犬の火遊び
午後10時頃、ゼロ達は戦いを終え墓場から村まで戻っていた。
「それにしても、七大悪ではない悪種族にあそこまで苦戦してしまうとは…ルピナスが居なかったら俺とイゼは今頃どうなっていたかわからなかった。」
「そうね…ルピナスちゃんが両親の幽霊に想いを伝えていなかったら、私達は負けていたと思うわ。」
「私はあの時…ママとパパに助けてほしいって心から想いました。正直私が死ぬ事より、ゼロお兄ちゃんとイゼお姉ちゃんが死ぬ事の方が怖かったんです。」
「ルピナス…俺達のことをそこまで心配してくれてたんだな。ありがとう。」
「まったくも〜!私達の心配してくれてすっごい嬉しいけど〜!自分の命の方が大切でいてよ〜!」
「わ、私にとってゼロお兄ちゃんとイゼお姉ちゃんは憧れの人だからそれぐらい死んで欲しくなかったんです…!」
「ルピナスちゃん…もぉ〜!可愛いことばっかり言う子だな〜!笑顔止まんないよ〜!」
「イ、イゼお姉ちゃん…!頭撫で撫でし過ぎです…!」
「イゼ、気持ちは分かるけど控えめに撫でろよ。」
「ゼロお兄ちゃんまで撫で撫でしてる…!うぅ…!照れちゃいます…!///」
三人でそんな会話をしながら帰っていると、村が見えてくる。が、何かおかしい。炎で燃え上がってるかのように赤くなった建物が見える。
「二人とも…村が何かおかしいぞ。走って向かった方がいいかもしれない。」
「あれは…建物が燃えているわ!」
「あれはおじいちゃんの宿…早く行かなきゃ…!」
三人は村まで走って向かう。そしてそこには…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁっ…儂を…殺すんだな…」
「おうよジジイ。ったくよぉ無駄に抵抗したせいでランタン落としちまったじゃねぇか。素直に食われりゃ、外まで蹴り飛ばして食う前にここまで甚振ることは無かったのによぉ〜!」
狼のような爪や牙を生やし、灰色のたてがみをした肌黒い男が老人の首を掴み持ち上げている。
「頭から食い殺してやるよ。ジジイ!」
大きく口を開け頭から食おうとしたその時だった。
狼悪の腕が一瞬にして斬り落とされ、老人が救出される。
「ッ…!?誰だ!?」
「お前達悪種族は…何処まで無実の人を苦しめれば気が済む。」
老人を抱え、怒りに満ちた眼で睨みつけながらゼロは言う。
「おじいちゃん!大丈夫!?」
「おぉ…ルピナス…無事でよかった…」
「私のことはいいから!自分の心配をして!おじいちゃん!」
今にも泣きそうな顔でルピナスは老人の心配をする。
イゼはそんなルピナスを見て、ゼロに伝える。
「ゼロ、ルピナスと老人を連れて他の村人達が避難してる場所まで行って。私はコイツを灰にしてから行くわ。」
イゼは声色が怒りで満ちていた。ゼロは残って共に戦おうとも考えていたが、今は老人を避難場所に連れていき早急に手当てするべきだと理解した。
「わかった…気をつけろよ。イゼ」
「そこの人!避難場所はこっち!」
「アイツに殺される前に早く来るんだ!」
ゼロはルピナス達を連れ、村人の案内の下避難する。
「さてと、私に焼き殺される準備はOK?」
「焼き殺される?その前にお前を食い殺してやるよ。この村のヤツらより味が良さそうだ!」
「この村の…?アンタ、既に食ったの?」
狼悪は涎を垂らし悪に満ちた笑みで語り始める。
「あぁ!食った!まずは仲睦まじい夫婦を!その次に余命が僅かな老人!子供がいる一つの家庭!特に子供は絶品だった!目の前で両親を食い殺し、泣きわめいているところを!死なないよう脚、腕、臓器と食っていって息絶える前に頭から食い殺してやった!」
イゼの中で何かが切れる。普段の様子からは想像できないほど殺気で満ちた眼になる。
「もう黙っていいわよ。今すぐにでも苦しめて恐怖に怯える死を迎えさせてあげる。」
「やってみろよ。クソアマが!」
爪を立て襲い掛かった瞬間、イゼは目の前から消える。
「ッ!?何処に消えた!?」
辺りを見回していると空中から炎で創られた縄で縛り付けられる。
「な、なんだッ!?」
「焼き尽くされちゃえ。」
火縄が猛烈に燃え上がり、狼悪を焼き尽くし始める。
まるで油を大量に浴びた状態で業火の中に放り込まれたような。どんどん強くなる炎に恐怖すら覚える。
「グガァァァァァァァァァッ!?」
火縄を解かれ、焼き尽くされる恐怖から解放される。
「どうしたの?私を食べるんでしょ?」
空中から着地し、見下すような目で狼悪を見つめる。
狼悪は立ち上がり、怒り狂った顔で言う。
「女ァ…調子に乗るなよ…俺の真の姿を見せてやる…!」
そう言うと狼悪は身体から灰色の獣毛を生やし、顔も狼のようになり、身体も3メートルほどの大きさになる。
「ドウダァ!オマエミタイナオンナァ!コノスガタニナレバスグニデモクイコロセルゼッ!」
するとイゼは手でワンちゃんの顔を真似て、笑顔で何かをし始める。
「ワン!ワン!ガルルルルルッ!ワン!キャーン!」
狼悪はバカにしたように笑いながら問い始める。
「ドウシタオンナァ!オレノスガタニキョウフシテッ!クルッチマッタカ!」
イゼは満面の笑みで答える。
「炎に怖がるワンコの真似〜!」
狼悪はその言葉の意味を一瞬で理解した。
炎に怖がるワンコは自分の事だと。
「コノクソオンナガァ!ゼッタイクイコロス!バラバラニシテクッテヤルゾ!」
襲い掛かると同時にイゼは炎を放ち、先程の数百倍の火力で焼き尽くす。
「ギャァァァァァァァァァァッ!?」
狼悪はその場で倒れる。そして身体は今にも崩れそうなほど真っ黒に焦げる。
「獣は炎に弱い。基本でしょ?」
すると突然、真っ黒になった身体から人間状態の狼悪が勢いよく飛び出て、爪を立てイゼに襲い掛かる。
「なっ!」
近距離な事もあり、対応が不可能。
「ウォォォォォォォォォッ!」
狼のような遠吠えをしながらイゼを攻撃する瞬間だった。
狼悪は具現化した魂ごと突然縦真っ二つにぶった斬られる。
「え…?」
混乱していると目の前にゼロが現れる。
「大丈夫か。ルピナス達を避難場所に連れて行った後急いで戻ってきたんだ。イゼが傷つく前に助けられてよかった。」
ゼロは安心したような笑みを浮かべると、イゼに抱きしめられる。
「ゼロ〜!好き〜!もう王子様じゃん〜!」
ヒーローは遅れてやってくる。




