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第31話 再会

 


 ―ミーヴ―



 アルタは落ち込んでいた。

 鉱山の奥でようやく見つけた時から、ずっと。

 鉱山を、平原を、サトゥーアを進んでいたときも、ずっと。


 シュゼと別れて、小屋まで戻った。

 そして、アルタは全部話してくれた。


 驚いた。

 驚かずに聞くのは無理な話だった。

 でも、アルタは酷く落ち込んで、意識がそこに無いような感じすらしていた。


 だから私は驚きをできる限り抑え付けた。


 アルタは1つ1つ、ゆっくり話した。

 あの、鉱山の奥地で見た人に家族を皆殺しにされたこと。

 それで復讐を決意したこと。

 でも、復讐のための、相応の努力なんてしてなかったこと。


 全部、雨上がりの葉っぱから滴る水みたいに、少しずつ話してくれた。


 特に驚いたのはアルタが天使と人間のハーフだという話。


 正直、悲しくなったりもした。


 アルタに羽は無い。

 私にも羽は無い。

 でも、アルタに羽が無いことには理由がある。人間とのハーフだからだ。


 でも私は違う。

 14年生きてきても、羽が無い理由は分からない。


 一瞬、私の心に邪念がよぎった。

 失望、とでも言うのだろうか。


 でもそんな邪念はすぐに振り払った。

 アルタが私を引っ張ってくれた事実は変わらない。


 アルタが人間とのハーフだなんて関係無い。


 アルタと出会えたから、私は心の蓋をせた。

 羽が無いことを理由に人との関わりを拒むことを恥じることができた。


 私のアルタへの好意は変わらない。絶対に。



 少し話が逸れた。

 アルタ本人のことだ。

 アルタはあの人に、家族を殺された。


 私にはその気持ちは分からない。

 家族を殺されたことなんて、無いから。

 でも、とてつもなく悲しくて、とてつもなく忌々しいことは分かるつもりだ。


 だからこそ私が励まさないといけないと思った。


 でもそんな考えとは裏腹に、言葉は出て来なかった。何か言えることは無いかと、頭の中で画策した。

 それでも、アルタを励ます言葉は出て来なかった。


 両親2人とも生きている私に、アルタの気持ちが分かるはずが無い。

 下手なことを言えば、アルタはもっと傷ついちゃう。

 それだけは避けたかった。


「......」


 アルタは何も言わない。

 私も、何も言えない。

 考えれば考えるほど、言うべきことは遠退いた。

 私では、アルタの落ち込みを解決できない。



 ......ふと、頭にお母さんが浮かんだ。

 お母さんは、私が落ち込んだとき、私に寄り添ってくれた。


 ただし、自分も同じような経験をしていた場合を除いて、『分かる』とは言わなかった。


 少し離れたところから、深入りせずに、重くのし掛かるものを軽くしてくれた。


 解決はしてくれなかった。

 解決のための道を作ってくれただけ。

 その道を進んで、解決するのは自分自身だということだ。



 そうか。

 無理して分かる必要は無いんだ。


 今の私では、アルタの落ち込みを解決できない。

 が、道を作ることはできるかもしれない。


 アルタにのし掛かるものを軽くできるかもしれない。


 そう思うと、途端に肩の力が抜けた。

 重く考える必要はないと思えた。



 なら私は、アルタへの今までの感謝を伝えよう。

 アルタの気持ちが、いい方に動くように。


 復讐ができなかったとしても、その間に救われた人がいるって。


 大丈夫。

 アルタは強いんだ。

 私なんかより、何倍も強いんだ。


 私を引っ張ってくれたんだ。

 弱いわけない。

 アルタは強い、絶対に。



 だから伝えた。


 アルタが好きだと伝えた。

 アルタと暮らしたいと伝えた。


 アルタは私を見ていた。ただ、見ていた。

 私もアルタを見つめた。

 目を離さないようにした。


 アルタの、暗かった金色の目に、光が戻った。

 アルタは「よろしくお願いします」と言ってくれた。


 嬉しかった。




 ▶▷▶▷▶▷



 ―アルタ―



 あの後は色々あった。


 まず、シュゼがギルドから帰ってきた。

 少しするとヌィンダも帰ってきた。


 少し前置きし、2人にも同じような話をした。


 俺が人間とのハーフだということも話した。

 生命神と会ったことも話した。


 3人とも驚いていた。

 特に、生命神のところ。


 やっぱり、腐っても天世五魂神の一角。

 天使からは敬われているようだ。

 そもそも、五魂神に会うなんて一生に1度あれば奇跡なのだと。


 というかミーヴには1回話したはずだけど......

 いや、いい。

 改めて聞いて、驚きが後から来た感じだろう。

 ミーヴはたまに抜けてるところがあるし。


 それから、シュゼとヌィンダにもミーヴに羽が無いことを話した。

 もちろん、本人ミーヴの意思でだ。


 その事を聞いた2人がどんな反応をするか不安もあったが、2人とも「ふーん」程度だった。

 別に気にしないとのことだった。


 ただ、やはり羽が無いというのは大変なことらしく、2人とも秘密にしてくれるようだ。




 ▶▷▶▷▶▷




 それから早くも数日。

 俺はミーヴと買い出しに来ていた。


 ヌィンダは長く生きてるからなのか何なのか、

 俺がミーヴに告白されたことを察したらしい。


 修行が終わったらミーヴに着いていけと、送り出してくれた。

 その時のヌィンダの表情はよく覚えてるとも。

 口元が緩み、目も弓型に曲がっていた。

 正直ムカつく表情だった。



「アルタ、どうかしたの?」


「い、いや。何でもない」


「そう? 何かあったら言ってね」


 ミーヴが俺の隣を歩いている。

 町行く人々の視線が気になってしまう。

 前までこんなこと無かったのに、やっぱり正式に告白を受けてOKしたからだろうか。


 何か変なことしてないかな。

 歩き方とかおかしくなってない?

 右腕を出したら左足が出るように歩けてるか?

 えっと......よし、ちゃんとできてる。


 そんなことを考えて歩いていたら目的の露店に着いたようだ。


「おじさん、これとこれと、あとこっちの下さい」


「あいよ、ミーヴちゃん。銀貨1枚と、銅貨2枚ね」


「はい」


 ミーヴと商人は互いに慣れた手つきで商品と銀貨を交換した。

 この半年、ミーヴはずっとあの小屋で家事担当だった。

 俺たち3人も手伝うことはあったけど、やっぱり大半はミーヴがやっていた。


 当然買い出しもミーヴが大体。

 おかげで商人と親しい関係も持てているようだ。


 いや、にしても、嫌な思い出も蘇ってくる。

 この光景は、ミーヴと会ったばかりの頃に似てる。

 商人が裂けて、中から悪魔が出て来たんだ。


 思えば、あの悪魔は特殊だったな。

 知性個体と言ったか。


 天使や人間と同じように知性を持つ悪魔。

 あの悪魔以外では見たことが無い。


「あら? ミーヴ!」


「え?」


 後ろの方から懐かしい声がした。

 懐かしいが、よく覚えてる声。

 俺は忘れたことも無いし、ミーヴが忘れる訳がない声。


「お母さん!」


 ミーヴが声の主―――ナリアに向かって走っていった。そして飛びついた。


「元気そうにやっているな、ミーヴ。アルタくんも久しぶり」


 その後ろからバルシーも来た。


 2人とも、半年ぶりの再会か。




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