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ゼロワールド  作者: kaito
四章 悪逆の兄妹編
38/43

蛇は真実が見えず、鷹は爪を向ける

 黒鎖の大蛇であるチェーンはイゼとアルクを見つめ続ける。ただ見つめているわけではない。どちらを先に喰らおうか、どちらを先に噛み締めようか、どちらを先に苦しめようか、チェーンは今、完全に生死を決める側の強者の位置にある。


 お兄ちゃん…あの憎いゼロのお仲間の二人が、私を見て恐怖しているわ!この前の時とはもう違うの!私は七大悪として、そしてお兄ちゃんの妹として!圧倒的強者として狩る側に成った!これで見捨てられることはない!これで失望されることはない!私はお兄ちゃんの妹のままで─


「アルク!ちょっと無茶するからね〜!」


 地面に手を伸ばすように向け、何かを放とうとしている。何を放つのか?それはもう一つしか無い。


「イゼ…まさかこんな真下に─」

「大丈夫大丈夫!ちょっと吹っ飛ばされるだけだからぁ〜!」


 地面に向かって火球を放つと同時にイゼは後退りし、火球は地面に直撃した瞬間、爆発を起こす。黒煙が黒鎖の大蛇の視界を遮り、イゼは逃げ出し身を隠す隙を作ったのだ。


「なっ…!?あの女、視界を!」

「さぁアルク!今のうちにここを離れるわよ!飛ばされたのが無人街だから、身を隠す場所は多いわ!」

「あ、あぁ!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 無人街の中心部、そこには10mほどの大きさの建物が左右に並ぶように建てられていた。

 イゼとアルクはその建物の中から少しでも長く身を隠せられそうな建物の中で黒鎖の大蛇にどう対抗するか話し合っていた。


「無事に身を隠せたけど、あのガキンチョ悪種族どうしようかしら?まさかを私の炎防いでくるなんて…」

「……イゼ、少し静かに。」


 大量の鎖が這いずる音が聴こえてくる。黒鎖の大蛇が付近まで近づいてきてるのだ。


「嘘でしょ…もうここまで来たの?」


 黒鎖の大蛇が近づくに連れて、這いずる音が鮮明に聴こえてくる。そして、チェーンの独り言が這いずる音と共に聴こえてきた。


「あの赤髪バカ女…こんな悪足掻き、自分が苦しんで死ぬ結末を先送りして、少しずつ恐怖が増すだけよ!早く死ねばこれ以上恐怖する必要なんて…無いのにさぁ!」


 黒鎖の尾を振るい、辺りの建物を崩落させていく。黒鎖の大蛇の行動からして、ただ隠れてやり過ごすことは恐らく不可能だろう。


「これ…かなりまずいかな?」

「………あぁ」


 今ここから出て、走って逃げ出すのは…いいや、追いつかれるだろうな。なら、今の武器で戦うか?いいや無理だ。イゼの炎を防ぐほどの鎖、私のナイフと小型拳銃じゃ弾かれて終わりだ………じゃあどうする!?考えろ…必死に考えろ!もう誰も失いたくないのなら必死に考えろ…!


「アルク、大丈夫。」

「…え?」


 アルクの手を、イゼが突然優しく握る。イゼはアルクの苦悩する様子を見て少しでも冷静になってほしかったのか、それとも何か打開策を考えついたのか。


「大丈夫って…?」

「こんなピンチ、私にとってなんのこっちゃよ!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「そろそろ出てきなさいよぉ〜?それとも…建物の崩落で、潰されて死ぬのがお望みかしらァ!」


 建物を崩落して回っていると、イゼとアルクの隠れた建物の前に辿り着く。黒鎖の大蛇が黒鎖の尾を振り下ろそうとした直後─


「ん?何コイツ?」


 炎で創られた人のようなモノが何処からとも無く目の前に現れ、黒鎖の大蛇に背を向け走り出す。


「……追いかけっこでもしたいのかしらぁ!」


 黒鎖の大蛇は逃げ出す鼠を狩ろうとする蛇のように人型の炎を追いかけ、即座に追いついてしまう。


「呆気なくこのチェーンに殺されろッ!」


 身体をおもいっきり倒し、押し潰そうとした瞬間、人型の炎は巨大を軽々と避け、黒鎖の大蛇の顔面に炎の拳を叩き込む。だが…


「残念〜!私はそんな炎効かないの!ほらほらもっとその拳を押し込んでみな─」


 そう呟くと、視覚外から別の人型の炎が黒鎖の大蛇に奇襲。胴体に炎の拳を叩き込む。叩き込まれた胴体の黒鎖は少しだが、焼き溶けていた。


「は?何…?」


 突然の奇襲に少し混乱を起こす。だが、そのように混乱している暇はチェーンに存在しなかった。頭上から自身を紅く照らす何かがいる事に気づく。


「今度は何…!?」


 自身を照らすは巨大な人型の炎、建物の上から見下すように見つめ両手を広げると、黒鎖の大蛇にダイブするように建物の上から飛び降りる。そして、黒鎖の大蛇を強く抱きしめ、巨大を炎で包み込む。


「ッ!?何なのよコイツ…!」


 炎はジリジリとだが、全体の黒鎖を焼き溶かしていく。だが、先程の奇襲ほど焼き溶けることは無く、次第にピタッと黒鎖は焼き溶かされなくなっていた。


「さっきから何なんだよッ…!」


 身体を大きく回すと、巨大な人型の炎は重圧で消え去っていく。


 少し焼き溶けちゃったじゃない!なんなのよアレ!?……まさかあの赤髪バカ女の能力…?自分は身を隠して、安全圏から勝つつもり?とことん舐めやがって……!


「私を安全圏から殺そうなんて無駄よ!あんな人型の炎じゃあ、私の黒鎖は焼き溶かせない!私の気分を害するだけだわ!あと、そろそろ出てきた方がいいわよ?これ以上こんな舐めたことされたら、殺す時もっと苦しめてやりたくなっちゃうからぁ!」


 警告すること束の間、何処からとも無くイゼの声が聴こえてくる。


「そんなに私に会いたいのなら、今会いに来てあげるわよ!」


 黒鎖の大蛇の付近にある建物の屋上から、イゼは赤髪を夜風で靡かせ現れる。イゼの表情に恐怖も絶望も無く、勝利を確信したかのような笑みを浮かべていた。


「随分良い笑顔ね?今から私にながーく長く苦しめられて殺されるのに、もしかして気でも狂ったのかしらぁ〜?」

「違うわよ!アンタをぶっ倒すから良い笑顔なのよ!」


 建物から飛び降り、黒鎖の大蛇の前に立つ。そして、手を伸ばすように向け、魔力を手の平に一点集中で溜め込む。


「その顔面で…私の炎を受け止めなさい!」


 紅い炎を光線のように黒鎖の大蛇の顔面に放つ。自身の魔力を大きく消費する代償として、勢いが止まること無く炎を高火力で放ち続ける。

 だが、黒鎖の大蛇は焼き溶けること無く、無傷でイゼの炎を防ぎ続けていた。


「無駄な足掻きなのよ!アンタの炎は私の前ではなんの意味も無い!だって私は七大悪一位のお兄ちゃんにとってたった一人の最愛で優秀な妹なんだからぁ!」


 待っててねお兄ちゃん!たった一人の最愛の妹がゼロの仲間を殺して帰ってくるから!これでもう失望なんてされない!私は圧倒的な強─


「みつけた。」

「……え」


 黒鎖の大蛇の心臓であるチェーンがいる部位が、縦一直線に刃で斬られたかのように大きく裂かれていた。切り裂き口は焼き溶けており、黒鎖で包まれていたチェーンが外からでも視認できた。アルクはチェーンを鷲掴み、根を抜くように黒鎖の大蛇から引き摺り出す。チェーンは髪も肌も真っ白になっており、身体の所々に醜い赤い痣があった。

 チェーンの脳は混乱と焦りを同時に抱え、脳内を掻き混ぜられたような感覚に襲われる。


「なんで……なんで………なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?」

「答え合わせといきましょうか!イゼちゃんのチェーン引っこ抜き作戦!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 時は少し前に遡る。


『残念〜!私はそんな炎効かないの!ほらほらもっとその拳を押し込んでみな─は?何…?』


 私はあの時、火人形であることを試した。それは奇襲された場合、攻撃が通るかどうか!まず、火人形一人に正面から攻撃させ、注意を惹かせる。一人目の火人形の攻撃に集中してる隙を狙って、背後から二人目の火人形で攻撃!一見、どちらも効かなかったように見える結果だったわ。けど、私は奇襲した際の攻撃では少し黒鎖が溶けていたことに気づいたの。私はここから一つの可能性を推測したわ!黒鎖そのものには火の耐性が少しある程度、本来は炎を受け止める箇所に魔力を一点に集中することで炎への耐性力を高めていたってね!


『ッ!?何なのよコイツ…!』


 さてさて!場面は切り替わって火人形巨人の全身ファイヤー攻撃!なんでこの攻撃を行ったかというと、私の推測に確証を得るため。単なる紛れの可能性もあるからね。結果、最初はジリジリと焼き溶かしていたけど、途中でピタッと止まっちゃった。私はこの時点でこの推測に確証を得たわ。最初に焼き溶かされていたのは、あの巨体全身に魔力を集中させるとなると、相当な時間が掛かるから、突然全身包まれた事もあって手間取ったんでしょうね。それじゃあ、なんで常に全身に魔力を集中させていないのか。この懸念点はすぐに答えがわかったわ。それは、常に全身に魔力を集中させるとなると、膨大な魔力消費を起こすから。魔力が無くなれば、炎を防ぐこともできなくなる。だから普段は、魔力を集中させず温存する必要があった。さてさて、ここからは作戦について!


『私が鎖悪の前に出て、攻撃しまくって注意を惹く!アルクは私の熱さMAX炎を纏わせたナイフで、鎖悪が包まれているであろうあの箇所をおもいっきり斬っちゃって!私の炎防ぐために魔力を頭部に集中して他の箇所は疎かになると思うから、奇襲に成功すればスパッって斬れちゃうと思うよ!』

『私のナイフ…よく溶けないな。』

『ふっふっふ〜!私の炎は焼く対象を選別できるのだ!火の縄で引き寄せる時、アルクが焼かれてなかったのはそれが理由だよ〜!』

『…イゼ、一ついい?』

『ん?なぁに?』

『私は…このナイフであの黒鎖を斬る事ができるのか不安だ。奇襲が失敗すれば、イゼの身が無事では済まないかもしれ─』

『今ここで動かないと、どっちみち無事ではすまないよ。それに、アルクの弟さんが造ったナイフでしょ?絶対斬れるわよ!うちの弟は凄いんだぞ〜!って、悪種族に知らしめてあげなきゃ!』

『……そうだな。私の弟は、最高の武器職人だ。このナイフで斬ってみせる。』

『よーし!それじゃ、チェーン引っこ抜き作戦!開始よ〜!』


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「これが、イゼの考えた作戦。私の弟が造ったナイフ…七大悪のお前に知らしめることができただろうか?」


 アルクはチェーンを取り押さえた状態で具現化した魂のある部位にナイフを向け、少しでも抵抗すれば即座に殺せる体勢を取る。


 納得できない…納得できない!私が狩られる立場になってるなんて納得できない!こんなあっさり逆転されるなんて納得できない!何よりどうしても納得できないのは……!


「なんで…なんで黒鎖の大蛇の何処に私がいるのかわかったのよ…ピンポイントで分かるはずがない…!」


 イゼはチェーンに呆れた表情をしながら近づき、問いに答える。


「アナタ、自分の状況理解してなかったの?私達の前でデッカい蛇になった時から、ずっと魂が具現化してた。だから何処にいるかもバレバレだったのよ。」


「私の魂が……あの時から………?」


 自身の能力の覚醒により、相手を狩る側の圧倒的強者となり、愛する兄に相応しい妹と成った優越感に浸ったチェーンは…黒鎖の大蛇に成る代償、"魂の具現化"という欠点を見逃していた。

 チェーンはようやく理解する。自分は狩る側には成れない。今まで兄と共に狩ってきたからこそ、自分は狩る側の圧倒的強者なのだと自惚れていたのだ。本当は全くの真逆だ。己の弱点すら守れない圧倒的弱者である。そして、今になり理解する。兄の言葉の意味…


『一人で何かを成そうと思うな。俺達二人で成すことが大事なのだ。』


「あ………あぁ………嫌だ………死にたくなぁ"いッ!お兄ちゃん!助けて!こんなお別れは嫌だ!私の間違い分かったのにまだ謝れてない!きっとこれを伝えないとお兄ちゃんは失望したままだもん!お願い私を殺さないで!もうアナタ達を殺そうなんて思わないからぁ!」


 子供のように泣き叫び、醜く縋るように命乞いをする。自分が死ぬことに恐怖しているのでは無い。兄に愛されぬまま死にたくないのだ。

 アルクは哀れなチェーンの命乞いに対し、ただただ無慈悲に答える。


「お前は…今まで何の罪悪感も無く誰かを苦しめ絶望させ殺してきたって言うのに、自分が殺される時は醜く命乞い……そんな甘ったれた願望が許されるわけない。他者に望まない死を与えてきたのなら、望まない死を受け入れろ。」

ゼロワル豆知識


アルクは自身の家族が失った後、何度も悪種族により家族を失った人達と出会ってきた。彼女にとって悪種族の命乞いは胃酸が逆流するほどの不快なモノだという。

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