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第20話 依頼手伝い

 



 この小屋に来て2ヶ月くらいか。


 俺たち3人は修行している。

 ヌィンダから見込まれて、受けることになった。


 ミーヴだけは1人でひたすら本を読んでいるけど、この場所に魂術を扱う者はミーヴしかいないから仕方ない。


 そして俺たちは冒険者でもある。

 しかしそれは資金集めのためだった。


 この前の大会で賞金を得て、しばらく依頼を受ける必要も無かった......はずたった。



「―――で、ヌィンダさん。カジノ、楽しかったですか?」


「いや、その......」


 ミーヴがヌィンダを問い詰めている。


 ヌィンダは強者の風格など欠片もなく、目が左右に泳いでいる。

 正座して縮こまったヌィンダを見ても、とても大会優勝者には見えないだろう。


「私たちの天貨、どうなりました?」


「全部......無くなった」


 ヌィンダは今日もカジノに行った。

 俺たちが賞金として得た天貨を持ってだ。


 普段はこんなことしないのだが、どうやらカジノで賭け友達と勢いで約束してしまったとのことだ。


「まったく、趣味を嗜むのは勝手ですけど、自分のお金でやってくださいね」


「......はい。ごめんなさい」


 ヌィンダが力無く頷いた。




 ▶▷▶▷▶▷




 そんな訳で俺たちは冒険者ギルドに来た。


 ウドレストではなく、サトゥーアの方。


 金貨はまだあるが、買い出しとかその他の支出を加味するとすぐに無くなる、

 というのがミーヴの考えだった。


 相変わらず人が多い。

 力比べをしている者。

 それを見て賭け事をしている者。

 それを無視して食事をとるもの。

 それを賭け事に誘う者。

 それを力比べに誘う者。


 彼らを横目に、依頼掲示板の前に立つ。


「どれにする?」


「これだ、強欲級マモン悪魔の討伐!」


 シュゼは迷わず討伐系の依頼をとる。

 相変わらず、といったところだろうか。


 依頼書を取ったらとっとと受付に走っていって、

 とっととギルドから出ていってしまった。



「じゃあ私は......これにしよっかな」


 ミーヴが手に取ったのは捜索系の依頼だった。


「じゃあ俺は......そうだな......」


 どれにしようか。

 俺も2ヶ月で結構強くなったつもりだ。

 でも魂気の操作もまだ不完全なところがあるし、

 練習がてら悪魔討伐でもやろうか。


 強欲級マモン......はシュゼが取ったやつしか無い。

 じゃあこっちの暴食級ベルゼブブにするか。

 色欲級アスモダイだと弱すぎる。



「―――ねぇアルタ、何か見られてない?」


「え?」


 ミーヴに言われて振り向いてみると、確かに数人の冒険者がこっちを、俺たちを見ていた。

 どうしたのかと思っていると、そのうちの1人が話し掛けてきた。

 眼鏡が特徴的な金髪の、穏やか気な男だ。


「武闘大会で2位になったっていう冒険者は、君かい?」


「え? はい」


 俺がそう答えると、彼は驚きと安堵の表情を浮かべた。


「おぉそうかい。最近噂になってたよ?

 有望な新人が2ヶ月どこのギルドにも姿を見せないからね」


「あ、なるほど」


 そういうことか。


 大会で2位を取った新人冒険者、強欲級マモンも倒せる。

 そんなやつが2ヶ月姿を見せなければ、怠惰級が出た可能性とか出てくるだろう。


 実際はヌィンダに弟子入りして修行してただけだが。


 そうか、じゃあこれからもせめて1週間に1度くらいはギルドに顔出そう。




「ん? そっちの子はパーティメンバーかい?」


 彼はミーヴに目を向ける。

 その目にちょっとだけ萎縮してミーヴは答える。


「はい、アルタのパーティメンバーのミーヴです」


「ミーヴちゃんか。これから依頼かい?」


「はい。アルタ、行ってくるね」


「あぁ、行ってらっしゃい」


 ミーヴはシュゼとは対照的にゆったり歩いて受付に向かった。


「それで、何か用件が?」


「あぁ、少し大変な依頼を受けてね、強い者を集めてるんだ。勿論報酬は分配する。頼まれてくれるかい?」


「はい、いいですよ」


 悪魔討伐に行こうと思ってだが、それはまた今度でいい。


「そうかい、ありがとう。僕はヘブアルだ、よろしく」


「アルタです。よろしくお願いします」




 ▶▷▶▷▶▷




「ちなみに、そのリーダーってどんな人なんですか?」


「パーティの資金をカジノに持ってくクズ女さ。

 まぁ、増やしてくることも多いんだけどね」


 ......ヌィンダと気が合いそうだ。

 ヌィンダは減らす方が多いけど。




 ▶▷▶▷▶▷




 サトゥーア領の南、東方平原。


 1人の冒険者がそこに向かっていた。

 短い金髪に青い瞳。腰に携えた剣は、彼女の強さを誇示している。


 名をシュゼといった。


 シュゼは馬車に乗り、

 サトゥーア領の外に向かう馬車を乗り継ぎ、

 東方平原に着いた。


 シュゼは歩く。

 周囲をキョロキョロしつつ、広い平原に1歩1歩歩を進める。



 今回受けた依頼は、強欲級マモンの悪魔の討伐。

 シュゼの十八番である。


 シュゼは考え事をしていた。

 アルタのことである。


 2ヶ月前、シュゼはアルタに裸体を晒した。

 以降、アルタは模擬戦で手加減するようになった。

 同年代の女子を殴るのは気が引けるとのことだ。


 シュゼはそれに気にせず自分と戦えと返した。


 以降アルタは攻撃はするようになった。

 しかしそれだけだった。

 明らかに威力が弱かったのだ。


「......」


 シュゼは剣を抜き、手近にあった1本の木を斬った。

 木はピキ、ボキと音を立て、最後は低い音で倒れた。


「はぁ......」


 シュゼはため息をつく。

 アルタに、どうしたら本気を出させられるのか。


 最近の模擬戦は、シュゼが勝っている。

 何度かアルタが勝ったこともあったが、それはどちらかというとシュゼが勝たせた、と言うのが正しい。


 シュゼは、互いに本気でやり合うことを望んでいる。

 会った当初、シュゼはアルタを見くびっていた。

 しかしその考えは払拭された。


 自分を一瞬で倒したヌィンダと、アルタは戦うことができた。

 シュゼはそれを受け入れ、本気のアルタに勝つことを目指した。


 シュゼが女と判明する前は、彼女はアルタに勝ったことが無かった。

 シュゼが女と判明した後は、彼女はアルタに勝ったことがあった。


 しかしシュゼが望むのは本気のアルタ。

 今の手加減された状態で勝っても、嬉しくないのである。


「どうすりゃいいんだ」


 そんなシュゼの呟きに答える声―――

 鳴き声がいた。


「ガルル......」


 黄色の色石を持つ悪魔。

 狼に近い姿をした、黒い毛並みの強欲級マモン悪魔である。



「ガウッ!」


 悪魔がシュゼに飛び掛かる。

 黒く染まった毛並みがキラリと光った。


「ふっ!」


 シュゼは剣を振った。

 悪魔の首目掛けて、当然殺すつもりで。


 そして悪魔の首は胴と泣き別れとなった。

 肉塊が落ちる音が2回続く。


「これで終わりか? じゃあギルドでまた違う

 依頼でも......いや、あの力比べに参加してもいいな」


 シュゼは気づいていなかった。

 悪魔の体が溶け出さないことに。

 黄色い色石が、白色に染まって行くのを。


 悪魔が怠惰級ベルフェゴールに変異していくのを。




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