【邪魔者】
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・【邪魔者】
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今回のネタは時間びっちりにネタを詰め込んだ漫才。
怒涛のテンポでやり取りをするパッケージされた漫才だ。
なので練習もいつも以上に強く硬くやっている。練習から堅結びのような感じだ。
とりあえず通しで3回漫才したところで、後ろのほうから馴染みの声が2人分聞こえてきた。
「なのー、何してるのー」
「ノノちゃん! これはもしかすると練習中というヤツよ! 邪魔しちゃダメ!」
「なのー、なおさら邪魔したくなってきたのー」
バカそうで幼い女子の声と、キビキビしているけども情熱的な女子の声、間違いない、と思いながら振り返ると、そこには案の定、ノノちゃんと奈津ちゃんがいた。
「涼くん、ダメグラくん、探したのー、今日は宣戦布告する気満々だったのー」
と鼻の下を指で掻きながら言うノノちゃんに対して”相方の”奈津ちゃんはノノちゃんの肩を叩きながら、
「さすが! ノノちゃん! やろうとしていたことをちゃんと行なうなんて豊富な実行力! 指導者の器!」
そう言われて鼻息をフフンと自慢げに出すノノちゃん。
相変わらずダメになりそうな関係だな、と思っていると、ダメグラが、
「ノノと奈津か、ノノは相変わらずバカのくせにセクシーな体型をしているヤツだな」
と指を差しながら言ったので、すぐさま僕は
「エンカウント直後にセクハラは無いだろ」
とツッコんでおくと、ノノちゃんが腕を組んで、少し自分の胸を強調しながら、
「いいのー! 褒められるのは全然いいのーっ! えっへん!」
子供じゃないんだから『えっへん』を口で言うなよ、と思うと、すぐさま奈津ちゃんが、
「そこで胸をしっかり見せようと努力するところが素晴らしいよ!」
と褒め称えた。
そう、この”コンビ”はこういう漫才をするコンビだ。
アホなノノちゃんと、ポジティブな太鼓持ちをする奈津ちゃんのコンビで、前回の、高1下半期の1部リーグ優勝者。
それぞれ強力な個性で掛け合い、圧倒的なボケのノノちゃんと、決してツッコミとも言えない奈津ちゃんが喋り倒す。
抽選の結果、初戦からこのコンビと当たってしまうことは正直不運だけども、いつかは勝たないといけないので、結局のところただの負けられない相手だ。
僕が内心メラメラと闘志を燃やしているところで、ダメグラが、
「まあノノはボンキュッボンだけども、ちんちくりんのロリだからな……そこがいい」
と言ってニヤリと微笑んだ。
いや!
「エンカウントから数分経った後もセクハラじゃダメだろ!」
それに対してノノちゃんは待ったのポーズをしながら、
「全部褒め言葉だから大丈夫なの!」
と叫んだ。
いや
「ちんちくりんは完全に悪口でしょ」
と僕がそう言うと、ノノちゃんはすぐさま奈津ちゃんのほうをバッと見て、それに気付いた奈津ちゃんがこう言った。
「小動物のような可愛らしさがあるという意味だよ!」
「なのー! やっぱりそうだったのー! 涼くんは悪なのー!」
……僕が悪いヤツになってしまった……と少し気落ちしていると、奈津ちゃんがグッドマークを僕に差し出しながら、
「でも人に対していろいろ考えてくれる人って貴重だから涼くんもそのままでいいよ!」
と言ってニッコリ微笑んだ。
奈津ちゃんは誰に対してもポジティブで、キャラというよりは本性だ。
だからこそ、この2人は”強い”んだけども。
そんな中、ダメグラはメガネを上げながら、こう言った。
「勿論、モデルのようにスラッとした奈津も悪くないのだがな」
いや
「何でダメグラはずっと女子のルックスを評価しているんだよ」
「こう言うためだよ! 俺たちが勝ったら一回デートしてくれ!」
そう言いながら耽美な立ち方をしたダメグラ。いや全然カッコ悪いけども。
というか
「普通に言っていることもカッコ悪いから、総じて恥ずかしいわ」
それに対してノノちゃんは、
「ダメなの! ノノにはスイくんという心に決めた人がいるのー!」
と言って奈津ちゃんは、
「私のことを選んでくれることは本当に有り難いけども、今はお笑いのことに集中したいんだ!」
と、結果それぞれ断った。
しかしそんなことでへこたれるダメグラじゃない。
あだ名に”ダメ”が入っていて、そもそもダメ人間グランプリ優勝者みたいなヤツ・略してダメグラだから全然負けない。
「じゃあデートじゃなくていい! ホテルで一回でいいから! 一緒にするまでの屁みたいな部分はカットでいいから!」
僕はすぐさまツッコむ。
「デートをお通しみたいに言うなよ。デートがダメならそれはアウトだろ」
ノノちゃんは首をブンブン横に振りながら、
「そういうことは村の掟でNGなのー!」
奈津ちゃんはプリプリ怒りながら、
「さすがにそういうことはダメ! ダメグラくん、そんなことばっかり言っていたら、バカになっちゃうよ! これは忠告だよ!」
ダメグラはチッと舌打ちをしてから、
「じゃあもっと美人にモテてやるからなぁ! バァカ!」
と叫んだ。
それに対して奈津ちゃんは、
「その向上心はいいよね! 頑張って!」
とポジティブな返答をした。
よくあんなカスな台詞に、そんなポジティブを打てるなと思った。
そんなことを考えているとノノちゃんが一歩前に出て、こう言った。
「なのっ! そもそもノノは宣戦布告する気だったのー! 今年もノノと奈津ちゃんが全勝優勝するのー!」
いや、というか、
「僕たち同じクラスになったんだから、いつでも言うチャンスあったでしょ」
「なのっ! 漫才のテンションになっている2人に言いたかったの!」
「漫才のテンションになっている時はもう邪魔しないでよ」
そう僕が普通にツッコむと、ノノちゃんは思った以上に肩を落として、
「どんなぁ……怒られちゃったのぉ……」
と言いながら、奈津ちゃんに抱きついた。
身長差のせいで、本当にノノちゃんは小さな子供みたいだ。
ちなみに”どんなぁ(及び、どんなー)”は、ノノちゃんの口癖だ。
ノノちゃんはテンションが上がると何にでも『どんなー!』と言うので、本来の”どんな”という意味では使っていない。紛らわしい。
奈津ちゃんはノノちゃんの頭をなでなでしながら、
「今日の判断ミスは明日の肥やし、今日頑張った自分を否定しないでね」
と言っている。
なんて甘ったるい関係なんだと思っていると、ダメグラが、
「百合を眺めるのもいいよな」
と言いながら僕の肩にトンと手を置いてきたので、うるせぇな、と思った。
結局、もう練習のトーンにはならず、あとは4人で適当に喋って昼休みが終了した。