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第46話 プレゼント

 ヌィンダさんが死んだ、あの日からもう1ヶ月だ。


 今日は私の誕生日。

 だからお母さんたちに会いに行く。


 2人とも、誕生日は帰ってこいと言っていたし、私も嬉しい気持ちで帰る。

 毎年、お母さんが美味しいご飯作ってくれるんだ。


 本当はアルタやシュゼも連れていきたかったけど、シュゼは今家で修行中。

 アルタも、今日は用事があるとかなんとか。


 まぁ無理やり連れていくこともない。

 私1人でも、お母さんたちは喜んでくれる。


 そう思って、村に向かう馬車に乗っていた。





 私は両親が大好きだ。

 どちらに優劣もない、お父さんも、お母さんも、私の親だ、大好きだ。


 昔は、いつになっても羽が生えないことに疎外感を感じていた。


 本来、天使は10歳前後で羽が出せるようになる。真っ白な羽を生やせるようになる。

 みんな、自分の羽を大切そうに手入れする。


 村の子たちは、みんな羽が生えた。

 お互いに自分の羽を自慢したり、空を飛ぼう挑戦したりしていた。


 私はそれを家の窓から見てるばかりだった。

 窓の外の、そんな光景を見る度に、背中に力を入れたりしてみた。


 結局、1度も羽が生えることはなかった。


 みんな、誰もが、天世界に住まう天使の全員ができることが、私にはできなかった。


 幼いながら絶望したものだ。


 途端に、外が怖くなった。

 羽が無いことがバレるのを恐れた。


 大人たちの笑いかける優しい顔。

 子供たちが遊びに誘う明るい声。


 全部怖くなった。

 いや、違う。


 それを失うのが怖かった。


 私が羽無しなのを知ったら、誰も私に優しくしてくれなくなる。

 大人たちの優しい顔も、子供たちの明るい声も、2度と見られなくなる。


 そう思っていた。



 それでも、ずっと私を守ってくれていたのがお父さんとお母さんだった。

 私に羽が無いことがバレないように、約4年間ずっっと努めてくれた。


 羽が無いなんて一族の恥さらしだと、

 忌み子を育てる義理はないと、

 私を捨てることもできたはずなのに。


 でもそうしなかった。

 1人の娘として、大事に育ててくれた。



 お父さんは私が間違いを犯しそうになったとき、ちゃんとしかってくれた。

 頭ごなしの否定じゃなかった。


 こうしたら相手が悲しむ、ああしたらいけない。

 そうやって優しく教えてくれた。


 いいことをすればちゃんと褒めてくれた。


 ずっと私を気にかけてくれていた。


 私はそんなお父さんを尊敬していた。



 お母さんは私が泣いたとき、慰めてくれた。

 何かが上手くできなかったときは、一緒にゆっくり教えてくれた。


『泣いてもいい』『ゆっくりでいい』『何があったのか話して?』そう言って私を撫でてくれた。


 お母さんの作ったご飯を食べると、とても安心できた。

 ある日を境に、お母さんから料理を教わり始めた。

 その内、他の家事も教わるようになった。


 失敗しても、お母さんは怒らなかった。

 それどころか、笑って『それはこうするのよ』などと言って、手解きしてくれた。


 私はお母さんを慕っていた。



 だから、私は両親が大好きだ。

 お父さんが大好きだ。

 お母さんが大好きだ。


 だから。



「ミーヴちゃん......」


 だから。


「お父さんとお母さんのことは、残念だったわね......」


 だから、今目の前にある光景は、きっと現実(ユメ)だ。


 私は今、村の墓地にいる。

 雨の中、墓地の真ん中に立ち尽くしている。


「1ヶ月前にね、家の中で斬殺された2人が発見されたんだよ......」


 後ろに立つお婆さんが申し訳なさそうな声色で言ってくる。

 その声も、雨の音に掻き消されそうだ。


「少し、1人にさせてください......」


「......辛かったら呼んでね」


 お婆さんはそれだけ言って去った。

 この人は......昔からこの村で生きていたんだっけ。

 子供たちの名前も、全員分覚えていて、みんなから人気だった。


「......」


 雨の音がザーザー鳴り響く。

 雨粒が頭を叩き、1滴1滴頬を伝わる。


 墓石にはそれぞれ文字が彫ってある。

『ナリア』『バルシー』

 文字が彫ってある。

 墓石に書いてあることが、2人の死を突きつけてくる。


 視界がぼやけ、目が熱くなった。

 そこでようやく、自分が泣いてることに気がついた。


 呼吸のリズムが崩れる。

 肺に上手く空気を送れない。

 頬を垂れる雨粒の中、1つだけ熱いモノが流れているのが痛いほど分かった。



 墓石の横には、何も置かれていなかった。

 濡れてびちゃびちゃになった土があった。


 私は手を反対の腕に伸ばした。

 黒い輪に、赤い宝石が嵌め込まれた腕輪。

 魂気の流れをスムーズにして、体力の消耗を抑える腕輪。

 半年前、お母さんがくれた腕輪。


 それを外し、『ナリア』と書かれた墓石の上に置いた。


「ぐすっ......お母さん、これ、返すね......お父さんも、今まで......ありがとう」


 私は涙を拭い、振り返った。

 濡れた地面をべちゃべちゃと鳴らして、歩き始めた。


 今日は私の誕生日。

 貰ったものは最悪のプレゼントだ。




 ▶▷▶▷▶▷




 街の、私たちが泊まっている宿。

 重い足どりで帰ってきた。


 雨は弱まって来ていたが、小雨程度には降っていた。

 それを見かねて、あのお婆さんが傘をくれた。

 今度返しに行かないと。



「は~ぁ......」


 大きなため息が漏れる。


 タイミングが良いのか悪いのか、宿の玄関近くには誰もいなかった。


「......」


 だが耳を澄ますと、宿の奥の方から声がした。

 楽しそうな声だ。

 何か、遊びでもしてるのだろうか。

 ここの宿主さんには妻子がいるらしいし、子供の遊びに付き合ってるのか。


「......家族、か」


 ダメだ。

 こんな状態でいちゃいけない、アルタを心配させてしまう。


 読書でもして、気を紛らわそう。

 確か、荷物の中に手をつけてない本があったはず。


 あれ、アルタも読んでるんだよね、確か。

 アルタは力が強いから、本の端がちょっと折れていることがある。


 この前貸した本も、よっぽどのめり込んだのか、紙の端が押し潰されていた。


 でもまぁ、それでもいい。

 なんだか安心できる気がする。

 破かれていたりしたら流石に怒るけど、その程度なら大丈夫。

 熱心に読んでくれた証拠だ。


 そんなことを考えながら、階段を上る。

 私たちの部屋は、1番奥のところだ。


「ただいま」


 誰もいない部屋に、いつもの言葉を放り込む。


「あ、おかえり......」


 と思ったら、返事が帰ってきた。

 幾度となく聞いた声。

 部屋の中央にはアルタがいた。


「あれ、アルタ、帰ってたの? 用事はもう終わったの?」


「あ、あぁ。まぁな」


 ......?

 なんだか、アルタの様子がおかしい。


 今更気づいたけど、部屋が綺麗だ。

 散らからないように注意して過ごしてはいるけれど、それ以上に綺麗。


「......」


「......」


 アルタと視線が交差する。

 何故だか、だんだん胸が高鳴ってくる。

 緊張、なのだろうか。


「......ミーヴ」


「は、はい」


 アルタの顔は、真剣そのものだ。

 まっすぐな目をこっちに向けて動かさない。


 そういえば、アルタは家族がいないんだっけ。

 あのとき、私にはアルタの気持ちは分からないと言ったけど、今日になって分かってしまった気がする。


 こんな、悲しい気持ちなんだろうか。

 そう考えている内にも、アルタは目を離さない。


「俺は、ミーヴが好きです」


「......」


「大好きです。きっと、初めて会ったあの日から」


「......」


「一生掛けて守ります」


 そして、アルタがひざまずいた。

 目線が、アルタの顔から肩に移る。

 肩から肘に、肘から手に。


 その手には、小さな箱が持たれていた。

 箱の中には、指輪があった。


「結婚してください」




 今日は私の誕生日。

 最高のプレゼントだ。




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