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第41話 不在

 ミーヴが作った食事も食べ終え、今は3人で机を囲んでいる。


「それじゃあ、今後のことを話そっか」


「うん......」


「あぁ」


 ミーヴの切り出しを合図に、話し合いが始まった。




 ▶▷▶▷▶▷




「まず、いつまでもこの小屋にいる訳には行かないよね」


 ミーヴが言った。

 確かにそうだ。

 ここはヌィンダの家だ。

 家主がいなくなった以上、ここには住めない。


「そうだな......それじゃあ、宿暮らしになるのか」


「そういうことだね」


 宿暮らしか。

 半年前を思い出す。

 天世界を旅して回るつもりだったからああやって暮らしてた。


 それなら、もうシュゼに短剣は渡しておこうか。

 引っ越し(?)するなら隠しておくのも難しいだろう。

 そう思って席を立とうとしたとき、


「オレ、親父のところに行こうと思う」


 シュゼがそんなことを言い出した。


「「え?」」


 思わず声が声が漏れた。ミーヴも同じく。


「でもシュゼ、お父さんのこと嫌いだったんだろ

 ?」


 シュゼから話は聞いている。

 捌後流という流派を押し付けられて迷惑だって。


「あぁ、嫌いだ。でも行く。ようやくヌィンダの言葉の意味を理解できたんだ」


 シュゼの言葉は何か違った。

 昨日見た悲しそうな表情は完全に消えて、覚悟が表れている。


「そうか......分かった」


 ヌィンダの言葉って言うのが何なのかは知らないが、いい。

 シュゼがいいなら、いい。


「でも、もし嫌だったら私たちに言ってね?」


 ミーヴは心配そうに言った。

 それもそうだな。シュゼに何かあったら、俺たちが相談に乗るべきだ。


「相談があれば乗るからな」


「ありがとう、2人とも」


 シュゼが微笑んだ。




 ▶▷▶▷▶▷




 話し合いは長く続いた。

 大まかな結論はこうなった。


 1、この小屋からは出ていく。なお、シュゼはガージット家に戻る。


 2、庭にヌィンダの墓を建てておく。定期的に墓参りに来る。


 この2つだ。

 1つ目は、文字通りの意味。

 2つ目も、まぁ文字通りの意味。


「それじゃあ、荷物をまとめたら行こっか」


「うん」


「だな」



 その後、シュゼに短剣を渡したり、他にも色々した。

 最後に小屋の前で目を閉じて、3人でヌィンダへの感謝を心の中で述べた。




 ▶▷▶▷▶▷




 街まで来た。

 相変わらず通行人が行き交っている。

 毎日商人が露店を開き、人々はそれを買っている。

 見慣れた光景だ。


「それじゃ、オレはここで別れる。じゃあな」


「あぁ、頑張れよ」


「バイバイ」


 3人でしばらく歩き、シュゼは分かれ道を俺たちとは逆の方に行った―――


「あ、そうだ」


 と思ったら戻ってきた。


「昨日、ヌィンダと一緒に行った店、すごい旨かったんだ。今度3人で行こうな」


「そうなのか。じゃあ次会ったときにでも行くか」


「だね」


「おう。じゃあな」


 今度こそ、シュゼは去っていった。


「じゃあ、私たちはギルドに行こっか」


「あぁ」




 ▶▷▶▷▶▷




 ギルドの扉を開けると、いつもと変わらない騒がしさが......無かった。

 騒がしいと言えば騒がしいが、何か違う。


 そうだ、笑いだ。

 笑い声の1つも聞こえない。


「―――あれって、本当なのか?」


「いや、だって―――」

「ヤバいよな―――」

「そうは言ったって―――」


 そんな声がそこかしこから聞こえてくる。


「どうしたのかな?」


「さあ、分からない。でもただ事じゃ―――ん?」


 ギルド内を見回していると、ヘブアルとジュリンを見つけた。

 俺たちは2人の元に足早に向かう。


「何だかいつもと雰囲気が違いますが、これは何事ですか?」


 俺がそう聞くと、ヘブアルは深刻な顔をした。

 ジュリンも、柄に合わず深刻な顔だ。


「見つかったんだよ......」


 ジュリンが意を決したように付け加えた。


「猛者、ヌィンダの首がよ」


 俺たちは目を見開いた。

 心のどこかで考えていた、ヌィンダの生還。

 それが完全に打ち砕かれた。


 だがもういい。

 ヌィンダのことは、ちゃんと気持ちに区切りをつけたはずだ。


「ヌィンダの強さは、冒険者の中じゃ知れ渡ってるからね。その斬殺死体が見つかったとなれば、みんな縮こまる」


 それならこの雰囲気にも納得だ。


「そう言えば、職員の人たちがいませんね」


 受付に誰もいない。

 当然ながら、依頼書を持っていく冒険者もいない。

 全員、どこかに座るか、壁にもたれ掛かるかしてざわざわ話し合っている。


「あのヌィンダが殺されたってなれば、嫉妬級レヴィアタンが出た可能性が高い。今ギルドが神殿に討伐の申請を検討中なんだ。もうすぐ避難警報も出るんじゃないかな?」


「神殿に?」


「あぁ、そうだよ」


 疑問が沸いたら、ミーヴに聞く。

 分からない、知らないことはさっさと誰かに質問するのが大事だ。

 俺はミーヴに耳打ちして聞く。


「神殿って、五魂神様のだよな?」


「そうだけど......」


「討伐の申請とかしていいのか?」


 生命神に頼み事をしてさらにそれを取り下げた俺の言えることではないが、そんなことしていいのだろうか。


嫉妬級レヴィアタン以上は神官様か、五魂神様が討伐することになってるんだよ」


 そうなのか。

 天世五魂神自らがか。

 それなら会えただけで奇跡っていうのは過言なんじゃ......

 いや、そもそも嫉妬級レヴィアタン以上が出ることなんてほとんど無いようだし、妥当か。


「そうなんだな。ありがとう」


「ううん、いいんだよ。またいつでも聞いてね」


 それだけ話して、耳打ちをやめた。


「まぁそういう訳で、今依頼は受けられないんだ」


 ヘブアルが言う。

 残念そうにはしていない。

 残念そうにしてるのはジュリンの方だ。


「もうすぐ警報が出るなら、俺たちもここにいるか」


「そうだね」




 ▶▷▶▷▶▷




 アルタたちが小屋を去った頃。


「ふわ~ぁ」


 神殿の中、1人の神があくびをした。

 白髪のサイドテールに、黒のジャケットを着た少女の神、生命神である。


「もうアルタくんと会うこともないんだよねー。キミは喜ぶだろうけど、ボクはちょっぴり寂しいよ」


 生命神は窓の外を見て、呟きながら廊下を歩く。


「ええ。私はあの者が嫌いでしたから」


 生命神の後ろを歩くタディスが答えた。

 白い羽を輝かせながら、目を閉じて生命神の言葉に頷く。


「ハッキリ言うね。ま、そんなところが好きでキミを選んだんだけどね」


「あの時はとても光栄でした」


 天世五魂神の代が変わったとき、その神は神殿に仕える天使の中から自身の神官を選ぶ。


 神官天使の仕事は多岐に渡る。

 自身の仕える神の身の周りの世話。

 自身の仕える神の仕事の手伝い。

 その他多数の近辺雑用。


「あはは、そう言ってくれて嬉しいよ」


 生命神は振り返り、微笑みながら言う。

 深い緑の瞳が隠される。


「それはそうと、生命神様」


「ん、何?」


「申し上げにくいご報告がございます」 


 その場の空気が変わる。


「......言って」


「人世界にて、不死身の人間が確認されました」


「......は?」


 生命神の様子が変わった。

 どす黒い声である。

「は?」というたった1文字でも、並の者が聞けば失神するであろう。


「何番世界?」


「572番です」


 タディスの声は震えている。

 神官天使だろうと、天世五魂神には敵わない。

 タディスは心の奥で恐怖している。

 そのさらに奥では、生命神を怒らせた不死身の人間を忌ましんでいる。


「命は産まれ、育ち、成長し、最期に衰え死ぬから美しいんだ。尊いんだ。初代様の生み出した最高至福のプレゼントだぞ......」


 生命神が拳をぶるぶる震わせながら、ぽつりぽつりと言う。

 殺気が撒き散らされている。


「なのに『不死身』だ?『死なない』だ? ふざけるな。何が究極の命だ。命は死ぬために生きるんだ。死なない命に生きる価値は無い......」


 生命神がもっとも嫌うもの。

 それは"不死"である。


「そいつ、ボクがぶっ殺してくる」


 生命神は人世界へ続く水晶の元へ向かった。

 殺気を撒き散らし、怒りに身を包みながら。




 ▶▷▶▷▶▷




 時空神の仕事は、一見すると何もしていないように見える。

 椅子に座り、目を閉じ、静止し続けている。

 まるで石像のように、眉ひとつ動かない。


 しかし、これでも仕事中なのだ。

 その内容は『人世界の時空間の監視・修正』。


 人世界の時間がねじ曲がったり、空間が歪んだりした場合、時空神はそれを直す。

 今は監視中なのだ。


 時間を、黒い眼球に時計のような瞳の『時之眼トキノメ』で。

 空間は、宇宙のような背景に染まり、瞳のない『空之眼クウノメ』にて視ている。


「......あら」


 そしてついに、粗が見つかった。

 歪んだ時空を時之眼トキノメ空之眼クウノメが感知した。


「アイガス、いるかしら?」


 時空神が呟くと、アイガスが部屋の戸越しに返事をした。


「ここに」


「なら入りなさい。少し用件がありますの」


 時空神は透き通った声で指示し、扉の方を向く。

 それと同時、アイガスが入ってきた。

 無駄のない洗練された動きである。


「アイガス、たった今時空の歪みを見つけました。私はそれを直しに行きます。修正中の留守は任せましたわよ」


「はっ、行ってらっしゃいませ」


 時空神は人世界へ続く水晶の元へ向かった。

 跪くアイガスを背に。




 ▶▷▶▷▶▷




 閻魔神は資料を読んでいる。

 だが今は閻魔裁判の最中ではない。

 過去の死者のものだ。


 閻魔神は、見た者の"歴史"を知ることができる。

 その者がどのように生きたか。

 どのような人生を歩み、どのようなことを学び、どのようなことに苦戦したか。


 それらを元に、閻魔裁判にて死者の処遇を決める。


 だがそれとは別に、その"歴史"を資料として残す力も持っている。


 今代の閻魔神は、全死者の歴史を資料に残していた。

 故に―――


「閻魔神様、もう資料満杯っスよ!」


 莫大な量の資料が溜まっている。


「分かりました、ラコール。そろそろ片付けましょうか」


 顔が隠れるほどの袋を持って入ってきたのは、閻魔神の神官天使、ラコールである。

 明るい赤髪が特徴的な好青年だ。


「分かったっス! いつものとこっスね!」


 ラコールの言ういつものところとは、人世界だ。

 80番世界。

 人間が滅び、知性を持たぬ超常種族が蔓延ってしまった失敗作の世界である。


 その種族は何でも食すため、80番世界はゴミ箱のように使われている。


「ええ。今日は私も行きましょう。......流石に、量が多いですからね」


 ラコールの持つ袋が神殿の高い天井にすら届きそうなのだ。


「そうっスか!? ありがたいっス!」


 閻魔神とラコールは、人世界へ続く水晶の元へ向かった。




 ▶▷▶▷▶▷




 創造神の神官天使、ガズラは屈強な男である。

 力強い褐色の筋肉は、神官の制服に隠されているが、その存在を服の下から充分に主張している。


 そんなガズラの足取りは早い。

 自身の主、創造神の元へ一刻も早く着こうとしていたのだ。


 すれ違う神殿の天使たちが頭を下げ、挨拶してこようと、無視している。


 普段はこんなことはない故に、天使たちは心配と疑問を浮かべる。


 が、すぐに納得する。

 最古の神官天使、ガズラが切羽詰まった表情をすることなど、"コレ"しかあり得ない。


 そして、ガズラは創造神の部屋の扉の前に立った。


「創造神様―――」


「分かっている」


 扉の向こうから聞こえた声は幼い。

 声変わりもしてないような少年の声だが、どこか年季の入った低い声でもある。


「破壊神だな?」


「左様でございます」


 扉が開き、中から出てきたのは子供であった。

 下に行くに連れ赤くなる白髪の子供。

 しかしその赤い瞳は、目線だけで心臓を貫きそうなほど鋭い。


「破壊神様がお目覚めになりました」


「......生贄世界は?」


「お気に召さないとのことです」


 生贄世界。

 破壊神が目覚めた場合、破壊神に滅ぼされる世界である。

 その世界に存在する物も、人も、何もかも、当然消えてなくなる。


 だが、今日の破壊神が望むものはそれではない。


 創造神が大きくため息を吐く。

 軽く首を回し、呟いた。


「は~ぁ。仕方ない、手筈通り、僕が相手しよう」


 破壊神が生贄世界を拒んだ場合、創造神は73番世界、地球から果てしなく遠い宇宙にて、破壊神の対戦相手サンドバッグを務める。


「申し訳ございません」


「謝るな、お前は悪くない。全部あの破壊神(邪神)が悪い」


 その後、創造神は破壊神と共に人世界へ続く水晶の元へ向かった。




 天世五魂神が天世界から消えた。




天世五魂神

      

破壊神(初代)

創造神(2代目)

時空神(5代目)

生命神(6代目)

閻魔神(8代目)

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