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第66話 争奪

 少し、とある悪魔の話をしよう。


 名前はペタ。怠惰級ベルフェゴールである。


 彼は生まれてこの方、誰かと群れをなしたことは無い。


 強いから?

 否。弱いから。


 彼は弱かった。


 サキュラの縄張りでは、多くの者が魔術を扱える。

 扱えない者は、大体が他の縄張りへ逃亡するか、その力に蹂躙されて死ぬ。


 では彼は、魔術が使えない悪魔だったのか。

 それは違う。彼は魔術を使える。


 なのに、サキュラの縄張りでは弱いと虐げられる。

 他へ出向けば、魔術が使えるのに自分を卑下するとは嫌味か、と嫌悪される。


 サキュラの縄張り。もっと言えば都。

 そこに住む者は、他の縄張りに住む者を見下す節がある。


 不自然なことではない。

 魔術は技、高等技術だ。


 魔術持ちは、持たざる者とは一線をかくす。


 ならば何故、彼は虐げられるのか。


 彼の魔術は、悪魔という生物にとって到底役立つモノではなかった。


 魔術はあるのに、使う必要性が全くない。


 故に中途半端。

 故に孤独。


 緑の肌と、充血のような赤い眼は、孤独を孕み続けた。


 孤独はペタの心に根を張り、絡み付いた。


 彼は追いやられるように、そして自分を追いやるように洞窟に籠った。


 その洞窟の中には、元々強欲級マモンがいたようだが、さっさと殺した。


 住処を奪った。


 それから、1人で過ごしていた。


 ここは、誰も近づかない。


 強欲級マモンも、そう考えてここにいたのだろう。

 誰も近づかないから安全だ、と。



 自分は、誰からも求められていない。

 自分は、悪魔として半端な存在だ。

 どっち付かずだ。



 そう考えて、中央に座り込んでいた。


 元々、彼は気の強い性格ではない。



(ぼくは......こうやって生きてるしかないんだ)




 彼には、生きる意味がある。

 本人は、そう思っている。


 この花の世話をすること。


 生まれたとき、最初に見た、1輪の花。


 根から摘み取り、ここへ植え替えた花。


 美しい花びらを、ペタは眺める。


 彼の口角は、この時だけ上がる。

 感情が晴れる。


(綺麗だなぁ......でも、この1輪しかない。ぼくと同じ。ひとりぼっち)


 優しく花弁を撫でると、花は返事をするように揺れる。




 ▶▷▶▷▶▷



 ―アルタ―



 しばらく登って、気づいたことがある。


「いねーな」


「あぁ。全く」


 悪魔がいない。

 いや、強欲級マモンとか、無知性の怠惰級ベルフェゴールとかはいるのだが、プスコフの縄張りのように、知性個体はいない。


 全く見当たらない。


「......」


「どうだ?」


「いや、何も感じない」


 魔力を探っても、それらしいものは感じられない。


 遭遇しなおに越したことは無い。

 が、あまりに不自然だ。


 何かあると考えるべきか......


「―――ん? おいアルタ。あれ見ろよ」


「何だ?」


 シュゼの指す方向には、前にいた群れと同じような村があった。


 だが......


「静か、だな。魔力も、やっぱり無い」


「そうか......」


 案の定、といった様子で、シュゼは俺を一瞥してまた歩く。


「まぁいねーなら丁度いいだろ。今日はあそこで休もうぜ」


 空が暗くなってきた。

 毎日のことだ。

 進んでいたら、いつの間にか1日経っているんだ。


「あぁ、分かった。......っ......」


 にしても最近、疲れが溜まっている気がする。

 気がするじゃないな、溜まってる。


 シュゼに無理させたくなくて、夜の見張りは俺が少し多くやっているが......それか。


「......」


 シュゼがこっちを見ている。

 表情は、よく分からない。


 俺は今、どんな顔してるのだろう。

 クマとかは、多分できてないと思うが。


 虚ろな目とかしてるだろうか。


「......今日、オレの方が多く見張りしてやる。お前は休んでろ」


 突然ぽんと言われた。

 人間、取り繕うにも限界があるようだ。


 いや、半分は天使だが。


「じゃあ、ちょっとお言葉に甘えさせて頂こうかな」


「いいってことよ」




 ▶▷▶▷▶▷




 山頂の近くまで来れたのは、次の日だった。


 ここまで来ると、強欲級マモンや無知性悪魔すらいなくなってくる。


 攻魔草は、悪魔にとって毒だ。


 だから、誰も近づかないだろう。

 つまり、今のこの状況は、攻魔草が近くにある証拠。


 この辺にないものか。

 注意して、目を凝らして探す。


 茂みを掻き分けたり、少し俯瞰してみたり。


 ラノンサいわく、攻魔草は地面に直接生える訳ではないらしい。


 高所や低所、そこに生える植物に寄生? するような感じだと。


 外見としては、形状は捻れていて、色は普通の葉と比べて相当青いらしいから、目立つとは思う。


 そこら中赤と黒の世界で、青は目立つだろう。


 というか、そうか、青か。


 青は目立つ。

 ミーヴは青髪。

 一緒に飛ばされなくて、本当に良かった。


「シュゼ、そっちはどうだ?」


「ねーな。全部平らな緑の葉っぱだ」


「そうか......ん?」


 茂みを掻き分けていたら、何か見つけた。

 攻魔草......ではないが......

 こんな物、魔裏界にあったのか?


 これは―――


「おいアルタ、次んとこ探そうぜ」


「あ、あぁ分かった。すぐ行く」



 ▶▷▶▷▶▷




 時間は少し巻き戻る。

 アルタとシュゼが悪魔として取引した、1週間後のことである。


 広大な空洞。地下の空洞。

 サキュラの都、その中央。


 中央にそびえ立つ、1本の柱状の岩。


 その中はくり貫かれ、憤怒級サタンサキュラが住まう城となっている。


 天井近い最上階。

 そこにサキュラはいた。


「あの者が界鏡を持って帰ってきた。妾の天下は、もう目前じゃ」


「喜ばしい限りでございます」


「うむ。しかし、もう1人は死んだようじゃな」


 サキュラの顔が上を向き、高い天井を見つめる。


 アルタと取引した悪魔のことである。



 もう1人の太い方の悪魔。

 その魔術の能力は、"の元へ本来の半分の時間を掛けて転移する"というもの。


 故に、行きではこの魔術は意味を為さない。


 安定性を考慮し、怠惰級ベルフェゴールをもう1人付けた。


 しかし、帰りは違う。

 その魔術を使えばすぐに戻って来られる。


 だから、付けた怠惰級ベルフェゴールは、帰りは1人となる。


 その者が死のうと生きようとどちらでも良かった。


 だから、サキュラにさして悲しむ様子はない。


 最も、その怠惰級ベルフェゴール天使アルタとシュゼに情報を喋ったことを本人は知らない。


 そして、彼がプスコフに殺され、自身の目的も伝わっていることを本人は知らない。



「......」


 サキュラの顔に笑みが浮かべられる。

 手に持つグラスには、青と黄色の色石が浮かんだ飲み物が入っている。


 それを揺らし、眺めていた。


(......?)


 が、そこで違和感を感じた。

 かすかな胸騒ぎは、サキュラの心を落ち着かせない。


「のう」


「何でしょう」


「貴様らの、妾への忠誠は絶対か?」


「当然です」


「では、妾のために何でもするか?」


「もちろん」


 そこで、サキュラの顔から笑みが消える。

 冷酷な"悪魔"の顔がそこにある。


「ならば......妾のために死ねるか」


「は......そ、それは......」


 サキュラの表情が曇る。

 足はリズムを刻んで地面を叩く。


 5回目に叩かれたとき、サキュラの額の眼が光った

 怠惰級ベルフェゴールから表情が消えていく。


 顔は無となり、意思を持たぬ。


 その時である。


 大きな魔力が、一瞬にして近づいてきた。


(来たの)


 怠惰級ベルフェゴールたちが跳び、その魔力とぶつかった。


 サキュラは既に椅子から降りていた。

 背後、先ほどまで玉座があった場所は、えぐれて煙が昇っている。



「......何か用かのう? 招待状を出してやった覚えはないぞ?」


 サキュラの声が震える。

 一筋だけ、汗が垂れる。


「―――ワタシシを招くことができる者など、ザーナ様のみですよ」


 煙が晴れたその中央には、プスコフがいた。




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