変なハンマーしか装備できなくなった男がその能力に気づく話
俺はトール。昔は戦士として「北の星団」というパーティで活動していたが、街の露店で買った小さいハンマーを買って手にしたところ、そのハンマー以外を武器に使おうとすると手から離れてしまう呪いにかかってしまった。
最初はハンマーで頑張ろうとしたが、30㎝しかないハンマーで戦うのは無理があった。リーチがなく、威力も中途半端。最初の戦闘で早くも怪我をしてしてしまい、それがもとでパーティにいづらくなり、自分から離脱。それ以降はソロとして一人で薬草採集や調査などを中心に活動し、ときおり雑魚モンスターの討伐などをしている。鉄級冒険者として暮らす日々だ。
そんな生活をして、早2年。一緒にパーティを組んでいたメンバーたちは俺の代わりに新たな戦士を入れた後、もともと才能にあふれたメンバーだったため、徐々に頭角を現していった。
今じゃあいつらは銀級冒険者の仲間入りし、飛ぶ鳥を落とす勢いの若手パーティとして注目されている。一方の俺はというと、「鉄のかなづち」と揶揄されるながら、ソロで日銭を稼ぐ日々だ。
今日も霧の山で薬草採集をしている。昨日酒場で「北の星団」がワイバーンを討伐した話が耳に入ってしまった。そのせいで、イライラしてしまう。
別にあいつらが何をやった訳でもないのでひがみでしかないのは分かっているが、そう割り切れたら既に冒険者を辞めている。それはそれとして黙々と薬草を集めて背負子のかごに入れていた。
誰にも会いたくなくてふもとの方から徐々に奥へ進んでいき、気づいたら普段来ない山の中腹まで来てしまっていた。
背負子に半分ほどの薬草が入ってふと立ち上がると、妙な感じがした。
辺りが静かすぎる
霧の山は薬草が良くとれる山で、麓から中腹にかけては、草食の魔物やそれを追う肉食の魔物などがいる。決して静寂な場所ではないのだが、今日に限ってなにも聞こえない。霧の山の由来になった霧も出だしており、気づいたらあたりの空気がピリピリしてきている。
こらやばい予感しかしない。そろそろ帰るか…と思っていたら、藪がガサガサとなり、赤い目をした1.5mはある巨大なボアが出てきた。
まずい。あいつはC級モンスターのビッグボアじゃねえか!しかも興奮状態で戦いが避けられそうにない。ぼーっと立っていたのが災いし、目が合ってしまう。あちらは早くも戦闘態勢。やばい、最悪だ。
このハンマーを手にしてから、倒せるモンスターはせいぜい単独のゴブリンやホーンラビットみたいな雑魚だけしかいねえ。が、何とかコイツでやるしかねぇのか。
右手にハンマーをもって、後ずさりしながら徐々に距離を開けていく。まともに戦っても勝ち目がないので、いいやつ一発ぐらい当てて逃げおおせるか。
と思ってたらビッグボアが突撃してきた。距離が一気に詰められてぶつかりそうな刹那、横っ飛びになってよける。よけながら、ハンマーを振るうが、そのころにははるか先に行ってしまい、空振りに終わる。
直線的な動きのおかげでよけられはしたものの、あの大きさであのスピード、ぶつかったら下手すりゃ即死である。
そんなことを思いながら態勢を立て直したときには次の突進が来てたが、直線的な動きのお陰で、二度目も何とかよける。
これで諦めてくれると助かるだが・・・と思っていたら、また突進してきたので、横っ飛びになりながらよける。
これを何度も繰り返しながら徐々に下っていくが、ビッグボアは全然諦めてくれない。こんだけ突撃してたら疲れてきそうだが、勢いも一向に衰えない。
一方こちらは当たれば即死の突進をよけてるせいか、よける度に緊張が走る。
少しずつ疲れが出てきているのか、よける度に徐々にその距離が短くなってきている。
さっきの突進をよけた時に、牙が腹をかすめ、革鎧にキズがつく。もうジリ貧だ!
こうなりゃこちらから攻めるしかない。覚悟を決めた俺はハンマーを構えてビッグボアをにらみつけた。あちらも何度もよけられてるせいか、後ろ脚で土をけりながら、タイミングをはかってるようだ。
よけながら何度かなぐろうとしているが、硬い毛と皮に阻まれてダメージは全然入ってない様子。ビッグボアの急所はたしか眉間。さて、あそこにどう当てようか。
覚悟を決めてハンマー片手に突進した。一瞬ボアが意表を突かれた様子だが、こちらに向いて進もうとしてくる。
今がチャンスだ!と思ったのもつかの間、疲れが出たのか木の根に足を取られ、つんのめってしまう。
その拍子にふりあげたハンマーが手から離れる・・・チャンスとばかりにビッグボアが前に向かってきた。
あ、やばい。これ死んだわ・・・と思ったところ、奇跡が起きた。
シュルシュルシュルシュル~~~~ゴン!手から離れたハンマーが回転しながらボアの方へ飛んでいたかと思ったら、なぜか軌道を変えて眉間に直撃した。
「ブモー!!!」
向かおうとしていたさなかにカウンター気味に入ったため、たまらず雄たけびを上げるボア。
どうやら効いてる???
投げたハンマーが軌道を変えたように見えたが、さっきのは偶然だったのだろうか?
そんなことを思っていたら、ボアにあたったハンマーが回転しながらこちらの手元に落ちてきた。
ん~この呪いのハンマー、もしや投げる用途なのか?ハンマーを投げるやつなんか見たことがないが、ものは試しだ。
トールは手元に落ちたハンマーを拾った。
そして、眉間に狙いをつけ、全力でハンマーを投げてみた。さすがに投げたことのないハンマーでは狙いが定まらず、軌道はビッグボア頭の上あたりにそれそうな様子だったが、急に軌道が変わり再びビッグボアの眉間に直撃し、トールの手元に戻ってきた。
2年間気づかなかったが、これがこのハンマーの力なのか???
2度も眉間にハンマーが直撃したボアは、フラフラの様子。これはチャンスか?
トールは何度もハンマーを投げてボアをヒットさせた。6度目のハンマーが直撃した時に、何とかこらえていたビッグボアが倒れて、しばらく痙攣したのち、動かなくなった。
「死んだのか…」
トールはボアにちかづき、解体用ナイフで首筋を突いた。首筋からは血が流れて出てきた。
トールは武器としてナイフを使えない。つまり、死ぬか瀕死で戦えない状態だからビッグボアにナイフが刺せたのだ。
その後、血抜きを終えたビッグボアを持ち帰ろうとするが、あまりに重くて持ち上げる事すらできない。
本当によくこんなのを倒せたな。
そうしていると、向こうから見知ったパーティがやってきた。銅級上位のパーティ、「陽気な猩々」のメンバーだ。あいつらなら何とか助けてもらえそうか。
「おうトールか!相変わらず薬草採集か!儲かってるか?今日は依頼も早めに終わったし、一緒に一杯いかねぇか?」
こんなところでも、リーダーのジェイルが軽口をたたいてくる。
「おう、こいつを持って帰ってくれたらな。礼はする」
「こりゃあビッグボアがじゃあねえか!おめえがやったのか?」
「不意を打てたところを運よくな。俺一人じゃ持ち帰れねえ!素材の方は折半でどうだ。」
ヘロヘロの自分ひとりじゃ半分も持って帰れない。半分くれてもおつりがくる。
「おう、気前がいいじゃねえか。ちょい待ち、俺らに肝を分けてくれねぇか。それなら4:6でも構わねえ」
陽気な猩々のメンバー達もそれに賛成する。
忘れてた。ビッグボアの肝は新鮮じゃないと食えないうえ、これが酒の肴に最高なんだったな。ボアの肝の値段なんで知れてるのに、さすが酒に生きる男たち。
「・・・わかったそれで手を打とう。」
交渉が済むと早速奴らは手早く縛り上げ、一緒に街へと戻っていった。
「オラオラ~鉄のかなづちがビッグボア仕留めたぞ~!!!」
ジェイルが先導して道を開けてくれたおかげで、スムーズに受付までたどり着いた。
「トールだ。依頼の薬草と、ビッグボアだ。素材の報酬はボアの肝と、それ以外の4割をジェイルたちに」
解体場にビッグボアを運び、急ぎ肝だけを受け取ると、ジェイルへ渡す。やつの仲間がなじみの酒場へ一足先に素材をもって走った。
俺はというと、ジェイルたち残りのメンバーと一緒にしばらく待っていると、受付から声をかけられた。
「トールさんが仕留めたんですか~?確かにハンマーの跡しかなかったですし、本当なんですね~?それでは薬草の報酬が銀貨3枚と、ビッグボアの討伐報酬で金貨1枚。それ以外の素材ですが、状態が良かったそうです。先ほどの申し出通り分けまして、肝以外の部分でトールさんが金貨3枚、陽気な猩々の皆様が金貨2枚ですね。お疲れ様でした~。陽気な猩々さんの方は依頼の報酬もあるのであちらでお願いします~。」
金貨4枚…いつもが薬草で銀貨5,6枚がせいぜいのところ、その7,8倍も稼げたのか。
これもあのハンマーのおかげかと思いながら、酒場へ向かった。
酒場に行くと、既に一杯やってるジェイルたちを見つけた、自分のエールを頼んで席に着く。
「よう、今日はありがとな。助かったわ」
「はは!良いってことよ。依頼の帰りに臨時収入があってしかもビッグボアの肝まで手に入ってこっちこそ感謝したいってもんだ。」
そっからは陽気な猩々の面子のペースで飲んで騒いでの宴会。鉄のかなづちがビッグボアを仕留めたってので他の冒険者からもお祝いされた。こっちが勝手にやさぐれてただけだったのか。
そんな中、ふと酔っぱらいの一人がこんなことを言った。
「そういや~お前のそのハンマーでトールって神話の神様みてぇだな」
ん?なんだそれ???




