第25話 その鉱山
ミーヴは凄い。
才能に溢れている。魂術の才能。
魂術を本で見て、覚えて、使うまでが早い。
ミーヴはこれを『腕輪を着けてるからね』と言ったけど、多分外しても大丈夫だと思う。
そう伝えたら『お母さんから貰った物だから着けていたい』とのこと。
あの腕輪は、魂術を使い始めの頃に使う補助アイテムのような物。
魂気の流れをスムーズにして、体力の消耗を抑える。
熟練すれば必要無くなるらしい。
まぁ、無理に外させる必要は無いか。
ヘブアルたちと怠惰級を倒してからもう4ヶ月。
今日もまた修行中。
だが1つ、今までとは違うやり方だった。
「―――魂術『岩弾現象』」
シュゼと今日も模擬戦闘。
今度は木刀だ。
そしてミーヴも参加している。
と言っても横槍係としてだ。
俺とシュゼの戦いに魂術で横槍を入れる。
ヌィンダが言い出したことだ。
シュゼの動きを追っていると、横から飛んでくる岩弾に気を配れない。
指先ほどの大きさだが、それなりの威力はある。
「あだっ!」
岩弾が頭に当たる。
魂気で防御はできたけど、痛いものは痛い。
でもシュゼはお構い無しに攻撃を続けてくる。
シュゼに足払いされ、倒れたところで頭のすぐ横に木刀が突き刺された。
「そこまで。シュゼの勝ちだ」
「よっしゃ!」
最近はシュゼも凄い。
本気でやっても負けることもしばしばだ。
そんなシュゼと一緒に戦っても、ヌィンダに勝てたことは無いが。
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修行を終えれば、次はギルドに出向く。
たまにジュリンを見つけるので、そういう時はサッと隠れる。
前にヘブアルから聞いたが、あの2人の間には子供がなかなかできないらしい。
だからって俺を養子にとろうという考えになるのは少々引くが。
でも今日はいないらしい。とりあえず良かった。
ギルドのドアに手を掛け、3人で中に入る。
ガチャ
ドアを開け、冒険者たちを横目に全員で掲示板の前に立つ。
「どれにすっかなー。強欲級......今日もねーじゃん!」
シュゼはひと通り見てから愚痴をこぼす。
最近は強欲級の悪魔の討伐依頼も無く、シュゼにとっては不服なことだ。
「じゃあ今日もみんなで一緒の依頼やろうよ。
これとかどう? バンダリー鉱山で鉱石運搬の手伝いだって」
「―――分かった、やる。」
と言っても、討伐系じゃなくても満更でもない様子で了承してくれるのが最近のこと。パーティで協力して依頼をこなすのは楽しいものだと、気づき始めたのだ。
「そうと決まればさっさと行くか」
「うんっ」
「おう」
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バンダリー鉱山。
当方平原をさらに東に行った先にある、
サトゥーア領の主な輸出品となる鉱石がとれる鉱山。
バンダリー鉱山の鉄鉱石などは多くの武器にも使われている。
と、ミーヴから聞いた。
馬車で平原を進み、着いた。
その時にはもう昼を過ぎていた。
「ここか」
「うん。初めて来たけど、大きい場所だね」
「すっげー! 早く行こうぜ」
大きい鉱山だった。
ツルハシで石を砕く音が聞こえてくる。
鉱山に見とれていると、聞き覚えのある声がした。
「あれ、お前ら......」
「ん? あ、ルデンさん!」
声のした方に目を向けると久しぶりに見る顔。
ルデンがいた。
ツルハシを担いで歩いてくる。
「お前ら、あの依頼受けて来たんだな」
「はい。ミーヴの提案で全員で来たんです」
俺がそう言うと、ルデンは一瞬首を傾げてミーヴの方を見た。
「初めまして、ミーヴです」
ミーヴがペコっと頭を下げた。
そっか。
ミーヴとルデンはまだ会ったこと無いのか。
「あぁ、初めまして。ルデンだ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
ルデンはそれだけ言うと、今度はシュゼの方を向いた。
「あー、シュゼ......だよな?」
「何だ? 忘れたのか?」
「いや、そうじゃねぇんだけどよ。髪伸びてるし、ヘアピン着けてて女みたいだぞ?」
ルデンのその言葉の後、俺たち3人は一瞬硬直した。
いや、シュゼだけはいつもと何ら変わらない顔してた。
「ん? あー、オレ女だぞ」
そうか。ルデンのシュゼへの認識は男か。
この4ヶ月でシュゼの髪は伸びた。
ミーヴよりも全然短いけど、伸びた。
そのおかげか、初見で男だと勘違いされることは減った。
加えてミーヴから貰ったヘアピンを着けたりもして、勘違いはさらに減った。
ルデンの知ってるシュゼとは変わったのか。
「それより、仕事の内容は?」
「あぁそうだな。まず―――」
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仕事内容はこうだ。
採掘の手伝い。
採掘した鉱石の運搬。
俺たちはルデンと共に鉱山内部を歩き、現場に着いた。
ルデンは結婚してから冒険者を引退し、この鉱山に転職したそうだ。
「それで、フェイルさんとはどうですか?」
「あぁ、仲良くやってる。最近子供もできてな」
「それはそれは、おめでとうございます」
ツルハシを振りながら雑談する。
俺が採掘の手伝い。
ミーヴとシュゼが運搬。
トロッコに鉱石が溜まったら運んでいる。
重そうにするミーヴにシュゼが手を貸すサマは微笑ましいものがあった。
今ミーヴたちはいない。
入り口の方まで鉱石を運びに行った。
「にしてもよ、1回お前が言った宿に行ったんだが、いなかったんだよな」
「あ、それは、ごめんなさい」
結局ルデンは来なくて、そのままウドレストに行ったんだっけか。
その後来てくれてたなら申し訳ないことをした。
「いや、いいんだ。どうせ何も成果が無かったことの報告だったしな」
「そうですか......」
「鉱山来てからも聞いたりしてみたんだけどよ、誰も知らねぇってさ。悪いな」
「いえ、いいんです。まだ聞き込みしてくれてたんですね」
「あぁ。まさかあの依頼をお前らが受けるとは思ってなかったがな」
「ですね」
鉱山に石の砕ける音が響き渡る。
ツルハシを振り上げ、落とす。なかなか楽しい作業だ。
「―――ルデンさん、鉱石置いて来ましたよ」
「そうか。じゃあ次はもうちょっと奥行こう」
ミーヴがトロッコを押して戻ってきた。
シュゼの方はトロッコに乗っかってるけど。
「はい。―――シュゼ、もういいでしょ、降りて」
「ちぇ」
と言いつつシュゼは降りた。
最初の頃より棘が抜けたものだ。
ミーヴの言うことも、何だかんだきく。
もうミーヴを見捨てるなんて言わないだろう。
シュゼとミーヴがトロッコを押し出す。
俺もルデンについて行く。
その時、ルデンの上の岩が崩れ落ちた。
「危ない!」
「え?」
ガッシャァン!
間に合った。
岩が落ちる前に向こう側に飛ばすことができた。
「ルデンさん、大丈夫ですか?」
「イテテ。あぁ、何とかな。また助けられたな、ありがとう。だが......」
「ええ、別れてしまいましたね」
崩れた岩の壁。
その向こう側にミーヴとシュゼがいる。
壁越しに声が聞こえる。
「アルタ! 大丈夫か!?」
「アルタ、聞こえる!? 怪我してない?」
ミーヴたちは心配そうに叫んでいる。
どうすればいいだろうか。
「大丈夫だ、2人とも怪我してない!」
俺がそう言った後、ルデンが付け加えた。
「2人とも他の奴にこの事伝えてきてくれ!
俺たちも何かしてみる!」
「分かりました、すぐに伝えて来ます!
―――行くよ、シュゼ」
「おう」
それだけ聞いた後、2人分の走る足音が遠ざかっていった。
「―――とは言ったが......どうしたものか」
「この岩をどかせられないですかね?」
「いや、もっと崩れて危ないだけだ。もっと奥から回ってみるか」
「分かりました」
俺たちは岩壁に背を向けて歩き出した。




