【高校生お笑い芸人】
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・【高校生お笑い芸人】
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「はいどうも! よろしくお願いします!」
相方のダメグラが本番さながらの、というか本番よりもデカい声で言った。
僕は少々困惑しながら、
「何でこんな昼休みの練習の時に、そんな大きな声を出すんだよ」
とツッコむと、ダメグラは、
「俺たちもう高2だぞ! 4月の新入生を威圧するために決まってるだろ!」
と興奮しながらそう叫んだ。
いや
「1年間お笑いバトルをやってきた余裕を見せろよ、先輩として」
この高校は芸事が盛んな高校で、半年間を通したお笑いバトルが一番の目玉イベントとしてある。
僕たち高校2年生は1部と2部があって、僕たちは1部リーグ。
6組争い、1ヶ月に1回、1対1でバトルするリーグ戦。
そのリーグ戦・上位3組が、決勝ステージで優勝者を決める。
今月下旬に上半期の1戦目があり、去年の、高1の時は、下半期から1部で戦えたけども、優勝争いには絡めなかったので、今回こそは、という気持ちは強い……僕は。
ダメグラはどう思っているんだろうと思っていると、そのダメグラが吼えた。
「あぁ! 勝ってカッコイイところを見せつけてモテてぇなぁ!」
「欲望をデカい声で言うな。というか勝ってカッコイイのはミュージックバトルのほうじゃない?」
この高校は芸事が盛んなので、お笑いバトル以外にもミュージックバトルという音楽バトルや、アートバトルという絵画のバトルなどもある。
一番人気はお笑いバトルだけども、それ以外のバトルも勿論会場を賑わせる。
ダメグラは腕を組んで唸ってから、こう言った。
「でもなぁ……お笑いが一番必要な能力少ないからなぁ、音楽も絵画もスポーツリーグも大変じゃん」
「お笑いのことをハッキリと舐めるなよ」
「いやでも実際そうじゃん」
そう最後はキリッとした表情で言い切ったダメグラ。
「まあそこまで自信満々に舐めているのならもう仕方ないけどな。じゃあ練習再開するか」
「そうだな、俺たち友達が一人同士だから昼休みは漫才の練習するしかないもんな」
「そんなことねぇよ、僕は普通に友達いっぱいいるわ」
「はいはい、人間みんな友達理論おつ」
そう僕をあしらうように言ったダメグラ。
いや
「そういうことを言っているんじゃなくて、みんなで進め地球号みたいなことを言っているんじゃなくて」
「涼は地球号みたいな顔してるもんな、ちょい宗教みたいな」
「全然宗教じゃないだろ、ヒゲ生やしてないじゃん僕。髪の毛も短めで、清潔感を意識しているんだからな、こっちは」
「俺はゴージャス感のある黒と金色のまだらメガネな」
そう言いながらメガネをクイクイさせているダメグラ。
いや
「ゴージャス感よりもインチキメガネ感を強く感じるわ」
「誰がイタリアのスケベ詐欺師だよ、モテまくっていてしょうがないヤツだよ」
「そんな良い風には言っていないし、それも良い風の言い回しだったか? と今疑問に思ってるよ」
ダメグラはいつもこんな感じで、イマイチ練習にも身が入らない。
それでもまあ僕とお笑いコンビを組んでくれているので、多少のやる気はあるんだろうけども。
僕はお笑いが好きだ。
だからお笑いコンビを組んでいる。
でもダメグラはそれ以上にモテることが好きだ。
というかモテるためにお笑いをやっている。
まあ僕と同じ熱量でやってもらいたいということはエゴだし、モテたいはモテたいでそれなりの本気度があるからいいんだけども。
僕とダメグラはいつもこんな感じで、昼休みに練習し、放課後にはネタを作っている。
幼馴染で家も近いので、休日も一緒に練習やネタ作りをすることもある。
……まあダメグラは『彼女ができればそっちを優先する』ということらしいけども。
ダメグラはパツンと手を叩いてから、こう言った。
「じゃあそろそろマジで練習するか、マジでモテたいから」
そう、今期のダメグラは本気だ。
全勝優勝して完全にモテる作戦らしい。
まあ確かにリーグ戦は初戦が大事。
僕もここからは本気で練習を始めるか。