表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロワールド  作者: kaito
四章 悪逆の兄妹編
36/43

記憶の少女

 イゼは猛炎を纏い、ファングとチェーンの前に現れる。猛炎はまるで、彼女の怒りを体現したかのようであり、瞳に映すだけでも焼き尽くされてしまいそうなほどだ。


 チェーンは自身の下半身を人間体として再生し終えていたが、未だに立ち上がれずにいた。目の前に映る猛炎が、焼き尽くされる苦しみ、そして死に対する恐怖を増加させていた。

 自分の弱点を理解してしまった。自分は一方的に殺す側だと確信していた。だが、一人の少年によって、彼女はその確信を崩される。そして今この場では、自分はどの立場にあるのかを分からされたのだ。


「私は…狩られる立場……そんなの絶対認めなんか……」


 チェーンの戦意は失いつつあり、炎に対する恐怖だけが増えていく。


 私は七大悪二位…三位や四位、アイツらみたいな雑魚とは違う!私はお兄ちゃんが教えてくれた通りに敵対してきたヤツをたくさん殺した…それも殺したのはただの雑魚じゃない、それなりにこの世界では強いと言われていたヤツらだ!私は二位として実力がある!こんなとこで……こんなとこで………!


「こんなとこで…私は死んだりしない…お兄ちゃんの妹の私が…」


 ブツブツと一人で何かを言い続けるチェーンの姿は、目の前の恐怖に対し自分を慰め勇気づける言葉を問い続ける弱者。チェーンの兄、ファングにはそう見えた。


「……今は妹の命を優先させてもらう。」


 石を取り出し、天上に向かって建物の天井を貫く勢いで投げ飛ばすと同時に、チェーンの元まで一気に走り出す。そしてチェーンをこちらに抱き寄せようとするかのように手を伸ばし。


「まさか逃げる気!?そんなこと…!」


 イゼは猛炎が今にも溢れ出しそうな両手をファングとチェーンに向け、紅き炎を放つ。

 ファングがチェーンを片手で抱き寄せると、ファングは即座に天上にもう片方の腕を掲げ、【ワープ】とただ一言口にする。紅き炎がファングとチェーンを包み込む寸前、二人がいた場所には先程ファングが天上まで投げ飛ばした石だけが残り、二人は元々ここにはいなかったかのようにその場から消え去った。


 紅き炎を放ち終えると、イゼとアルクは二人がその場から音も無く消え去っていることに気づく。


「消えた…!?どうやってあの状況から…!」

「あの男の悪種族の能力かもしれないわ…じゃなきゃ説明つかない。」


 ゼロは腹部を素手で押さえながら立ち上がる。そして、二人の元まで歩きながら牙悪のワープについて話す。


「あれは……牙悪のワープ能力だ……二つの対象の位置を入れ替えることができるんだろう…」

「ゼロ!?そんな怪我してるのに無理して動いちゃダメ!」


 イゼが駆け寄ると同時に、ゼロは体勢を崩す。地面に倒れるより先に、イゼはゼロの身を優しく受け止める。イゼはゼロを一旦横に寝かせ、治癒魔術で傷口を塞ぐことに専念する。その間アルクは周囲にまだ悪種族がいないか警戒する。


「イゼ…すまない…また心配を掛けてしまった…」

「……本当に…掛け過ぎだよ。」

「悪種族はもうこの辺りにはいない。あの二人はおそらく…」

「また探すとこからやり直しだな…」

「ゼロは暫く休んでよね!治癒魔術で傷口塞いでも、身体は完全に回復するわけじゃないの!それに、不完全な状態で挑んで何とかなる相手じゃないことはゼロだって分かるでしょ…?」


 イゼの言う通りだ。牙悪は俺を刺した際に出来た傷口を何かしらの方法で追撃した。見えない猛獣に噛み締められるようなあの攻撃、その対策を考える必要もある。


「イゼの言う通り…暫くは休むことに……するよ……」

「うぇっ!?ゼロ!?眠っちゃった!?」


 あの時の痛み、苦しみ、恐怖がゼロの身を大きく疲労させたのか、今は力尽きるように眠りにつく。イゼは治癒魔術を終えると、そんなゼロを優しく抱き寄せるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日 午前11時頃


 とある喫茶店のテーブル席、一人の少年と一人の少女がいた。

 ゼロはしかめっ面を浮かべ、イゼは甘いフルーツサンドを口に運ぶ。


「あーん…んっ〜!美味しい〜!」

「はぁ…」

「ゼロ〜!何溜め息ついてるの?それより、このスイーツサンド美味しいわよ!」

「あのな…俺は確かに暫くは休むと言った。だが、七大悪が未だこの国に潜んでいるのに、呑気に喫茶店で美味しいものを食べながら休むなんて─」

「ゼロはこれぐらいの休みを一日は取るべき!だから今日こうして私が連れ出したんじゃない!しっかり寝て休むのもいいけど、こうやって美味しいもの食べに行く方が精神面でも元気になるでしょ!」

「……いただきます。…甘くて美味しいな、このフルーツサンド。」

「でしょでしょ〜!あとねあとね!私は美味しいもの食べに行く以外にもゼロが元気になるお出かけプランを考えたんだから!」


 イゼ的にはアルクも連れて行きたかったが、『私は武器の手入れをしたくてな。私の分までゼロを元気づけてやってくれ。』と言われたのだ。なので今こうして、アルクの分までゼロを元気づけてる!甘いものを食べに行きたかったといわけじゃない。これはゼロが休まるためである!そして何より、イゼにとってゼロと二人っきりはデートみたいなものなのだ。普段以上に気合が入っちゃうに決まっている!


「さっき宿の人から聞いたんだけどもうすぐこの辺で機械動物のパレードをやるらしいの!一緒に観てみましょうよゼロ!」

「パレード?まぁ、いいが…」

「やったー!そうと決まれば、喫茶店を出たらパレードの場所まで行ってみましょう!」


 さっきはあんな態度を取ってしまったが、イゼは俺の為に明るく振る舞い、色々考えてくれている。今日はイゼの言うお出かけプランを存分に楽しむ、それが今の俺にできることだろう。


「今日はしっかり休むって決めたからな。イゼ、俺の為にここまで考えてくれてありがとうな。」

「私はゼロの大切な仲間だもん〜!」


 ゼロはその後、イゼと平穏で何もない一日を過ごした。

 イゼと過ごす時間はいつも、昔の幸せだった日々と似たような暖かさを感じる。あの時も、俺は一人の少女と─


『■■!ワタ■■!ゼロ■■■が■■■■!』


「……思い出せない。」


 少女との会話を思い出そうとする度、ノイズが遮る。そして、少女の顔も黒く塗りつぶされ、姿すら思い出すことはできない。ただ覚えているのは…あの少女との日々は、暖かく、愛しくて、幸せだった。それだけは忘れることが無い。心に残り続ける感情だろう。


「ゼロ?どうしたの?」

「あ…すまん。少し考え事をしていた。もう日も暮れてるし、宿に戻るか。」


 俺はいつかまた…あの少女の姿を思い出せるのだろうか。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 機械国の東側は無人街となっており、建物は古く、地面も鉄に変えられていない状態のままである。そこはかつて機械国の住民が住んでいたが、国王ロボの命令により西側の街への大規模移住が行われ、今では戦闘用機械の実証実験や機械国の騎士や兵士の戦闘訓練として扱われていた。


 23時頃 機械国東部無人街の最奥にある教会


「ね、ねぇお兄ちゃん……」

「………」

「何か言ってよ…私がアイツを殺せなかったこと、まだ怒ってる?」


 ファングは溜め息をつきながら、教会にあった古いチャーチチェアに腰を下ろす。そして、不安そうに震えた瞳をしたチェーンに問う。


「何故、勝手にゼロを連れ去った?」

「そっ、それは…私一人でもアイツなんて殺せるってとこ見せたくて…!お兄ちゃんの力なんて無くても、私だけで解決できるってとこ見せたくて…!」

「今回の作戦前に言ったはずだ。一人で何かを成そうと思うな。俺達二人で成すことが大事なのだと。」

「っ…!で、でも!私にいろんな戦い方教えて、いろんなヤツ殺させたのは私が七大悪二位として恥をかかないようにするため!七大悪なのに一人で殺すこともできないなんて恥じゃない!そうでしょ!?」

「……チェーン、今夜はもう寝るといい。お前が冷静に話を聴けるようになったらまた話す。」


 そう言うとファングは、教会の奥の部屋まで向かい、チェーンはただ一人、兄の考えが何も分からないまま残されてしまう。


 私は使えないの…?一人じゃ何もできないから、言う通りにしないと役に立てないの…?こんな私には期待できないの…?なんで…?ねぇなんで…?私がワガママばっか言ったから…?誰かを殺す時、自分で決めれないでいちいちお兄ちゃんに殺していいか聞いちゃうから…?けど、そんなの仕方ないじゃん…私が勝手に決めてお兄ちゃんに怒られるのが怖いんだもん…でも、そんな優柔不断でお兄ちゃんの怒られることを怖がってるような私じゃダメだと思ったから、今回殺すはずだったアイツらを一人で殺そうとしたんだよ!?その行動が間違ってたの!?そんなはずない!私はお兄ちゃんの為を思って行動したんだ!お兄ちゃんに手間を掛けさせないための行動だった!だからこれは悪い行動なんかじゃない!ちゃんと話せば分かってくれる!でも、お兄ちゃんがそれ以外の事でも怒っているとしたら…?炎を見ただけで何も出来なくなっちゃったから…?それは仕方ないじゃない…!あんな…あんな…あんな苦しくて痛いこと初めて経験したんだから!これもお兄ちゃんにちゃんと話せば分かってくれるはず…!…待って…もしかして今回のことが…お兄ちゃんの妹として恥のような結果だから…?一人で殺しに行った挙句、あのクソガキに焼かれて、私は恐怖してしまった…こんな私じゃ、七大悪一位のお兄ちゃんの妹として相応しくないから失望された…?私はお兄ちゃんにもう………愛されない?嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ…嫌だッ!そんなの絶対ダメッ!お兄ちゃんに愛されないなんて絶対にダメッ!どうにかしてお兄ちゃんに恥をかかせたこと帳消しにするような結果を残さないと…それならやっぱり、アイツらを殺すことだよね。私が一人で殺せば、今回の失敗も帳消しになる!元はと言えば、あのクソガキが抵抗なんてしたから私はこんな目にあったんだ!素直に殺されていれば私が今失望される事は無かった!私があのクソガキを殺せば…!


 殺意が増えていくほどに、鎖は黒く染まり、悪に満ちていく。


「お兄ちゃん…私が全員殺して、最愛の妹として帰ってくるからね!」

ゼロワル豆知識


イゼのゼロに対する想いは1話【平和を望んだ少年】時点で重い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ