【ティッシュ】
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・【ティッシュ】
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決戦の日まであと2週間というタイミングでクラスで事件が起きた。
それは『教室のティッシュ無くなるの早すぎ事件』だった。
帰りのホームルームで担任の梶センが明かしたこの事件。
梶センは明らかにイライラと体を揺らしながら、教壇の前でこう言った。
「おい、ガキたち、職員室ではオレが使い込んでいるみたいなイジリされてキツいんだよ。誰だよ、こんなに使い込むヤツ」
職員室でもそういう嫌なイジリあるんだ、大人も嫌だなと思いながら、僕は周りを見渡すと、明らかにダメグラが震えていた。
あっ、犯人ダメグラなんだ、とすぐさま理解した。
さて、自白するのかな、と思って見ていると、ダメグラがおもむろに立ち上がり、こう言った。
「犯人は自首しろー!」
うわっ、追及する側に回りやがったと思っていると、梶センがダメグラを指差しながら、
「つーかダメグラ、オマエだろ。少なくてもオマエがティッシュよく使っているところオレは見る」
と言った瞬間から、クラスメイトたちが口々に『ダメグラが使い過ぎているところ』を言い出して、結果、秒とバレた。
ダメグラは教壇の前に立たされて、堪忍した表情になっていた。
俯いた状態のダメグラはゆっくりと口を開いた。
「特に汗を拭いていました。ワキ汗とか」
静まり返る教室。
何か脳裏に”断罪教室”というホラーモノの漫画みたいなタイトルが浮かび上がった。
ダメグラは続ける。
「制汗スプレーとか高いし、でも教室のティッシュはタダだし。ティッシュでワキ拭く時、あの、ティッシュとワキの触れ合いが気持ち良いし……いやでも悪気は無かったんだ、むしろ良い気というか、善行というか……ティッシュの新陳代謝を良くすればみんな新鮮なティッシュを使い続けることもできるし……」
何だよティッシュの新陳代謝って、意味分かんねぇよ、と思っていると、梶センがダメグラの肩に優しく手を置いて、
「まあティッシュの新陳代謝という考え方は分からんでもないが、やっぱり備品は大切に使わないといけなんだよ」
ティッシュの新陳代謝、梶セン分かんのかよ。
梶センは優しいトーンで、大人の口調で続ける。
「分かった。オマエにはオレの彼女が変な商店街のくじ引きで当ててきた、カスのトイレットペーパーをやる。それでワキを拭け」
変な商店街って言うな。
くじ引きにカスの商品しか無かったからって、商店街も否定するな。
それに対してダメグラは、
「えっ、梶センの彼女って美人?」
と素朴な少年のような目で言った。
いや、今そこじゃないだろ、と思っていると、梶センが、
「当たり前だろ。美人としか付き合わねぇわ」
と言いながら、梶センはポケットからスマホを取り出し、ダメグラに多分写真を見せた。
するとダメグラはドデカい声で、
「すげぇぇえええ! 梶センケンの彼女美人すぎだろ!」
と叫んだ。
すぐさまクラスメイトたちもそれに反応して『見せて見せてコール』一色になった。
梶センも何か嬉しくなっちゃって、全員に見せていって、その度にみんな「美人だぁ」と言って、盛り上がった。
いやうちのクラス、やっぱクソクラスだな、と思った。
クソ過ぎて最高だな、と思った。