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第35話 それぞれの今日

 



「キミは転生できないみたいなんだ」


 生命神は、アルタに確かにそう言った。

 そしてアルタは生命神の考えとは裏腹に、ほっとしたような顔をした。


 生命神は意味が分からなかった。

 この事を伝え、怒るのではないかとも考えていた。

 もしくは、深く悲しむか。

 そう考えていた。


 この半年、アルタの魂を観察研究した結果、どうあってもアルタは転生できないと分かった。

 どうにかできないか試行錯誤しても、やはりダメだった。


 シミュレーション時、最後の最後だ。

 最後、魂を転生させる工程で失敗する。


 まるで、転生を拒まれているような感覚。



 だからこそ、意を決して伝えたが、この反応は予想外だった。


「あれ? もっと悲しむんじゃないかと思ってたけど、どうかしたの?」


「実は今日ここに来たのは、俺を転生させて欲しいという願いを取り消すためだったんです。もしかしたら怒られるんじゃないかと思って、ビクビクしてました......」


 生命神は納得した。

 同時に疑問が沸いて出た。


「そうだったの。でもなんで急にそんなことを?」


「半年、天世界で生きてる内に色んな人と関わりができました。それで、転生したく無くなってしまったんです」


「そっか、良かった」


 生命神は安堵の声で呟いた。

 そして、アルタに聞こえるように、しっかり言い放った。


「ようこそ、天世界へ」




 ▶▷▶▷▶▷



 ―ミーヴ―



 アルタが小屋を出てから数分。

 私は机の上に手紙が置いてあるのに気付いた。

 荷物の袋の下にあって気がつかなかったのだ。


 とりあえず手に取って読んでみる。



『アルタへ。


 この手紙を読んでいるなら、私とシュゼがいないことを不思議に思っただろう。

 答えは簡単なことだ。


 私はお前たちが帰ってくるタイミングを見計らってシュゼと共に出掛けた。

 まぁ色々あって昼過ぎくらいに出掛けたんだが。


 さて、お前たちが付き合い始めたことを嬉しく思う。

 私は2000年生きたくせに、誰かと恋愛したことも無かったからな。


 私とシュゼは遅くまで帰らないつもりだ。

 具体的には、シュゼがギルドで受けた依頼に着いて行こうと思っている。


 最近、お前もシュゼも伸び悩んでいるようだしな。

 お前を10とするならシュゼは9だ。

 だがその差もすぐに埋まるかもしれないし、すぐに抜かせるかもしれない。


 ちなみにミーヴは2も無い。

 だがもう強欲級マモンと同等の力はあるかもしれん。

 私に魂術のことは分からんからこの見立てに信憑性は無いが。


 そして私の見立てではお前たちの強さはもう下位の憤怒級サタンに匹敵する。

 だからこれ以上強くなる必要も無いかもしれん。


 何の話だったか。

 そうだ、私とシュゼは出掛けたという話だった。


 まぁそう言う訳だから、思う存分イチャついてて構わん。

 なに、私は咎めんし、シュゼだって何も言わん。


 ヌィンダより』


 これ、アルタへの手紙だったんだ。

 それならちょっと悪いことしたかな。

 アルタが帰って来たら読ませよう。


 にしても、ヌィンダさんって恋愛経験ないんだ。

 私たちがヌィンダさんに勝てる唯一の要素だね。


 シュゼと一緒に出掛けたんだ。

 遅くまで帰って来ない。

 それならしばらく私1人か。

 買ってきた本読んで待ってようかな。


 ていうか、アルタたちってもう憤怒級サタンに通じる力を持ってるんだ。

 やっぱりあの2人はすごいや。


 そして私2も無いんだ。

 私が1番弱いのは知ってるけど、ちょっぴりへこむ。

 ヌィンダさんの見立てじゃ私は強欲級マモンも倒せるとのこと。

 ちょっと怖いけど、アルタの彼女ならそれくらいは無くちゃダメだよね。

 むしろ足りないくらいだ。

 やっぱり読書じゃなくて魂術の特訓しようかな。


 と考えていると、手紙には続きがあるのに気が付いた。


『追記。

 別ににミーヴとヤってても構わんが、汚したらちゃんと洗ってくれよ?』


 ......何書いてるのあの人。


 と思いつつも、アルタとシている自分を想像してしまった。

 恥ずかしい。

 顔が真っ赤になっている気がする。

 でもダメだ。

 私だって14歳の女だし、そういうことも考えちゃうけど、アルタは今ここにいない。


「さて、こんな手紙忘れて魂術の特訓でもしますか」


 私は小屋を出た。




 ▶▷▶▷▶▷



 夕暮れ時。

 とある宿屋の一室。

 2人の男女がいた。


 男の方は黒い服を着込み、目を閉じている。

 美しい緑色の髪を腰まで伸ばしているが、確かに男だ。

 顔立ち中世的で、人一倍穏やかだが、その裏には言い表せない恐ろしさを感じられる。

 そして、その長い耳(・・・)が最も特徴的だった。


 女。いや、細身の少女だ。

 少女は男とは対照的に白い服を着ている。

 腹の所が繋がったようなコートだ。

 桃色の髪の下、右目には眼帯が着けられている。

 そして、その頭の上から生えた猫耳と尻尾(・・・・・)が最も特徴的だった。


「それで、ディンセル? もうここに来てから3日は経つけど?」


 少女が男の名を呼び、問い掛けた。

 声色は不機嫌そうだ。


「そう怒るなアイリア。明日か、明後日には事が起こる」


「またそれ。いい加減ボクも飽きたよ、その言葉」


「気長に待て。何か暇潰しは無いのか? それをすればいい」


 そう言われてアイリアは考える。

 そのまま時間が流れ、アイリアは何か思い付いたように「あっ」と呟き、耳がピクリと動いた。


「思い付いたよ、暇潰し」


 そう言ってアイリアは席を立った。

 そのまま部屋の出口に向かう。


「どこへ行く気だ?」


「ちょいと、部下のお説教(・・・)にね」


 アイリアは振り向き、答えた。

 ディンセルの方を向くとき、眼帯の下をチラッと見せた。

 そこにあったモノ。

 眼帯の下に隠されたモノは、眼球......ではなかった。

 緑色の色石がろうそくの光に当てられ輝いていた。


 アイリアは黒いローブを纒い、部屋を去った。

 部屋に残ったディンセルは呟いた。


「全くアイツは足りてないな。上に立つ者、嫉妬級レヴィアタンの自覚が」


 2人の嫉妬級レヴィアタンは今日を過ごす。




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