第62話 行き先は
液体型の悪魔。
シュゼはあろうことか、それを飲んでしまった。
「でも、気づかなかったのか?」
「暗くてよく分かんなかったんだよ」
「なるほど......」
何にせよ、シュゼが飲んでしまったこの悪魔を殺さないといけない。
「シュゼ、ちょっと剣借りるぞ」
「おう」
とりあえず、剣でアレを斬ってみよう。
「ふんっ!」
結果は―――惨敗。
何も起こらなかった。
水を斬っているのと同じ感覚だ。
手応えはない。
そもそも罪級は何だろうか。
怠惰級なら厄介だ。
急所は首か、脳か、心臓か、色石なのだが、どこがどれに当たるんだ。これ。
せめて強欲級であってくれ。
「ふっ! ふんっ!」
コイツが悪魔なら、水中に色石があるかもしれない。
掻き回すように、剣を振る。
ビチャン
「あっ―――」
見えた。色石があった。
色は―――黄色。強欲級だ。
「よし」
強欲級なら、傷つけて殺せる。
これなら何とかなる。
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と思っていたのたが......
「どうすれば死ぬんだ、コイツ......」
何をしても、ダメージを受けたような気配がない。
どうすればいい。
コイツの罪級は強欲級だが、怠惰級より厄介だ。
「ごめんな。アルタ」
ふとシュゼがそう言った。
「は、何が? むしろ俺が謝るべきだ。何もお前を治す手立てが見つからない......」
「想ってくれるだけありがてーよ。―――オレ昨日、お前の負担にはならないって決めたんだけどなぁ......それがこのザマだからなぁ......」
声色は申し訳なさに溢れていた。
シュゼの周りに、哀愁が漂っている。
「何だよ。シュゼらしくない」
「だな。―――でもよ」
声色がいつものような感じに戻った。
虚ろだった青い瞳が、はっきりこっちを向いた。
「その悪魔をぶっ殺す手立て、心当たりがあんだ」
「本当か!」
「あぁ。ラノンサが、何か草について言ってたろ?」
草......攻魔草のことか。
なるほど。それなら、この悪魔にもダメージが入るかもしれない。
だが、その草は高い場所か低い場所にある。
そんなところに今のシュゼを連れていくのは......
「構わないぜ」
考え込む俺を見て、シュゼは言い放った。
「言っただろ、負担にはならないって。オレも行く」
「ちょっと待てって! そんな状態で、旅ができる訳ないだろ」
「いいやできる。やってやる。元はと言えばオレがあんなの飲んだからだ。責任くらい自分でとってみせる」
シュゼは本気だ。
こんな状態だというのに。
だが、確かにそうだ。
シュゼを連れていかないこと。
それすなわち、シュゼをここに置いていくこと。
今の弱った状態のシュゼを1人にするというのも、良くない。
それなら一緒に来てくれた方が、まだ何とかなるだろう。
一緒なら、俺が守ってやれる。
進む速度はだいぶ遅くなりそうだが、俺の知らないところでシュゼが死ぬより何倍もいい。
「分かった。ならこれまで通り、一緒に旅を進めよう。ただし、無理するなよ?」
「へッ、舐めんなよ」
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では、シュゼは置いて行かず連れて行くとして、どこに行けば良いだろうか。
攻魔草が生えている場所は、高い場所か低い場所。
どっちなら負担が少なく済むか。
高い場所と言えば、山か。
山なら、木がたくさん生えているだろう。
加えてここは魔裏界、整備など期待できない。
悪魔の群れとかが近くに定住してるならまだしも、毒草の近くに住むやつなんていないだろう。
だから整備は期待できない。
山は過酷だ。
上に行くほどに、空気は薄くなる。
それに、思いもよらない出来事があるかもしれない。
気を抜いた瞬間に転んでしまうかもしれない。
転んだ先は、崖かもしれない。
落ちて死ぬかもしれない。
低い場所と言えば、谷底とかだろうか。
だがそれも危ない。
少し進むのも命懸けだ。
病気に伏したシュゼを連れて、崖を降りるのは厳しいか。
もし降りれたとしても、光は届かないだろう。
松明なんかが必要になる。
そして仮に攻魔草を手に入れたとして、崖を登らないといけない。
その時にはシュゼの症状も治るから、行きほどでないにしても、やはり辛いだろう。
「―――っていうのが俺の意見というか、提示というか。お前はどっちがいい?」
この、攻魔草を手に入れるための旅は、シュゼが1番苦しい思いをする。
せめて、どっちにするかは本人に選ばせてやろう。
「オレは......山がいいと思う」
「そっか」
じゃあ、山だ。
俺は立ち上がって外を見に行く。
この近くに山っていうと......
「あれか」
視界の中央、ここから見ても大きな山があった。
なるほど。あれほど高ければ、攻魔草が生えていてもおかしくないな。
道のりも、あの群れの長が指差した方向と変わらない。
途中で界鏡も入手できるかもしれない。
「分かった。じゃああの山を目指そう」
「おう」
シュゼの顔は赤い。
表面上取り繕っても、体は正直だ。
「......無理するなよ?」
「何度も言わせんなっつーの。舐めんな」




