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第81話 兄弟子

 朝になり、目が覚めた。

 朝とは言っても、清々しくはない。外へ出れば、真っ赤で禍々しい空が拝めることだろう。


 シュゼはまだ寝ていた。大の字でくかーといった具合に。


 俺は体を起こし、外へ出る。

 集落は静かで、まだ誰もいない。


「......その辺歩くか」


 暇なので適当に散歩してみる。岩は踏むと乾いた音がする。


 昨日はここで子供が遊んでいたのか、小石だかが散乱していた。


 きっと、これらを何かに見立てて、自分たちなりの遊びを持ってるんだ。


 前にいたときはあまり深く考えていなかった。

 遊んでと言われたら、適当に付き合っていた。

 今思えば、少し素っ気なかった気もする。


「......」


 ペタは彼らからどう思われるだろうか。

 肌の色も目の色も違うが、除け者にされないか。


 ミーヴは天使だが羽が無かった。

 だがそれは、羽は普段生やさないという常識によって隠されていた。


 ペタは違う。

 目に見えて外見が天使とは大きく違う。


 羽が無いだけで外見は何も変わらないミーヴを子供はイジメていた。


 外見どころか種族も違うペタは大丈夫か。


 ......大丈夫か。


 ペタは悪魔だが、邪悪さはない。

 すぐ馴染める。



「......ん?」


 ふと足音がした。集落の奥の方だった。


「......」


 まさか、悪魔が入り込んで?

 だが魔力は感じない。

 魔力を消しているのか?


 俺は警戒して1歩1歩足音の方へ近づく。


 ある程度近づいたとき、音は足音だけではなくなった。

 縄をいじるような、そんな感じの音だ。


 ......縄?



 と思った矢先、壁の向こうから屈強な男が出てきた。

 ガルファムだった。


 さっきの音はガルファムだったのか。


「もう起きたか」


「はい。ガルファムさんも早起......き......」


 それを見て絶句した。

 ガルファムの肩だ。

 そこに女が1人担がれていた。


 いや、少女か?

 俺と同じか少し下くらいの。


 少女はピクリとも動かなかった。

 無音でガルファムの肩にしがみついていた。


 これは......死体だ。


「何です......その人」


 自分で言って思い出した。

 俺が今立っている場所は、首吊り台が置いてあった場所のすぐ近くだ。


「前に言ったはずだ。真実に絶望して命を絶つ者もいる。15を迎えた時点で俺の口から話すが......こいつは耐えられなかったらしい」


 ガルファムはあくまで淡々と話す。

 抑揚のない声が耳を伝い、脳に事実を知らせる。


「それは......残念です」


「いつものことだ」


 それだけ言ってガルファムは歩き出した。

 やり方は知らないが、どうにかして死体を始末するのだろう。


「......」


 最後、ガルファムの背中越しに"それ"と目が合った。

 何も見えてない目は苦痛が籠っていた。



 見るな。



 そう命令されたかのように、体が勝手に目を背けた。

 その先には、例の首吊り台があった。


「ん?」


 何か違和感があって、目を凝らしてみた。

 じっと見て、目が慣れてきた所で気が付いた。


 台の手前の地面がぽつぽつ濡れていた。

 まだ乾いていない。


「......なんだ」


 俺はもう1度ガルファムの方を見た。

 また死体と目が合ったが、今度は苦痛が籠るようには見えなかった。


「やっぱり悲しいんだ」


 そう呟いき、俺は1度ラノンサの家に戻ることにした。




 ▶▷▶▷▶▷




 それから時間が経ち、集落の者が次々と起き出してきたとき、ラノンサの家の扉が叩かれた。


 曰く、ガルファムが俺たちを呼んでいるそうだ。


 それで彼の元まで赴いた。



「何か用ですか?」


「呼んだかー?」


 俺とシュゼが同時に聞いた。

 対するガルファムは、相変わらずあぐらで鎮座している。


 それを取り囲む女はいない。この部屋には今3人だけだ。


「座れ」


 ガルファムは腕を組んだまま告げた。

 言う通り、彼の前に座る。

 シュゼは少し面倒臭そうだ。


「昨夜、ラノンサから聞いた。サキュラを倒したそうだな」


「はい」


「おう」


「正直なところ、驚いた。お前らは、どうせ死ぬと考えていた」


 そう言われると嫌な気になる。つい顔をしかめてしまった。

 ふとシュゼを見ると、ガルファムの方を向いてもいなかった。


「そしてそれは今も同じだ」


 低い声は容赦なく耳を打ってくれる。


「お前らはこれから、プスコフと戦うつもりだ」


「はい―――」


「無理だ」


 一瞬で否定され、言葉に詰まった。


「どういうことだよ。オレたちじゃ勝てないってのか?」


「あぁ。絶対にな」


「っ......!」


 シュゼは睨み付けるようにガルファムをみつめた。

 対するガルファムは少しも動じない。


「プスコフと遭遇したのなら、お前らも見たはずだ。奴の力の強大さを」


 確かに、あの力はえげつなかった。

 攻撃が当たった箇所は消え去る、あの力。

 サキュラは使わなかったことから、奴の魔術なのだろうが、だとしてどうにもならない。


 そう、どうにもならない。

 どうにもならなかったとはいえ、あのとき界鏡を取り返せていたらと思うと悔しさが沸く。


「俺も奴には勝てない」


 ガルファムははっきりそう言った。

 その声には怒気が混じっていた。

 悔しいのだろう。俺もだ。


「そこで、俺がお前に修行をつけることにした」


「は?」


 唖然とする俺を尻目に、シュゼが食って掛かった。


「何だよそれ。お前そいつより弱えーんだろ? そんなんでオレたち鍛えられんのかよ」


 シュゼは元々、ガルファムをあまり好いていなさそうだった。

 今の発言も気に食わないんだろう。


 と思いつつも、俺は止めようとした。




 すると俺が止めるより先に、ガルファムは行動で応えた。


「お前らはもっと弱い」


 背筋が凍った。

 冷や汗がどっと溢れ出る、そんな感覚が伝った。


 シュゼも青い顔をしていた。

 俺もきっと同じだろう。


 ガルファムは立ち上がっていた。

 立ち姿を見るのは今日2度目だが......おかしい。

 ガルファムって、こんなに身長高かったか?


 潰されそうだ。


「―――付き合う気になったか?」


「......はい」


「......わーったよ」


 こうして、修行が始まることとなった。

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