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58話『ネコと飴玉』

「本日も、ありがとうございました」


 臣下たちに挨拶を済ませると、今日の政務(せいむ)を終わらせた私は自室に戻る。

 これでもこの国の女王なので、少しだけ豪華な部屋を用意して頂いているのだ。


「本の残りを読み終えてしまいましょうかね、それとも……」


 私が自室の扉を開けると、その違和感にすぐ気が付いた。


「あれ? 甘い匂いがしますね」


 見渡すとテーブルの上に焼きたてのカヌレが置かれており、甘い匂いの正体はすぐに判明した。

 一緒に手書きのカードが添えられており、私はそれを手に取る。


『大好きなお姉ちゃんへ!』


「うふふ」


 私はカードと焼き菓子を置いた人物の正体を察し、さっそくお菓子に手を伸ばすのだが……

 いや待てよと、私の理性がそれをとどめた。


(ははーん、分かりましたよ。どこかに……)


 部屋を見渡すと、天蓋(てんがい)付きのふかふかのベッドが少しだけ盛り上がっているのが分かった。

 私はおもむろに近づくと、シーツを跳ね除ける。

 そこには、丸められた布団が置かれていた。


「おねーちゃん大好きにゃぁぁぁぁっ」


 なんとそれも罠であり、カーテン裏に隠れていたルクスが私の後ろから飛びついて来たのだった。


「そう来ると思いましたよっ!」


 しかし私もこの手のイタズラを何度も受けてきている。

 待ち構えていた私はすぐに振り向くと、飛び込んできたルクスを正面から抱きとめたのであった。


「ありゃにゃにゃにゃにゃにゃ~」


 私たちはルクスが飛び込んできた勢いでグルグルと回りながら、ぼふりとベッドに着地した。

 目と鼻の先には、美少年の照れ笑いが見える。


「にゃ~、これもバレちゃったかにゃ~」


「はっはっは、ルクス幸福大臣の事ならなんでもお見通しですぞ」


 幸福大臣とは、皆が幸せになるためになんでもやるという新設された役職だ。

 歯磨きをしなくてもいい日などのとんでもない提案もあったが、フリーズドライの発明などルクスの天才的な頭脳は日々いかんなく発揮されていた。


「ついにお姉ちゃんに上をいかれてしまったにゃ~ 免許皆伝を言い渡そうにゃ!」


「はは~ありがたき幸せ~」


 そう言って私たちはベッドの上で笑い転げた。


「ルクス、最近すごく幸せにゃ。いっぱい皆の笑顔を見られるし、お姉ちゃんもとも一緒にいられて嬉しーにゃ!」


「ふふ、その話をするのは何回目ですか」


「何回でも言うにゃ! 言うたびにもっと幸せって感じにゃ~!」


 ルクスは両手を上げると、満足そうに屈託(くったく)の無い笑みで笑った。


「でも時々、おねーちゃんが前のこわこわお姉ちゃんに戻っちゃうんじゃないかって不安になるにゃ。だからこうやって大丈夫か確かめてるにゃ」


 そう言うとルクスはおもむろに、私をギュッと抱きしめた。

 彼の華奢(きゃしゃ)な体から体温が伝わってくる。

 元気いっぱい、太陽のようなルクスが不安になっているのは、私も嫌だ。


「大丈夫ですよルクス。もうどこにもいきませんから」


 そういって私は彼のくせ毛をなでるのだった。


「おねーちゃん、大好きにゃ~」


 甘えるように求めるように、彼はそうつぶやいた。

 その純情に私の胸はキュンキュンと高鳴ってしまい、抱きしめていた手にギュっと力を入れた。


「はい、私もルクスが大好きですよ」


「うん……じゃあね。ね、大好きのチューをして欲しいにゃ」


 少し小さな声で、ルクスは顔を赤くして呟いた。


「勿論、いいですよ」


 そう言って少し気恥しくなりながらも、私は彼にキスをした。

 暖かくポカポカするような優しいキス。

 私が唇を離すと、ルクスは顔を真っ赤にしてニコニコと笑っている。


「にゃ~……なんだか緊張して、お姉ちゃんに悪戯するの忘れちゃったにゃ」


 そういってバツの悪そうに、持っていた茶色の飴玉を私に見せた。


「いらずらっ子なんですから……ところで、その飴はなんですか?」


「えへっへ~ん 新作の味が変わる飴にゃ~」


「えっ ちょっと気になりますね、せっかくだから食べさせてくださいよ」


 そういって私は、ルクスが持っていた飴を口で奪い取った。


「あ」


 ルクスがまずいというような顔をするのだが、時すでに遅し。

 私の口の中では、小宇宙が誕生していた。


「んっ? んんっ!? ん~っ!!?」


 その味の変化に私は目を白黒とさせる。

 リンゴ味に始まり、魚、納豆、ジューシーなお肉、キャベツ。

 こうしている内にも次々と味が変わり続けている。

 それはまるでルクスと過ごした日々のような、めまぐるしさだった。


「ど~おにゃ?」


 ニヤーリと笑ったルクスが私をいじわるそうに見ている。


(や、やってくれましたね~ この子は……っ)


 自分から食べたのだから言い逃れはできないのだが、このメリーゴーランドな味を相手にも仕返ししたくなった私はルクスをベッドに押し倒した。


「あっ まさかっ! やめるにゃお姉ちゃん!」


「むちゅ~~」


 私は再び彼にキスをした。

 ルクスは半分期待していたように、笑いながらも私を受け入れる。


(うふふ。こんな幸せな毎日だったら女王もいいです、ねえ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)


「ぎゃー辛い! 辛いにゃ! 激辛カレー味パートにゃぁぁ!」


 私たちは慌てて、カヌレを口に入れて中和するしたのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


ポイントをモチベーションに頑張って書いていております。

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