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【4月(1戦目) vsノノ奈津ペア】

・【4月(1戦目) vsノノ奈津ペア】


 決戦の日。

 勝負は放課後に体育館のステージで行なわれる。

 いつもニコニコしているノノちゃんだけども、今日だけはさすがにちょっとピリピリしている。

 何かあると、ノノちゃんはキッとそちらを睨み、

「ノノは今ピリピリなの、山椒のターンなの」

 と言う。

 いやまあ微妙にホッコリしているけども。

 ダメグラはあんまり緊張している様子は無い。

 ダメグラ曰く、

「勝ってモテる日だから意気揚々でしかない」

 ということらしい。

 相変わらず鬼メンタルで羨ましい。

 僕は結構震えてしまうほうで、物理的に手や足が緊張でブルブルとする。

 奈津ちゃんはダメグラばりのメンタルで、いつも通りポジティブな物言いでクラスを沸かしていた。

 一応、練習はちゃんとできたし、多分舞台上でミスは無いだろう。

 あとはノノちゃんと奈津ちゃんのコンビ、そうノノ奈津ペアよりも会場の空気を掴めるか。

 それにかかっている。

 時間はあれよあれよと経過し、もう放課後。

 高2の2部リーグを前座に、ついに1部リーグのメンバー勢揃いとなった。

 2部は1ネタ2分で短く、拍手の人数・大きさで勝者が決まったら、すぐさまそのまま出場者はお帰りになるが、1部リーグはまずオープニングがあって、それから対決、最後にエンディング・トークがあって、本当に大きなイベントとなっている。

 ステージ上に、僕とダメグラのコンビ”炭酸トルネード”は勿論、ノノちゃんと奈津ちゃんのコンビ”ノノ奈津ペア”や、ロネちゃんのトリオコントグループ”みむく”に、ピンネタ師”蓮月凪”や、コントと漫才の二刀流”川島物語”もいるし、漫才師”アオイチエ”は今日も体が温まっている様子だ。

 まずそれぞれの出演者が対戦相手同士で固まり、意気込みを言い合う。

 僕とダメグラのコンビ”炭酸トルネード”とノノ奈津ペアは最後の出番になったので、意気込みも最後だった。

 順番が来て、僕は緊張しながらも喋りだした。

「前回覇者のノノ奈津ペアと当たりますが、圧に蹴落とされずに頑張ります」

 次はダメグラ。

 ダメグラは何を言うかなと思っていると、

「はい、優勝確定の炭酸トルネードです。消化試合行ないまーす。俺が一番面白いんで、よろしく」

 そう言いながらノノ奈津ペアのほうをヤンキーのように睨んだダメグラ。

 そんなメンチ切るお笑いコンビ嫌だろ、と思いつつ、意気込みのマイクはノノちゃんのほうへ。

「どんなー! こっからが始まりなのー! そして幸先のいいほうはこっちなの!」

 最後に奈津ちゃんがマイクを握り、

「よく言ったノノちゃん! ハッキリ言える人間に私もなりたい! いやなる! 勝っつのはこっちだぁ!」

 いやカッツの、って何だよ、と思いつつも、それを口には出せなかった。

 自分が緊張していることを改めて認識しつつ、バトルは始まった。

 1部リーグも2部リーグと一緒で拍手の人数・大きさで決まる。

 でも誰もそれで文句を言わないし、オーディエンスも良い意味でシビアなので、ちゃんとした結果が出ている。

 舞台袖で最終チェックを行なう僕とダメグラ。

 ダメグラはこういう時、ちゃんと応じてくれるので有難い。

 まあ勝ってモテたいわけだから、真面目にやることはやるんだろうなぁ。

 ついに僕とダメグラの出番。

 司会者から”炭酸トルネード”とコンビ名を言われて、そのまま舞台上に走って出て行った。

 今回の僕たちは漫才で、テンポの早い、詰め込み系のスピード漫才。

 喋りきって駆け抜けるぞ!


2人「はいどうも、よろしくお願いします!」

《俺もダメグラも、しっかりユニゾンして最高のスタートを切ることができた》

ダメ「昔話をネタにすることって怠惰だよな」

 涼「そんなことないわ。分かりやすくていいだろ」

ダメ「怠惰でいいんだよ、俺は怠惰で有名なダメグラだぞ。今日は昔話ネタします」

 涼「スッと始めればいいんだよ、怠惰を一旦お伝えするな」

《掴みはそこそこ、ここから怒涛のしゃべくりを開始だ》

ダメ「桃太郎を吐きます」

 涼「愚痴みたいに言うな」

ダメ「あのジジイとババアぁ……」

 涼「愚痴のように始めるな」

ダメ「ババアが川へ洗濯に、ジジイはどうでもいいですよね、この時のジジイほどどうでもいい説明いらないですよね。まあ洗濯中に何か起きることを知らせないための、ミスリードとしてのヤツなんですけども」

《ダメグラの長台詞も噛まずに言えて、内心ホッとした》

 涼「いやもういい、スッと言えよ」

ダメ「ババアが川で洗濯をしていると」

 涼「というかまずババアって言い方止めろよ。おばあさんって言え」

ダメ「川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「マッハじゃ掴めないだろ」

ダメ「川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「……いや、続きを言えよ。物語を進めろよ」

ダメ「いや、ここはハイライトだから長めにやるだろ」

 涼「全然ハイライトじゃないわ、大トロの部分じゃないだろ」

《ウケはまずまず、だとは思うが、まだ硬い雰囲気もある。ここから一気に捲り上げたい》

ダメ「いやだって川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が流れて来たら、すごいだろ」

 涼「そうかもしれないけども、桃太郎って意外とやることいっぱいあるんだよ。進めろよ」

ダメ「そのいっぱいが結局俺は覚えられなかったんだ」

 涼「漫才終わったあとの回想みたいなの入れてくるな、何なんだよ」

ダメ「というか俺は怠惰なんだよ、同じボケをさせてくれよ」

 涼「えっ? そういうことなのっ? 同じボケをして楽したいという話なのっ?

ダメ「そうだよ、怠惰な俺は正直もう別の言葉を発することさえ苦痛なんだよ」

 涼「確かにまあ怠惰という日本語、連発させすぎだもんな」

《ここでシステムを紹介し終えたので、ここからが勝負だ。巧くグルーヴを掴めるか》

ダメ「というわけで……川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「……」

ダメ「川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「……」

ダメ「川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が」

《しっかり間を持ってから、怒涛のツッコミを開始する》

 涼「……いや! マッハだったら”どんぶらこ”という音が鳴らないだろ!」

ダメ「川上からどんぶらこ・どんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「中の桃太郎大丈夫か! まだ赤子だぞ!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「中の桃太郎、柔らかい桃を突き破って飛び出しそうだな!」

《ここからどんどんテンポを上げていく》

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「いやまず桃自体が削れるわ!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「何か光が先で音が後から聞こえるみたいに、香りがだいぶ後から香ってきそうだな!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「よくおばあさん目視できたな!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「桃のせいなのか流れのせいなのか!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「桃の形状、戦闘機かよ!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「桃汁ジェットでも出していたのかよ!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「川上が神秘過ぎるだろ!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「川上が桃源郷過ぎるだろ!」

ダメ「川上からどんぶらこ、と、マッハの桃が」

 涼「いや! オマエ! 結構序盤にどんぶらこ回数を減らしてんじゃねぇよ!」

《それなりに大きいウケが出た。悪くはないが、よく考えたらちょっと遅いかもしれない。そういうネタとはいえ、少し焦ってきた》

ダメ「早めに減らしたほうが得だから。回数が多いとな」

 涼「まず回数を多くするなよ。いろんな種類のボケを言えよ」

《でも語気を強めないように、抑えたツッコミを続ける》

ダメ「いやでも実際問題、結構楽できたから俺、調子良いよ」

 涼「バスケでベンチに下がりまくったヤツみたいなこと言うな」

ダメ「でもそれと全く一緒」

 涼「そりゃ全く一緒だろうよ、休んでいたんだから」

ダメ「だけどさ、ここまで来たらもっと怠惰昔話を極めたいと思えてきたんだ」

 涼「自伝の地の文みたいなことを言うな」

ダメ「というわけで、こっから俺、ジジイがマッハで芝刈りしていた、と言い続けるから、いい感じにツッコんで」

 涼「いや! どうでもいい部分をやるなよ! せめてマッハで犬を仲間に入れろよ!」

ダメ「いや、芝刈りのくだりやるわ。今の時代、男女平等だから。登場回数は一緒にしたい。そういうことはやっていきたい」

 涼「厳密にはおばあさんもまだ出ていないんだよ。桃だけなんだよ」

ダメ「男女桃平等ね」

 涼「その場合は植物だろ」

《ここのツッコミは特に間髪入れずにツッコむ。次が間を持つ展開なので、対比を出すために》

ダメ「ジジイがマッハで芝刈り」

 涼「……」

ダメ「ジジイがマッハで芝刈り」

 涼「……」

ダメ「ジジイがマッハで芝刈り」

 涼「……いやまあ芝刈りの芝も植物だから、植物の出番いっぱいだな」

ダメ「ジジイがマッハで芝刈り」

 涼「そのくだりはどうでもいいんだよ、マジで」

ダメ「ジジイがマッハで芝刈り」

 涼「芝刈り機使ってるだろ」

《またテンポを早めていく、ここからはもう無心で、早くツッコんでいく》

ダメ「ジジイがマッハで芝刈り」

 涼「マッハで終わるのならば芝刈り以外のこともするんだろうな」

ダメ「マッハ芝刈り」

 涼「いやもう誰かの技名になったな」

ダメ「マッハ芝刈り」

 涼「プロレスの技の可能性もでてきたぞ」

ダメ「マッハ芝刈り」

 涼「異名か」

ダメ「マッハ芝刈り」

 涼「昔話ネタになってないぞ」

ダメ「マッハ」

 涼「オマエの怠惰どうなってんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「語感一発の人になってるから!」

ダメ「マッハ」

 涼「マッハと合わせると違和感のある言葉を言うんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「母音が”あ”が2つと小さい”つ”じゃないんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「いやそろそろマッハをもじった言葉を言うんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「素材の味を生かすレストランじゃないんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「収穫したまま客に手渡すんじゃねぇんだよ! 生で食べても全然おいしいですよ、と言う生産者じゃないんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「マッハは別にそこまでおいしくないからな! 元々!」

ダメ「マッハ」

 涼「昭和の特撮アニメ感しかないからな!」

ダメ「マッハ」

 涼「逆に疲れないか! オマエの中のマとツとハを使い過ぎて疲れないか!」

ダメ「マッハ」

 涼「箸休めも視野に入れろよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「待った! ……いや俺がもじっちゃったじゃねぇか!」

ダメ「マッハ」

 涼「マジでもう待てよ! マッハ以外のボケしろよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「そもそももうボケじゃねぇわ! マッハと言うだけのマシーンだわ!」

ダメ「マッハ」

 涼「誰だよ! オマエ作った博士誰だよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「それで最後までいけるといつ踏んだんだよ!」

ダメ「マッハ」

 涼「もう引っ込みつかなくなってるだろ! いいんだぞ! いつやめてもいいんだぞ!」

ダメ「マッハ」

 涼「勇気が出ないのかっ? マッハ以外の言葉を言う勇気が出ないのかっ?」

ダメ「マッハ」

 涼「大丈夫、オマエはもうボケじゃない! 何を言っても大丈夫なんだ!」

ダメ「真っ青」

 涼「あっ! 別なこと言ったぁぁぁああああああああああああ!」

《ここで体も大きく動かしながら、ツッコむ。2,3歩歩いた》

ダメ「何か……どんどんハードル上がっていく気がして……もう、マッハ以外、喋れなくなっていた……」

 涼「いやでも良くやった! よく別のことを言えた! それは素直に褒め称える!」

《ダメグラの肩を叩いて健闘するように言う》

ダメ「ちょっともじった感じでお茶を濁したけども……良かったかな……?」

 涼「むしろ安心した! 別の言葉も喋れるということが分かって安心したから!」

ダメ「良かったぁ……どうもありがとうございましたぁ……」

 涼「いや漫才のヤツじゃなくてマジのホッとしたヤツ! もういいよ!」


 僕たちの漫才のウケは正直なかなか良かった。

 あんまり見ないフォーマットだろうし、テンポ良く噛まずにちゃんと走り抜けられて良かった。

 さて、次は後攻の、ノノ奈津ペアの漫才だ。

 ノノちゃんが自由にボケて、それを奈津ちゃんがポジティブで返す独特の漫才。


奈津「はいどうも!」

ノノ「よろしくなの!」

《いつも通りの元気いっぱいといった感じだ》

奈津「ちゃんと挨拶できて偉い!」

ノノ「ノノは偉いの。社長のイスなの」

奈津「ふかふかだし、結構回転するヤツじゃん! 高級!」

ノノ「ノノはフィギュアスケート選手くらい回転するの」

奈津「じゃあもうただただ選手じゃん! 憧れちゃう!」

《相変わらず愛嬌のある2人だ。面白い以外の得点をバンバンとっていくイメージ》

ノノ「氷の上もすごい滑る屋さん、オープンなの」

奈津「どんなところでもお店を開いちゃう商魂の逞しさが素敵!」

ノノ「氷を削ってシロップ掛け屋さんも同時オープンなの」

奈津「すごい! 新しい概念! カキ氷を越えていると思う!」

ノノ「なのー、なのー、そうなのー、氷を削ってシロップ掛け屋さんが大盛況なのー」

《そうぶりっこのように体を優しく揺らすノノちゃん。その度に体のいろんなところが揺れて……なんて、よこしまな目では見ちゃいけないな》

奈津「さすがノノちゃん! 毎晩豪遊できるね!」

ノノ「でも氷の上ですごい滑る屋さんが絶不調で、全部売り上げをそこに補填していくの……」

奈津「いや補填という発想がまず素晴らしいよ! 私だったら放置しちゃうかも!」

ノノ「なのー、やっぱりそうなのー、ノノは当たっていたのー」

奈津「もう当たりまくりだよ! 一石二鳥ということわざの開祖くらい当たってる」

《テンポは一定だが、会場のウケは強い。舞台上も華やかなので、小細工しなくてもいいといった感じだ》

ノノ「じゃあこの調子でどんどん四字熟語作るのー」

奈津「偉い! 四文字熟語じゃなくてちゃんと四字熟語と言って四字熟語にするところ流石!」

ノノ「ノノ偉い……できたのー」

奈津「すごい! ノノは多分カタカナだし、送り仮名は完全にひらがな! 漢字一個でやりきる姿は鬼神そのもの!」

ノノ「やっぱりノノは偉いのー」

奈津「もうノノちゃん最高! 銅像の発注していいかなっ?」

ノノ「牛久大仏くらいデカいの作ってほしいのー」

奈津「中がミュージアムみたいになってるヤツね! 勿論その規模しか考えていないよ!」

ノノ「そしてその銅像の中でノノが住むのー」

奈津「すごい! 有名人は家を隠したがるけどもノノちゃんは逆に家を知らしめるなんて!」

ノノ「中にバンジージャンプ作っちゃうのー」

奈津「室内にバンジージャンプという発想が素晴らしいよ! バンジージャンプって暖かいところでできたら無敵だよね!」

《このツッコミにも大きなウケが。確かにバンジージャンプって暖かいところでしないよな》

ノノ「アクティビティ・スポットにするのー」

奈津「稼ごうとするという商魂の逞しさにもう後光が差してるよ!」

ノノ「オートロックだから出入り自由でも安心なのー」

奈津「そのオートロック信者ぶりが素晴らしいよ!」

ノノ「ノノはオートロックを愛でているの」

奈津「聖母マリアほどの慈愛に溢れている!」

ノノ「オートロックに毎日餌をあげるの」

奈津「こういうのって餌付けが肝心だからね! ちゃんと育てていて偉い!」

《ややシュールめのボケだが、ノノちゃんがノノちゃん過ぎるので、会場にちゃんと受け入れられている》

ノノ「いらなくなった鍵を食べさせるの」

奈津「鍵がいらなくなる人生ってすごい歩み! 常人には考えられないよ!」

ノノ「ノノは常人を越えた存在なの」

奈津「じゃあもう神様だ! お布施しなきゃ!」

ノノ「ビスケットでいいの」

奈津「お布施がビスケットでいいなら家計にも安心だね! すぐさま入信しなきゃ損!」

ノノ「でも特大のビスケットがいいの」

奈津「それは当然だよね! ノノちゃんなんだからビスケットは特大で愛を示さなきゃダメだよね!」

ノノ「味はチョコ味」

奈津「それ以外無いよね! チョコ以外の味って正直あんまり分からないよね!」

《奈津ちゃんの行き過ぎた相槌もウケている……というところで、一瞬間を作ったノノちゃん。果たして何を言うのか》

ノノ「ちょっと奈津ちゃん! チョコ以外の味もおいしいの! ノノは味覚バカじゃないの!」

奈津「しまった……言葉失敗した……」

《こうべを垂れて、明らかに落ち込んでいる演技をする奈津ちゃん。そのオーバーさもいちいち可愛げがある》

ノノ「ちょ、ちょっと、奈津ちゃん! うなだれてどうしたの!」

奈津「終わった……」

ノノ「ポジティブ奈津ちゃんがネガティブ奈津ちゃんになっちゃダメなのー」

奈津「へへっ、私は所詮ただの太鼓持ちですよ……」

ノノ「どんなー! 大変なのー! 奈津ちゃんが闇堕ちしちゃったのー!」

奈津「全然、私は元々こういうカスです」

ノノ「そんなことないの! 奈津ちゃんはいつもポジティブで明るくて楽しいのー!」

奈津「……本当に……?」

ノノ「勿論なの! 奈津ちゃんは最高なの! 最高のパートナーなの!」

奈津「ありがとう、ノノちゃん。何だか私……まだやれそう!」

《そう言って、ジャンピングガッツポーズをした奈津ちゃん。バカバカしい》

ノノ「やったの! やったの!」

奈津「ノノちゃん! チョコ味以外の味も最高だよね!」

ノノ「勿論そうなの! 味って最高なの!」

奈津「味っていいよね! 心が躍るよね!」

ノノ「そうなの! なの! なの! だからビスケットならなんでもいいの!」

奈津「いや寛大すぎるよ! ノノちゃん最高!」

ノノ「なのー! ノノの幸福感がマックスになったから漫才やめるのー!」

奈津「どうもありがとうございました!」


 相変わらず訳の分からないオチの漫才だ。

 でも会場はいつも通りウケている。

 それぞれのキャラが立っていて、見ていて華のある漫才だと思う。

 果たして結果は。

「では改めて登場してもらいましょう! 炭酸トルネード! ノノ奈津ペア!」

 司会に促されて、ステージ上に立った僕とダメグラ、そしてノノちゃんと奈津ちゃん。

 この時はダメグラもちょっと緊張しているようだ。

「ではまず炭酸トルネードのほうが面白いと思った人は拍手!」

 拍手はそれなり、そこそこ、つまりは一歩足らずな雰囲気。

 今回も届かなかったか、と肩を落としそうになるが、まだノノ奈津ペアの結果は出揃っていない。

 なんとか気を保って立っていたが、ノノ奈津ペアへの拍手は万雷だった。

 その後、エンディング・トークも意気消沈したまま終了し、後日、観客の審査コメントが発表される。

 見てくれた人がネット上のアンケートに投稿し、それを自分たちで見るという仕組みだ。

 僕とダメグラは会話もそこそこに家路に着き、家でその審査コメントを見ると『笑い待ちが無く、ガチガチにパッケージされ過ぎていて遊びが無い』という意見が大半を占めた。

 要は詰め込み過ぎたといったところだ。

 もっとテンポを遅くしたり、またはテンポの遅いところと早いところの緩急がもっと必要だったのかもしれない。

 あと『必死すぎ』みたいなのもあって、いや必死になるだろとも思ったけども、それがお客さんに伝わったらダメか、と反省した。

 さて、まず初戦を負けてしまって……う~ん、ちょっとメンタル的にキツイかもしれないな……。

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