第79話 狂気の来襲
サキュラの悪魔も全滅し、静寂が訪れた都。
互いに支え合って歩いてきた2人と合流した。
「ハァ、ハァ......」
息切れが止まらない。
手が小刻みに震えている。
緊張が解けたら、力が抜けた。
俺は無造作に地面に座った。
しばらく立てそうにない。
「お2人とも、ちょっと待ってくださいね。魔力が回復したらすぐに治しますから」
ペタは俺たちの間であたふたしている。
外見は自分が1番怪我をしているのに、俺たちを先に回復させるつもりらしい。
今はそれがありがたい。
「とりあえず、それまで止血しないとな」
節々に小さな穴が開いている。
血は止まりつつあるが、放っておく訳にも―――
「妾は......」
後ろから声がした。
サキュラの声だ。
咄嗟に振り返ると、奴の頭がぽつんとあった。
頭の上側は砕け散り、左目と口だけが残っている。
まだ喋れるのか。
「妾はもう、死ぬ」
「ククッ」という笑いが耳を撫でた。
目が離せない。
体も動かない。
シュゼはボロボロの体でトドメを刺そうとしているが、俺と同様動けていない。
奴の遺言は続く。
「2ヶ月前、妾はある憤怒級と戦った。自分本意な奴での、その時妾は魔術で奴を民としたが、さぞ屈辱だったじゃろう」
何の話だ。
何のつもりだ。
「じゃが奴は完全には支配できなかった。遠くへ押し退けておくのが精一杯じゃ」
今もなお、サキュラの頭は溶け続けている。
黒い液体が口の中に入っても、目が液体に浸かっても、話は続く。
「妾が死ねば、民は妾の民ではなくなり、己の意志を......取り戻す......」
......まさか。
「今頃ここへ向かっておる」
まずい。
少なくとも、今の状況では絶対に勝てない。
「貴様らは死ぬ」
最期、ドロドロに溶けた口は、ニヤリと笑っているように見えた。
▶▷▶▷▶▷
一気に胸騒ぎがした、次の瞬間。
都の端の方で、轟音がした。
この大きな魔力。
奴が来た。
「もう来たのかよ......シュゼ、気配消せ」
「分かってる」
「ペタも魔力消せるか?」
「何とか頑張ってみます」
「よし。じゃあ早いとこ隠れよう。ぐっ」
疲れ切った体を無理やり動かし、近くの瓦礫まで這う。
体の節々が痛む。
間接を動かす度、自分の顔が苦痛に歪むのがよく分かる。
「ふっ、くっ!」
サキュラの口調からして、奴はサキュラよりも強い。
さらに今、俺たちは体力を消耗している。
戦えば、見つかれば死ぬ。
▶▷▶▷▶▷
隠れた後、少し経った頃だった。
「―――あぶり出しましょうか」
奴の奇怪な声が響く。
そして直後、魔力は暴れる。
瓦礫の間から外を覗いたとき、奴が手をかざしているのが見えた。
そしてその手に向かって、魔力が集まっていくのが見えた。
チュドォォォォオン!!!
何かが青く光った。
純粋な天使なら、そう思っただろう。
そうとしか見えないのだから。
だが俺には分かった。
あれは、魔力が撃ち出されたのだ。
ただ単純に、シンプルに。
破壊力は凄まじかった。
瓦礫と化していた建物は、塵と化した。
「早く出てきなさい。ワタシシが隠れ蓑を壊しきる前にね」
次から次へと、瓦礫は消えていく。
魔力が撃たれる度に、心臓が締まる。
地面が揺れる。
空気が揺れる。
「......おや」
破壊が止まった。
続いて奴の足音が聞こえてた。
近付いてくる。
気付かれた?
いや、大丈夫なはず。
きっと、サキュラの死体に目が留まったんだ。
足音が止まった。
「黒の色石。そうですか。あいつは死にましたか」
どうでもよさそうな、かほどの興味もないことが、声から簡単に分かる。
「そしてこれは......奴が保有していた天魔界鏡でしょうか? フフフ、では遠慮なく頂きましょう」
話からして、奴はサキュラに報復に来た。
ならもういいだろ。
早く帰ってくれ。
「―――ところで」
そう思ったときだった。
「あなたが、この女を殺したのですか?」
奴の視線が針のような視線が、こっちを向いているのが分かった。
見えなくとも分かる、威圧感。
そして、その空気に圧倒されていた時。
「......は?」
口から、情けない声が漏れた。
俺の真横。
爪1枚分ほどの箇所が、えぐれて消えた。
「......」
視界の奥に、奴がいた。
手をこっちに向けて、そこに立っていた。
威嚇には充分すぎた。
「あなた方が殺したのですか?」
俺は無言で頷いた。
すると、奴の声色はみるみる上機嫌さを隠さなくなっていった。
「それは凄いですねぇ。ただの野良悪魔のくせに、仮にも憤怒級のあの女を倒すとは」
笑っている......ように見える。
不気味な笑いだ。
耳の奥を突くような、そんなもの。
「特別に殺さないでおいてあげましょう。ワタシシは今機嫌がいい。
フフ。これでまた、ワタシシはザーナ様に褒めて頂ける......! フフ、フフフ、ハハハハハ!」
狂っているようにしか見えなかった。
奴は頬を赤らめ、愉悦に満ちた表情で、翼を出して飛んでいった。




