悪滅の銃弾
少年は全てを奪われ、誰一人いなくなった故郷で空を見上げる。
なぜ俺達なのか。なぜ奪われるのか。なぜ殺されるのか。
「俺は…なんで…生きてるんだろう…」
「■■ッ…!」
誰かが俺の名前を呼んだ。とても大切な人だったはずなのに。
俺は何も思い出せない。
「なんでこんなことに…何があったの…?」
なんでこんなことに?誰のせいでこんなことになった?
「悪種族のせいでこんなことになった…?」
そうだ。全ては悪種族のせいだ。アイツらが故郷を、村人を、友達を、家族を奪った。
ならどうするべきか。俺がやるべきことは何なのか。
故郷のみんなを殺した悪種族に復讐を────
いや、違う。
「俺はから全て奪った悪種族を…皆殺しにしてやる。」
「……そっか。悪種族のせいでこうなったんだ。」
思い出せない誰かは、あの時涙を流しながら微笑んだ。
そして、俺を抱きしめてくれた。
「私は…私だけは…■■と一緒にいるから…!いなくなったりしない…!寂しい思いはさせないから…!」
俺はその言葉に安心したのだろうか。
もう目覚めないかのように、深く、深く、深く。
子供のように眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……俺は…寝てたのか。」
「あっ!お目覚めだね〜ゼロ!」
お目覚めだ。すごくスッキリした気分だ。だが一つ、言わなければならない。
「なんで膝枕してんだ…?」
イゼは少し頬を赤くし、囁くようにゼロに言う。
「こっちの方が座ったままの状態で寝るよりぐっすり寝れると思ったの…///」
参ったな…俺はまだ疲れてるのだろうか。
ちょっとイゼが可愛く思ってしまった。
「それで、俺が寝てからどれぐらい経ったんだ?」
「5時間ぐらい?」
「5時間っ…!?」
辻馬車で向ってるから時間の無駄にはなっていないものの、あまりにも長い時間寝てしまった。
それに、俺は5時間もイゼに膝枕させてしまったことになる。
「すまないイゼ…長い時間俺を膝枕して疲れただろ?」
「そんなことないよ!ゼロの寝顔が可愛いから全く苦じゃない!」
それはそれで恥ずかしくて顔向けできない…!
「お兄さん、あまり彼女さんに迷惑かけるんじゃねぇぞ?こんな良い子逃したら勿体ねぇからな!ハーハッハッハッ!」
「俺とイゼはそういうのじゃ…!」
「大丈夫です!私はゼロから一生離れないので!」
「そうか!なら安心だな!」
「二人ともいい加減にしてくれっ…!」
恥ずかしさのあまり顔を地面に埋めたくなる。これからは迂闊に眠らないようにしよう。
辺りもすっかり暗くなり、辻馬車は夜の森の中を移動していた。
「休憩とかはしなくていいんですか?」
「おー大丈夫だ!うちの馬は一度走りゃ72時間は走ってられる!」
流石に健康的過ぎないか?そう思いながらふと、イゼの方を向く。
「………」
ゼロの肩を枕にして寝ていた。
「はぁ……こうした方がぐっすり寝れるって言ったのはお前だろ。」
そう言いながらゼロはイゼの頭を優しく膝枕させる。
この行いに変な気持ちは無い。イゼにはぐっすり寝てほしいだけだ。
そう考えていた瞬間だった。
辻馬車は突然何か大きな障害物にぶつかったかのように大きく揺れ横転する。
「うおおっ!?」
「ッ!?」
「うぇっ!?なに!?」
横転した勢いでゼロとイゼは辻馬車の外に放り出される。幸い怪我は無いが、辻馬車に付いていたランタンが地面に落ち、火が風によって消えてしまう。
辺りは暗く何も見えない。ここでイゼの炎を出したり、龍の炎を出したりしても下手をすれば森に火をつけてしまう。状況をしっかり確認するのは難しそうだ。
「イゼは無事だな?」
「うん大丈夫…ちょっと頭ぶつけて痛いけど。」
お互いの安否確認をしていた時だった。
「あああああああっ!?助けてくれぇっ!!」
「今のは…!」
「あの御者の人の声だわ…!」
暗い森に月日が照らす。そして目の前には…
長く伸びた太く巨大な木の枝で縛り付けられている御者、それを嘲笑うかのように見ている濃い緑色の髪型をした木のような質感の肌と色をした男。
「森が腹を空かせてる声が聞こえないかい!?お前達ィッ!」
「悪種族か…」
「ほんと飽きるほど悪事しかしてないわね!」
木悪は御者を更に強く縛り付けながら二人に問う。
「がぁぁぁっ!?」
「お前達のが活きがいいな…おい!お前ら二人!この男助けたかったら変わりに死ね。俺の木は血肉しか栄養にしねぇんだよ!」
「誰が素直に…!」
「待ってゼロ!このまま反抗してしまったらあの人が殺されるかもしれない!」
まさにその通りだ。木悪は反抗されたら御者を即殺し、その光景に目を奪われている瞬間を襲おうと考えている。
「さぁどうするかしっかり考えろ低知能共が!この月日照らす夜!俺の木の栄養になるのはどっちだァッ〜!?」
ゼロとイゼが苦虫を噛み潰したような表情をしていたその時だった。
銃声のような音と共に、木の枝の中心に強い威力の銃弾に貫かれたような風穴ができる。そして木の枝は力を失ったかのように枯れ始め、御者を解放する。
「な、なにィ!?」
「よそ見する暇なんてねぇぞ?」
龍の腕を構え急接近し、木悪の胸にめがけて拳を叩き込む。
激は魂を一気に殺すほどの威力だった。魂の具現化の隙もなく、怒りの一撃を叩き込まれる。
「ガァァァァァァァッ"!?なんだこの威力ッ!?私はここで死ぬのかァ"ァァァァァァァッ"!?」
塵となり、風に吹かれて消えていく。
月日が照らす中、龍の腕から人の腕に戻っていく。
ゼロ達は直ぐ様御者の安否を確認しに行く。
「無事ですか!?」
「今治癒魔術を掛けるわ!」
「あ、ありがとう…」
そう言うと意識を失う。先程強く締め付けられていたからか、かなり重傷のようだ。
「今夜はここでこの人を休ませた方がいいな…」
「そうね…あと、お馬さんが何処かに逃げちゃったみたい。こんな森の中じゃ探すのも大変だし…」
闘国までの移動をどうするか改めて考える必要がありそうだ。ゼロは今夜も眠れず過ごすことになるだろう。
そう思っていた矢先だった。一人の女性が馬を連れてこちらにやって来た。
「この馬、アンタ達のだろう?」
白い短髪に黄色い瞳、黒いジャケットに穴開きジーンズを着たスナイパーライフルを背負う若い女性が辻馬車の馬を連れてやってくる。
「その馬…確かに俺達のだ。」
「ありがとう〜!助かったわ!私、イゼって言うの!貴女は?」
月日に照らされた彼女は言う。
「私はアルク。七大悪の一人を探してるわ。」
三章プロローグ




