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第87話 魂醒拳

 アルタたちとザーナたちが相対したあの場所より、遥か北に飛んだ場所。


 シュゼとプスコフが向かい合っていた。


「......っ」


 シュゼは剣を構え、呼吸を整えた。

 そして剣を構えてなお思う。


 立ち姿で分かる、相手の強さ。


 サキュラなど序章に過ぎなかったと肌で痛感する。


「ふむ......」


 プスコフが顎に手を当て、吐息をみせた。


「ワタシシは、ザーナ様の御側にいたいのですがね......」


 シュゼではなく、たった今飛んで来た方向を見上げるその様子はまさに隙だらけ。


(―――じゃねーな)


 隙があるように見せ掛ける奴をシュゼは知っている。

 師匠がそうだった。


(思い出せ。親父に教わった化天流!)



「しかしザーナ様のお達しは『遊べ』とのこと。ならば、ワタシシはその通りの致しましょう」


 それと同時、シュゼの目の前に迫る魔力の砲撃。


「くっ!?」


 咄嗟に首を横へ曲げる。

 頬に濡れた感覚が残っていた。


「今のを。中々の動体視力です」


 プスコフは己の手を見つめる。その様子からは余裕が伺えた。


 シュゼの目にはこれが隙と映った。


「化天流中級技―――」


 力強く地を踏み込んだ。

 並の者ならば死が脳裏に浮かぶであろう殺気。


 剣がプスコフの首を捉えた。


「"流麗斬"!」


 剣が放たれる直前、プスコフの目はキッとこちらを向いた。

 ほんの一瞬前まで首があった位置に剣が振られる。


「まぁ、あの女を倒しただけはありますかねぇ!」


 放たれたプスコフの拳。

 回避叶わず。

 シュゼの頬を殴った。ドゴッという音と共にシュゼの体を後方へ飛ばした。


「がはっ」


 飛んだ体はバウンドし、大きな土煙を立てた。


「つッ......!」


 シュゼの顔が苦痛に歪む。

 歯を食い縛り、敵を睨んだ。


 しかし休む暇はない。

 先程より大きい砲撃が迫っていた。


(間に合わねーッ!)


 その一瞬で判断を下した。回避は間に合わない。

 剣に魂気を纏わせ、防御を選択。


 ガキンという音が鳴ったと同時、身をひるがえした。


 直後、轟音と共に地面が抉れた。

 そしてシュゼは剣が軽いことに気付く。


「!?」


 刃の半分が消滅していた。

 シュゼの心に恐怖の火種が燃え出す。


 しかし。


「上等だ、悪魔」


 それを上回る殺意がそこにはあった。


(今の砲撃......)


 風が土煙を運び、視界が晴れて行く。


(撃たれるまで時間あったな。空中にいるうちに撃てばよかったはずだ)


 シュゼの刺すような視線。

 プスコフの嘲るような視線。

 それらが交差する。


(最初に撃ってきたやつよりデカかった。つまり......)


 風がだんだん強くなる。

 シュゼの背後から吹き荒れる風はまるで、


「テメェ、デケーの撃つとき溜めがいるだろ」


 殺気の波動を表すようであった。


「それが分かったところで、何か変わると?」


 一瞬の猶予もなく放たれた砲撃。

 それは目標を外れた。


「あんなあっさりペタを殺しやがったんだ、覚悟しとけよ」


 シュゼの魂気は研磨を完了していた。




 ▶▷▶▷▶▷



 ―アルタ―



 怒りだ。

 怒りの感情が燃えている。

 殺意が溢れて噴き出すようだ。


 だが感情のままに動いてはいけない。


 奴は俺を敵だと思っていない。

 興味が湧いたおもちゃだと思ってやがる。


 思うつぼになってはならない。


 対峙するだけで皮膚がヒリヒリする。

 なんて凄まじい魔力だ。


「......」


 観察するうちに気が付いた。

 隙だらけだ。

 誘い込むための見せ掛けの隙じゃない。

 本当に隙だらけ。


 コイツは技術など欠片も持っていない。


 単純な身体能力だけだ。

 だがその身体能力だけでさえ、俺を凌駕しやがる。


 つくづく嫌な生物だ、悪魔は。


 俺は1度、奴に首を抉られている。

 だがそれは素の身体強度の話。


 魂気を総動員すれば、やっと守れるかどうかといったところか。



「なァ」


 その声は


「耐えろよ?」


 耳元で聞こえた。




「ごべぁ!?」


 気付いたときには、目の前には岩があった。

 その岩には穴が開いていて、その奥にはまた穴の開いた岩があって、その奥にもあった。


 今の一瞬で吹っ飛ばされた。


 それが理解できたとき、背中に痛みと濡れを感じた。


 ズタズタだった服はもっとズタズタになって、服というより布と呼ぶのが相応しかった。


「腹......」


 抉れてない。

 血まみれだしクソ痛てぇけど、それだけ。


 手加減された。

 手加減されたのにこの威力。

 警戒を怠らず観察していても、俺が少しも反応できない。


 これが嫉妬級レヴィアタン



「―――攻撃が来ねェなァ」


 穴の奥から奴がゆっくりと歩いてきた。

 足下の瓦礫をガラガラ言わせながら。


 精一杯、俺は奴を睨み付ける。

 魂気、回せ。

 見えないなら防御は勘でやるしかない。


「ガルファムつったか、アイツもそうだったなァ。あぁその表情かおもだ。昔、くだらねェ夢持って俺に挑んで来やがった」


 昔だ?


「それっきり、俺に負けてそれっきり、奴は挑んで来なかった。まだ生きてるたァ思わなかったがァ......クヒャッ、1回負けて怖くなっちまって、結局奴ァ小心者だったな」


 音がした。

 体の中からだ。

 最近何度も聴いた音。


 怒りが噴き上げる音。


「ごぁぁぁあッ!!」


「どォした、何か気に障ったかァ?」


 魂気が拳へ集中する。

 殺意にまみれた黒い魂気だ。


「ガルファムは! そんなんじゃねぇッ!」




 ▶▷▶▷▶▷




 ガルファムに修行をつけて貰っていた、あの頃。

 いつの日だったか、聞いた。


『夢ですか?』


『あぁ。俺の揺るがぬ理想だ』


 その日は修行が終わった後、ガルファムに言われた。

 夜、皆が寝静まった後に来い、と。


『この集落に住まう者。その全員で、帰るべき天世界へ帰ること。俺以外の者は、故郷であるはずの天世界を知らん。だから見せてやりたい』


 蝋燭の1つもない真っ暗な部屋だった。

 時間が止まったかのようだった。


 静かすぎる空間の中には、ガルファムの声だけが存在していた。


『だが、叶わんのだ。俺では力及ばない。それは昔、身を持って実感した。

 先走り、悪魔に拳を振るったとき、敵の力の矛先は俺ではなく仲間へ向かった。力を持たぬ者が抵抗できるはずもなく、およそ半数が死んだ』


『......』


『だから俺は停滞を選んだ。皆を無駄死にから遠ざけるために』


 確か。

 確かあの時のガルファムは。


『アルタ』


 すごく。


『俺の夢を、弟弟子おまえたちに継いで欲しい』



 優しい顔をしていた。




「夢を! 俺たちに託してくれたッ! 夢の1つも無さそうなお前が! 気安く口走んなッ!」


「ゲヒャハハッ!!」


 また避けられた。

 まだ足りない。


 こんなんじゃダメだ。

 もっと。

 もっとだ。


「おォ、よく攻めるようになったじゃねェか。小心者たァ違ェってか?」


「黙れッ!」


 もっと速く。

 速くなれ。


 そうだ。

 置き去りだ。

 置き去りにしろ。

 自分以外の全てを置き去りに。


 あの時見た、研磨の片鱗を思い出せ。




 ▶▷▶▷▶▷




「速さ比べかァ? いいぜ」


 ザーナの声はアルタに届かない。

 元より耳など貸す気もないが、それ以前にうるさかった。


 徐々に速度を増していく戦闘は戦場を砕き、常に轟音と岩石の散る無法地帯と化していた。


「ぐんッ!!」


 見たと認識したときには既に姿はない。

 離れたところにいた怠惰級ベルフェゴールには、そこで何が起きているのか分からない。


 あと1歩先にいれば死んでいたことにすら気付けず、そこかしこで粉塵が舞う。


「まだまだ遅せェな」


 煙でまともな視界が遮られる中も、ザーナは余裕であった。

 が......


「おぉおぉぁああッ!!」






 アルタの魂気は、研磨されない。

 これまでもこの先も、研磨されることは無い。

 近付けるはずがない。

 何故か?


 アルタは前世の人世界にて、死んだ。

 半身を明確に蹴り離され、惨たらしい死体が残った。

 村人に土葬なり何なりされただろう。


 つまり、アルタが生まれ持った"肉体"は既に持ち主の元にない。


 現在のアルタの肉体は生命神が用意したもの。

 細胞や筋繊維の隅々までがコピーされた一級品である。


 しかし魂とは賢いもので、それでもなお欺くことはできない。


 憑依こそすれど、融合はしない。



 では集落でのあの"気付き"とは何だったのか?

 あれはそもそも魂気研磨の前兆などではない。


『全てを置き去りにする浮遊感』


 魂が肉体を追い越し、超過した結果である。

 融合ではなく憑依の状態だからこそ起きた現象。


 結果、肉体の拳が当たる前に、魂の拳が炸裂する。



 そして今、奇跡(それ)は起きる。


「がぁァぁあ!!」


「うがっ......はッ!?」




 魂は覚醒した。




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