第70話 接近
その花でブローチを作る作業中のペタから話を聞き、サキュラという悪魔の情報が固まってきた。
山に入ってから知性個体を全く見なかったのは、皆地下にある都へ行っていたから。
武闘大会のような物を開き、天世界へ渡る者を決めるそうだ。
都の運命が決するその瞬間を見届けるため、多くの悪魔が地下へ向かった。
何にせよ好都合だ。
今、界鏡は使われていない。
どこかに保管されている。
場所さえハッキリすれば、あとは取りに向かうだけだ。
そう。
場所さえハッキリすれば、だ。
その地下の都への入り口はどこだ。
「ペタ」
「はい」
「都の行き方は分かるか?」
そう言うとペタは、一瞬唇を噛み締めてから答えた。
「分かんないです......生まれて10年ほど経ちますが、ずっとあの洞窟にいました。催しも偶然聞いただけで......」
分からないか。
生まれてからずっとあの洞窟にいたのなら、あまり情報元としては使えないか?
いや、それでも俺たちよりは魔裏界で過ごした年数は上だよな。
じゃなくて、今はどうやって都へ行くのかだ。
入り口が分からない以上、探すか?
少なくとも縄張りの中にはあるだろうが、それでも広い。
なら地面を掘るか?
だが、都の具体的な広さが分からない。
この真下にあるとは限らない。
そもそも、どれほど深いところにあるかも分からない。
得策ではないか。
「おいアルタ」
シュゼに掴まれ、そのまま揺らされた。
「何だシュゼ。今考え―――」
振り返ると、想像と違った。
シュゼは俺と大体人3人分ほど離れたところにいる。
手が届く距離じゃない。
そして、揺れがどんどん強くなってきた。
気のせいでも何でもない。
何だこれ―――
突如、地面が爆発した。
「どぁぁあ!?」
体全体が宙に浮いた。
瓦礫や木も、衝撃で持ち上げられている。
何が起きた。
何だこれは。
下に大穴が開いている。
底が見えない。
穴の外側にも届かない。
どんどん体が落ちていく。
「シュゼ!」
「アルタ!」
予期せぬ事態に、俺たちは互いの名を叫ぶことしかできなかった。
......いや、何とかするしかない。
魂気で防御した上で、俺にできる最大限の受け身をとる。
骨折しても、ペタがいれば治せる。
地面の高さを下回り、速度は増していった。
▶▷▶▷▶▷
体の痛みで目が覚めた。
「あ、アルタさん。起きたんですね」
最初に目に入ったのは、瓦礫の陰から周囲を見回すペタの姿だった。
「あぁ、ペタか」
体は......傷1つないな。
落下した後に治されたのか。
「シュゼは?」
「はい。そっちに......」
そう言って指した方向にシュゼがいた。
「やっと起きたかアルタ。つっても、大した時間は経ってねーけど」
「あぁ、そっか。ところで―――」
周囲を見回して、聞く。
「ここどこだ?」
「都の端の方だ。ペタが気絶したオレらを運んだと」
何だか不機嫌そうだ。
やはり、内心シュゼはペタを快く思っていないか。
もっとも、俺だって、この2人が命の危機に瀕していたらシュゼを選ぶが......。
そうか。
ここが都なのか。
みたところ、あの崩落で落ちた場所がここか。
深さは分からなくても、とりあえず真下にあったんだな。
立ち上がり、周囲を見渡す。
そこら中に何か大きな戦闘でもあったような痕跡がある。
建物が潰れていたり、道が穴だらけになっていたり。
さっきの崩落といい、何かあったのか。
「......」
そして何より、静かだ。
本当に静か。
悪魔たちが、所々に点在している。
が、動いていない。
石像のように、全く動かない。
そして全員が、同じ方向を見ている。
その視線の先には......
柱、がある。
結構離れているが、それでもその存在感が伝わってくる。
相当大きいな。
彫り物なんかもされている。
柱というより、城のようだ。
もしかしたら、あそこにサキュラがいるのだろうか。
「シュゼ。あの柱、怪しくないか」
「あぁ」
手頃な石を取り、悪魔の目の前を通るように投げる。
......。
............。
............反応なし。
意識そこにあらずと言った様子だ。
まばたきもせず、ずっっっとあの柱を、まるで夢でも見てるように眺めている。
「行っても問題無さそうだぞ」
「んだな。ボケッとしてら」
理由は知らんが、好都合だ。
このまま、あの柱、サキュラがいるであろう城へ行く。
「行くぞ」
「おう」
瓦礫の陰から抜け出し、走り出す。
立ち尽くす悪魔たちの間を縫って。
瓦礫の数々を飛び越えて。
▶▷▶▷▶▷
柱の下に着いたら、入り口を探す。
柱の周りには掘があった。
掘の橋は半壊していたが、飛び越える。
そのまま、中へ入る。
中にも相変わらず、悪魔が立ち尽くしていた。
槍なんかを持ったりしている。
見た目は統一されていないが、城の衛兵のような雰囲気を感じる。
堀があったことからも考えて、やはりここは城のようだ。
ならば、その主たるサキュラがいるはずだ。
階段は瓦礫に隠されていて最初は分からなかったが、見つけることができた。
駆け上がる。
途中石屑やら何やらが散乱していたが、気にしない。
この上に、いる。
感じる魔力がどんどん濃くなっていく。
1段ずつ、確実に近づいていく。
最後の段を上った。