は妹と話し合うことにした。


「これからについて話したいと突然言い出すなんて珍しいな。何かあったのか?」


 妹はこの家を離れ、放浪旅をすることを提案してきた。


「私は…ここを離れたい。この家のことを忘れるぐらい、いろんな場所に行きたい。お兄ちゃんと二人で、ここでの出来事を忘れるぐらいあてもない旅をしたい。」


 妹にとっては、母親の死は忘れられないほどのショックだったのだろう。この家にいたらあの時のことが事ある毎に思い出すのを恐れての提案だと俺は妹と話してて感じ取った。俺は妹が望むことは叶えてやりたい。だから、兄妹であてもなく旅をし生きてく運命みちを進んでいくことにした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お兄ちゃん見てよ!向こうに何か大っきい建物?みたいなのがあるよ!」

「あれは…国の城壁だな。」

「私達が来たことない国まで来たんだ…!」


 あれから2週間ほど経った。目的も無く、歩いて旅を続けた俺達は、一つの国まで辿り着いたらしい。あんな周りは草原の小さな家からここまで来ることになるなんて、少し前の自分には考えもしなかった未来だろう。

 俺達は国の門を抜け中に入り、ここに暮らす国民の賑やかな雰囲気とありとあらゆる商店、遠くにみえる大きな城に目を奪われていた。


「すっごい…私、こんな賑やかな場所初めてだよ!」

「俺もこんなに人がいて、建物があちこちにある場所初めてだ。」


 妹が目を星のように輝かせている。俺は兄として今はただ、あの家でのことを忘れて初めての経験を楽しんでもらいたいと切実に願うだけだった。


「あれ…?お兄ちゃん、あそこに泣いてる子がいる。」

「泣いてる子…?」


 建物の壁に寄りかかり、静かに泣きながら座っている男の子がいた。妹は男の子の側まで近づき、何があったのかを聞く。


「ねぇ、君どうしたの…?なんで泣いてるのかな…?」

「……ママと買い物をしていたら逸れちゃったの。」


 迷子だったらしい。妹は男の子に対し優しい声色で話す。


「迷子なのね…それじゃあ、お姉ちゃんが一緒にママを探すよ!」

「ほんとうに…?」

「うん!ママと離れ離れは悲しいからね…一緒に探せばすぐ会えるよ!」

「お姉ちゃん…ありがとう!」

「お前もあまり、俺から離れるなよ。」

「わかってるよ!だから、お兄ちゃんも一緒に探して!」


 こうして、国に辿り着いて早々俺と妹は男の子の母親探しをすることになった。ただ、俺達はこのような広い街に来るのは初めてということもあり、中々母親は見つからずにいた。三人で探しててはキリがないと考え、俺は一人、妹は男の子と二人と二手に分かれて母親を探すことにした。


 暫く街を歩き周り、男の子の母親を探していると、路地裏にポツンと立ち尽くす妹の背後が見える。何かあったのだろうか?


「……おい、どうしたんだ?」


 妹は俺の方を向いた。







 血に塗れた妹がそこにはいた。奥をよく見ると、あの男の子が腹を裂かれた状態で死体になっている。妹の顔は、後悔、恐怖、混乱、悲しみ、絶望が入り混じった表情を浮かべていた。


「お兄ちゃん……私、おかしくなっちゃったのかな。」


 妹は全身で震えながら、身体から血塗れた鎖のようなモノを出している。そして俺に対して、過呼吸になりながら事の経緯を話した。


「突然ね…変なこと考えちゃったの。この子を苦しめて…殺したいって…そしたらね、突然何も考えられなくなって…気づいたらこの子を殺してた。私、おかしくなったのかな。狂っちゃったのかな。なんで私こんなに満たされてるのかなぁ…!」


 泣き喚きながら悪逆な行いをしたことに対し、微笑み満たされる妹を見て、俺は…何も感じなかった。むしろ、満たされたのならそれでいいと考えた。そして、そんな自分に対し一つの考えが浮かぶ。

 俺は、妹以外の事は無関心なんだなと。


 ふと、父親を今になり思い出す。アイツは悪種族だった。恐らく俺と妹は、ヤツの悪種族としての本能を遺伝してる。それと同時に一つの考えに至る。それは…人として生きていくのは妹にとって苦痛になるのではないかと。

 嘆き自分の悪逆さに満たされ絶望してる妹に対して、一つの提案をする。


「一つ、これからについて俺からも提案がある。」

「……え」

「俺達は今この時、人を辞める。そして悪種族として生きよう。そうすればこの本能を我慢せず、思うがまま生きることができる。俺はお前が幸せならそれでいい。たとえ、罪無き人間を殺し尽くすことになっても、お前が幸せになれるのなら俺は悪種族として生きていく運命を歩む。決めてくれ…人間として生きるか、悪種族として生きるか、自分の望む運命を選んでくれ。」

「私は…」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 あれから何年経っただろうか。あれから俺達は悪種族として生きる運命を選んだ。そして、本能のままに悪逆を成し、放浪旅を続けていた。

 他の悪種族からは、人と悪種族のハーフということもあり、不完全な存在として認識されていた。妹はその事に対し不満を抱いており、あの頃は悪逆を成しても満たされずにいた。

 だから力を知らしめる。七大悪となり、俺と妹が不完全でありながら他の悪種族を超える存在であると認識を変えさせる。そうすれば、妹の中にあるストレスは少し解消されるだろうと考えた。


 結果、俺と妹は当時の七大悪の一位と二位だった悪種族を殺害することで、新たな七大悪一位と二位として他の悪種族に力を示すことに成功。俺と妹を不完全の存在として扱っていた他の悪種族は、情けなくも俺達に対し強く出ることは二度と無かった。

 そして俺達は、悪種族として悪逆の運命を歩み続ける。


「ねぇ〜ファングお兄ちゃん!あそこにいるヤツら、私を気色悪い目で見てたんだよね〜!ぶっ殺してもいいよねぇ〜?」

「……行くぞ。チェーン」

「はぁ〜い!」


 この運命が正しい。今が一番満たされている。俺は…この瞬間までそう考えていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 塵となり消えていくチェーンの姿を、虚な眼で眺める。

 何処で俺は選択を間違えた?チェーンには少し冷静になってほしかっただけだ。なのに何故だ?どうして死んでいる?どうすればよかった?

 後悔だけが残る。最善の選択を選び続けたはずの兄は、最悪の選択を選んだのだ。それは、今に始まったことではない。兄は悪種族として生きる運命を選んだその時から最悪の選択しか選んでいなかったのだ。


「チェーン………俺はいつから、選択を間違えていた?」

ゼロワル豆知識


ファングは生まれつき、人や物に対して関心を持つことが無かった。それは母親や父親に対してもそうだ。唯一、チェーンだけがファングに関心を持たせたのだ。

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