きっと届かないだろう。
前の作品に出てくる『チビ』があまりにも俺だったのと、もうちょっと補完できなかったかと思い書きました。うまくいってないかも。
どうすればいいのだろう。恋愛なんてしたことないから、どうすりゃいいのか全く分からない。それに、俺がどれだけアクションを起こしても、この気持ちが届く確証も無いし...そんな状態のまま1年をやり過ごしたことも相まって、俺の心はずっとざわついていた。たまらず、インターネットで知り合った大人たちに、恋愛相談をしてみた。そして、あまり気は進まないが、もうこれ以外に考えられないだろうと言う、ある話題を振ってみることにした。
「姐さん、俺にタバコってやつを教えてくれやせんか。」
彼女は、20歳未満でありながら喫煙をしていたのだ。それを知ったときは、なんだかショックだった記憶があったが、彼女がタバコを吸っているところを一目見たとき、そんな感情は吹き飛んでいった。その姿は、あまりにも様になっていて、かっこよかったのだ。思えば、好きになったのはその頃だった気がする。
彼女に渡した1,000円は、無事ひとつのタバコに変わって帰ってきた。どんなものがいいのかまったく知らなかったうえに、調べもしていなかったので、父がよく吸っている銘柄をリクエストした。彼女のライターで火をつけてもらい、吸ってみる。案の定、むせ返る。そんな様子を見かねたのか、彼女は俺に、タバコの吸い方を教えてくれた。
「アイツ、俺の事好きだったんだぜ。」そんなことを言う奴が居た。彼女は、その強気な性格から男友達が多い。多分、俺もその一人なのだが、その誰とも付き合っていたりしないだろうって、そんな風に思っていた。いや、この言葉が本当かどうかは分からないし、多分、噓なんだろうけど...嘘で、あってほしいだけなのかもしれないけど...それでも確かに、彼女がそいつと話している場面は、見ていて、俺以上に関係が深そうに感じて...何を考えているんだ俺は。そんなことを抱えてネガティブになったって、何もないじゃないか。そんなんだから、俺はいつまでたっても...
まるで、これが原因かのように、俺は精神的に弱っていき、学校に行こうと言う気力も、あまりに重く厚い無気力に押さえつけられてしまった。人間関係的なトラブルが増えて、許容しきれないストレスに潰された結果なのだが、そんな状況に丁度良く流れてきた感情なもんだから、なんだか癪に障る。いつの間にか、俺はタバコを常日頃吸うようになっていた。
ちょっとはマシになってきたある日、とうとう重い腰に鞭を打って学校へ赴くと、彼女が、吸わないかと声をかけてきた。不登校気味になるちょっと前にも、こうして喫煙のお誘いをしてもらっては、タバコの吸い方を教わっていた。嬉しい。嬉しいが、その頃ほど、嬉しくない。
言ってもどうせ、伝わらない。なら、言ってしまってもいいだろうと、彼女に、今の自分について相談してみた。自責気味で辛いことを、自身の無さからチャンスを取りこぼしては後悔していることを、自分の無力さからいろんなことを諦めてしまったことを。彼女は、俺がどうしてそうなったかを聞くことはなく、ただ、同情のようなアドバイスをしてくるわけでもなく、当たり障りなく共感するわけでもなく、私には無い体験だと言って、そんな根暗な話を、絶妙な距離感で掘り下げてきた。
タバコを吸おうと思ったキッカケの話になった。君と距離を縮めたかったから、なんて言えるはずもなく、適当な返事をした。彼女は、周りの人間が吸っていたからと、思ったよりも単純な理由を述べた。
今俺は、何をしていた?部屋の収納に、ビニールひもで出来た輪っかが括られていた。今の今までの記憶がない。今俺はどうしていた?ここまで何があった?ヤバい、怖い。何か、文章か何かで残していないか?そう思って、パソコンを付けた。消えてはいけない思い出、というフォルダができていた。そこには、大量のテキストと音源データが。内容は、最悪と言うしかなかった。自分で言うのも何だが、目に見えて、苦しそうだった。
このまま独りでいたらまずい、きっとこのまま独りで居たら、また変なことを考えるかもしれない。そう思って、誰かに電話をかけようと、スマホを手にした。メッセージアプリを見る。びっくりした。ほとんどの人間の通知を切っている。そのうえ、大量のメッセージを未読のまま置いていた。ただ一人、彼女を除いて。
学校でそうしてもらっていたように、一緒にタバコを吸わないかと聞いた。彼女は、とても面倒くさそうに嫌だと答えた。待ってくれ、今だけでいいから、独りにしないでくれ...正直に言いそうになったが、さすがにそれはまずい。せめて、通話をつなげたままでと、どうにか彼女を引き留めた。ただ、話題が無かった。記憶が薄く曖昧で、ほぼ記憶喪失に近い状態な上に、どうやらずっと一人で居たようなので、当たり前の話だったが、さすがに気まずい。何か、話せること...そうだ、あのとき彼女にした話をしよう。大晦日だ、愚痴の一つや二つは許されるだろう、と。忘年会的なノリで、話をし始めた。
思ったより、いろんなことを言った気がする。彼女は『早く病院行けよ(笑)』と言葉を返す。やっべ~。やっ...べぇ~...
頭の中が、失敗したという焦りと緊張と恥ずかしさでいっぱいになってるんだか真っ白になってるんだか分からなくなった。が、話の内容が重かったらしく、彼女は心配してくれて、俺の家へ向かうと言って来た。
というか来た。断ったのに、それをはねのけて来た。どっかファミレスとかでいいじゃないかという提案も退けて、ウチへ来た。そして、俺に何があったか聞いてきた。何がったのだろう、何から、話せばいいのだろう。会話も儘ならなくなりそうだったので、とりあえず、今自分に何が起きていたのかを話した。
この気持ちを伝えたところで、きっと届かないだろうと思い、まだ彼女に気持ちを打ち明けられていない。なので、話せていないこともまた多く、どうして電話したかも聞かれたが、変な理由をつけて誤魔化してしまった。それでも「良かった。」と、一緒にタバコを吸いながら、彼女が言った。ホントに、その通りだ。突然な上に突飛な事態だったなかで、電話をかけようと思い立って正解だった。おかげでまた、彼女と一緒にタバコを吸えている。
思い切って、あのことについて聞いてみた。共通の友達が口にした、俺の精神を狂わせる要因の一端を担った言葉について。彼女は、バカじゃねぇのと、笑い飛ばしてくれた。
こぉ~んな恋愛、してみたいねぇ。