暗闇の奇襲
夜19時頃
ゼロ達は国王ロボからの頼みを引き受けた後、城を出ると夜になっていたこともあり、夕食を済ませた後は宿を探し現在は各自宿の部屋で明日からの悪種族捜索+討伐に向け休んでいた。
イゼはぐっすりと眠り、アルクは銃の手入れをしてる中、ゼロはベットで横になりながら考え事をしていた。
「………」
昨日観た夢、あれは何だったのだろうか。悪夢?それとも…正夢か?一番不可解に思ってるのは、イゼのあんな表情初めて観たはずなのに、もう何度も何度も記憶に焼き付くほど観た表情にしか感じられない事だ。それと同時に、イゼをあんな表情にさせた俺に対し怒りを覚える。夢の中での出来事だと言うのに、まるで現実だったようにしか思えない。
「……こんな夢の事、いつまでも考えてたら休まらねぇ。もう何も考えず、ゆっくり寝よう…」
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朝9時頃
ゼロ達は宿で朝食を済ませ、早速悪種族の捜索を開始していた。ゼロ、アルク、イゼの三手に分かれ、街の人や騎士に目撃情報だったり何か関連しそうな出来事が無いかを聞き続けていた。聞き込みをし続け3時間程が経過した頃、ゼロは肉体労働者の男からとある情報を得た。
「そういや、最近うちのもう使わなくなった施設から何か金属が這いずり回るようなうるせぇ音が外まで響いてんだ。」
「金属が這いずり回る…?」
「おうよ。もう使わなくなって二年ほど経った今頃、当然聞こえてきたからびっくりしたぜ。そもそも出入り口の鍵はしてあるし、機械は何も置いてねぇからよ。あの施設は不気味に思って暫く近づかなかったが、どうやらその考えは正しかったらしい。マジで悪種族に関わってくるんじゃ、俺の命なんて即落としてても不思議じゃ無いからよぉ。つうことで、良い情報になったか?」
「使われなくなった施設…それ、何処にありますか?」
「行くのか?俺はやめた方がいいと思うが…お前どうやら必死らしいからよ。教えてやるぜ。」
「助かります…!」
悪種族がいる可能性がある、確定された情報ではないが、ゼロにとっては情報が少しでも聞けただけで十分だった。そしてこの日の夜、3人で早速悪種族がいる可能性がある施設まで行くことになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ここだな。」
人気の無い工場施設、出入り口の周りには錆びた機械等が置いてあり、独特な不快な臭いが鼻を刺激する。
「ここが悪種族のいるかもしれないっていう施設ね。」
「何か不快感を覚える臭いがする…あまり長居したくはないな…悪種族が早めに見つかるといいが。」
出入り口の扉は空いていた。中は真っ暗で何も見えず、暗闇に染まっている。イゼが前に出て炎を出し、辺りを照らすと─
「っ!?」
「これは……」
「っ…人の死体が転がっている。」
可能性が確信へと変わる。ここに悪種族が潜んでいる。死体はどれも身体の一部が適当に解体されたかのような状態であり、断片はまるで獣に食い千切られたかのようだ。腐っている死体もあれば、まだ新しい死体もある。施設にまだ悪種族がいるのなら、離れる前に討つしかない。
「行くぞ、イゼ。悪種族がまだこの施設にいる可能性がある。」
「そうね…早く奥に行きましょう。」
「突然奇襲されるかもしれない。気を引き締めて行こう。」
ゼロ達は奥まで進んでいく。少し広い一本道になっており、壁には血痕、辺りには人間の骨らしきモノが散らばっていた。そして、アルクとゼロはここで謎の違和感を抱く。
「うぅ…骨と血痕ばかり…どんだけ殺すつもりなの悪種族…」
「ゼロ、イゼ。何か…変じゃないか?出入り口前の死体といい…ここの散らばった人間の骨といいまるで…」
「食い殺されたような。」
「あぁ…とても違和感だ。」
「違和感…?何が違和感なの…?ゼロ」
「昨日殺された店主は、高所からの落下死。そしてここにあった死体はおそらく、全て生きた状態で食い殺されたものだ。そして、俺の考えが正しければ…ここにいる悪種族は、昨日店主を殺した悪種族とは別の悪種族だ。」
「別の悪種族?でも、死体を持ち帰ってここで食べたって事もあるんじゃないの?」
「おそらくそれは無い。あの死体は機械国の騎士達が直ぐ様回収した。おそらく、悪種族が回収する暇も無く死体は埋葬されたはずだ。それに、食うことが目的なら、最初から落下死させ大事にせず、生きたまま連れて帰るだろう。そして、それぞれ犯行が別の悪種族によるものだった場合……たった今、一つの不安要素に辿り着いた。」
「……不安要素?」
「不安要素って…一体、どんな?」
今になって気づいてしまった最悪の可能性。もう後戻りはできない。ゼロはそう思いながら、今は少しでも辺りを敏感なほど警戒し、前に進むしか無い。
「別の悪種族同士は協力関係にある。そして大事になるような殺害を行った理由が、国王ロボが俺達に悪種族討伐を依頼する決定打になる為の犯行だった可能性が出てくるということ。そしてそんなことをわざわざ行う理由…それはここで俺達を殺すため─」
「せいか〜い〜!」
「ッ!?」
謎の少女の声が聞こえると同時に、背後から突然、生き物のように素早く動く鎖がゼロの身体を縛り付ける。前を歩いていたイゼとアルクは鎖による奇襲を受けなかったが、ゼロは鎖に縛り付けられた状態で暗闇へと引き摺り込まれる。
「なっ!?気配も無しに…!?」
「ゼロ!?すぐに追いかけないと!」
「待つんだイゼ!まだもう一人の悪種族が何処かに潜んでいるかもしれない…今は前に進もう。背後から連れ去られたけど、あの先には出入り口しかない。もしかしたら奥に連れ去られた可能性がある。」
「っ…わかった。今は警戒して前に進みましょう。」
自分の中にあるゼロに対する想いを、今はただ押し殺す。きっと大丈夫…ゼロなら無事でいる。そう思いながら、イゼは不安を抱き前に進んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……っ」
目を覚ますと、オレンジ色の蛍光灯で照らされた広場。辺りはホコリ臭く、壁は錆びた鉄壁、地面は赤いレンガでできていた。
「俺は確か…鎖で縛り付けられ何処かに連れて行かれ、途中強い衝撃を受けて気を失った…まだ辺りに悪種族が…」
「やーっと起きてくれたんだ?」
「ッ…!」
あの時の鎖がゼロを貫く勢いで飛び掛かってくるが、間一髪で回避。右腕を龍の腕に、そして左脚を龍の脚に変え体勢を整える。ゼロの前には生き物のように動く巨大な鎖の上に乗った真っ黒なロングヘアーに黒に染まったドレスを着たゼロと同年代ほどの少女が一人。
「まずは自己紹介よね〜!私は七大悪二位鎖悪、チェーンちゃんって呼んでね〜!私に会えたこと感謝してよ?こ〜んなに可愛くて素敵な名前の女の子に殺されるんだからさァッ!」
ゼロワル豆知識
鎖悪が自身をチェーンと名乗る理由、鎖悪は何か堅苦しくて可愛くないから。




