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第33話 妊婦

 



 俺たちは買うべき物はあらかた買った。

 食材とか、ろうそくの替えとか。

 そんなこんなでまた街を歩いている。


「アルタ、行きたい所あるんだけど、いい?」


 ミーヴが不意にそんなことを聞いてきた。

 当然いいとも。


「いいよ。で、どこなんだ?」


「えっとね、古本屋さんだよ。欲しいのがあって」




 ▶▷▶▷▶▷




 そしてその古本屋に着いた。文字通り、古い建物だった。

 だが汚い印象は無く、不思議な雰囲気を醸し出している。


 店の扉をくぐり、1つの棚の前に立った。


「えっと、どこだっけ......」


「何の本探してるんだ?」


 場所を忘れてしまったのだろうか。

 それなら手伝うとしよう。


「魂術の教本だよ。ヌィンダさんの所のは読み終えちゃったからね」


「そっか。......これとかか?」


「や、それは違うかな。うーん、そっちの棚だったかも。見てくれる?」


「あぁ、分かった」


 俺は棚の反対側を向く。

 魂術の教本......これか? いや、似たようなのが小屋にあったな。

 じゃあこっち......あれ、これ魂術関係無いぞ。

 あとで戻しておこう。


「ミーヴの魂術大分上達してると思うけど、他にも欲しい本があったのか」


「うん、結構前にはもう読み終えてたんだ。それからは覚えた魂術の精度上げに専念してたんだけど、それももういいかなって」


 最近ミーヴは本を読んでいることが減っていた。

 ひたすら習得済みの魂術を使っていたけど、そうだったのか。


「そうだったのか。それで新しいのを覚えようと?」


「それもあるけど、まぁ普通の本も欲しくてね」


 ミーヴの趣味は読書だ。

 たまに魂術と関係無い本を読んだりしている。

 そういえば、シュゼが間違えて本を斬ったとき怒ってたっけ。


 俺も本とか読んでみようかな......




 ▶▷▶▷▶▷




 結局目的の本は見つからなかった。

 だから普通の、魂術は関係無い本を2冊買って本屋を出た。


 ミーヴに俺も本を読んでみたいと伝えたところ、

 何冊か貸してくれることになった。




「他に行きたい所とかあるか?」


「うーん、特に無いかな。アルタこそ、行きたい所があれば付き合うよ?」


 そんなことを談笑しながら街を歩く。

 ジュリンたちと会った辺りから緊張がほどけた。

 おかげで何ということも無く会話できている。


「俺も特には無いかな」


「そっか」


 特に行きたい場所は無い。俺もミーヴも。

 だから今は適当に歩き回っている。

 適当な道を歩いて、適当な露店で欲しい物が無いか見てみる。

 まぁ特に欲しいと思う物は見つからないんだけど。


 と、適当に歩き回っていると、武器屋の前に着いた。


「ミーヴ、ここ入ってみないか?」


「え、武器屋? アルタ、何か欲しい武器あるの?」


「いや、シュゼってもうすぐ誕生日だから、何か買ってあげようかなって」


「あー、そういえばそうだね。分かった、入ろっ」


 俺たちは武器屋の扉を潜った。

 中に入ると、当たり前だが様々な武器が置いてあった。

 斧、ナイフ、槍。そして、当然剣もある。


 売り場には何人か人もいる。たぶん冒険者だ。

 彼らの横を通り過ぎ、剣の売り場の前に立つ。


「どれがいいかな」


「うーん。私には剣のことはよく分からないしね......」


「言っといて難だけど、俺もよく分かんないからなぁ」


 そのまま少し時間が過ぎる。

 1つ手に取ってみて、少し見つめて、当たってしまう場所に人がいないのを確認して1、2回振ってみて、また元の場所に戻す。


 ミーヴも同じようなことをしている。

 1つ違うのは、俺みたいに振ったりはせずに元の場所に戻していること。


 2人で悩んでいると、客の1人が話し掛けてきた。


「あら? もしかしてアルタくんとミーヴちゃん」


 客―――フェイルだ。


「初めまして、フェイルさん。ルデンさんとは先日お会いしました」


「ええ、ルデンから聞いたわ。酷く落ち込んでたって言ってたから心配だったのだけど、大丈夫そうね」


「はい。ミーヴのおかげです」


 そんな話をしている間も、フェイルは品物に目を配っていた。


「ルデンさんから聞きましたけど、フェイルさん身重なんですよね? いいんですか、こんな所にいて」


「大丈夫よ。それに、子供と一緒に街を歩くのも悪くないものよ」


 フェイルはそのまま続けた。


「ルデンの同僚がね、冒険者になるそうなのよ。ルデンは仕事でいないから、私がとりあえず見るだけ見ておこうとね。

 ところで、あなたたちはどうして武器屋ここに?」


「はい。シュゼって友達に贈ろうと思っているんですけど、2人とも刃術のことはよく分からなくて」


 俺がそう言うと、フェイルは「そう」と言って俺たちの隣に立った。


「そうね......シュゼくんはどんな武器を使っているの?」


「剣ですね、普通の」


「あと、シュゼは女の子ですよ」


 俺の言葉にミーヴが付け加えた。


「まぁ、そうなの。気を付けるわ。―――そうね......剣を使うならサブ武器としてナイフ、それか短剣とかどうかしら?」


「そうですね......いいかもしれません。ありがとうございました」


「いいのよ。命の恩人だしね」


 そう言ってフェイルは場を去ろうとする。

 それを止める者がいた。


「待って下さい」


 ミーヴだ。

 ミーヴが背を向けて歩き出すフェイルを止めた。


「その、お腹、触ってみたいです。いいですか?」


 ミーヴの問いにフェイルは微笑み、優しい声で答えた。


「いいわよ。まだ4ヶ月だから、あまり膨らんでいないけど」


「構いませんよ。―――ここに、確かに赤ちゃんがいるんですよね......」


 ミーヴはフェイルの腹をゆったりとして手つきで撫でた。

 フェイルは少しくすぐったそうにしている。


「ふふっ、あなたもいずれこの感覚が分かるわよ。ほら、アルタくんも」


「はい」


 俺も撫でてみた。

 何気に妊婦の腹を触ったのは初めてだ。

 やっぱり、まだあまり膨らんではいない。

 でも、何だか命が芽生えているような気がする。

 もっとも、フェイルが妊娠しているという事前情報があるからだろうが。

 何も知らずに撫でても特に何も感じないだろう。


 だがそんなことはどうでもいい。

 確かにいるのだ、ここに。


「すくすくと育って欲しいですね」


「ええ、本当に。それじゃあ、私は向こうに行くわ。じゃあね」


「はい、さようなら」


「さようなら」




 ▶▷▶▷▶▷




 そうして俺たちは良さげな短剣を買って武器屋を出た。

 しかしこの短剣、なかなか高く、持って来ていた金は底を着いてしまった。


 その後、色々して小屋に帰った。




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