表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/120

第73話 開催

 民がせっせと働く都を、半壊した都を見る者が1人いる。


 中央の城に陣どり、適当な悪魔に目を留める。

 一定間隔で見る悪魔を変えて、変えて、飽きたらまた変える。


 憤怒級サタン、サキュラ。


「もうそろそろ、あの者共を捕らえてから2ヶ月か」


 バルコニーの手刷りに座り、足を組んで呟く。


 アルタとシュゼを捕らえてから2ヶ月。

 その間、都の復興に心血を注いでいた。


 プスコフとの戦闘で半壊し、そこら中に瓦礫が散乱した都。


 民を酷使し、2ヶ月で大体の場所は元通りとなった。


 民にとっては、かなりの重労働だったであろう。

 急所をやられない限り死なないとはいえ、身を削る思いだった。


 が、そんなのはサキュラの知るところではない。


「プスコフの脅威は消えたしの、しばらく安泰じゃろ」


 プスコフの脅威。

 サキュラは、プスコフをなめていた。

 簡単に倒せると思っていた。


 2ヶ月前の戦闘で、大打撃を受けるまで。


 界鏡をめぐる憤怒級サタンの戦い。


 元より手傷なしでいけるとは思っていなかったが、想定以上だったのだ。


 だが、収穫はあった。

 大きな収穫が。


「そろそろ、天世界へ渡る者を決めるかの」


 手刷りから降り、ゆったりとした足どりで中へ戻っていった。




 ▶▷▶▷▶▷




 都に滞在する悪魔たち。

 そのほとんどが、己の闘志を燃やした。


 サキュラの宣言があった。

 催しは3日後に行う、と。


 そしてその3日間は、すぐに過ぎた。




 当日。

 サキュラの選んだ出場者たちが、闘技場へ集まる。


 ペタもまた、闘技場へ来ていた。

 しかし、彼は出場者ではない。


「......」


 歩幅の狭い足どりで、ペタは闘技場を歩く。

 身を縮こまらせ、観客席に入る。



「俺選ばれなかったわ」

「あいつが選ばれるのかよ」


「サキュラ様のご選択なら仕方ない」

「でもよ―――」



 談笑する悪魔たちの間を練り歩き、奥の席へ向かう。

 すれ違うたび、その視線が怖くなる。


 この闘技場の観客席には、数多の悪魔が集まっている。

 そのほとんどは、サキュラに"候補"として選ばれなかった者たちだ。


「んしょ」


 観客席の隅の方に空きを見つけ、座る。

 ペタの頭は、まだ下を向いている。


(アルタさんたち、どこに行っちゃったんだろ......)


 2ヶ月前、ペタはこの都へ初めて来た。

 かつて思い描い(あこがれ)ていた状況とは少し違ったが、確かに来た。


 が、問題はその後起きた。


 アルタとシュゼと、はぐれてしまったのだ。


 ペタの認識では、ペタはあまり強い悪魔ではなかった。

 実際、その通りだ。

 は。



 アルタたちとはぐれた後、ペタは彷徨った。

 初めて来た都に、多少の喜びを感じつつも、心の大半は不安であった。


 怖かった。


 周りの悪魔たちは、ピクリとも動かずに、都の中央の柱《城》を見ていた。


 まばたきの1つもせずに眺め続ける様は、猟奇的であった。

 もっとも、それは眼球がある悪魔の話だが。


 だが眼球のない悪魔も、他の者と変わらない方向を見ていた。


 都に狂気が満ちていた。



 いてもたってもいられなくなり、ペタは元いた場所へ戻った。

 その直後から、悪魔たちは次々と動き出した。


 これもまた、狂気に満ちていた。

 生気の感じ取れない悪魔たちが、無言で作業を始めたのだ。


 半壊した都を、修復するように。


 そんな日々が2ヶ月続いた。

 黙々と作業をする悪魔たち。


 その不気味な風景から逃げるように。

 かつて洞窟に籠ったように。

 ペタは都の端で縮こまっていた。




 それからだ。

 3日前、悪魔たちは普通になった。


 まるで普通だった。

 最初から何もなかったようだった。


 自我を持ち、意思の通りに動いていた。


 この3日間は、狂気は感じられなかった。

 代わりに、闘志があった。


 サキュラより通達を受けた12名の出場者は、さらなる闘志を燃やした。


 そして、今に至る。



(アルタさんたち、ここに来たら会えると思ったけど......)


 見渡す限り、その姿はない。

 当然だ。彼らは今、牢屋の中。

 ペタには知る由もないが。



「よお、ペタ。久しぶりだなぁ?」


 ある男が、ペタに声をかけた。

 旧友でも見つけたような態度で、ペタの細い肩に手を置いた。


 尖った歯を覗かせて、ニタニタと笑う。


「......」


 対するペタは、今にも逃げ出したそうだ。

 だが、動けていない。

 男の手に抑えられている。


「おいおいそんな顔すんなよ。俺は嬉しいんだぜ? 久しぶりに"友達"と会えたんだからなぁ」


「......」


 ペタは黙ったままだ。

 無視をしている訳ではない。


 この男―――ソルガに、怯えの感情を抱いていた。

 手が震えている。

 敵意はあるが、やはり怯えより少ない。


「......もう、関わらないで」


 絞り出すような声で、ペタは言った。

 やっと言えた。

 そう思い心の中で喜ぶが、一瞬にしてそれは砕け散る。


 ソルガがこんなことで手を引く奴ではないことはよく知っている。


「んな寂しいこと言うなよ。喜べ。俺はサキュラ様に、英雄の候補として選ばれたのさ」


 ソルガは張り切っている。

 自分が、英雄になれるのだから。


「やーしかし、お前が(ここ)にな来るなんてなぁ。ま、一応(・・)魔術は使えるし、来れはすんのか」


 ペタの震える肩に置かれた手は、まだどきそうもない。


「や......」


「あん?」


「やめてよ!」


 ペタの腕が、大きく振りかぶられる。

 10年前の苦痛が蘇り、それがペタに勇気(ちから)を与えた。


 ソルガは攻撃を食らい、よろける。

 元よりペタが攻撃を選ぶとは思っていなかった故、油断していた。


 そしてさらに。


「ぶッ!」


 ソルガの腕が、彼の頬を叩いた。


(は?)


 ソルガの心に困惑の念が湧き、目がペタを睨む。


「......そうかぁ」


 ソルガはそれだけ言い残し、場を去った。


 1つ不安があるとするならば、彼の表情からは先程のニタニタとした笑みがなかったことか。




 ▶▷▶▷▶▷




 かれこれ、1時間ほど経っただろうか。

 偉業を為す者が決まるこの時を、皆が待ちわびていた。


 主がいらした。


「皆の者。よくぞ集まってくれた」


 サキュラは闘技場の最も高い、最高位の席に座り、民を見下ろして言い放った。


「さて。今宵、貴殿らは刮目するであろう。名誉を、偉業を勝ち取る者の、その業を」


 闘技場全体を、サキュラの声のみが支配する。


「そして、貴様らに伝えることがあるのじゃ」


 先程とは少し違った、玩具を手に入れた子供のような雰囲気が放たれる。


「界鏡が忌々しきザーナではなく、妾の元にある。それはつまり、この魔裏界に天使が迷い込んだということ」


 サキュラの口がニヤリと笑う。


「その天使が、妾の手中にあると言ったら、どうじゃ?」


 悪魔たちがざわめく。

 やはり我らが主は流石である、と。


 すべての悪魔がそう思った。


 しかし、出場者である悪魔たちには、それと同時に不安があった。


 天世界へ赴くという話はなかった事になるのではないか、と。


 だがその不安はすぐに飛ぶ。


「その天使は我ら悪魔とは違う弱き身でありながら、相当な力を有する。妾の傀儡(ちから)として使えるであろう」


 サキュラの眼が、出場する悪魔たちに向けられる。

 赤い瞳の、輝く眼。


「じゃが、貴様らの中から英雄が生まれることに変わりはない。元より天使は肉壁、捨て駒として確保したい。

 強いて言えばそうじゃな。多少頑丈(タフ)な奴を連れて来れば、妾の隣に立つことも許してやろう」


 1秒の静寂。

 2秒の静寂。

 3秒の静寂。


 出場する悪魔たちは、跪き、視界からサキュラを消した。

 感銘に、涙する者さえいた。


「「我らは、貴女様の御心のままに」」


「うむ。では、相対する者は舞台へ上がるがよい」


 偉業為す、都の英雄が決まる戦いが今、

 始まる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ