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第68話 魔術

 アルタとシュゼがペタと戦っていた頃、

 憤怒級サタンの戯れが起きていた。




 ▶▷▶▷▶▷




 サキュラの都には、数多くの怠惰級ベルフェゴールが住んでいる。


 皆、サキュラの、忠実な、下僕だ。


 プスコフが来たときの爆発音は都中に轟き、彼らの注意を引いた。




「早くワタシシに界鏡を渡しなさい」


「断る。妾の目的を知った以上、生かしては返さんぞ?」


 サキュラの視線が鋭利となり、プスコフを貫く。

 昂る魔力に当てられた岩が、パラパラと欠け落ち、両者の間合いに降る。


 そして今。


 何事かと集まってきた怠惰級ベルフェゴールたちの様子が豹変し、プスコフへ飛びかかる。



「ふん、このような者共......」


 瞬時、プスコフの手が素早く動く。

 飛び掛かる怠惰級ベルフェゴールを上回る速度。


 それらは彼らの臓物を貫き、風穴を開ける。


 それでも、悪魔たちの目から戦意は潰えていない。

 君主たるサキュラの敵を見て、闘志は膨れ上がる。


「ほう、見上げた忠誠心ですね」


 驚きこそすれど、だから何だという様子のプスコフ。


 この1秒後、そこには返り血に染まるプスコフが、眉ひとつ動かさず立っていた。


「もう1度言いましょう。界鏡を渡しなさい。頭の足りない貴女が持って良い代物ではありません」


「チッ、断ると言っておろう!」


 サキュラは高らかに叫び、翼を顕現。

 そして後方へ飛行。


 戦場は既に城の外まで広がっていた。



(妾の民の多くが催しのためにここへ来ておるな)


 下を見下ろし、サキュラは考える。

 視界には、自身を崇める悪魔共がいる。


(民を捨て駒にはしたくないが、仕方あるまい)


 そして、プスコフを指して、都中にその声が響く。


「妾の民よ! あのくせ者を殺せ!」


 命令が飛んだ後、サキュラの口がニヤリと歪む。


(奴の魔術は知らんが、恐らくは身体能力を向上させるタイプの物。妾の魔術なら突破は容易じゃ)


 悪魔共は飛びかかる。

 先程とは比にならない数の、軍勢が城を、柱を登る。


 我先へと、狂ったように登り行く。

 自分の上を登る者を蹴落とし、確実にプスコフとの距離を縮める。



「......少し数が多いですね」


 わざわざ殺すのも面倒。

 そう判断し、プスコフは己の翼を顕現。


 悪魔共が這い上がる瞬間、サキュラと同じ高さまで飛び上がった。


「貴女の魔術、大方予想がつきましたよ。こうすれば、もう効力は充分に発揮でませんね」


「......」


「さあ、界鏡を渡しなさい。直接戦闘ならワタシシの方が有利です。早くした方が身のためですよ」


「......くふっ」


「ん?」


 サキュラの突然の笑いに、プスコフは疑問符を浮かべる。


 その時であった。



(これは―――)


 届かぬはずの距離を、1体の怠惰級ベルフェゴールが跳躍で縮めた。


(何でしょう、これは。力が増していますね)


 怠惰級ベルフェゴールの罪級に余るパワー。

 プスコフにとって想定外のこの状況。


 心に焦りが走り、空中で姿勢が崩れ―――







 突如サキュラの視界に写った光景。

 束の間に民が払われ、己の胴体が見えた。


 僅かに見えた、己の胴体の奥では、落ちていく色石と、その中央に位置する、手に黒い液の掛かったプスコフ。




 サキュラの頭と胴が飛び、洞窟の壁に叩きつけられていた。


「んぐっ......」


(何じゃ今のは?)


 心の中で、驚愕をこぼす。

 プスコフは、想定していたものよりも強かった。


(じゃがあれほどの攻撃、魔力の消費もさぞ辛かろう。そう何度も繰り出せはせん)


 腕を伸ばし、首を取る。

 胴体と合わせ、再生しながら考えた。




 界鏡をめぐる憤怒級サタン

 その戯れは続く。




 ▶▷▶▷▶▷



 ―アルタ―



「ハァ、ハァ」


 まずい。

 この悪魔、明らかに今までの奴より強い。


 この、周囲の植物を操る力が厄介だ。

 恐らくこれが奴の魔術。


 今は何とか隠れているが、見つかるのは時間の問題だ。


 もはや怠惰級ベルフェゴールの域にないんじゃなかろうかと、そう思う。



 いやしかし、どうすればいい。


 シュゼの体力は、もうすぐ無くなる。

 攻魔草を食べさせた上で、体力を回復させないといけない。


 だがそうするには奴の魔術は厄介すぎる。


 どの程度操れるのかは分からない。


 ツタで自分を掴んで高速移動していた。

 枝を振るったり伸ばしたりして、攻撃をしてきた。


 だが最初は、枝は使っていなかった。

 その前後で、何か違いはなかったか?


 枝が使えるようになる条件があるかもしれない。

 その条件を満たさないようにできれば、戦力を削げる。



「アルタ」


 シュゼが話しかけてきた。


「何だ」


「1つ考えがある」


 考え?


「言ってくれ」


「攻魔草はオレが自力で探す。その間の時間稼ぎを、お前がやれ」


 それはつまり、俺1人であれを相手するということか。


「......分かった」


 奴の狙いは俺だ。

 一緒に逃げた場合、2人まとめてやられるかもしれない。


「安心しろ、オレん中の悪魔ぶっ殺したら、すぐ加勢してやる」


「分かった」




 ▶▷▶▷▶▷




 俺は悪魔の前に飛び出した。


「っ! ノコノコ出てきた。殺してやる!」


 左右から同時に枝の鞭。

 上に回避......いや、さっきの攻防からして、空中にいる時間はなるべく減らしたい。


 ならば俺は―――


「なっ!」


 下をくぐって、枝に掴まる。

 振り回されるが何とか食らい付く。


 乗り、その上を走る。

 この枝は1本の木から伸びている。


 周りの枝も、どこかしらの木から出ている。


 恐らく、無から枝やツタを無から生成してる訳じゃない。

 元々ある物を変化させている。


 ......だとすれば、戦場か山の中なのは最悪だな。



 荒れ狂う枝を転々とし、着実に近づいていく。


 魂気は足に集中。

 この勢いで、まずは首を蹴り飛ばす!


「はぁっ!」



 グキャッ!



 首が折れる音。

 悪魔の首は飛び、中に浮く。



 よし、ひとまずこれで―――




 空中に位置する悪魔の目が、ハッキリこちらを向いた。


 赤い眼が、さらに赤くなっている。

 血走っている。


 そして直後、地面から枝が伸びてきた。

 いや、木の根か。


 根は首へ向けて伸び、繋がった。


 うねうねとうごめき、ミミズのような挙動をしている。


 血眼が、確かに俺に殺意を訴えている。


 だがとにかく、コイツはまだ死んでいない。


 急所が首じゃないことは分かった。

 次は脳を―――


「!」


 脳を狙うため、踏み込んだとき、背後で音がした。


 振り向くと、枝が球を形成していた。

 その中には、奴の胴体がある。


 さらに枝で囲んだ後、ツタが隙間を埋めるように配置された。


 執拗に胴体を守っている。察するに、急所は心臓か。



「おごっ!」


 が、それが分かったところでどうする。


 ツタの速度がさらに増している。

 次から次へと、上や下から襲ってくる。


 あの球から遠ざけられていく。

 近づけない。


 シュゼはまだか。1人では倒せない。


 相手の手数が多すぎる!



 ツタの猛攻。

 ギリギリ捌いている......いや、捌き切れていない。


 傷がどんどん増えていく。

 殺されるのも時間の問題だ。


 早く抜け出さないと......


「ぎっ!」


 ダメだ。

 防御から意識を外した瞬間に死ぬ。





 その時だった。

 捌き切れなかったツタの1歩が、俺の腕に巻き付いた。


 防御手段を1つ失い、次々と四肢を掴まれた。


「ぐぎィっ!」


 ツタの引く力が強まっている。

 皮膚が、肉が、少しずつ伸びていく感覚。

 背筋を伝うおぞましい寒気。

 汗が噴き出す。

 引き裂かれる。




 悪魔の首付きの枝が伸び、俺の顔の前まで来た。


「ねぇ、どうだった?」


 声色は静かだ。

 さっきとはまるで違う、激しく揺れ動かない怒り。


 その赤い眼が見開かれ、俺の目が合う。



「花を踏んだとき、どう思った?」


「ぼくの花」

「ぼくの大好きだったあの花」


「ねぇ」  「ずっとずっと大切にしてたのに」

「お前が殺した」


「お前が踏みにじった」

「ねぇ」


「答えが聞けるまで、四肢を1つずつもぎ取るから」


「ぐぁあっ!」


 左腕が......っ。

 どんどん力が強くなっていく。


 痛い痛い痛い。


 引き抜かれる。

 魂気を総動員しろ。


 魂気で、引き抜かせないようにして、何とか拘束を......!



「あ"がぁ"っ"」


 ダメだ。

 向こうの方が......強い―――

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