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転生できない少年は天世界で生きてみる  作者: だんごむしのピザ
4章 ある1日・シュゼ編
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第36話 シュゼ

アルタとミーヴがデートした日。

その日起きた、もう1つの物語。




 



 天世界には多くの天使が住んでいる。

 シュゼもまた、その1人だ。

 シュゼは刃術、剣の術を使う冒険者である。

 憤怒級サタンにも迫る力を持つが、それ以上に強い天使がこの場にいた。


「はぁっ!」


「ふん」


 アルタ、ミーヴ、そしてシュゼの師匠、ヌィンダである。


 アルタとミーヴが出掛けて以降も、2人はしばらく修行を続けていた。


 シュゼが木刀を振るう。

 ヌィンダがそれを受ける。もしくは避ける。

 ヌィンダが攻撃をすれば、シュゼはギリギリで避ける。あるいは当たる。


 しかし当たっても急所は外している。

 これは日々の修行の成果と言えよう。

 もちろん、これで満足してはいけないし、シュゼがその程度で満足するはずも無い。 


 シュゼの木刀がヌィンダの眼前をかすめる。

 だがやはり実力に明確な差があり、決定的な一撃は全く入らない。


「ふっ!」


「しまっ―――がふっ!」


 ヌィンダはシュゼの手から木刀を落とした。

 直後視線がずれ、隙があらわになったシュゼに拳を叩き込んだ。


 これはシュゼの弱点と言える。

 剣を持っていないと、実力が大きく落ちるのだ。


 シュゼは攻撃された箇所をさすり、立った。

 今ミーヴはいない。

 大きな怪我をしない内に止めておくべきというヌィンダの考えは正しかった。


「―――シュゼ」


「ん?」


 ヌィンダがシュゼに声を掛けた。

 声はシュゼにしっかり聞こえたが、どこか浮遊感があった。

 目はシュゼを見ていなかった。

 どこか。どこか遠く。

 空の奥の。しらに奥の、遥か遠くを見ていた。


「この半年、お前の戦い方をよく見た。所作も癖も、あらかた把握したつもりだ。そこで思ったが......お前は攻撃的だ」


 シュゼはこの言葉の意味を理解できなかった。

 元々、頭はそれほど良くない。

 そのせいでアルタと喧嘩し、ミーヴが資金管理をすることになった。

 ミーヴの本を斬り、怒らせてしまった。


 しかし、ヌィンダの次の言葉でその意味を理解した。


「お前の剣は荒い。最初の頃ほどじゃないが、やはり荒い。常に先制を狙っている」


 シュゼの剣は荒い。事実である。

 半年でヌィンダの静かな構えを真似たが、本物には程遠い。


 シュゼは常に先制を狙っている。

 隙を見つければ即攻撃に移る。

 その隙が見せかけのものであっても、避けるか受けるかしていた。


「だったら悪いのかよ」


「ふむ......」


 シュゼは考え込むヌィンダを尻目に、小屋の中に戻った。


「まぁいい。それなら一緒にギルドに行かないか?」


 小屋の戸を開け入ってきたヌィンダが言った。

 シュゼは驚きの表情をした。

 こんなことを提案されたことは1度も無かったからである。


「今までそんなこと言わなかっただろ。なんでだ?」


「何でもいいだろう。強いて言えば少し興味が湧いた」


「そうかよ」


「あぁ。―――アルタとミーヴに置き手紙を残しておくから、お前は外で待っていろ」


「分かった」


 そう言ってシュゼは小屋を出た。

 中からはヌィンダが手紙を書く音が聞こえている。




 ▶▷▶▷▶▷




 当然のことだが、シュゼには親がいる。


 ザルト・ガージット。

 それが父親の名前である。母親はとうの昔に死んでいる。

 もっとも、シュゼはザルトを慕っていない。


 幼い頃から剣の修行をさせられていた。だが、それはザルトを慕わぬ理由ではない。


 幼い頃から、男として育てられた。だがそれもザルトを慕わぬ理由ではない。


 ザルトは肉親ではなく、シュゼは血の繋がらぬ養子であった。


 だがそれもまた、ザルトを慕わぬ理由ではない。


 理由はシュゼが教わっていた剣の流派である。

 化天流ばてんりゅう

 それがシュゼのガージット家で代々継がれてきた流派であった。


 相手の動き、殺気、呼吸。

 全てに対して感覚を研ぎ澄ませ、後手に回りつつ勝利を掴む防御主体の流派だ。


 そんな化天流を、ザルトは息子に教えていた。

 息子は覚えが良かった。

 暴食級ベルゼブブを圧倒し、強欲級マモンも容易く倒した。

 教える側としても、見ていて気持ちのいい成長だった。


 しかし、息子は死んだ。


 あまりに突然のことであった。

 怠惰級ベルフェゴールが出たのだ。

 突如現れたその悪魔に、息子は負けた。

 戦いにおいて、負ければ当然死ぬ。

 ザルトは息子の死(それ)を受け入れられなかった。


 そこで養子として迎えたのがシュゼだった。

 シュゼは孤児だった。

 近道のために路地裏を歩いていたとき、偶然見つけた。

 ザルトはシュゼに剣の才能を感じ、養子にした。


 かつての息子の代わり、とでも言おうか。

 養子とし、新たな息子となったシュゼに化天流を教え、鍛えた。

 シュゼは女であったが、男として育てた。


 しかし化天流はシュゼには合わなかった。

 シュゼは常に先手を狙う戦い方が合っていた。

 故にザルトともそりが合わなかった。


 ザルトが教えるものを、シュゼは呑み込まなかった。


 殺気の読みなどの基礎は会得したが、とても化天流の風上にも置けない戦いぶりであった。


 そんなシュゼに幾度も化天流を教え、その度にシュゼの戦い方はザルトの理想から遠退いて行った。



 そしてある日。

 シュゼは剣を1つ盗み、家を出ていった。




 ▶▷▶▷▶▷




 手紙を書く音が止まり、ヌィンダは小屋から出てきた。

 その後2人はいつもの舗装されていない森を抜け、サトゥーア領の冒険者ギルドに着いた。


 ギルドの扉を開ければ、いつもの光景が広がっている。

 何人もの冒険者がおり、依頼に対して作戦を練る者。食事をとる者。依頼掲示板の前で悩んでいる者。

 様々な冒険者がいた。


「な、なぁあれって......」


「あぁ、間違いねぇ。だがどうして......」


 ギルド内がザワついた。

 当然である。

 ここ数年、ヌィンダはウドレスト領の武闘大会で1位を取り続けていた。

 相対する者を流れ作業で負かす冷酷な女。

 強き身でありながら、どこかの兵士でも、 冒険者でもない。


 それが冒険たちの認識であり、彼らの間では有名だった。


 ヌィンダが歩くと、冒険者たちは左右に捌けた。

 それを特に気にせず、ヌィンダは堂々と歩いて行く。

 そのまま掲示板の前に着いた。


「どれにする、シュゼ?」


 ヌィンダに問われ、シュゼは掲示板に目を通す。

 シュゼの実力は下位の憤怒級サタンに匹敵する。


 だがそんな高位の罪級の悪魔など中々存在せず、怠惰級ベルフェゴールすら掲示板に並んでいることなどほとんど無い。


 悩んだ末、シュゼはこれを選んだ。


「―――これだ。強欲級マモンの討伐」


強欲級マモンか。それでいいのか? 怠惰級ベルフェゴールではなく?」


「ちゃんと見ろよ。怠惰級ベルフェゴールなんてどこにも載ってないだろ」


「知ってる。行くぞ」


 冒険者たちの認識とは異なり、ヌィンダは案外ふざけるのだ。




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