第14話 武闘大会
1週間たった。
1日に依頼を4~5個くらいやって、資金もだいぶ貯まった。
ちょっとくらいの贅沢は許されそうだな。
利益の1部で3人分の装備を買った。
ちなみに、俺とシュゼが買い物中にトラブって、資金管理はミーヴの仕事になった。
まぁ、俺も資金管理とか得意じゃないし、その方がいい。
「武闘大会か~。楽しみ~!」
ゴロゴロと鳴る馬車の中。
隣に座るシュゼは興奮が収まらないらしい。
ギルドで隣領地で開催される武闘大会について聞いた。
領主主催の、殺す以外は何してもいい個人戦。
それを聞いたシュゼが目を輝かせて
「行こうぜ!」と言った。
もともと各地をまわる予定だったし、全員で行くことにした。
晴れた日の下、馬車が草原を走る。
「―――アンタたち、武闘大会に行くのかい?」
向かいの席に座る女に話し掛けられた。
「そうだ。絶対優勝してやる!」
シュゼが食ってかかる。
それを見てその女は笑う。
「ハハ、優勝か。やめときな、精々2位か3位だよ」
シュゼがその言葉に「あ?」とこぼしたので、それを何とか抑える。
「シュゼちょっと抑えて―――何故です?」
「ここ数年で出てきた猛者がいるんだ。出場すれば絶対そいつが勝つ。まぁ、賞金はトップ5人まで出るから、みんな2位~5位を目指すんだ」
ほう。
そんなに強いのが。
ていうか、それってまさか......
「その猛者って、どんな人なんです?」
まさか、あの天使......
「えー、ひと言で言えば、初老の女って感じだね」
じゃあ違うか。
奴は男だ。
「そうですか......だってよシュゼ」
「関係無い! オレが優勝するんだ! その女もオレが倒してやる!」
シュゼは今の話を聞いても止まらないらしい。
「ハハ、アンタ面白いこと言うね。ま、アタシも出場するんだ。賞金目指して、それなりに頑張るつもりさ」
そう言って女は席を立つ。
「御者さん、下ろしてくれ」
「あいよ」
女が御者に金を渡す。
「どこ行くんです?」
「寄り道だよ。大会で会おう」
女は馬車を降りてどこかへ行ってしまった。
▶▷▶▷▶▷
隣領地、ウドレスト領に来た。
ちなみに天世界に"国"はない。
天世界を1つの国として見る、と言えば分かるだろうか。
とは言え、天世界の領地はそれぞれが全て、前世の国のように栄えている。
「おぉ」
思わず声がこぼれる。
2人ともそれを止めたりはしない。
綺麗に舗装された大通り。
その先に大きな壁が見える。
分かりにくいが、多分あれが闘技場だと思う。
その証拠に、壁の下の方で受付をしている冒険者がたくさんいる。
町行く人は冒険者が多い。
やっぱり大会の参加者なのか。
「アルタ、まずは宿だよね」
見惚れていると、ミーヴにつつかれた。
そうだった、まず宿をとらないと。
▶▷▶▷▶▷
宿の部屋取り。
武闘大会の応募。
その他諸々して、今は冒険者ギルドにいる。
「くっそ! なんで! なんで強欲級無いんだよ!」
隣に立つシュゼが叫ぶ。
強欲級の討伐依頼が無いらしい。
でもむしろこれで良かった。
今回はミーヴも連れていく。
いきなり強欲級だと厳しいだろうからな。
「これにしよう。暴食級の討伐」
俺の提案にシュゼは少し嫌そうな顔をする。
「はぁ~......分かった。さっさとしようぜ」
「おう。ミーヴはこれでいいか?」
「うん、いいよ」
ミーヴが頷く。
その目にはやる気が満ちている。
了承を得たら、3人で受付に歩いていく。
「あの、この依頼お願いします」
「はい、暴食級討伐ですね。報酬の契約はこちらで澄ませておきます。お気をつけて」
「はい」
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暴食級の悪魔。
冒険者基準で言うと、普通にやってれば勝てるくらいの強さ。
強欲級を倒せれば強者、怠惰級を倒したら超強い。
その地の領主から家来にならないか誘われることもあるとかないとか。
そして今、ミーヴは悪魔と対峙している。
1人でだ。
ヤバそうなら助けに入ることになっている。
「......」
ミーヴの視線の先、牛よりひと回りか、ふた回り大きいくらいの悪魔がいる。
悪魔は動かない。
ミーヴの出方を伺って、警戒している。
いや違う。
ミーヴをナメてる。
「ブモォォオ!」
『さっさと終わらす』」とでも思ったのか、悪魔はミーヴに突進してきた。
それに合わせて、ミーヴか手を向けて言う。
「―――魂術『水貫現象』!」
直後、ミーヴの手先から水の線が出て、悪魔を貫いた。
しかし悪魔はまだ死なない。
1度退いて、驚いた様子でミーヴの周りをゆっくり周回する。
穴からは血が垂れているが、こらえているようだ。
そこでミーヴがもう1発、また1発撃ち出す。
「グゴ、グ......」
悪魔の体に無数の穴が空き、ドサッと倒れた。
体が溶けて白い煙が立つ。
「やった! やったよ、アルタ、シュゼ! 暴食級倒せたよ!」
ミーヴが振り向いて、飛び上がって喜ぶ。
暴食級は強くも弱くもないが、ミーヴが戦い慣れてないと考えれば結構凄いだろう。
「......ふん、暴食級なんて倒せて当たり前だし」
シュゼは手厳しい意見を言う。
そりゃシュゼはそうかもだが、ミーヴは違うんだ。
いい結果だ。
「俺は凄いと思うぞ、ミーヴ」
「ありがとう!」
悪魔の体は溶けきって、消滅した。
その場に赤い色石だけが残る。
俺はそれを回収する。
ギルドに提出して、依頼料を貰いに行くとしよう。
「そろそろ戻るか、ミーヴ、シュゼ」
「うん」
「おう」
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その後、武闘大会当日まで、ミーヴの魂術特訓をした。
その間、俺たちだってミーヴを指咥えて見てた訳じゃない。
俺とシュゼは個別に討伐系の依頼をこなしていった。
たまにミーヴの特訓の相手をしたりもしたし、
俺の戦いにミーヴを参戦させたりもした。
もちろん参戦はミーヴの同意の上でだ。
ミーヴの成長は凄まじかった。
魂術についてはよく知らないけど、そんな俺でも分かる。
もともと才能があったのだろう。
あの腕輪を着けてからそれが解放された感じだ。
そんなこんなであっという間に大会当日。
「―――ついに今日だな」
「この大会でお前ともやりたいと思ってたんだ、アルタ。オレ以外の奴に負けんなよ」
「あぁ。―――ミーヴは? 本当に参加するのか?」
「うん。特訓はそのためでもあったしね」
「そっか」
闘技場の前。
俺たちは出場者として門をくぐった。