鎖と牙
七大悪二位鎖悪、俺を捕らえここまで連れてきたこの女はそう言った。この女が二位だとするなら、協力関係にある悪種族は必然的に一位の可能性が出てくる。太陽国での強悪と虫悪がいい例だ。イゼ達が俺と分断された今、一位がイゼ達の相手をしに行ってるかもしれない。三位があの強さだったんだ…イゼとアルクが相手でも討伐できるとは限らない。
「ねーねー考え事してんの?」
「ッ…!」
今はイゼ達の心配より、目の前にいる鎖悪をどう殺すかに集中するべきだろう。鎖悪が七大悪二位を名乗った以上、それ以外の選択肢は無い。
「もー女だからって舐めてたりしてるぅ?もしかして、暴悪を殺した自分なら二位の私ぐらい殺せるとか余裕な一面持ってたりするんじゃな〜い?人間って図に乗る生き物じゃん〜!」
「安心しろ。お前達悪種族相手に、図に乗った状態で挑むなんてこと一度もない。」
チェーンはゼロのその発言に対し、嘲笑しながら答える。
「くっ…アッハッハッハッハ!じゃあ余裕も無く必死になっちゃってるんだ!弱いから勝つためにそこまでやんないといけないんだぁ!力が無いって考えものね─」
次の瞬間、ゼロは嘲笑するチェーンの顔に龍の拳を手加減無しに叩き込み、そのまま取り押さえるように押し倒す。だが、拳を叩き込む時ゼロはある違和感に気づいた。チェーンからまるで、金属でできたモノが砕かれるような、人からは発する事の無い音が鳴ったのだ。
「女の子の話は最後まで聞かなきゃダメよ?ゼ〜ロ?」
「…!?」
チェーンの顔の表面、左目から口元の左下の部分までが砕けており、中が見える状態になっている。問題はそこじゃない…中に見えるモノは、蛆虫のように絡み合う鎖だ。
「どうしたの?乙女の中をじーっと見つめて…そういうの、エッチって言うのよ?お兄ちゃんが言ってたわ。」
「ッ……誰がお前に…!」
再度龍の拳を掲げ、チェーンに叩き込もうとした最中…チェーンのその身は突然砂のように崩れると同時に大量の鎖へと変貌する。そしてそのまま、鎖は蛇が獲物を捕らえるようにゼロに絡みつき締めつける。そして一部の鎖が集合し、チェーンの上半身に変貌する。上半身から下の部分はゼロを締めつける鎖と同化しており、チェーンは鎖で締めつけられるゼロを上から見下すような構図になる。
「女の子に一方的に締めつけられちゃってさぁ〜…男の子なのに情けな〜い。ほらほら抵抗してよ!さっきパンチしてきた時みたいにみたいにおもいっきり!殺すんでしょ〜?」
頬を赤くし、ゼロが鎖による締めつけで苦しんでる様子を悪辣な笑みを浮かべながら楽しむ。チェーンの中で悪逆な感情が増していき、殺す前に苦しみ藻掻くその姿を堪能するつもりだ。
「グッ……ァ…」
呼吸が苦しくなる。鎖悪がすぐに殺そうとせず苦しめることを優先してしまっている今、意識を失い、抵抗が不可能になる前に何としても今の状況を打開しなくてはならない。だがどうやって?力尽くで鎖を千切ろうとしても、逆に体力を消耗するだけ─
いや、待てよ?一つだけ打開策になる可能性がある。鎖悪の鎖がもし、この世界にある鎖と同様に金属で出来ているのなら、イゼと初めて会った時に敵対したあの悪種族との戦いのように…!
「ほらほら〜!黙ってないでさぁ!命乞いとかしなよ!私好みの醜い命乞いだったらっ!もうちょっとだけぇ!生かしても─」
そう言うと突然、ゼロを縛り付けてる場所から徐々に紅い炎が燃え移っていき、チェーンの身体を焼き尽くし始める。
「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"!?"」
ゼロを縛り付けていた鎖は龍の炎により溶け始め、ゼロは溶けた鎖を振り払いチェーンから距離を取る。
「お前の鎖はどうやら、金属で出来ているようだな。俺の龍の炎は鉄ぐらいなら余裕で溶かす。つまり、身体を鎖に変えて戦うお前にとって、俺の放つ龍の炎は相性最悪だ!」
龍の炎の中で地面を転がり暴れ回るように藻掻き苦しむチェーンは、顔の表面の皮膚を溶かしながら屈辱的な感情が滲み出ているような瞳を向ける。
「テメェ如きがぁ!私のことを燃やしやがってえええ!可愛いお顔が台無しじゃねぇかよぉ!」
龍の炎が鎮火されていき、チェーンは身体を人間体になるよう再生をするが、鎖が溶けており下半身を人間体になるよう再生するのに手間取っている。ゼロは追い打ちを掛けるように再度龍の炎を放とうとする。
「なんなのよ…!鎖が溶けてて…!再生が遅いじゃないの…!」
「再生する暇無く焼き尽くしてやる…お前は油断しすぎたのが敗因だ!」
チェーンはようやく上半身部分の再生を終えるが、下半身はまだ溶けた鎖のままだ。ゼロがこちらに龍の腕を向け、龍の炎を創り出している。徐々に大きくなる龍の炎がチェーンの瞳に映り、チェーンの中で一つの感情だけが増えていく。
「やだ…死にたくない…助けて…いやだいやだいやだ!私はまだ死にたくない!嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
【ワープ】
チェーンのいた場所に真っ黒のツーブロック、そして腕と胸にのみ黒い鎧、黒のカーゴパンツの男がおり、放たれた龍の炎を獅子の牙のように鋭い剣で防がれる。
「お前は…まさか」
ゼロの考える通りだ。この男はチェーンの味方であり、そして…
「ファングお兄ちゃん…!私…!死ぬかと思ったよぉ…!」
男はチェーンの方を一瞬向くと、冷たく冷酷そうな表情をゼロに向けるが、男の瞳には明確な殺意と憤怒を感じた。
「俺は、七大悪一位…牙悪。お前は妹の脅威…俺がここで殺す。」
そう言うと石をゼロに投げ飛ばし、一言言う。ゼロは龍の腕を構え警戒するが…
【ワープ】
ゼロの目の前まで投げ飛ばされた石はファングと位置が変わる。ファングのいた場所には投げ飛ばした石が、投げ飛ばされた石があった場所にはファングが、そしてファングは位置が変った直後、ゼロの腹部に剣を突き刺す。
「ッ…!?離れ…やがれッ…!!」
龍の拳を叩き込もうとするが、剣を抜き直ぐ様距離を取られる。
何が起こった?一瞬にして俺の目の前まで…いや、違う。牙悪は俺に向かって投げ飛ばされた石と位置が変わった。そして変わった同時に俺の腹部に剣を…そこまで深く突き刺さってはいなかったが、二度目は致命傷を狙ってくるかもしれない。牙悪はワープと言った直後位置を変えた。位置の変える能力を使う際に必要な詠唱だとすれば、いつ位置が変わるのか事前に知ることができる。二度目の攻撃はカウンターを─
「牙…噛め。」
突如、突き刺された腹部に獅子に噛み締められたような噛み跡傷ができる。痛みも感じ、血も溢れ出る。これは幻覚では無い。本物の傷だ。そこにいないナニカに更に強く噛み締められ、ゼロは体勢を崩す。
「あぁ……なんだ?……ガハッ………!」
自分が何をされたのか分からない。痛みと終わらない噛み締めに思考は混乱に落ちる。
痛みなんて、耐えれるはずだ。苦しみなんて、耐えれるはずだ。それなのに俺は…恐怖を抱いている。
痛い。苦しい。怖い。
「妹の平穏のために…死ね。」
ファングが地に倒れるゼロに近づき、剣を振り下ろそうとする。
けどそれを、紅き炎と悪滅の銃弾が許しはしなかった。
ファングが剣を振り下ろすよりも先に、銃弾がファングの腹部を貫く。そして追撃をするように炎球がファングに放たれるが、ファングは直ぐ様体勢を立て直し、剣で炎球を防ぐ。
「お兄ちゃん!?」
「………」
広場の入り口の方を向くと、そこにはイゼとアルクの姿があった。
「間に合ってよかった。後は私達に任せて。」
「ゼロ!私が今コイツら焼き尽くして…助けるから!」
ゼロワル豆知識
チェーンは身体を鎖に変えることができるが、人間体の時は食事も取れるし睡眠もできる。瞳、皮膚、髪、腕、脚、血液、脳も人間と変わりない。




