第57話 変装
魔裏界は、やはりというか、案の定というか、険しい道のりだった。
土が黒っぽいのはそうだが、同時に固い。
岩ほどじゃなくとも、かなりある。
掘ってみると、土の塊が取れる。
その塊は、握ればパラっと崩れて手のひらからこぼれ落ちる。
「さて、シュゼ。俺たちは天魔界鏡を探さないといけない」
「だな」
「この魔裏界は天世界の裏側だという。だから、天世界と同じくらい広いと思うんだ」
「おう」
「だからそんな広いところを闇雲に探しても効率が悪い。そもそも鏡がどこにあるのかも分からない」
シュゼは一定間隔で頷きながら聞いている。
......理解してるよな。
「そこで1つ。悪魔の群れに紛れ込んで、何か手掛かりをさがしてみないか?」
天世界で天魔界鏡が割られた場合、界鏡としての効力が別の鏡に移るという。
ならば鏡がある場所、例えば雑貨店などに出向いて、探す。
そういうことを何度も繰り返して探す。
そうやっていれば、いつかは見つかるだろう。
だが、それは天世界での話だ。
魔裏界の場合、雑貨店など無い。
そもそも、鏡だって簡単には見つけられないだろう。
だから、群れて集団となっているところに紛れ込む。
紛れ込んで、鏡に関する情報を頂く。
あるいは鏡を奪取する。
こういう情報も、ラノンサたちから聞いた。
ついでに、彼らから貰った情報と元々持っていた情報交えて整理しておこう。
彼らは魔裏界に住んでるために、天世界の者よりも多くのことを知っている。
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1、悪魔は知性を持つ。
怠惰級以上になると、知性を持つ個体が出てくる。
これは俺たちでも知っていたな。
天世界と魔裏界とでは、知性個体の割合が段違いのようたが。
2、知性個体は群れる。
怠惰級の知性個体は群れる。
強すぎず、弱すぎない強さを持っているから、その知性を活かして群れをなす。
だが多くの場合、互いに仲間意識などはない。
これは性格とかの問題じゃない。
悪魔の生態の根本に関わる話だ。
3、群れない悪魔、憤怒級もいる。
当たり前だが、憤怒級は強い。
怠惰級など比較にならない。
だから群れる必要がない。
1人で縄張りを徘徊するなり何なりしているとか。
怠惰級の群れも、憤怒級には近づかないだろう。
憤怒級を相手取った場合、油断すれば俺たちだってすぐに死ぬ。
あまり戦いたくない。
あぁいや、こんな考えを捨てるんだったか。
だとしても会わない戦わないに越したことは無いだろう。
3、悪魔に効く毒草。
その名の通りだ。
モノによって差はあれど、悪魔に大きなダメージが入る。
彼らはこれを『攻魔草』と呼んでいた。
しかしこの攻魔草、生えてる場所が特殊なのだ。
『圧倒的高所』か『圧倒的低所』にしかないらしい。
入手は厳しそうだ。
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とまぁ、こんなところか。
「群れか......まぁ他にできることもねーもんなな。やろうぜ」
了承してくれた。
「じゃあ、前に倒した怠惰級の色石、取りにいくか」
「おう」
と、その時。
「っ! シュゼ」
「分かってる」
気配を感じた。悪魔の気配。
しゃがみ、茂みの裏へ隠れる。
少しして、足音と声がした。
「オメー、プスコフ様の命令は覚えてるか?」
「......い、いや、忘れちまったな」
悪魔たちが近づいてくる。
息を潜め、気配は消す。
「はぁ......じゃあ教えてやる。界鏡の捜索、そしてそれをプスコフ様に献上するんだ」
「なぁ、その界鏡、俺らが使っちまえねぇのか。そしたら天世界で好き勝手―――」
悪魔たちの見た目は、人間や天使に近くない。
それこそ、ミーヴと出会ったあの日に見た悪魔と似通っている。
相違点も多いが、あまり変わらない。
他のもこんな感じなのか?
「バカ言うな。プスコフ様はここら一帯を縄張りとする憤怒級。俺たちが従属することを条件に、縄張りの中に住まわせて貰っているんだ。
変なことすればここら一帯が滅ぼされるぞ」
「ちっ、わーったよ」
悪魔たちの足音が遠のいて行く。
何か、重要そうなことを話していたな。
ここら一帯は、そのプスコフとかいう奴の縄張りなのか?
「アルタ」
いや、考えるのはあとだ。
今はとりあえず―――
「ふんっ!」
「ひぎゃあ!」
1人1体ずつ、この悪魔たちを倒す。
木から飛び降り、拳が頭を直撃。
脳にダメージは入ったはずだ。
続いて蹴り。
蹴り飛ばす勢いで首に入れる。
バキュッと音を立て、あらぬ方向に曲がった。
「ギァァア!」
と、ここで悪魔は溶け出した。死んだ。
「オラっ!」
「あガっ......」
シュゼの方は、悪魔の心臓をひと刺し。
剣から赤いものと黒いものが垂れた。
各々足下の白い色石を2つ拾う。
「あ、ていうか身に着けるってどうやろうか......」
身に着けるとは言ったが、具体的にやり方が分からない。
悪魔の色石は、体のどこかから生えている。
額だったり、胸だったり。
いずれにしても、体に埋め込まれてるような感じになっている訳だ。
つまり、縛りつけても、自分の色石じゃないとバレてしまう。
ではどうするか。
いや、分かってはいる。
ちゃんと思いついている。
色石を、体のどこかに刺す―――
「こんくらいなら、ピアスみてーにできそうだな」
「あ」
脇腹に刺そうとしたところで、手を止めた。
「あ、あー。そうか、耳の方がいいか」
耳なら、大したダメージにもならない。
少し痛むだろうが、脇腹なんかより断然マシだ。
「分かった。ならその前に水場を探さないとな。土まみれじゃよくない」
「だな」
そしてまた歩き出す。
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「お前色石刺そうとしてなかったか?」
「い、いや?」




