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第44話 ガージットの恩

 翌日。


「よ、アルタ」


 シュゼと会った。ギルドでだ。


「ギルドで待ってればすぐ来ると思ったら、本当に来たな」


 1週間ぶりのシュゼに、ミーヴも嬉しそうにしている。


「シュゼ、久し振り」


「おう」


「でもどうして急に出てきたんだ? 化天流はどうなったんだ?」


 シュゼは今家で化天流を学んでいる最中のはずだ。

 なんでギルドに来てるんだ?


「親父にお前らの話したらさ、週1回会えることになったんだ」


 シュゼの嬉々とした声がよく聞こえた。

 俺の疑問も解消された。


「そういうことだからさ、前言った店行こうぜ」




 ▶▷▶▷▶▷




 そしてその店に着いた。


 シュゼが先導してドアを開けた。


「いらっしゃいませ!」


 店に入ると同時、少女の声がした。

 雰囲気のある店内を見回すと、奥のほうで何かちょこちょこ動いていた。

 それが少女だった。


「あ、お姉ちゃん! 今日も来てくれた!」


 少女はシュゼの方に走ってきて、そのまま飛びついた。


「おう。ほら、こいつらだ。オレの仲間のアルタとミーヴ」


 少女は俺とミーヴを一瞥すると、表情がパァっと明るくなった。


「アルタさんと、ミーヴさんですね、初めまして!」


「初めまして。店の手伝いをしてるのか?」


 俺の言葉に、少女は大きく頷いて答えた。


「はい、お爺ちゃんと一緒にこのお店で頑張っています!」


 少女の頭がだいぶ下の方に見える。

 ミーヴはそれを見かねたのか、しゃがんで少女に言った。


「大変だね。あなた、名前はなんていうの?」


「コンディです」


「そっか、コンディちゃんね。お仕事頑張ってね」


「はい!」


 コンディは厨房の方に駆けていった。

 あっちにそのお爺さんがいるのだろう。


「じゃあ座ろうぜ。前来たとき食ったやつ旨かったんだよ。お前らそれ食ってみろよ」




 ▶▷▶▷▶▷




 3人で、ちょくちょく店主やコンディとも雑談しながら食事は進んだ。

 シュゼにすすめられた物を食べたが、本当に美味しかった。


 店主からここが廃業寸前なことを聞いたが、本当にもったいないと思う。


 この味は是非とも後世に残すべきだ。


 他にも、コンディとシュゼの仲が良さそうだった。

 なんでも、おとといお父さんと来たときに懐かれたらしい。


 コンディもシュゼには敬語じゃないし、相当なものだ。


「―――あ、私ちょっとトイレ行ってくるね」


 ミーヴが席を立った。

 その後店主に場所を聞いて、店の奥に歩いていった。


 そしてシュゼと2人きりになった。


「そういえばさ、シュゼ」


「ん?」


「ヌィンダの手紙(遺書)に書いてあったんだけどさ、俺とお前の実力はもう下位の憤怒級サタンに通用するらしいぞ」


「そうか」


 シュゼの答えは短かった。

 だが、表情はどこか嬉しそうだ。


 と、それはそれとして。

 実はもう1つ話したいことがある。

 ミーヴが離席している今がちょうどいい。


「シュゼ、少し相談あるんだけど、いいか?」


「ん、何だそんな改まって。いいに決まってんだろ」


 快諾してくれた。

 さて、では話そうと思う。

 半年の付き合いとはいえ、少し緊張する。


「俺さ、ミーヴと結婚しようと思うんだ」


「......ふ~ん?」


 シュゼは興味が沸いたようにこっちを向き直った。


「結婚するなら家がいるだろ? でもそんな金はない。だから、ギルドの依頼で頑張って貯めようと思うんだけど、それを手伝って欲しいんだ」


「......」


 シュゼは黙った。

 黙って腕を組んで、首を傾げて悩んでいるようだ。


 承諾してくれると思っていたが、駄目か?

 まぁ駄目なら仕方ない。

 1人で頑張って用意するとしよう。


「家1軒くらいなら、親父が全額負担してくれんじゃねーかな」


「はぁ、やっぱり駄目―――は?」


 今なんて言った?

 カッテクレル?

 買ってくれるって言ったのか?

 家を?


「親父って金使わねーから、結構貯まってんだろうし―――」


「待て待て。そもそも金貯まってても無関係の俺のために使わないだろ」


 それに、全額負担してもらうなんて情けなくて仕方ない。


「そうか?―――まぁ、来週会ったときにでもウチ来いよ」


「えぇ......」


 唖然とする俺をよそに、コンディが走ってきて、またシュゼに飛びついた。

 シュゼの方も満更でもない様子で付き合っている。


「ただいま、戻ってきたよ―――どうしたの?」 


 後ろにはトイレから帰ってきたミーヴがいた。




 ▶▷▶▷▶▷




 そしてさらに1週間後。

 ギルドで今日もシュゼと会った。

 ミーヴはいない。


「―――で、次はこっちに曲がって、ここがウチだ。道は覚えたか?」


「まぁ大体」


 シュゼに着いていくと、1軒の家に着いた。

 大きな家だ。

 確かにこれなら家の1軒くらい買えそうなものだ。


「ん、もう帰ってきたのか、シュゼ」


 家の門から男が歩いてきた。

 この人がシュゼのお父さんか。


「おう親父。アルタのことで相談があるんだ」


「初めまして、アルタです」


「あぁ、シュゼから聞いてるよ。父のザルトだ、よろしく」


「はい。よろしくお願いします」


 険悪な仲と聞いていたが、そうでもなさそうだ。

 ほんの2週間でここまで回復したのは、血の繋がりが無くとも、さすが家族と言ったところか。


「それで、相談があるんだったね。中へ入りなさい」


「はい。失礼します」


 そうしてザルトに着いていく形で門をくぐった。



「親父あんな喋り方だったか? なんか気持ち悪いな......」


 後ろからそんな声が聞こえた気がした。




 ▶▷▶▷▶▷




「―――ということをシュゼに話しまして、そしたら―――」


 ガージット家のリビング。

 家の外観に見合った、すごく高そうな場所だ。


「―――という経緯でここにに連れられて来ました」


「なるほどね......」


 ザルトは腕を組んで悩んでいる。

 仕草がシュゼと似てるな。


「なぁ親父、いいじゃん。どうせ金はあるんだろ?」


「あるにはあるがな、家というのは大きな買い物だ。そう簡単に決められるものか」


 まぁ、そりゃそうだろう。

 いくら金があるからって、話で聞いただけのやつに物を買ってやることはないだろう。

 ましてや家なんて大きな物。


「ダメならダメで構わないんですが......」


「いやしかし、俺も君に感謝はしてるんだ」


「感謝?」


 感謝されることなんてしたか、俺?


「シュゼと高め合ってくれていたそうだからね。他にも、俺とシュゼの仲直りのきっかけのでもある訳だ」


「......?」


 よく分からない。


「ヌィンダ殿に窘められて、俺も反省した。だがそのヌィンダ殿は死んだという話だ。だからその弟子である君に何かしたい」


「......」


 なんとなく、分かった気もする。

 というか、話の流れからして......


「買ってやろう」


 ザルトの彫りの深い顔が和む。


「おお、 良かったな、アルタっ!」


 シュゼが俺の背中を叩いた。

 少し痛いが、嬉しい。


「ありがとうございます」


 別に、買ってくれるというなら、その言葉に甘えよう。

 わざわざ好意を断る必要はない。


「ただ、返済させて下さい。無償で頂くのはちょっと気が引けるので」


「別に返済してくれなくともいいが、君がそう言うならそうしよう」


 とはいえ、やはり無償で貰うと情けなさが勝つ。

 まぁ、時間を掛けて少しずつ返せるように頑張ればいい。


 ただ問題があるとすれば、ミーヴに胸を張ることはできないな。

 返済するとはいえ、人に買ってもらった家など。


 甘えた俺が悪いのだから仕方ないが。


 だがとりあえず、家は確保できそうだ。




 ▶▷▶▷▶▷




「なぁアルタ、ちょっと付き合ってくれよ」


 帰り際、シュゼに声をかけられた。

『?』と思って振り返ると、シュゼは木刀を持っていた。


 あぁ、そういうことか。


「また手合わせしてくれよ。今日は化天流も絡めてやるぜ」


「あぁ、久々にやろう」


 そして、俺たちは庭に移動し、距離をとった。

 2週間で、どこまで身についてるのか。


 シュゼが構える。初めて見る構えだ。

 剣の持ち手を上に上げ、腰の低い構え。

 あれが化天流の構えか。


「よーい、始めっ!」


 ザルトの合図で、俺は動く。

 右の脇腹を狙う。

 魂気を纏わせて、蹴りを放つ!


「ふっ!」


 ―――!

 流された。

 いつものシュゼと違う、柔らかい動き。

 これが化天流か。


「っ!」


 シュゼは流した動きを攻撃に繋いできた。

 顔のすぐ横をかすめる。


 地面を蹴り、一度距離をとった。

 離れても、シュゼは攻めてこない。

 この半年の間のことを考えると、違和感がある。


「おらっ!」


 足下にあった石を蹴り飛ばす。

 シュゼはその石を避けた。


 そして踏み込んできた。

 攻めに回った。

 いつものシュゼだ。


「はぁ!」


 左から木刀が飛んでくる。

 回避は今からじゃ間に合わない。

 魂気を腕に移し、受ける。


「ぐっ!」


 だがシュゼは強い。

 ヌィンダの手紙では俺の方がやや強いそうだが、時間が経った今は分からない。


 俺の体は横に飛んだ。


「くっ」


 受けた腕がズキズキ痛む。

 力が入りづらい。


 だがシュゼはお構いなしに追撃してくる。

 ......今!


 片方の拳に魂気を纏わせ、木刀を払う。

 隙ができた瞬間に、もう片方の拳を叩き込む!


「ぐえっ!」


 シュゼの体は1回転し、着地した。


「やっぱ強ぇな、アルタ」


「そっちこそ」


 その後も、しばらく手合わせは続いた。

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