第33話 妊婦
俺たちは買うべき物はあらかた買った。
食材とか、ろうそくの替えとか。
そんなこんなでまた街を歩いている。
「アルタ、行きたい所あるんだけど、いい?」
ミーヴが不意にそんなことを聞いてきた。
当然いいとも。
「いいよ。で、どこなんだ?」
「えっとね、古本屋さんだよ。欲しいのがあって」
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そしてその古本屋に着いた。文字通り、古い建物だった。
だが汚い印象は無く、不思議な雰囲気を醸し出している。
店の扉をくぐり、1つの棚の前に立った。
「えっと、どこだっけ......」
「何の本探してるんだ?」
場所を忘れてしまったのだろうか。
それなら手伝うとしよう。
「魂術の教本だよ。ヌィンダさんの所のは読み終えちゃったからね」
「そっか。......これとかか?」
「や、それは違うかな。うーん、そっちの棚だったかも。見てくれる?」
「あぁ、分かった」
俺は棚の反対側を向く。
魂術の教本......これか? いや、似たようなのが小屋にあったな。
じゃあこっち......あれ、これ魂術関係無いぞ。
あとで戻しておこう。
「ミーヴの魂術大分上達してると思うけど、他にも欲しい本があったのか」
「うん、結構前にはもう読み終えてたんだ。それからは覚えた魂術の精度上げに専念してたんだけど、それももういいかなって」
最近ミーヴは本を読んでいることが減っていた。
ひたすら習得済みの魂術を使っていたけど、そうだったのか。
「そうだったのか。それで新しいのを覚えようと?」
「それもあるけど、まぁ普通の本も欲しくてね」
ミーヴの趣味は読書だ。
たまに魂術と関係無い本を読んだりしている。
そういえば、シュゼが間違えて本を斬ったとき怒ってたっけ。
俺も本とか読んでみようかな......
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結局目的の本は見つからなかった。
だから普通の、魂術は関係無い本を2冊買って本屋を出た。
ミーヴに俺も本を読んでみたいと伝えたところ、
何冊か貸してくれることになった。
「他に行きたい所とかあるか?」
「うーん、特に無いかな。アルタこそ、行きたい所があれば付き合うよ?」
そんなことを談笑しながら街を歩く。
ジュリンたちと会った辺りから緊張がほどけた。
おかげで何ということも無く会話できている。
「俺も特には無いかな」
「そっか」
特に行きたい場所は無い。俺もミーヴも。
だから今は適当に歩き回っている。
適当な道を歩いて、適当な露店で欲しい物が無いか見てみる。
まぁ特に欲しいと思う物は見つからないんだけど。
と、適当に歩き回っていると、武器屋の前に着いた。
「ミーヴ、ここ入ってみないか?」
「え、武器屋? アルタ、何か欲しい武器あるの?」
「いや、シュゼってもうすぐ誕生日だから、何か買ってあげようかなって」
「あー、そういえばそうだね。分かった、入ろっ」
俺たちは武器屋の扉を潜った。
中に入ると、当たり前だが様々な武器が置いてあった。
斧、ナイフ、槍。そして、当然剣もある。
売り場には何人か人もいる。たぶん冒険者だ。
彼らの横を通り過ぎ、剣の売り場の前に立つ。
「どれがいいかな」
「うーん。私には剣のことはよく分からないしね......」
「言っといて難だけど、俺もよく分かんないからなぁ」
そのまま少し時間が過ぎる。
1つ手に取ってみて、少し見つめて、当たってしまう場所に人がいないのを確認して1、2回振ってみて、また元の場所に戻す。
ミーヴも同じようなことをしている。
1つ違うのは、俺みたいに振ったりはせずに元の場所に戻していること。
2人で悩んでいると、客の1人が話し掛けてきた。
「あら? もしかしてアルタくんとミーヴちゃん」
客―――フェイルだ。
「初めまして、フェイルさん。ルデンさんとは先日お会いしました」
「ええ、ルデンから聞いたわ。酷く落ち込んでたって言ってたから心配だったのだけど、大丈夫そうね」
「はい。ミーヴのおかげです」
そんな話をしている間も、フェイルは品物に目を配っていた。
「ルデンさんから聞きましたけど、フェイルさん身重なんですよね? いいんですか、こんな所にいて」
「大丈夫よ。それに、子供と一緒に街を歩くのも悪くないものよ」
フェイルはそのまま続けた。
「ルデンの同僚がね、冒険者になるそうなのよ。ルデンは仕事でいないから、私がとりあえず見るだけ見ておこうとね。
ところで、あなたたちはどうして武器屋に?」
「はい。シュゼって友達に贈ろうと思っているんですけど、2人とも刃術のことはよく分からなくて」
俺がそう言うと、フェイルは「そう」と言って俺たちの隣に立った。
「そうね......シュゼくんはどんな武器を使っているの?」
「剣ですね、普通の」
「あと、シュゼは女の子ですよ」
俺の言葉にミーヴが付け加えた。
「まぁ、そうなの。気を付けるわ。―――そうね......剣を使うならサブ武器としてナイフ、それか短剣とかどうかしら?」
「そうですね......いいかもしれません。ありがとうございました」
「いいのよ。命の恩人だしね」
そう言ってフェイルは場を去ろうとする。
それを止める者がいた。
「待って下さい」
ミーヴだ。
ミーヴが背を向けて歩き出すフェイルを止めた。
「その、お腹、触ってみたいです。いいですか?」
ミーヴの問いにフェイルは微笑み、優しい声で答えた。
「いいわよ。まだ4ヶ月だから、あまり膨らんでいないけど」
「構いませんよ。―――ここに、確かに赤ちゃんがいるんですよね......」
ミーヴはフェイルの腹をゆったりとして手つきで撫でた。
フェイルは少しくすぐったそうにしている。
「ふふっ、あなたもいずれこの感覚が分かるわよ。ほら、アルタくんも」
「はい」
俺も撫でてみた。
何気に妊婦の腹を触ったのは初めてだ。
やっぱり、まだあまり膨らんではいない。
でも、何だか命が芽生えているような気がする。
もっとも、フェイルが妊娠しているという事前情報があるからだろうが。
何も知らずに撫でても特に何も感じないだろう。
だがそんなことはどうでもいい。
確かにいるのだ、ここに。
「すくすくと育って欲しいですね」
「ええ、本当に。それじゃあ、私は向こうに行くわ。じゃあね」
「はい、さようなら」
「さようなら」
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そうして俺たちは良さげな短剣を買って武器屋を出た。
しかしこの短剣、なかなか高く、持って来ていた金は底を着いてしまった。
その後、色々して小屋に帰った。




