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59話『私だけのコンサート』

「もーみなさん静かにしてくださいよ~ ちゃんと座ってください~」


 私は困ったように笑うしかなかった。

 周囲には小さな児童たちがわらわらと動き回り、一人一人が好き放題やっている。

 今日は我が国の教育の一環として、歌を取り入れる事となったそのテストの日である。


「む、私の眼鏡を持っていくな! こらしっぽを掴むんんじゃない! いいかそれは窃盗(せっとう)と言ってこの国ではな……」


「だっこしてぇ~」

「おしっこ~」

「おうちかえる~!!」


 シリウス財務大臣兼、歌大臣も子供たち相手にてんてこまいだった。

 わざわざホールを借り切った授業だったのだが、ばっちりとキメた彼も相手が子供では形無しである。


「なにもここまでシリウスがやらなくても良かったのではないですか?」


「何を言っている、最初の一歩は私がやるから意味を成すのだ」


「のだ~」


 シリウスの行動は先を見過ぎていて私には分からない。

 だけれども明るい未来を目指して、私と一緒に向かおうとしているというのが彼の行動と熱意から伝わってきた。


(これからに挑戦するシリウスの力になれたらいいですね)


 私はじんわりと、そんなことを思うのだった。

 ですが、まずは泣いている子をあやさなくてはっ あっ耳をひっぱらないで!


「ラララ」


 子供たちをやっと席に座らせて、シリウスがついに歌い始める。

 するとその歌声に驚いた子供たちは、目を見開いてアゴを引きながらシリウスを凝視していた。


(あはは、子供たち相手にちょっとやりすぎかもですよ)


 授業の中で、相変わらず厳しさを覗かせるシリウスだったが、それでも楽しそうに笑顔を絶やすことは無かった。

 私もその笑顔を見て、心からの笑顔を浮かべる。


「でもちょっと嫉妬しちゃいますね、シリウスの笑顔は私だけの物だと思っていたのに」


「子供相手に何を言うアンジェリカ、貴様が色を出してもしかたあるまい」


 冗談のようにシリウスが笑った。

 最近の彼は以前よりもずっと柔らかくなったようだ。

 きっと新たに見つけた目標のおかげだろう。


「も~私にも厳しいですよシリウス~!」


「そうだな、これからは厳しいことがあるかもしれない。だけれどこれが私のやりたかった事なのだ、そしてその傍らには貴様がいる」


「シリウス……」


 彼は私のウサギ耳をなでた。

 真剣で誠実な彼の瞳に私の胸が高鳴っていく。


「せんせぇ~たち、ちゅーする?」


「む、今はいい所なのだ。あっちにいっていなさい」


「はーい」


「こほん、とにかくだ。私のコンサートに貴様を招待する」


「コンサートですかっ 絶対行きますっ!」


 いつもの突然な提案に、私は二つ返事で返したのだった。




 ――彼の招待状を貰い、数日後。

 当日、ドレス姿に着替えた私はワクワクしながらホール向かった。


(あれ……? 会場に私一人?)


 なんと今晩は、私の為だけのワンナイトコンサートだったのだ。

 胸をドキドキさせながら待っていると、シリウスが幕から舞台へ登場する。


「私のコンサートへようこそアンジェリカ」


「キャー! 素敵ですよシリウス!」


 彼が私に向かって歓迎するように片手を伸ばした。

 スポットライトを浴び、舞台衣装に身を包んだシリウスは、物語の王子のような(きら)びやかさで輝いている。


「では早速だが聞いてもらおうか、私のラブソングを」


 満を持してシリウスは本域のオペラを歌い始めた。

 国一番の美声が今、私の為だけに向けられている。

 しかもとびっきりのメガネ美青年が私だけを見つめて、だ。


(はあぁぁぁ……あぁ……なんて幸せな事なんでしょう)


 夢のような時間が過ぎていき、始終私はうっとりとしていた。

 歌い終えたシリウスが私に近づいてくると、私の手を持ち上げ、そしていつかのように甲に口づけをする。


「アンジェリカ。貴様を愛しているぞ、私と一緒に生きてくれ」


「はい勿論ですっ 今度はしっかり言えましたね、ンっ」


 嬉しさのあまり、私は彼の胸の中に飛び込むとキスで返事をした。


「すぐに歌いこなすと言っただろう、しかしこれでは形式もあったものじゃないな」


 首に抱き着いた私を見ながら、シリウスは微笑んだ。

 今はこの身長差がとても心地いい。


「いいじゃないですか、今は誰もいないのですから」


「そうだな、では少しだけハメを外すとしよう」


 そう言って今度は彼からキスをしてくる。

 その味わいはオペラのように高く深く、どこまでも私たちの心に染みこんでいった。




「お頼み申す~お頼み申す~!!」


 どこかでは、メイド長が私の返した子宝祈願のお守りを手で擦りながら(おが)んでいるのだった。

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