表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/111

第86話 始まり

 岩の柱が乱立する荒野の一角。

 2人の悪魔は談笑する。


「まさか、あの者共が天使だったとは......」


「あぁ、間違いねェ。あの気配はよォ」


 高い岩の上、プスコフは跪く姿勢を直し、頭を下げた。


「ワタシシが気付いて、始末しておくべきでした。どのような罰も受けましょう」


 この発言へザーナがどんな返答をしようが、プスコフは頬を赤らめ悦ぶのだろう。

 その命を持って償う時が来ようと、ドロドロに溶けるまで悦ぶのだ。


「必要無ェさ」


 岩に座り、下を見下ろすザーナ。

 その姿を見た後、プスコフの首は傾げられる。


「では、ワタシシが今度こそ始末―――」


「必要無ェ」


 その提案はピシャリと妨げられた。

 ギロッとした視線が刺さるが、彼にとってはこの上ない至極である。


「カス共に命令は出した。腐っても憤怒級サタンを倒した奴らだ、どォせ死なねェだろ」


 尖った歯を覗かせ、ザーナは笑う。


「尋問なり拷問なりして、俺らの場所聞き出すだろうよ。そんで来たら遊んでやる」


 プスコフの思案。それは疑問。

 何故こんな回りくどいことをするのか。そう考えるのが自然だろう。


 否。それは違う。

 この男に主を疑う念などない。


(ワタシシには分かりました。貴方様は退屈をしておられる。だからこそ、天使共を使って遊戯を堪能為さるおつもりなのです)


 プスコフの目から、ひと筋の涙が垂れ落ちる。


(それをワタシシは......玩具を始末しようとしてしまいました。何と言う大罪......!)


 背後から聞こえる泣き声に、ザーナは少々顔をしかめていた。




 ▶▷▶▷▶▷




 一方その頃、アルタたち。


 木々より伸び、うねる枝の鞭。

 それらは悪魔の体を凪払う。


「ぐぁぁぁあ!」


「魔術持ちかよ......!」


 土煙が立ち込める中、飛ばされた悪魔がドサドサと落ちてくる。

 そこへ走る追撃。


 変形した枝が悪魔の首を落とした。


「よしっ!」


「油断してんなッ!」


 小さくガッツポーズをとるペタの瞳に写った黒い拳。

 しかし届くことはない。


「ぼくだって」


 地面が揺れ、悪魔の足が一瞬浮いた。

 直後、


「強くなったんです......!」


 地面より生えた10を超えるツタの針。

 足の浮いた悪魔に回避は許されず、無惨にも体の節々に突き刺さっていた。




「金髪動いてねぇぞ、ビビっちまったかぁ!?」


 数体の悪魔が薄ら笑いを浮かべ駆け寄った。

 魔の手が触れかけたとき、彼らの体は地に伏した。


 煙の晴れた先に剣を鞘に収めるシュゼがいた。


「すっげー......相手の攻撃が全部見えるみてーだ」


 走る中も剣を握り締め、己の強さにシュゼは歓喜していた。

 刃は振るわれ、抗う間もなく悪魔の命が散って行く。

 次から次、また次と。


「な、何だコイツ!?」


「こんなの勝てる訳―――」


 気付いたときには心臓に穴が開いている。

 アルタたちを取り囲む悪魔の集団が殲滅されようとしていた。




「な、何だと......我々がこんなにあっさりと......」


 アルタの前に立ちはだかっていた悪魔は脚を震わせ、困惑していた。


 自分たちは天使の始末を任されたのではないのか。

 大陸の主たる嫉妬級レヴィアタンから、直々に指名されたのではなかったか。


 認められたのではなかったのか。


「おい」


「......ひっ!」


 悪魔は駆け出していた。連れてきた仲間など目もくれず。

 来た道をまっすぐ全力で走っていた。


(勝てない! ザーナ様は何をお考えなのだ! それこそ、プスコフ殿に任せればよかったはずだ!)




『赤髪、金髪、あと緑の悪魔だ。そいつらの所に行け。森の方な』


『殺しても、いいので?』


『あぁ? いいぜ? 別に』




 アルタの視線上、悪魔の姿がどんどん小さくなっていく。

 相手は腐っても怠惰級ベルフェゴール

 黙っていればすぐにでも見失うだろう。


 しかしアルタは、


「ごぶはぁ!?」


 既に憤怒にまみれていた。


 閃光の如く駆けた拳が悪魔の頬を砕く。

 噴き出した血と共にその体は割れる地に伏した。


「お前らに命令した嫉妬級レヴィアタンの居場所を教えろ」


 伏した体は拘束され、尋問が始まった。アルタの怒気の籠る視線が悪魔を刺す。


「こっ、この先だ......この先にいらっしゃる......はずだ」


 そう言い終わった後。

 殺意を知った天使は、悪魔の首を跳ねた。

 宙に浮いた頭を潰した。

 足下の胸を貫いた。


 その場がシュワ~と音を立てる。

 白い湯気が場を覆う。


 殲滅は完了した。


「シュゼ、ペタ」


 天使が言った。


「行くぞ」



 ▶▷▶▷▶▷



 ―アルタ―



 森を抜けた先、岩の乱立する景色。

 そこで感じる、大きく、濃く、おぞましい魔力。

 1歩踏み出す度、肌がズキズキ痛むようだ。


「……」


 誰も何も言わない。

 見なくても、2人の顔が強張っていることは分かる。

 純粋な天使であるシュゼでも、魔力とは別で重圧を感じているだろう。


 そして聞こえた。


「来たな、死に損ない」


 見上げれば、脚を組んで座るザーナと、その後ろに控えるプスコフがいた。


「来るたァ思ってたが、早かったなァ」


 嘲るような視線が降り注ぐ。


「アルタさん……ぼく、やっぱり……」


 ペタの震え声がよく聞こえた。

 小さな声で、怒りを恐怖が飲み込んでいた。

 背中を掴まれたのが分かった。

 俺の背後に隠れるつもりだ。


「ーーー」


 そしてそれは、ほんのひと刹那だった。

 極度の緊張が渦巻く最中、確かに見えた、魔力の光。


 光は俺の頭の真横を通り、背後へ着弾した。


 気が付いた。

 既に背中を掴まれる感覚はなかった。

 代わりに、何か液体がぺとっと付いて、溶けるような音がした。



「おォ、命中だな」


「貴方様の右腕として、当然でございます」


 相変わらずザーナは脚を組んで、だらんと座っていた。

 ゴミでも処分したような気色だった。


「お前ら……よくもッ!」


「あァん? 数合わせって奴だよ。天使オマエらそういうの好きだろォ?」


 その顔はニタニタしていた。


「昔いたんだよォ。天使ン中に、やたら数にこだわる奴」


 体が震える。恐怖によるものじゃない。

 怒りだ。

 殺すんだ。


「悪魔は数が多くてズルいんだと! だからサシでってやったら、喜んで腰抜かしてくれたぜェ」


「何が数合わせだ。3対2がそんな怖かったかぁ!?

あぁ!?」


「アルタ、落ち着け」


 シュゼに手を置かれて我に返った。


「シュゼ......」


「乱れてるぞ。らしくもねー」


 シュゼは剣を構えていた。

 これまでに学んだことを実践して、冷静に。


 怒りは沸いているだろうに。

 はらわたが煮えくり返りるだろうに。


「......」


 そうだ。

 落ち着かないと。感情的になるな。

 力の差は大きい。

 技術を全て活用しなければ、こいつは殺せない。



「あー......」


 奴が考えるような仕草をした後、言った。


「プスコフ、オマエは金髪と遊んでこい。俺は赤髪の方とやる」


「承知しました」


 次の瞬間、視界の横をプスコフが凄まじい速度で通り過ぎた。


「シュゼ!」


「大丈夫だ! オレはコイツを倒す! お前はそっち頑張れ!」


 2人が彼方へ消える中、それだけが聞こえた。



「さァてと......」


 ザーナが立ち上がった。


「せっかく興味湧いたんだ、ガッカリさせんなよォ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ