表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/120

第45話 準備

 ここは、サトゥーア領。

 サトゥーア領は鉱産資源に恵まれた領地である。

 バンダリー鉱山の存在によるものだ。


 鉱山で採れた鉱石で他領地と貿易をする、天世界東側の地域。


 今回視点を向けるのは、そこの冒険者ギルドである。


 冒険者が入っては出て、入っては出てを繰り返す。

 中には多数の冒険者が在籍している。


 あるパーティは作戦を練り。

 あるパーティは食事をとり。

 あるパーティは口論が勃発し。


 これなら、ギルドは今日も平和と言えるだろう。



 ヌィンダの死から、2週間が経っていた。

 当時、ヌィンダの死体を見つけたのは1組の冒険者パーティだ。


 彼らはある依頼で路地裏を散策していたところ、視界の先に何か赤い物を見つけた。

 と同時に、血生臭い臭いが鼻をついた。


 鼻をつまんで近づけば、それが天使だと分かった。

 頭や胴など、急所をバッサリ斬られた盗賊のような身なりの天使。


 その中に一際存在感のあるモノがあった。

 それが、ヌィンダの首であった。

 ほとんど乾いた血溜まりに、それが乗っていた。


 首を見つけた時の彼らの気持ちは計り知れないだろう。

 自分たちの手では絶対に届かない領域、遥か彼方の、高い高い領域。


 そこにいるはずの者の首が今、目の前に転がっていたのだから。


 それからヌィンダの死はギルドに伝わり、嫉妬級レヴィアタンの出現によるものだと結論付けられた。

 神殿に討伐の申請が届いてから太陽も傾き、ついに避難警報が取り下げられた。


 神殿は、嫉妬級レヴィアタンの脅威は去ったと公表した。



 そんな日から2週間。

 最初こそ縮こまっていた冒険者たちも、今では勢いを取り戻してきている。


 基本的に、冒険者の仕事は依頼をこなすことである。

 依頼の内容は特に制限されていないが、主に悪魔討伐が多い。


 依頼掲示板に悪魔討伐の依頼がゼロの日は無いと言って差し支えない。


 掲示板の半分は、悪魔討伐の依頼で埋まっている。

 ここサトゥーアはその傾向がよく見られる。




 そのギルドに今、1人の冒険者が入ってきた。

 体術使いらしい、赤髪の少年である。

 背丈は歳の割にやや低いが、本人のせいではないので責めはしない。


 彼の人生は、少々壮絶と言える。

 かつては人世界で15年間生き、家族と平和な日々を過ごした。


 が、ある日それも終わりを迎え、天世界に来た。

 生命神の手で転生させられたが失敗、その後生命神に引き取られた。


 数日して神殿を出た。

 自分と家族を殺した天使への復讐のためであった。


 怠惰級ベルフェゴールと戦い、武闘大会に出場し、ヌィンダに弟子入りし。



 今彼は依頼から帰ってきたところだが、怪我は見られない。

 服が若干汚れているものの、無傷だ。


 彼は強い。

 回復役となる魂術使いなしで今、そこに立っているのがその証拠だ。


「よぉ。いつにも増して依頼に取り組んでるな。どうかしたのか?」


 ギルド内、冒険者の1人が話し掛けた。


「1つ欲しい物があるんだ」


「へっ、そうか。そんなら頑張れよ」


 少年は会話を終え、また次の依頼を受ける。

 いくつ目かは分からない。

 が、2桁とだけ言っておこう。




 ▶▷▶▷▶▷



 ―アルタ―



 俺は今、ギルドで依頼を受けている。

 今日はこれが初めてじゃない。

 もういくつも、討伐系のものを受けている。


 何故か。

 欲しいものがあるからだ。

 だがそれは俺の私物になる物ではない。


 では何が欲しいのか。

 指輪だ。

 ミーヴの誕生日にプロポーズするための結婚指輪。


 家は高すぎて俺の手では届かないが、指輪なら頑張れば届く。

 それに、ただでさえ人の手を頼ってしまっているんだ。

 これくらいは自分の力でやる。


暴食級ベルゼブブの討伐ですね。アルタさん、全部の依頼を1人でこなすつもりですか?」


 受付職員が言う。

 だが決して咎めるような口調ではない。

 むしろありがたそうだ。 


「まぁ、悪魔なんてどこにでもいくらでも沸いて来ますから、問題ありませんがね」


「ハハ、悪魔なんていなくなればいいですよね」


「全くです。―――では、お気をつけて」


「はい」


 そしてまたギルドを出る。




 ▶▷▶▷▶▷




 あの後、暴食級ベルゼブブはさっさと倒して、またギルドに戻った。

 そんなことを何度も繰り返して、今日の収入は金貨14枚。

 もう少し集まると勝手に思っていたが、移動時間などを含めて考えると、こんなものだった。


「はぁ......」


 足りない。

 金貨14枚ではまだ足りない。

 そんなことを考えながら日の沈みかけた空を見上げる。

 太陽が刻一刻と下に動いている。


 いや、落ち込む必要はない。

 そうだ。

 まだ時間はある。

 ミーヴの誕生日は2週間後。

 それまで頑張って貯めていればいい。


 ちなみに、ミーヴの誕生日にプロポーズするというのは完全に俺の私情だ。


 理由はない。

 強いて言えば、誕生日にプロポーズされたら嬉しいかな、と思ったからだ。


 家が無いことに気付き、誕生日に間に合わせるのは1度諦めたが、ザルトのおかげで叶えられそうだ。

 本当に、感謝極まりない。




「ん?」


 と、歩いていたらジュエリー店の前を通りかかるところだった。

 ここだ。ここで指輪を買おうと思っているんだ。


 この店の、爪くらいの大きさの宝石が嵌め込まれた指輪。

 爪ほどの大きさでも、その宝石は珍しいものらしい。

 故に高い、すごく。


 だがそれでいい。

 もう1度言うが、俺はただでさえ、大事なところは人の手を借りしまっている。

 ならせめて、指輪だけでも自力でなんとかしたい。

 指輪で誠意を示したい。


 1歩1歩少し汚れた足で、俺は帰路に着いた。




 ▶▷▶▷▶▷




 さらに1週間後。

 俺はまたギルドに来ていた。

 ギルドで、またヘブアルと話していた。


「う~ん、僕らはいつの間にかって感じだったからね......」


「そうですか......」


 何について話しているのか。

 それは、プロポーズする場所のことだ。


 どんなに良い指輪があっても、場所がダメなら雰囲気は台無しになってしまう。

 1人で考えていたが、なかなか思い付かなかった。

 だからまた聞きに来た。


 のだが......


「僕もプロポーズなんてしなかったし、そもそも結婚を持ち掛けてきたのはジュリンの方だったしね」


 彼は俺とは状況が違ったらしい。


「だからあんまりいいアドバイスは出来ないと思うけど......それでも聞くかい?」


「はい」


 まぁ、状況が違ったからって聞かないつもりはない。

 無いよりはいい。

 それにあまり良いアドバイスが無いからって

『じゃあ結構です』は失礼だろう。


「やっぱり『2人の思い出の場所』が1番なんじゃないかな?」


「思い出の場所ですか......」


 そんな場所、あるだろうか。

 ミーヴと出会ったのはあの空き地だが、流石に空き地でプロポーズはおかしいよな......


 そもそも、もう何か建物が造られていたし。


「あとは『2人きりになれる場所』とかかな? 悪いね、こんなことしか言えなくて」


「いえ、充分ありがたいですよ」


「そう言ってくれると助かるよ。さて、僕はもう行こう。昨日、どっかのクズ女がパーティ資金をがんと減らしたんでね」


「あ、アハハ......」


 ジュリンか。

 またカジノで負けたのか。

 ヘブアルの表情、一見笑顔だが、その裏からどす黒いモノが流れている。


「さて」


 では、俺も去るとしよう。依頼ついでに場所探しだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ