第4話 天世五魂神
「キミ.......人間じゃないよ」
は? と言いそうになったのを、俺は何とかこらえた。
「えっと、もう1回言ってもらっても―――」
聞き間違いだと思うので、もう1回聞いてみる。
俺は人間同士の間に産まれた人間だ。
「ごめん、言い方が悪かったね。キミの魂が天使のものとすごく似ていたんだ」
「はぁ.......」
魂が天使のものに似ている?
どういうことだ。俺は人間だ。
俺は生命神に困惑の目を向ける。
「キミが転生できなかったのも、そのせいなんじゃないかな。詳しくはわかんないけどさ」
生命神は肘を立て、手に頭を乗せながら言った。
「ま、ボクは仕事に行かないといけないから、この話は一旦終わり。タディスに部屋用意させてるから、戻ったら訊いて」
生命神は席を立ち、出口に向かって歩いて行く。俺も立ち上がり、来た道を戻る。
食堂には、もう誰もいなかった。
▶▷▶▷▶▷
「―――ここだ」
「はい、ありがとうございます.......」
来た道を戻ると、生命神の言った通り、タディスが部屋を用意しておいてくれた。
案内中、彼の不機嫌さがヒシヒシと伝わってきたので、会話は最低限にしておいた。
ガチャ
部屋の中は狭くはない、普通の部屋だった。ベッドと椅子と机があり、2つの窓からは日光が射し込んでいる。
「はぁ.......どうしようか.......」
椅子に座り、俺は呟いた。ベッドに寝転がろうかとも思ったが、食後だったのでやめておいた。
最近、一気に色々起きすぎた。
いつも通りに稽古をし、帰ったら家族もろとも殺された。
ここにきたら転生することになったが、結局転生できず、生命神に引き取られた。
しかし彼女の配下のタディスには嫌われ、俺の魂が天使のものに似ているとのこと。
生命神は、俺を保護するつもりらしい。
のだが、俺はそれに背くことになる。
1つ、やりたいことができた。
あの天使、俺たちを殺したあの天使を殺す。
復讐する。
四六時中、頭の片隅に奴の姿があった。
淡白な灰色の髪、鋭い銀色の瞳、赤く染まる羽。
それらを潰す。
なんとしてでも。
この手で。
▶▷▶▷▶▷
「ただいま~」
部屋の外の方で、そんな声がした。
生命神が帰ってきたのだ。
俺は服を着て、ドアの方へ向かった。
生命神の留守中、生前に父さんとやっていた基礎トレーニングをしていたのだ。
あまり汗で汚さないように上は脱いでいたが、どうやら俺は汗をかかないらしい。
死人だからだろうか。
ドアを開け、声がした方に向かう。
留守中、ここについて詳しく訊きたくて部屋を出たが、メイドたちは居なかった。
朝通った時も大きいドアを通るまで見なかったし、この辺には居ないのかもしれない。
タディスとはあまり話したくないので......というよりタディスが俺とあまり話したくないので、
彼に訊くのはやめておいた。
少し歩くと、生命神とタディスが見えた。
「本日もお疲れ様でした。お飲み物でもお出ししましょうか?」
「うん、よろしく―――あ、あの子にも出してあげて」
こっちに気付いた生命神が言った。
「......承知しました」
少し間を空け、タディスが去っていく。
多分、彼が俺を気に入ることは無いだろう。
「来たね。話したいことはいっぱいある、そのソファ座って」
「はい」
生命神に促され、俺はソファに座った。
それと同時に、タディスが2つのグラスを持ってきた。
中身はなんだろう、酒だったら飲めないけど。
「どうぞ」
タディスは生命神の前にグラスを置き、一礼した。
一方俺には何も言わず、何もせず、少し雑に置いた。
毒でも入ってそうな勢いだ。
やっぱりあんまり居心地良くない。
「ありがと―――じゃあ早速本題に入るよ。まずキミの魂について。朝言ったけど、キミの魂は天使のものと似ている。
天使は死ぬと魂が消滅して転生できないからキミが転生できないのはそのせいじゃないかな?」
「どうして天使のものと似ているんですか?」
「それは分からないね。お父さんかお母さんが天使だった可能性もあるけど、2人とも人間でしょ?」
「はい」
「じゃあ分からない。―――次に、この世界について。ここは天世界、神と天使のすむ世界だよ」
「はい」
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あの後も話は続いた。
ここは"天世界"というところで、具体的な場所で言うと、天世五魂神が住む、神殿だそうだ。
この辺りは生命神の住居区で、あと4人の神が他のところに住んでいるらしい。それぞれ"創造神"、"破壊神"、"時空神"、"閻魔神"というそうだ。
というかなんとなく察していたけど、この子―――いやこの人すごい偉い人だった。
話の最後に、今俺は魂が剥き出しの状態であることを聞いた。
魂が前世の俺の肉体の形に変形しているような感じらしい。
このままだと危ないというので、生命神に肉体を作ってもらった。
大人の体とか、マッチョとか、なんなら性別も変えて美少女とかにもできると言っていたが、結局特に何も変更しなかった。
15年を共にした肉体と、これからも生きたいと思ったのだ。
「ふ~う」
俺は今、部屋のベッドに横になっている。
足を上げてみたり、腕を回してみたりした。
ちょっと重くなった気がするけど、肉体を貰う前と、感覚的にはあまり変わらない。
「もう転生したかな......父さん、母さん」
俺は目を閉じ、呟いた。
その後眠りに落ちるまでの時間は、それ程長くなかった。