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第47話 赤い屋根の家

 起きた。

 宿の天井が見える。

 窓から射し込む光が眩しくて、目をこする。


 横を見ると、目の前にミーヴがいた。


 裸の。


 小さく寝息をたてて、まだ起きそうにもない。





 夜、ミーヴの話は聞いた。

 バルシーとナリアが死んでいたこと。


 それを聞いたとき、一瞬で全身に寒気がし、俺は絶句した。

 後悔の念が沸き出てきた。

 完全に日を間違えたと思った。


 もしかしたら、ミーヴの心をえぐってしまったのではないかと思った。


 が、その考えは打ち砕かれた。


 ミーヴは、俺のプロポーズがとても嬉しかったと言ってくれた。


 2人のことはもう良いのかと聞くと、ミーヴは悩んだ末、良いと答えた。


 だが、ミーヴは無理してるように見えた。

 自分の気持ちに、嘘をついてるようだった。


 だから俺はミーヴに抱きついてやった。

 あの日、ミーヴが俺にしてくれたように。


 そうすると、ミーヴは黙りこくった。

 しかし、怒った様子は微塵もなかった。

 ミーヴは、俺を離そうとしなかった。

 むしろ、がっちり掴んで離さなかった。


 やはり、無理して笑顔を作っていたのだ。


 ミーヴは俺の胸に顔を埋めた。

 俺もそれを受け入れた。

 黙って胸を差し出した。


 ミーヴは最後に「ありがとう」と言った。


 それからだ。


 お互い初めてだったから、色々手間取ったけど、正真正銘、恋人から夫婦になったんだと思った。


 俺も、"少年"から"男"になれた気がした。




「んぅ、あるた......ありがと......」


 耳元でミーヴの寝言が聞こえた。

 可愛い声だ。

 呂律は回ってないが、確かに俺の名前を呼んでくれている。


 昨日何度も聞いた。


「どういたしまして」


 とりあえず、返事をした。

 その後、俺はベッドを降りようとして、気づいた。


 ミーヴが俺の手を掴んでいた。

 絶対に離さんと言わんばかりに。


 ......まぁ、いいか。

 起きるまで待っていても。




 ▶▷▶▷▶▷




 少しして、ミーヴの目が開いた。


「アルタ、おはよう」


「おはよう、ミーヴ」


 俺はそっと手を伸ばした。

 その先にあるのは、ミーヴの肩。


 掛け布団から露出した白い肌は細かった。

 細いが、痩せ細ってはいない。

 適度に筋肉はついている。

 いつもの運動のおかげだ。



「アルタ、私の体、その、大丈夫だった......?」


 ミーヴは戸惑いの混ざった声を絞り出すように言った。

 恥ずかしそうだ。


「よかったよ」


 自分で言ってから、なんだかこっ恥ずかしくなってきた。

 だが、口から出てしまった言葉は取り消せない。


 相手が聞きそびれたなら別だが、今回はバッチリ聞かれた。


 ミーヴは顔を赤くしたが、そのまま微笑んでくれた。




 ▶▷▶▷▶▷




 さて、いつまでも部屋で寝ている訳には行かない。

 ザルトが言っていた。今日、ついに家をくれると。


 一応、この前どんな家がいいか話し合った。

 人に買ってもらう訳だから、あまり贅沢なことは言わないでおいたが。


 というか、そもそもそんな『屋敷』みたいなのが欲しい訳じゃない。

『民家』でいい。


 だが欲を出させてもらえば、ちょっと大きめのが欲しい。

 ミーヴと住む家だ、あまりこぢんまりしてると格好つかない。


 我ながら我儘だとは思うが、やっぱり格好つけたい。


 父さんも、あの家は自分で買った物ではないらしいし。


 とにかくちょっと大きめがいいと伝えたところ、承諾してくれた。



 場所は、ウドレスト領の東側になった。

 シュゼからフルベイラ領を提案されたが、断った。

 理由はある。


 まず、フルベイラだと高い。

 あそこは天世界最大の領地で、最も栄えている。

 故に、物価は高い。


 やはり高いと返済が大変になる。


 なるべく安く、尚且つ要望は満たせる家。

 それを探していたが、何とか見つかった。


 次に、フルベイラだと遠くなる。

 週に1度シュゼと会うことができるが、距離が遠いとお互い大変だろう。


 その日にできることも、時間が少ない分できなくなる。

 だから、サトゥーアと隣接するウドレストにした。



 2階建ての、古民家。

 古民家で、中古物件らしいが、印象としてはあまり古いとは感じない、と聞いている。


 まぁ、実際に見てみないと分からない。



「アルタ、家ってどんな感じなの?」


「いや、俺も詳しくは分からなくて......一応2階建てらしいんだけどな」


「そっか。楽しみ~!」


 馬車の中、ミーヴは足をパタパタさせている。

 よほど楽しみなんだろう。

 これから住む家がどんな所か。


 もっとも俺も正確には知らないので、想像を膨らませている。

 間取りとか、その他諸々について。


 そんな想像をしてる間も、馬車はゴロゴロ走っていく。

 人が乗って、降りて、乗って、乗って、降りて。



 しばらくして、その家に着いた。




 ▶▷▶▷▶▷




 家はとある小さめの住宅地にあった。

 ザルトはポストに赤い封筒を入れておくと言っていたが、それもちゃんとあった。


 ここで間違いない。


 赤っぽい屋根の民家。

 壁は白く、焦げ茶色の柱が入り組んでいる。

 窓も多い。

 日当たりも良い。

 庭は少し狭いが、構わない。


 もっとも、これは俺の主観。

 ミーヴがどう思うかは―――


「すっごい......思ってたより大きい!」


 大丈夫そうだ。

 目を輝かせている。


「じゃあ、中も見てみようか」


「うんっ!」


 玄関を開け、中に入る。

 中を見た第一印象は『質素』だろうか。

 階段や、他の部屋部屋に通ずるドアが見える。

 が、これと言った装飾は無い。


 まぁ、前の住人がいたのは何年も前という話だ。

 あとから家具やらなんやら買い足せばいい。


 玄関を見回したら、歩みを進める。

 まずは1番近くのドアを開けた。


「おぉ、広いね」


「だな。ここは......」


 居間か?

 ソファが2つ向かい合わせ、その間に机が1つ。

 だがそれ以外は何も置いていない。


 せいぜい暖炉がぽつんとあるだけだ。

 レンガの暖炉。

 薪は置いていない。

 これもあとから買えばいいか。



 続いて次の部屋。


「わぁ! キッチンだ! おしゃれ~」


 ドアの向こうには、キッチンがあった。

 戸棚などもあって、収納には困らないだろう。


「お、道具もある」


 戸棚や引き出しを開けてみると、包丁や鍋など、調理器具も入っていた。

 少し少なくも感じるが、まぁ充分だろう。



 そして次へ次へと部屋を見て回っていった。

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