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転生できない少年は天世界で生きてみる  作者: だんごむしのピザ
4章 ある1日・シュゼ編
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第37話 店主の孫

「で、シュゼ。いくら貯まった?」


「銀貨3枚」


「3枚か。それなら店に行こう。腹、減ってるだろう?」


 ヌィンダとシュゼがいくつかの依頼をこなした後、2人は街を適当に練り歩いていた。


 強欲級マモン討伐依頼が2つ。

 暴食級ベルゼブブ討伐依頼が3つ。

 特に苦戦することもなく、5体の悪魔を倒した。


 シュゼの腹が鳴った。


「まー、確かに。じゃあ行こうぜ。どこの店なんだ?」


「この前上手い所を見つけたんだ。ついてこい」




 ▶▷▶▷▶▷




「ここだ」


 ヌィンダが連れて来た場所は老舗であった。

 ひっそりとしていて、汚れた壁は年期を感じさせる。


「古いとこだな」


 しかしシュゼの目にはそう映ったらしい。

 店主に聞こえなかったのが幸いである。


「歴史があると言ってやれ。入るぞ」


「おう」


 店の扉を開け、シュゼたちが入店する。

 中は古風な雰囲気が広がっており、木の匂いが鼻をつく。

 だがそれは不快感を感じさせるものではない。


 1つ残念なことがあるとすれば、店ががらんどうということか。

 昼食の時間を過ぎたとはいえ、客の姿は見えない。


「いらっしゃいませ」


 店主と思われる老人の声がする。

 厨房に目を向けると、頭の寂しい老人が料理をしていた。

 老人の声と言ったが、老いはそれほど感じぬ通った声だ。


「お好きな席にどうぞ」


 シュゼたちはそれぞれ椅子に座った。

 向かい合う形となった。


「どれにする? これとかどうだ、前来たときに食ったが旨かったぞ」


「ふーん、じゃあそれにすっか。おーい爺さん!」


 シュゼが店主呼ぶと厨房から店主......ではなく、奥から少女がトタトタ走って来た。

 明るい茶髪と花柄の三角巾が目に付く、ミーヴよりも遥かに幼い子供であった。


「ん、何だお前」


 と、シュゼが聞くと


「すみません! 注文と配膳はわたしの担当なんです。今は少し席を外していました。改めて、ご注文をどうぞ」


 とのことだった。

 シュゼとヌィンダはそれぞれ注文を伝えた。


「―――かしこまりました。お爺ちゃん! 注文入ったよー!」


 少女は厨房に向かってトタトタ走って行った。


「―――あの子は店主の孫だそうだ。客の少ないこの店で、祖父のために頑張ってるんだと。健気なものだよな」


 ヌィンダは厨房の奥を見ている。

 緩むことの増えた口元はまた緩み、立てた腕に顎を乗せて見つめている。


「お前、大会のときから変わったよな、ヌィンダ」


「あぁ、お前たちのおかげでな」


 即答であった。

 ヌィンダに合わせて、シュゼもそちらを向く。


 厨房で、先程の注文を伝える少女と、それを聞く店主の姿が見える。

 少女の表情はやる気に満ち溢れ、店主の方は嬉しさが伺える。


(オレもあんなジジイがいたのかな......)


 それから時間が経ち、少女と店主が料理を運んできた。

 少女は自身の胸ほどの高さの机に、1つ1つ丁寧に皿を置いて行く。


「孫が配膳は自分の仕事だと言っていたが、いいのか?」


「いいんですよ、ヌィンダさん。どうせ客はほとんど来ませんから」


「前来たときもそうだったが、少ないのか? 客足」


「ええ、来るのは何人かの常連さんだけです。ですがお客様がいる限り、この店を潰す気などありませんよ。ヌィンダさんのような方が足を運んでくれる限りね」


 店主がそう語る間、少女は頬を膨らませていた。


「お爺ちゃん! わたしがお客さまを増やしてあげるって言ったでしょ!」


「ほっほっほ、そうじゃったな。この店はお前に継いで欲しいもんじゃよ」


「うんっ!」


 ヌィンダが少女を見る。


「かわいい孫だな。健気で無邪気で、よくできてる」


「ええ、いい子ですよ。とっても」


 と言って、店主は少女を撫でる。


「えへへ」


「ヌィンダさん、ところでそちらのお嬢さんは?」


「私の弟子、シュゼだ。あと2人、アルタとミーヴってのがいる。そいつらは先日くっついてな、私とシュゼの2人で来た」


「そうですか。それはいいことですのぉ」


「お爺ちゃん、ずっとお客さまの前にいたら失礼だよ」


「おっと、確かにそうじゃな。ではヌィンダさん、シュゼさん。ごゆっくり」


 最後は、2人でペコリと頭を下げてから去って行った。




 ▶▷▶▷▶▷




 シュゼとヌィンダが雑談しつつ食事をとっていると、店の扉が開いた。


 扉の前には、1人の男が立っていた。

 黒髪で、彫りの深い顔立ちをした男だ。


「いらっしゃいませ!」


 先程の少女が男に向かって走り、頭を下げた。

 男は穏やかな顔を浮かべてそれに対応した。

 しかしその穏やかな顔はすぐに消え失せ、眉間にしわがよって行く。


 店主が来た。


「ザルト様、いらっしゃいませ。本日もいつものでしょうか?」


「......あぁ」


「では! お好きな席にお座り下さいっ!」


「......あぁ」


 男の名はザルト。

 ザルト・ガージット。

 彼はこの店の常連の1人であった。


 ザルトがシュゼに目を向け歩く間、シュゼもまたザルトを見ていた。

 互いの睨みの目が絡まっていた。


 絡みを断ち切ったのはザルトの方であった。

 ザルトは表情を取り繕い、少女を呼んだ。


「ちょっといいかい」


「はい?」


「申し訳ないんだが、注文は取り消してくれ。今日はすぐに帰らせてもらう」


「......? 分かりました。お爺ちゃーん!―――」


 少女が厨房に戻ると、ザルトの表情から穏やかさが消えた。


 座っていた席を少々雑に立ち上がり、シュゼたちの座る席に近づいて行った。


「シュゼ......」


「親父......」


 ザルトはシュゼを見おろしつつ、シュゼは見上げながらも睨みつつ、互いに聞こえるように呟いた。

 この店に他の客がいれば、なんだなんだとざわめいただろう。


「生きていたんだな。てっきりどこかで野垂れ死んでると思っていたぞ」


 突き放すような声色であった。

 半年ぶりに会う家族の雰囲気ではなかった。


「そんな頑固頭で、よく生きてられたなクソ親父」


 それはシュゼも同様であった。

 そして、この会話を静かに聞く者がいた。


「お前は、シュゼの父親か?」


 ヌィンダである。

 威圧も殺気も欠片も込めない普通の声で聞いた。


 しかしザルトは場の雰囲気故か、少々勘違いしたらしい。

 ヌィンダに攻撃的な口調で返した。


「貴様こそ誰だ。何故俺の息子・・と一緒にいる?」


 ザルトの攻撃的な口調などものともせず、ヌィンダは答える。


「私はシュゼ(こいつ)の師匠になった者だ」


 ヌィンダのその言葉に、ザルトは鼻を鳴らした。

 そして続ける。


「シュゼ」


「あ?」


「来い」


「あ?」


「帰って来いと言っている」


 ザルトの低い声音に、シュゼは眉1つ動かさず吐き捨てる。


「......嫌だ」


「何だと?」


化天流(あんなクソ流派)を無理やり押し付けんだろ? 嫌に決まって―――」


「シュゼ!」


 ザルトが手を振り上げ、シュゼに向かって振り下ろす。

 しかし、シュゼが叩かれ、音が響くことはなかった。


 いつの間に移動したのか、ヌィンダがザルトの横に立っていた。

 ヌィンダの手は、ザルトの手を掴んでいた。


「シュゼ、剣は抜くな」


 シュゼは剣に手を掛けていた。

 自分を叩く手をは跳ね飛ばすつもりだった。


「は、離せ!」


「あぁすまない。今離す」


 ヌィンダは手を離し、シュゼを挟む形になるようにザルトの反対側に立つ。

 そして言った。


「なぁシュゼ。行ってみてもいいんじゃないか?」


「あん?」


 シュゼはヌィンダに言われ、考える。

 やはりシュゼとしては行きたくない。

 化天流を無理やり押し付けてくるザルトが嫌いなのだ。


「......」


 しかし、同時にこのようにも思っていた。

 ザルトを見返すチャンスだと。

 化天流など極めなくとも、強さは高みへ届くと。


「......分かった。行く」


「なら早く着いてこい、シュゼ。だがそっちのお前は......」


 ザルトはヌィンダを見た。

 特に何をするでもなく、立っている。

 とてもシュゼの師匠が務まっているようには見えない。

 だがこの女は自分が気づかぬ間に手を掴んだ。

 それなりの強さはありそうだ。


「......まぁいい。来たけりゃ来い」


「あぁ、そうさせて貰おう」


 代金を支払い、3人は店を出た。

 不思議そうに見つめる少女を背に。

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