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【無口】

・【無口】


 次の月曜日。

 登校し、教室に入ると、今日はいつも遅刻ギリギリにやって来るダメグラがいた。

「珍しいね」

 と話し掛けると、ダメグラはゆっくりと頷いた。

「何で喋んないんだよ、喉でも痛めたか」

 と聞いてみると、ダメグラは机に広げていたメモ帳に何か字を書き始めた。

 ……『無口キャラはモテると思う』か……いや!

「そんなことないわ! だとしても今さらだし!」

 ダメグラは優しく首を横に振るだけで。

 何だよそのたっぷり感、教室のティッシュでワキ汗拭いていたヤツが今さら無口になってもしょうがないだろ。

 僕は自分の荷物を自分の机の上に置くと、すぐさまダメグラの隣の席に座って、話し掛けた。

「今からは無理だから。あと筆談というのもちょっと無口と違うから」

『そんなことない』

「ダメグラ、筆談するために先回りしてメモ帳広げているの、正直カッコ悪いぞ」

 するとダメグラは机の中から小さな白旗を取り出し、それを上げた。

「いや、降参ということか? もう降参なのか? カッコ悪いと言われて折れたのか?」

『まだいける』

「まだって耐えてるじゃん。もう耐え忍んでいるじゃん」

 そんな会話をしていると、毎朝元気なノノちゃんと奈津ちゃんが仲良く登校してきた。

「なのー! クラスのみんな! おはようなの! 今日も元気に頑張るの!」

「全員に同時に言うなんて効率が良いね! 憧れちゃう!」

「てへへへー、また奈津ちゃんに褒められたのー!」

 顔を緩みに緩みまくっているノノちゃんがニコニコしながら自分の席に座った。

 ダメグラとノノちゃんの席は隣同士なので、すぐさまノノちゃんがダメグラに話し掛けてきた。

「金曜日はノノたちが勝っちゃったの! ゴメンなの!」

 ノノちゃんはこれで煽っているという気持ちが一切無いらしい。

 それはそれですごいけども、オーソドックスにダメだと思う。

 それに対してダメグラはまた字を書き始めた。

『大丈夫』

 ノノちゃんは何だか呆然自失といった感じに体をだるっとさせた。ちょっと震えているくらい。

 一体何なんだと思っていると、

「ダメグラくんがショックでおかしくなったの……」

 すると即奈津ちゃんが、

「まだまだ長いリーグ戦! 一緒に頑張っていこう!」

 とダメグラを励ました。

 いやまあショックでおかしくなったわけじゃないし、理由を知っている僕がさっさと言うか。

「無口キャラがカッコイイと思って今やっているだけだから、大丈夫だよ」

 自分で言っていて、うん、大丈夫じゃねぇな、と思ったけども、ノノちゃんは、

「無口は確かにカッコイイの……ミステリアスなの!」

 と言ってキャッキャッと喜んだ。

 何がそんなに楽しいんだよ、と思っていると、奈津ちゃんが、

「今からキャラ変なんて向上心の塊だね! カッコイイよ!」

 と言ったので、この2人は他の人もダメにするんだな、と思った。

 ダメグラは何だか嬉しそうにホッコリとした笑顔を浮かべている。

 すると、隣のクラスのロネちゃんが教室に入って来て、こう言った。

「ほほほほーっ! ダメグラぁ! 良いユーチューバーの不祥事ニュース教えてぇー!」

 いや

「ユーチューバーの不祥事ニュースに良いも悪いも無い上に、よく考えたら全部悪いだろ」

 それに対してロネちゃんは、

「いやユーチューバーの不祥事ニュースは全部面白いんだよ! 地上波の芸能人に比べてやりたい放題強く過激なんだよ!」

 ダメグラはそんなロネちゃんに対して、こう書いた。

『そういうのはもう終わり』

 その刹那、ロネちゃんはダメグラのメモ帳をちぎってこう言った。

「そういうのはいいんだよ! 有名な漫画家がブイチューバーに百万スパチャしたとかそういう情報をくれよ!」

 怒涛の下品だなと思っていると、ダメグラはゆっくりと白旗を上げた。

 ロネちゃんはさらにその白旗を奪い、

「ダメグラぁ! オマエは白より黒のほうが似合う! もっと黒くて面白い話しようぜ!」

 と言いながら、ダメグラに手を差し伸べた。

 ダメグラはぶるぶる震えながら、ロネちゃんのその手を握り、

「ありがとう」

 と言った。

 いや何が? と思ったけども、何だかロネちゃんは感極まって、

「ダメグラぁ……オマエとは一生ゲス仲間でいようなぁ!」

 と声を震わせながらそう言うと、ダメグラは立ち上がって、ちょっとした間、見つめ合い、そして熱い抱擁をかました。

 何だよ、もう付き合えよ、とか思って見ていた。

 ダメグラとロネちゃんは一旦離れてから、ロネちゃんが、

「じゃあ、ちょっと、こっち来い。私とSNSでユーチューバーの悪口検索しようぜ」

 それに対してダメグラは青春モノ小説のラストばりの笑顔で、

「あぁ」

 と一言喋り、そのまま教室を出て行った。

 それを見ていた奈津ちゃんは嬉しそうに、

「アオハルだね! さわやかで憧れる!」

 と叫んだ。

 いや

「内容がカス中のカス。もはやガスだけども」

 というか審査コメントに対して、悪口SNSの助長とか言っていたのに、普通に悪口SNS楽しんでんじゃん。

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