60話 番外編 『とある囚人看守の話』
この話は番外編ですので読み飛ばしていただいても大丈夫なお話です。
内容は、甘々とは真逆のエピソードになっていますのでご注意ください。
彼らにも救いを。
ぴちょりと、天井から染み出た水がしたたった。
ここは城の地下、どこもかしこもカビくさく湿っている。
私は今日も、ここにいる囚人共の世話をしていた。
汚物の処理、食事の運搬、燭台の油の追加。
ただただ何も変わらない、本当にくだらない毎日。
当初はここでの生活に泣き叫んだものだが、度重なる暴力によって全てが無為と悟った。
私も檻の中の囚人たちと何も変わりはしない。
唯一辛いのは、寒い日に切り落とされた舌が痛む事くらいだろうか。
気になる事と言えば、数か月前にここに入ってきた新人――恰幅のいいカバ男の事だ。
拷問なのか病気か、奴は最近失明したようで房内でもよく壁に頭をぶつけたり転んだりしていた。
上でなにをやったかはわからないが、どうせろくなものじゃない、ざまぁみろ。
私が奴だったら自死を選んだかもしれない。
どうせすぐに他の者と同じように心を壊すか、懲罰でダメになるかと思っていた。
なのに、それでも奴はずっと何も変わらなかったのだ。
「あなたでしたか、いつもありがとう」
「……」
これだ。
私が食事を運ぶと、毎度お礼を言うのだった。
なんなんだこのカバは、よっぽどおめでたい人生を過ごしてきたに違いない。
人生……今思い返すと私の人生で礼を言われたのはこいつと、あとはもう一人だけ――
「ずっとあなたにお返しをしたかったのです。これをどうぞ、妻の形見ですがもう私には不要なので」
「……」
そう言うと古い女性モノのブローチを差し出したのだ。
こんなものここでは、何の価値なんてないのに。
私は怒られるのが嫌で、仕事をしていただけなのに。
閉じた私達の人生に意味なんてないのに。
一体、なんのつもりだろうか。
「……相変わらず無口な方ですな。でも、こんな私にもよくしてくださるなんて、きっと素敵な方に違いない」
「……」
奴の笑顔に腹を立てて、私はその場を立ち去った。
あいつはなんなんだ、返事も返さない相手に感謝して、一人で満足そうに。
とても、腹が立つ。
私は汚物と一緒にブローチを捨てようと思ったが、思いとどまり自分のケープにつけた。
そして少しだけ、考え直す。
今度からあいつの食事だけは、ちょっと多くしてやってもいいかもしれない。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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