第12話 刃術使いの冒険者
冒険者ギルド。
前世では確か魔物の討伐とか、
誰かの護衛とか、
薬草採取とか、
そういう仕事をする人間が集まる場所だったか。
天世界を回るならいい職だ。
「だからなんでダメなんだ!」
苦労は思ったより早く来た。
ドアを開けたらそんな怒鳴り声が聞こえてきた。
声の方を向くと、短い金髪の少年と男たちが言い争っているようだ。
「ガキなんか入れたくねぇつってんだろ。一丁前に剣なんか持ちやがって」
「オレをその辺のと一緒にすんな! 悪魔だって簡単に倒せる!」
男の言葉に少年が反論する。
「ケっ、もっとマシな嘘はねぇのかよ。じゃあな、雑魚」
そう吐き捨てて男たちが去ろうとしたときだ。
シャっ!
「―――あ?」
少年と話していた男の頬に、一筋の赤い線ができていた。
そこから血が垂れていく。
「雑魚だ?」
少年が剣を抜いていた。
―――驚いた。かなりの速さだった。
気を抜けば俺だって切り伏せられそうな程には。
ギルド内、言い争いを無視していた者は視線を少年に向けた。
面白がって見ていた者は驚いて目を丸くした。
「クソガキが! ナメるなよ......」
男が自分の剣に手を掛けて、殺気が漏れ出したとき―――
「や、やめて下さい! ここはギルドです、傷つけ合う場所ではありません!」
職員の1人が、慌てて止めに入った。
怯えた声で、膝も少し震えている。
「......チっ、わーったよ。お前ら、行くぞ」
「......ふん」
お互いに剣を戻す。
男は仲間に傷を治してもらいながら去っていった。
「アルタ、あの子......」
すごいなと思っていると、ミーヴが腕を引っ張って言ってきた。
「どうする?」
「うーん。俺としてはパーティに入って欲しいところだけど」
俺が言うと、ミーヴの表情が少し不安そうになった。
「あの子を? ちょっと怖いよ」
「でもなぁ......」
あいつは相当強い。
俺とミーヴで悪魔と戦う場合、俺が攻撃役、ミーヴが回復役になる。
それだとミーヴを守りきれないかもしれない。
だからミーヴを守れるやつ。
もしくは俺がミーヴを守る間、攻撃ができるやつが欲しい。
「分かったよ、あの子に入って貰おう」
「え、いいのか?」
「うん。ちょっと怖いけど、アルタにも考えがあるんでしょ? それなら私は何も言わないよ」
「そっか。分かった、ありがとう」
俺はさっきの少年に近づいていく。
ミーヴは受付の方に登録をしに行く。
俺が近づいてきたのに気づいた少年が、こっちを見た。
「―――何だよ、オレに用か?」
そして話し掛けてきた。
「あぁ、一緒にパーティを組みたいんだ。いいか?」
「ハッ、お前らみてーな雑魚と組んでたまっかよ」
雑魚......
まあいい、こういう奴はほどほどに言い返してやる。
「お前だって雑魚って言われてパーティに入れて貰えなかっただろ」
「ぐっ......」
俺が言い返してやると、少年はこっちを睨みつつも黙りこくってしまった。
「それに、俺だって強いぞ、自信はある」
「何?」
少年が少し興味が湧いたように聞き返した。
「事情があってパーティに3人目が欲しいんだ。お前もどこか入りたがってただろ?」
「......」
少年は黙ったままだ。
だが表情は変わっていない。
「......分かった、お前のパーティに入る。足手まといになんなよ」
「あぁ、心配するな」
よし、何とかオッケーしてくれた。
「俺はアルタ、名前は?」
「シュゼだ」
シュゼね。
「シュゼか、よろしくな」
シュゼをパーティに入れるのに成功したところで、ミーヴがこっちに来た。
「アルタ、職員さんが2人以上の方がいいって」
「そうか。ちょうど了承も得たことだし、3人で行くか」
「アルタ、こいつは?」
シュゼがミーヴの方を見て聞いてきた。
「パーティメンバーの1人、名前はミーヴだ」
パーティメンバーと聞いて、シュゼは少し嫌そうな顔をした。
確かにミーヴは俺とシュゼに比べればちょっと弱いけど、役立たずではない。
「シュゼだ。足手まといなら見捨てっから」
「ミーヴです、よろしく」
「......」
一応自己紹介が終わったので、改めて登録をしに行く。
ミーヴは2人以上って言ってたから、これで問題ないはず。
「あの、冒険者登録したいんですけど」
「はい―――3人ですね。こちらに名前とご自身が使う術を書いてください」
「はい」
渡された紙には、10人分の空欄があった。
パーティの最大人数は10人ってことか?
まぁいい、さっさと自分の名前と術を書こう。
俺の場合は体術だよな。
アルタ、体術っと。
ん?
「あの、この討伐悪魔の最高罪級とは?」
「はい、そちらは過去に倒した悪魔の中で最も高い罪級を書いてください。
倒したことがなければ何も書かなくて結構です」
そうか、えっと......いないな、倒した悪魔。
この前に神官が倒した奴は戦っただけで倒してはいないもんな。
「......書き終わったぞ、次どっちだ?」
「オレが書く」
シュゼが俺の手からペンを取って、俺の下の欄に書き始めた。
ちょっと覗き見......
シュゼ、刃術、強欲級。
「ミーヴ、罪級......の順番って?」
さっき言ってた、罪級。
多分、悪魔の強さランクみたいなものだと思う。
「えっとね、上から傲慢級、嫉妬級、憤怒級、怠惰級、強欲級、暴食級、色欲級、だよ」
「おっけ、ありがとう」
罪級は7段階。
俺が戦った怠惰級って真ん中なのか。
憤怒級だってヤバかったのに、上の2つはどんな化け物なんだ。
「―――おい、書いたぞ」
シュゼがミーヴに紙を渡す。
ミーヴは紙を受け取って自分の事を書いた。
「アルタさん、シュゼさん、ミーヴさんですね、登録完了です。あとはご自由にどうぞ」
職員が紙を持って奥の方に行ってしまった。
「アルタ、どの依頼受ける?」
ミーヴがふとそんなことを聞いてきた。
指差している方を見ると、デカい掲示板に依頼がいくつも貼られていた。
1枚、また1枚と、どこかの冒険者が剥がして受付に来る。
「これにしようぜ、悪魔討伐のやつ」
シュゼが1枚持ってきた。
「え、強欲級なの? やめようよ。色欲級にしよ......?」
ミーヴはあんまり気乗りしないらしい。
そりゃそうか、
バルシーいわく、ミーヴはまだ悪魔を倒したことはあっても、
それは色欲級で、ナリアの手も少し借りたものだったらしい。
「はぁ? 色欲級なんてつまんねーよ。最低でも暴食級だ」
「でも......」
シュゼはミーヴの反対を押しきりそうな勢いだ。
ミーヴは萎縮してしまって、最初に会った頃みたいになっている。
俺としては暴食級でもいい。
でもミーヴはな......
俺も掲示板からもっといい感じのものが無いか探してみる。
......。
............。
..................無い。
パッと見た感じだと見つからない。
じゃあどうしようか。
ミーヴとシュゼは、なんやかんや暴食級でいいということになりそうな雰囲気だが、
あくまで渋々って感じだ。
危ないよな......。
ミーヴはまだ魂術を2つしか使えない。
魂術のノウハウは分からないが、
2つだけじゃ、まだ実戦向きじゃないだろう。
うーん......あ!
「ミーヴは宿で待機、ってことにすればいいんじゃないか?」
「「え?」」
俺の提案に2人が振り向く。
「この後宿借りてさ、俺とシュゼで悪魔討伐に行くから、ミーヴは宿で魂術の練習。
それでどうだ?」
考えとしては、この街で情報収集するためにしばらく滞在する。
聞き込みをしつつ、シュゼと悪魔討伐に出向いて日銭を稼ぐ。
ミーヴはその間魂術の練習に努める。
よし、これで問題ないな、うん。
「......そうだね、分かったよ。じゃあ、その依頼、受けてこよ」
ミーヴのその言葉に、シュゼが満足そうな表情を浮かべた。
「よっし! そういうことならさっさと行くぞ!」
シュゼが持っていた依頼書をぺらぺらさせてさっきとは別の受付に行った。
俺たちもそれについていく。
「おい、オレたちはこの依頼を受ける!」
「あいよ、これは......強欲級? あんちゃん、ホントにこれでいいのかい?」
「いいから早く受けさせろって」
「はぁ、あいよ。どうなっても知らねぇぞ?」
受付職員がため息をつきながらオッケーを出す。
「アルタ、早く行くぞ!」
「落ち着けって、先に宿を借りる」
俺がそう言うと、シュゼの興奮が冷めた。
「分かったよ、さっさとしろよ」
「あぁ」
生命神から貰った資金は手をつけていない。
まぁ、1人分しか貰ってないからすぐに足りなくなるだろうけど、
それは冒険者として稼げば何とかなる。
俺たちは冒険者ギルドを出た。




