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第64話 取引

 休憩を挟みつつ歩き、平原に差し掛かったときだった。


「シュゼ、止まれ」


「あ? なんで......」


 魔力を感じた。

 天使シュゼは魔力を感じられないから、気づけていない。


 だが、いつもなら悪魔の接近を感じることはシュゼにもできた。


 それは、シュゼは魔力ではなく気配を察知していたからだ。


 この4ヶ月で分かったが、悪魔は魔力を隠そうとしない。


 悪魔という魔力を感じ取れる者の世界で魔力を隠さないことから、隠せない可能性もある。


 もしかしたら、悪魔の翼と同じように『一部の者にはできる』という芸当なのかもしれない。


 だが結局、どちらにしても俺には都合が良い。この強みを存分に活かす。


「向こうに悪魔がいる」


「あーそっか。お前はその魔力っての感じ取れるんだっけ」


 シュゼも状況を理解し、小声で会話する。

 悪魔が今、この少し先の丘の下にいる。


 茂みに隠れ、様子を伺う。

 気配を消し、聞き耳を立てる。




「―――想像通り、大したことなかったな」


「あぁ。あとはこれをサキュラ様の元へ運ぶだけだ」


 悪魔は2人いる。

 片方は細身、片方は太ましい。


 色石は白、怠惰級ベルフェゴールだ。


「......にしても、俺も一緒に飛べないもんかね」


「無理だ。何度も言ったろ、俺の魔術は他人を飛ばすことはできない」


 魔術。

 人世界にあるものは、本来悪魔の力だというやつか。



 この4ヶ月で、魔術を使う個体は見たことがなかった。

 この、太い方の悪魔は使えるのか、魔術が。



「仕方ないか。じゃあ俺は歩いていく」


「あぁ。ここはプスコフの縄張りだ。目的が達成できた今、長居はしたくない。じゃあな」


「あぁ。界鏡、しっかりお届けしろよ」


 ―――今、界鏡と言ったか?


 持っているのかわコイツらが?

 帰る方法が今、目の前にあると。



 気づけば飛び降りていた。


 会話から考えて、太い方が界鏡を持っている。

 そっちを狙う!


「新手だ!」


 しかし事はそう簡単に運べない。

 細身の方が邪魔をしてきた。


 魂気を回し、右から来る攻撃をガード。

 空いた箇所に連撃を叩き込む。


「ふぐほっ!」


 視界の奥では、シュゼが太い方と戦っていた。

 だが、相手が守備に徹している。

 加えてシュゼは今、全力を発揮できない。


 界鏡を奪えない。


「シュゼ!」


 今のシュゼでは役不足だ。

 俺が―――


「させるか!」


「くっ......!」


 細身の方が掴みかかってきた。

 何だ、その辺の怠惰級ベルフェゴールより力が強い。


 これも魔術か?


「オラっ!」


 だが、俺が劣ることはない。両手が塞がっている。

 相手の顎に膝蹴りを放つ。


「ぐあっ!」


 首が上を向いた。がら空きだ。

 魂気で固めて首を跳ね―――



「ケホッ、ケホッ!」


「......!」


 シュゼが咳き込み、膝をついた。


「......何だか分からないが、攻めが止んだな。ではさっさと"行こう"」


「待て!」


 咄嗟に駆け出した。

 悪魔が手を合わせ、目を閉じた。

 何かする気だ。


 しかし遅かった。

 俺の手が届く寸前、悪魔はその場から消えた。


 くそ、取り逃がした。


「ケホッ、ゲホッ!」


「シュゼ、大丈夫か」


「あ、あぁ。......これで5回目、だな」


 シュゼが咳き込むことは前にもあった。

 だが、このタイミングでか......


 なんとも運の悪い。


「悪いアルタ。オレのせいで......」


「気にするな。シュゼは悪くない」


 とは言ったものの、今ので界鏡の場所が分からなくなったのは事実。


 2人の会話、憤怒級プスコフを呼び捨てにしたり、サキュラという者には様をつけたり、縄張りという単語。


 これから考えるに、コイツらは別の憤怒級サタンの縄張りから来た悪魔だ。


 だが追おうにも、そのサキュラの縄張りが分からない。

 完全に振り出しに戻ってしまった。


「アルタ」


 シュゼの呟きが聞こえた。

 若干、怖じ気づいたような声色。


 そうか、殺気が漏れていたか。



「アルタ! 後ろ!」


「!」


 振り返ると、さっき首を跳ねた悪魔が飛びかかって来ていた。


 咄嗟に避けたが、かすった。

 シュゼを抱え、1度飛び退く。


 悪魔のニヤリとした笑みが視界の中央に置かれる。

 急所は首じゃなかった。


「チッ、仕留め損なったか......だが俺とお前の力はほぼ互角。理由は知らんがそっちの奴は今戦えない。勝てるぜぇ、これはよ?」


「......」


 シュゼを抱えながら戦うのは無理だ。

 だから1度下ろす。


 シュゼを守りながら勝つのは無理だ。

 だから―――



「ふんっ!」


「ぐぼはぁ!」


 攻められる前に攻める。シュゼの方に向かわせない。向かわせる余裕は作らない。


 悪魔が右へ左へ行こうとする。

 俺は回り込んで阻止。

 悪魔とシュゼの間に俺がいる構図を崩さない。


 大丈夫だ。


 俺とコイツがほぼ互角と言っても、あくまで"ほぼ"。


 俺の方が上だ。


「ばぐふっ! おごっ! ガはぁ!」


 連打を叩き込む。


 が、急所は狙わない。

 こいつからは情報を得る必要がある。サキュラの縄張りの方角の。


 そのためには力の差を見せる。


「ふんっ!」


「ごぁ!」


 悪魔の体が宙を舞い、岩肌に打ち付けられる。

 ヒビが入り、破片がパラパラおちる。


「ま、待ってくれ。取引! そうだ取引をしよう!」


「何の?」


「お前らは、界鏡が欲しいんだろ? 界鏡が運ばれた先、サキュラ様のみやこの情報を教えてやる。だから俺を見逃せ」


 なんと、向こうから持ち掛けてきた。


「いいだろう、話せ」


 俺の言葉に、悪魔の口がまたもニヤリと緩む。

 今度は安堵の笑みだ。


「じゃあ、取引成立だ。まず―――」




 ▶▷▶▷▶▷




 悪魔の話ではこうだった。


 サキュラとは、憤怒級サタンの悪魔。

 コイツはやはり、サキュラの縄張りに住む者だった。


 そして、サキュラはプスコフと目的が違った。


 この地を支配する嫉妬級レヴィアタンに、界鏡を届ける訳ではない。


 自分で使うのだと。


 嫉妬級レヴィアタンへの反抗、独立を目指しているらしく、ゆくゆくは魔裏界全土を支配するつもりだとか。


 それで、天世界から使い捨ての駒、天使を拐おうという魂胆だ。



 なんとも許せない話だ。


 それはつまり、ラノンサたちのような者を、また増やすことになるということだ。


 罪もない天使が誘拐される。

 少なくとも、天世界のように豊かな暮らしはできなくなる。


 ダメだ。なんとしても阻止しないと。


 だが、どうしたらいい。

 界鏡と攻魔草。

 どっちを優勢すればいい。


 さっき消えた奴が、サキュラに界鏡を渡しに行っている。

 追わないと、阻止しないといけない。


 サキュラの縄張りは、今俺たちが向かっている山と同じ方向だという。


 というか、山の向こう側全部がサキュラの縄張りなのだと。


 だから、界鏡が割られている時に俺たちは真逆へ向かっている、とかになることはない。


 が、どのみち時間が足りない。


 シュゼのために、攻魔草を手に入れなければならない。


 時間が掛かるだろう。

 山を登らないといけないのだから。


 その間に、界鏡が割られる可能性は高い。


「そうか、分かった。もう用はない。行け」


「......あぁよ」


 悪魔は足早に、丘の向こうに去っていった。

 サキュラの縄張りに、俺たちとは別ルートで向かうつもりか。


「シュゼ、もう立てるか?」


「おう。問題ねー」


「じゃあ、なるべく急いで行こう」


「おう」


 俺たちもまた、歩き出した。


 俺たちが攻魔草を取りに行っている間に、界鏡は恐らく割られてしまう。


 だが、そもそもサキュラの縄張りはここから距離がある。

 攻魔草を放って行っても、結果は変わらないだろう。


 ならば、俺は攻魔草を。

 名前も顔も知らない天使より、シュゼを選ぶ。


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