第13話 強欲級
「―――6泊ね、銀貨12枚だ」
「はい」
「1、2―――12枚、確かに貰った。部屋は階段から4番目のとこだ」
街の外れの方の宿屋まで来て、受付に金を渡して部屋を借りた。
金も大量にある訳じゃないから、なるべく安いとこがいいと思ってここまで来た。
道中、シュゼは不満そうにしていて、早くしろオーラ全開だった。
「じゃあミーヴ、この宿で魂術の練習しといてくれ」
「うん......行ってらっしゃい」
ミーヴは少し申し訳なさそうに手を振った。
そんな顔しなくても、俺たちはちゃんと倒してくる。
「よしシュゼ、もういいぞ、行こう」
俺のそのひと言でシュゼの表情が明るくなる。
「おう、さっさと行くぞ!」
そう言った途端、シュゼが走って外に行ってしまった。
俺も慌てて追い掛ける。
気を抜いたらはぐれてしまいそうだ。
▶▷▶▷▶▷
森まで来た。
もちろん、森と言っても神殿に続くあの森じゃない。
街を出て、ミーヴの村とは逆の方に行ったところにある森だ。
依頼を出したこの森の木こり達いわく、数日前に強欲級の悪魔が見つかったらしい。
今のところ被害は無いが、危険だから倒してくれとのこと。
「―――で、その悪魔はどこにいんだよ」
「さぁ、もっと奥じゃないか?」
歩き出してしばらく経つが、悪魔は見つからない。
シュゼがしびれを切らすのも時間の問題だ。
早々に見つけなければ。
そう思っていたら。
「ちくしょう、何でこんなとこに強欲級が......!」
1人の男が前から走ってきた。
服は所々破れていて、汚れている。
誰だろう? どこかで見た顔......
「ハァ、ハァ。ん? あ、おい! ギルドのガキじゃねぇか!
この先に強欲級がいる! お前らも逃げろ!」
男が俺たちに気づいて叫ぶ。
ギルドのガキ?
......思い出した、ギルドでシュゼに斬られた奴か。
「悪魔! 上等だ、オレが倒してやる!」
「お、おい!」
シュゼが飛び出した。
男は青い顔でそれを見送った。
「何があったんですか、他のパーティメンバーは?」
「調査の依頼で来てたら、いきなり奴が出たんだ......。
俺以外のやつはもうやられちまった......!」
男は血を垂らしながら話す。
その傷も、逃げているときにつけられたんだろう。
「俺たちは依頼で、その悪魔を倒しに来ました。あなたはその間に逃げて!」
俺はそれだけ言って、全力で走り出す。
シュゼがもう戦っているかもしれない、急がないと。
「おい! 待ってくれ! 悪魔に呑み込まれた奴が―――」
後ろから何か聞こえた気がした。
▶▷▶▷▶▷
「はっ!」
「フギャァァァア!」
音がする方に走っていくと、シュゼと悪魔の姿が見えた。
蛇のような形をした悪魔に、シュゼが剣で斬り込む。
肉の断面が見え、そこから血が噴き出す。
「ギァァァア!!」
「っ!」
悪魔が痛みで尻尾を振り回した。
それがシュゼに当たり、吹っ飛ばされる。
防御はしたようだが、怪我はした。
悪魔が追撃を仕掛ける。
まずい!
「だあっ!」
間に合った。
攻撃が届くすんでの所で、俺は悪魔を殴った。
「おい、邪魔すんな! あいつはオレが倒す!」
「助けてやったんだろ! 早く立て!」
悪魔は今の一撃で少し怯んだ。
距離をとって、こっちを警戒してる。
額の黄色い宝石がキラリと光った。
「今の一撃で警戒が強まった。どうする」
「......さっき斬ったとこをもっかい斬る。注意逸らせ」
「分かった―――ふっ!」
思いっきりジャンプした。
悪魔がこっちをギロリと見る。
いいぞ、注意はこっちに向いた。
悪魔が釣られて、口を開けて突っ込んでくる。
斬れた部分は傷があらわになった。
「ぐっ......!」
両手両足で口が閉じるのを防ぐ。
なかなかの重さだ。
でもこれくらいなら耐えられる。
「はぁあ!」
無防備になった傷にシュゼが走り出す。
ザシュ!
「ギァァア!!」
鈍い音と悪魔の叫び声が聞こえて、俺は吐き出された。
ドサッと悪魔の体が崩れ落ちる。
悪魔はしばらくのたうち回ってから、ピクリとも動かなくなった。
悪魔が白い煙を出して溶け始めた。
死んだってことだろう。
斬られた断面から血がドバドバ流れる。
「アルタ、その色石はお前が持ってろ。ギルドに出す」
「え? あ、あぁ」
色石と言われて悪魔の方を見ると、黄色い宝石は溶けずに残っていた。
この宝石のことだよな。
色石と言うのか。
一瞬シュゼが宝石を欲しがってるのかと思ったが......なるほど、色石を届けて討伐を証明するのか。
俺は色石を取ってシュゼの方に向かう。
剣に血がベットリついていて、それを振り払っている。
「取ったぞ」
そう言ってシュゼの方を見て気づいた。
死体の断面から人の足が飛び出している。
駆け寄ってみると、女が1人、いた。
何とか引っ張り出してみる。
「どうした、早く帰るぞ」
「待って、人がいる。連れてかないと」
そこでようやくシュゼも気づいたらしい。
「もう死んでんだろ、早く行くぞ」
「待ってくれ、まだ息があるんだ」
「......ふん」
待ってくれることにしたらしい。
シュゼは腕を組んでその場に佇んでいる。
「......で、どうやって連れていくんだ?」
「そりゃ、おぶって行くしか―――」
そこまで言って気づいた。
女の服が溶けている。胸とか股とかはいい感じに隠れているが、それでも露出が多い。
このまま街に行ったら......まずいな。
「......どうしようか?」
「......」
シュゼが呆れた目でこっちを見てる。
「はぁ~」とため息をつかれた。
クルっと後ろを向いて歩き出してしまう。
どうする?
俺の上着を被せようにも、女の体を隠すには小さい。
かといって置いてく訳にも行かないし......
「ん?」
シュゼの声が聞こえた。
見てみると、シュゼが嫌そうな顔で向こうを見ている。
どうしたのかと思っていたら、あの男が来た。
「ハァ、ハァ。あ? ウソだろ、もう倒されてる......」
男がもうほとんど消えている悪魔の死体を見て、呟いた。
「......何しに来た」
シュゼが食って掛かる。
その手は剣にかかっている。場合によっては斬るつもりか?
「その剣はしまってくれ、何も悪いことはしない。ガキに任せて逃げちゃ示しがつかねぇと思って来たんだ」
その言葉にシュゼが剣から一旦手を離す。
「だが―――」
男は何かを言いかけて、こっちを見て目を見開いた。
「フェイル、フェイル! 助けてくれたのか!
ありがとう、本当に......」
男は俺の方に―――いや、フェイルと呼ばれた女の方に駆け寄ってきて、膝から崩れ落ちた。
彼は泣き出した。
▶▷▶▷▶▷
「―――と、そういうことだ。本当にすまなかった。そして、ありがとう」
男は話を終えて、俺たちに感謝と謝罪を述べた。
その横には、男のコートが着せられたフェイルが
眠っている。
というのも、この女―――フェイルは彼の婚約者らしい。
「......ふん、分かった許してやる。二度と雑魚なんて呼ぶなよ」
「あぁ、本当にすまなかった。......俺はルデンっていうんだ。今からでよければ、パーティに入ってくれないか?」
「いい、もうアルタとパーティを組んでるからな。お前らよりこいつの方が強い」
シュゼが俺の方を向いて言う。
「そうか......そうだな、お前らの方が俺らの何倍も強い。さて、俺らはもう戻らねぇと。じゃあな」
ルデンは立ち上がって、フェイルをおんぶする。
あ。
「待ってください」
「おん? 何だ?」
俺の呼び掛けにルデンが振り向く。
「聞きたいことがあるんです。
長い銀髪に灰色の目をした天使を知りませんか」
あの天使について知らないか聞いてみる。
なんでもいい。何か知っていれば、それがあいつに着く手がかりになる。
「―――いや、何も知らない。あと敬語はやめてくれ、自分の情けなさが湧き出してくる」
「そうです―――そうか。なんでも、小さな事でもいいから、何か無いか」
「悪いが、本当に何も知らない。そんな話も聞いたことが無い」
聞いたことも無い。
あいつはそんなに目立たないのか?
あそこまで強ければ、何か噂があってもおかしくないと思うが......
「聞いたことは無いが、そうだな、俺も聞き込みしてみよう。恩返しさせてくれ」
「それはありがたい。俺たちは街外れの宿にいる。何か分かったら来てくれよ」
「あぁ、分かった。じゃあな、アルタ、シュゼ」
傷も治してやりたいところだけど、あいにく俺たちには魂術ができない。
ルデンとフェイルは、街の方に歩き出した。
フェイルに着せられたコートも破れているけど、元の溶けた服よりだいぶいい。
「俺たちも行くか」
「おう」




